セティアの石の能力
私はセティア・オルスティー、異術石を手にしてしまった、放浪の旅人である。
放浪と言っても、今現在では目的地があるので、もしかしたら違う言い方があるのかもしれないが、この先どうしたらいいかわからない事に違いはない。
「なぁ、セティアこれからどこに向かうんだ?」
この男はアレックス、うざいので無視していたら勝手にここまで着いてきた村一番の戦士である。
本当は今ここで、この男を置いていきたい所だが、走るにしても、殴りあうにしても、私は寝起きの運動は苦手だ、しかもまだ朝ご飯を食べていない……
というわけで、ひとまず置いていくのは諦めよう。
「……この先をもう少し行った所に、大きな町がある、とりあえず私は、そこに向かう」
「へぇー、またなんのために? 役所に加入して仕事でももらうのか?」
「まぁ……そんな所だ」
本当はそんなことではないのだが、適当に流した。
「司、役所ってなんの役所?」
「え!……あー、現代で言うハローワークじゃないですかねぇー?」
「大きな町ともなると色々な依頼がありますからねー、私達のような小さな村は、自営業が多いですが」
「それってギルドってやつ?」
正道がアリスに尋ねる。
「…………? なんですかそれは」
アリスは、指を顎に当てて首をかしげた。
「自営業という言葉はあって、ギルドという言葉がないのか……」
登場人物は、カタカナばっかりなのにね……
「おやおやぁ? もしや貴方達が例の……」
そんな会話をしていると、真っ白なスーツ姿の男がセティアとアレックスの前に現れた、左右には黒服の部下と思わしき男をはべらせている。
「何者だ……」
セティアが警戒しつつ問いかける。
「なぁーに、怪しい者ではございませんよ、ちょっと貴方の持っている物に興味がありましてねぇー!」
「くっ……まさか」
セティアは驚きながらも、臨戦態勢になる。
「おいおい、どうしたんだセティア? てかこいつらはなんだ? 追い剥ぎの類いか?」
「失礼だなぁー、まったく……私は交渉をしに来たんですよ、」
「黙れ! お前と交渉する義理はない」
セティアは白スーツ男を威嚇する。
「その慌てよう……やはり貴女持ってますね? いやはや、あの女の勘はよく当たるものだ……」
「おいおい、何を持ってるって言うんだよ!」
アレックスは、場の状況を理解できずうろたえている。
「血気盛んな方のようで……では、一応聞きましょう、その石を私に寄越しなさい、もし貴女に欲しいものがあるならそれも考慮しましょう、いかがですか?」
「断る!」
「残念だ、それなら実力行使といきましょう」
左右にいた黒服の部下が剣を構える。
「アレックス……」
「どうした?」
「何か、食べ物を持ってないか……」
「よ、よくわからんがあるぞ!」
アレックスは持っていた布袋から、サンドイッチを取り出した。
「ほら、やるよ」
「すまない、朝食を抜いての荒事は極力したくないのでな……」
白スーツ男の部下二人は、この隙に突撃しようとしたが、白スーツ男がそれを手で遮る
「まて、レディのブレックファースト中に斬りかかるなど、汚い子悪党のやり方だ……食事が終わってからでよろしい」
「なんかみんな優しくない?」
「人にはそれぞれ流儀がありますから……ね?」
正道も司も、少し困惑している。
「私はこんなときのために常に携帯食を完備しているぞ」
山田がいらない情報を言ってきた。
セティアは食事を終え、剣を鞘から抜き構えた。
「ごちそうさま……よし、いくぞ!」
「とりあえず、喧嘩って事はわかったぜ! 俺も参加する!」
アレックスはやる気満々のようだ。
「よろしい、では! お仕事といきましょうかぁ」
白スーツ男の号令で部下二人が剣を構えながら、突進してくる。
