悲しみの海−8
舞が歓喜の声を上げた。だがその声は、打ち寄せる怒濤の音に消され、幸樹には聞こえなかった。
舞の目から涙が溢れ出た。
「嬉しい、こんなに天気が悪いのに、私を心配して来てくれたんだわ」
溢れる涙を拭きもせずに舞は、幸樹の所へ駆け出そうとしたが、何を思ったのか、急に松の幹に隠れて言った。
「私には、私のことを、こんなに心配してくれるお兄さんがいる、そんなお兄さんを道ずれにできないわ。もう、お兄さんの所へ行きません。お兄さんの胸に飛び込んだら、きっと私の悲しみなど何処かへ吹っ飛びます。でも、お兄さんに約束を守らない舞と思われるのが辛い。その上、私が信用できなくなったお兄さんは、一生涯、私が自殺するのではないかと怯え苦しむわ。だから、今後、絶対にお兄さんと逢わないと約束します」
両親と祖母に先立たれ、情け容赦のない苛めと不遇に耐えた舞は、我が心を抑え、人を思いやる優しい少女になっていた。
舞は、幸樹の姿を瞳に焼き付けるように見ていたが、やがて、松の間を縫うように帰って行った。だが、その姿は限りなく寂しげだった。
しかし、幸樹にわかるはずもなく、波の飛沫に曝されながら、一日中、鷺草の磯の上に立ち、自分を罰していた。
http://takahashigawa.blog105.fc2.com/にて連載中
次回新章突入
新しい小説はいかがですか?今回はまだ希望のある展開にしたいと思います。
まだまだですがご感想などよろしくおねがいします。