ヒーローはヒロインだった
広大な高原、澄んだ空気、生い茂る森の木々、そして爆走する鋼鉄のタクシー(?)なんとにつかわしくない光景だろう。
「中々揺れるな……」
「あぁ、山田は源蔵さんの車に乗るの初めてだったな、俺も最初に乗ったときは車酔いしそうだったよ」
そう言う正道は景色眺めながら何気なく話している、もはや慣れたものなのだろう。
「お前さん酔っちゃう体質か? なんならスピードを下げても良いぞ?」
「いや、問題ない……これくらいで体調を悪くしてはこの仕事は勤まらんよ」
サングラスのせいか山田の表情は、よくわからないが心配は無さそうだ。
「僕も源蔵さんの車に乗るときは極力パソコンを操作しませんね……昔やって吐いたことあるんで…………」
「着いたぞ、ハルス村だ! 念のため茂みに停めておくから帰りに迷うなよ」
なんやかんや言ってるうちに目的地に着いた。
「了解です、ありがとー」
早々に機材を準備し、主人公を探しに向かう撮影者一行。
「正道さん、とりあえず花屋を探しましょう、主人公のセティアは台本通りだとそこにいるはずです」
司が手帳をめくりながら話す。
この手帳にはこのアニメのストーリー、簡単に言うとネタバレが書かれている。
撮影者はそれを元に撮影対象を追ったり、場合によって先回りしたりするのだが、そこは未知のアニメ世界、台本通りにいかないこともある。
ただそんな事にいちいち怯えていたら撮影ができないので、撮影者も臨機応変に対応しなければならない、命の危険がある危険度S級のアニメ世界ならなおさらだ。
「OK! ところで司、アニメ管理局員と連絡は?」
「明日でいいかと、流石に用も無いのに呼び出すのは、ちょっと……」
アニメ管理局とはこのアニメ世界でのアニメカメラマンの協力者の事である。
たしかに山田と言うボディガードはいるものの、それだけではあまりにも危険過ぎる、そんなわけでアニメ管理局員がアニメ世界に協力者を派遣しているのだ、中には管理局からの派遣ではなくこの世界の原住民もいるとか。
「まぁ、そうか……今日1日は山田の影に隠れてやり過ごすしかないな」
「別にいいが、あまりくっつくなよ?」
さらっと酷い事を言ったが、山田にとってはそれも想定内の様子……まぁ、ある日突然ランク適正のない一般人を護衛しろと無茶な事を言われてそれを承諾したのだから、彼もそれ相応の覚悟で同行しているのだろう。
「よし、その花屋の場所は?」
「こっちです! 行きましょう」
このハルス村は比較的小さな村であった、家々は木材で出来ており、畑が多かったのでおそらく農業が主流の田舎の村だろう。
設定的には、ありがちであるが実際に見るとこういうものなのかと、少し感動した。
「あー、ここ、ここ! ここです」
「OK! じゃあ撮影開始といきますか」
花屋に入るとちょうど主人公と花屋の店員が会話をしている所であった。
「本当に旅に出てしまうのですね? セティアさん」
「あぁ……このままではいつかこの村も狙われる……」
「でも、貴方がここを出ていく必要は……」
「すまない……きっと奴らは私の異術石を奪いに来るだろう。私がここにいては村のみんなに迷惑をかけてしまう」
「セティアさん……」
長く伸びた美しい赤い髪、透き通るような青みがかかった瞳、全体的に黒い服装、今回の主人公セティア・オルスティーの登場である。
「ん?」
「どうしました? 正道さん」
「主人公どっち? どっちも女性なんだけど……もしかしてこのアニメの主人公って女の子!?」
「今さらかよ、ちゃんと渡された資料見とけよ……」
「わりぃ……わりぃ……主人公より先にヒロインが登場したのかと思ったよ」
「たくっ……赤い髪の方が主人公のセティア、茶色の髪の毛でエプロンしてる方が、主人公の幼なじみの花屋の店員さんですよ」
「なるほど……理解した」
「本当に理解してんのかなぁ……」
「セティアさん、これを……」
「この花は……」
「そう、ハルスの花です。花言葉は……」
「あなたなりの希望……だったかな?」
「はい、お守りとして受け取って下さい……ハルス村のみんながセティアさんの味方ですから」
「ありがとう……では!」
こうしてセティア・オルスティーの異術石をめぐる冒険が始まったのである。
「司、異術石の説明は、どうする?」
「出てきてからでいいよそんなん」
「そう……」
「君たちの上下関係がいまいちわからんのは私だけだろうか?」
次回 主人公の旅立ち
次回も俺達の活躍見ていてくれよな!