セティアは、その突撃を剣で受け止める、つばぜり合いだ。
「はぁー!」
セティアは、力で相手を払いのけた。
セティアほどの実力ともなれば、少し相対しただけで相手の実力を読み取れる。
この程度の実力なら、1VS1ならなんとかなりそうだ……だが、問題は……
「とりゃ! おら! おいおい兄ちゃん、武器は持ってればいいってもんじゃあねぇぜ? おれ様相手じゃ脅しにもならねーからよぉ!」
アレックスの方も、剣を持った相手と素手で渡り合えるくらいには余裕そうである。
「ふん……やはりそれなりの実力はお持ちのようで……良いでしょう!」
白スーツ男は、前に出て部下に命令する。
「二人とも下がりなさい! ここは私が出ましょう」
「ついに本命のお出ましってか?」
アレックスが冷やかす。
「私としても時間はかけたくないのでね……」
「イカした兄ちゃん、それはこっちも同じだぜ! よくわかんねー格好してっけど、俺は本気でやらせてもらうぜ?」
「なんとも野蛮な……実に汚ならしい」
「男ってのは、少しばかりワイルドな方がモテるんだよ!」
「まぁ、いいでしょう来なさい……」
「いくぜおらぁぁぁぁ!」
アレックスが白スーツ男に素早く殴りかかった。
ドゴン! まるで鉄の壁を殴るような音が響く。
「なっ……!」
「愚かな、ただの人間が術士に抗うなど……」
白スーツ男は余裕というより、呆れた表情でアレックスの一撃を手で受け止めた。
「失せなさい!」
白スーツ男はそのまま回し蹴りをアレックスに放つ
「ぐぁぁーっ」
アレックスはその一撃でふっとんだ。
「あいつがいとも容易く……やはりお前も」
「お察しの通り私も持っていますよ、まぁ貴女の石とは少し違うかもですがね……」
白スーツ男はセティアのに向かって歩いてくる。
「待ちな!」
白スーツ男は、アレックスの呼び掛けられ、足を止めて振り向いた。
「お前が何を持ってるかなんて、俺は知らねぇがよ……お前の蹴り程度じゃ俺が倒れないってことは、俺にも理解できたぜ」
「そんなにフラフラで、強がりもいい加減にしたらどうですか?」
「けっ……そう思うなら来やがれってんだ!」
「まぁ、良いでしょう……貴方を始末すればお目当ての彼女も少しは、おとなしくなるでしょうしね」
白スーツ男は、踵を返してアレックスの方に迫り来る。
「やめろ……」
「私の仲間に手を出すなぁぁぁーーーー!!!」
セティアは、異術石を取り出し、白スーツ男に向かって掲げた。
石を持った手から、猛吹雪のごとく凍えるような突風が吹き荒れる。
「ついに、見せましたね! 我々が求める異術石を」
白スーツ男はその吹雪を片手で払いのける。
「だが、貴女は術士としてはまだ未熟……その力に順応できていない!」
「俺に後ろ姿を見せるとはいい度胸だな!」
アレックスが隙を見て男に後ろから掴みかかる。
「なっ……! 貴様やめろ! 私の服が汚れるだろ、お前達こいつを押さえつけろ」
部下二人が慌てて、アレックスを男から引き剥がそうとする。
「いまだ!」
この乱戦に乗じて、セティアが白スーツ男に斬りかかった。
「無駄だ!」
白スーツ男は、セティアの剣を腕で受け止め、同時にアレックスを部下もろともぶっ飛ばした。
「おわぁぁーー」
「冷た!」
セティアの剣を受け止めた部分の服が凍っている。
「貴女の異術石は、氷と言ったところですか……自然の石は私も初めて見ましたよ」
「セティアさん……出来ることなら私が替わってあげたかった……」
「やはり本物の戦闘シーンは迫力が違うな……」
「ここにいても心なしか寒気が……」
「司、ホットココアでも飲むか?」
「なんでホットココアがあるんだよ……」
次回
鎧の男
次も俺達の活躍見ていてくれよな