出勤
「氷結のセティアと言うアニメ世界のゲートはここで合ってるか?」
「あれ? 氷結のセティアはS級アニメ世界ですよ、源蔵さんは確かそのランクの運転は引退したはずでは?」
「まぁ、色々あったんだよ……どうもアニメ管理局の連中がはた迷惑な実験を初めたんだと」
「は、はぁ……一応ここがそのアニメ世界のゲートですよ、何にせよ許可がおりてるなら大丈夫です」
「だとよ、正道。どうする?」
源蔵さんは助手席の頭に手を置いてこちらに振り向く。
どうするったって……仕事なんだから行くしかない、本当は帰りたかったが、ここで弱気になっては幸先が良くないと思い、あえて清々しく答えた。
「行きましょう!」
山田と司も軽くうなずく。
「というわけだ、手続きを頼む」
「承知いたしました」
手続きと言っても手持ちのライセンスを確認して、二枚の書類に名前を書くだけだが、この時ばかりはペンを持つ手が震えた、ちなみに昔は一回の手続きに30分程度かかったらしいが、今では5分程で済んでしまう、これもきっと先代の人達の努力のおかげだろう。
「よぉーし、行くか!」
源蔵さんがアクセルを踏むと同時にゲートの仕切りが上がる、アニメ世界に行った事自体は何度もあるのでこれも見慣れた光景のはずだが、いつもよりゲートが殺伐として見えた。
ゲートに入りさえすれば到着は一瞬である、まばたきをすればもうそこには違う景色が広がっている。
「ここがランクS級のアニメ世界」
第一声を取られまいと、正道が声を出す。
「ここは現実世界ではなく異世界が舞台ですね、主人公もここの原住民です、科学はあまり発達してないものと思われます」
司がパソコンを操作しながら解説を入れる。
「そんな世界を堂々と車で走って大丈夫なのだろうか?」
山田がみんなが疑問に思っているであろう事を問いかける。
「心配すんな、適当に全自動の馬車とでも言っとけば怪しまれんさ」
めちゃくちゃ怪しまれそう。 しかも馬車なのに全自動って……まぁ、源蔵さんがアニメ世界に行っても車を隠そうとしないのはいつもの事なのでこれについては、諦めるしかない。
「それじゃあ、一旦ここで停めるからな点呼が終わったらこの場所に戻ってこい」
「源蔵さん、ありがとう」
「了解でーす」
「貴方は同行しないと?」
「ふぅ……すまんな、俺は安全な車の中で待たせてもらうよ」
源蔵さんは、座席を倒しながら山田の問いに答える。
「そうか……気に触ったならすまない」
「いーや別に、そんじゃ行ってらっしゃい」
本当は全員集合しないと点呼の意味がないのだが、源蔵さんが車から降りたがらない事を俺と司は、知っているので今さらどうこう言うわけもない、そんなわけで俺達は三人で現地へ向かった。
集合地点にはもう何人かが揃っており、何もない平原ではわかりやかった、聞いた話によると、今回は、俺達A班の他にBとCの三グループで撮影をするらしい、夜勤があるので、危険度A級以下のアニメでも二グループ以上で撮影する事はあるが、三グループは滅多に無かった、場合によっては4グループの撮影もあるらしい、そりゃ人手不足にもなるわな。
それにS級ともなれば、医療班や緊急時の司令塔なんかも必要とするのだろう、アニメ管理局からしても俺達のような一般人をS級に上げることは苦渋の決断だがやむ無しと言ったところか、そもそも俺達には、人手不足とだけしか伝えられていないので、憶測の域はでないのだが……
「こんにちは、A班リーダー野田正道です。 S級アニメ世界は初めてなのでよろしくお願いします」
とりあえず、近くにいた金髪男に挨拶してみる。
「え? もしかして急遽S級ライセンスに上げれられた一般人っすか? マジかあの噂ほんとだったんだ」
見た目どおりノリが軽そうな人だ。
「ま、まぁ……こちらも仕方なく」
「リーダー! リーダー! 来て来て!」
男は俺が語る間もなく人を呼んできた。
「なんですか? 翔平さん」
「見てくださいよ! こちらA班のリーダー正道さん! なんと一般ライセンスからS級ライセンスに上げられた都市伝説的な存在なんすよ!」
「あらま」
「いやそんな大層な者では……」
金髪男に勝手にハードルを上げられ、正道は困惑した。
「大変そうですね……あっ、申し遅れました私は、特殊アニメカメラマンS級撮影部隊のB班リーダーをしています 白井癒美と申します。 こちらは撮影担当の西坂翔平さんです、どうぞよろしくお願いしますね」
黒髪ロングの丁寧な口調の女性であった、横の金髪とは対照的もいいところである。
「こ、こちらこそ!」
「OK! 自己紹介が終われば皆マイ フレンド何かあればまかせてください」
「あ、ありがとうございます」
こんな馴れ馴れしい男でも今の正道にとっては心強い存在であった。
一通りの挨拶を済ませ、業務連絡の集会が始まったが、正直その様子を話しても尺の無駄なのでここは割愛しよう。
なんやかんやで俺達は源蔵さんの車に再び乗り込んだ
「お帰り、それでこれからどこへ行くんだ?」
「とりあえず、主人公の旅立ちのシーンの撮影を頼まれたので、ハルス村に向かって下さい」
「わかった、場所は?」
「今データを車のナビに送りますね」
集会の時から司はキーボードをずっと叩いていた、どの世界でもそうだが情報管理というというものは、未知のアニメ世界ではとても重要であり命綱である、もう戦いは始まっているのだ。
「おぉっーし! いくぞぉー」
源蔵さんは勢いよくアクセルを踏み車を発進させる
この世界ではどんな冒険と危険が待ち構えているのか、今の彼らには知る術はない
次回 ヒーローはヒロインだった
次も俺達の活躍見ていてくれよな