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絶対にプレゼントを渡したくないサンタクロースVS絶対にプレゼントを貰いたいチルドレン

作者: Kara〆

強引過ぎたかもー

 6人の男の子がそこにいた。今の時刻は4時前でまだ明るいが、後1時間もすれば暗くなる。気温もかなり低く、いかにも『冬』という感じだ。皆、小学3年生ぐらいで、輪になり仲良く喋っていた。


「ねえねえ! 今日が何の日か知ってる?」


 その中の1人──啓太(けいた)が言った。


「知ってるよ! サンタクロースがプレゼントをくれる日でしょ!」


 返したのは智徳(とものり)だ。


「サンタクロースが来るのって今日の夜だよね?」


 こう問うたのは(あきら)だ。


「そうだよ」


 直也(なおや)が答えた。そう、つまり今日はクリスマスイブ。


「サンタクロースはちゃんと寝ている人のところにしか来ないんだって!」


 と、隼也(しゅんや)。それに答えるかのように(つくる)が口を開いた。


「今日は早く寝なくちゃ!」


 皆、声変わり前の高い声で、声のトーンにはもちろん、会話の内容にも無邪気さがよく表れる。



 *  *  *

 


 シャンシャンと鈴の音が夜空に響く。その空を2頭のトナカイが翔ける。トナカイたちはソリを引っ張り、そのソリには1人の男性が座っていた。真っ赤な服を纏い、同じく真っ赤な帽子を被り、豊かな白髭は口元を隠す。その風貌は『男性』というより、『おじいさん』という感じだ。

 星が瞬く空の下には小さな町があり、家々の明かりはどれも消えている。故に、都会では一生拝むことが出来ないような小さく儚い星までもがはっきり見えた。


 突然、今までシャンシャンと規則的に鳴っていた鈴の音が止んだ──かと思うと、シャンッ! と一際高く、強く1回鳴った。

 それと同時に6人の男の子がこの『世界』に現れた。

 6人が降り立った場所は町の中心にある教会の屋上だった。互いにきょとんとした顔で見つめ合う。

 しばらくそのままでいたが、創がこの世界における第一声を放った。


「······ここはどこ?」


 再び互いの顔を見合うが誰も分からない様子だ。


「みんな、耳をすましてみて!」


 智徳が耳に手を当てながら言った。

 シャンシャンと柔らかな鈴の音が皆の耳に届く。鈴の音は先の1回を機に、今まで通りの規則的な音に戻っている。


「なんの音だろう?」


 直也が不思議そうに首を傾げた。三度、互いの顔を見合うが分からない。

 ふと、隼也が空を仰いだ。ほぼ同時にあっと声を漏らす。隼也の声につられて皆、空を見上げた。

 彼らの目に映ったのは──。

 煌々と輝く満月の前を通過する1つの影──2頭のトナカイと1つのソリ。ソリに乗る人の手はトナカイへ伸びる手綱を握っている。

 それを見た瞬間、


「サンタクロースだ!」


 皆が一斉に叫んだ。

 その声が聞こえたのか、サンタクロースが螺旋を描きながら教会の屋上──横1列に並ぶ6人の前に舞い降りた。

 動きが完全に停止すると、10センチメートル程浮いていたトナカイとソリが床についた。


「やぁ! 君らが──」


「おじさんってサンタクロース?!」


 威勢よく喋り始めたサンタクロースの話を爽が遮った。


「そうじゃ」


 と、一言答える。いささか不満そうだ。


「プレゼントちょうだいっ!」


 皆が手を前に出す。それを見た途端、サンタクロースはニヤリと笑った。


「そうか。君らがプレゼントを欲しがっている子たちじゃな。······悪いがプレゼントはあげられんな」


「えぇーー!! なんで?!」


「······理由は······有る──が、言えん」


「どういうこと?」


 啓太が聞いた。


「『なぜプレゼントを上げられないか』······。その質問はわしの核心をつくんじゃよ」


 その意味深長な言葉に、6人は四度顔を見合わせた。

 皆が「分からない」という顔でサンタクロースに向き直ったとき、サンタクロースが浮いた。


 皆が「えっ······?」と小さく声を漏らした。

 サンタクロースはみるみるうちに空へ上がっていく。

 その時、サンタクロースを白い眩い光が包み込んだ。光の色は白からグレー、黒へと段々変わっていく。

 黒い光は夜空と一体になるように、自然と消えた。

 皆、『サンタクロースの姿が見える』と思い目をこらす。

 光が消え、そこにいたのは──。


 サンタクロースだった。

 赤い帽子に赤い服、口元を覆う白い髭。しかし、大きさが違った。先刻の姿よりも10倍は大きい。その大きなサンタクロースが地響きのような唸り声を出すと、緑色の横長のバーがサンタクロースの頭上に出現した。

 1秒程して、困惑から覚めぬ6人の頭の上にも緑色のバーが出てきた。だが、サンタクロースの上に出てきたそれよりは、遥かに小さい。

 何かを悟ったのか、爽が呟いた。


「ゲーム?」


 それに応えるように、サンタクロースが耳の奥にずんと響く、低い声を発した。


「もし、わしを倒せたなら、プレゼントは欲しいだけくれてやろう。じゃが、君らが負けたあかつきには······。分かっておろうな?」


 大きな口が、悪魔が笑うかのごとく左右ににんまりとのびる。

 本来の、皆に幸せを運ぶサンタクロースとは対照的、かつかけ離れた姿だ。

 そんなサンタクロースにも6人は、「がんばろー!」と互いに声を掛け合っている。無邪気な彼らには、これが本当のサンタクロースの姿と信じて欲しくないものだ。

 鼓舞が終わり、6人がサンタクロースに向き直ると、彼は右拳を握り、天に突き上げた。

 すると、薄い赤色の光の円が教会の屋上の7割程を包んだ。6人は直感的に「危ない」と察し、光が当たっていない所へと逃げる。

 案の定、数秒後空から現れた()()()()が赤い円の中心に直撃し、爆風が巻き起こった。皆それから逃げ切ったと思えたが、爽が逃げ遅れた。ロケットは教会の屋上を抉り、爆風が爽の体に触れた。同時に、爽の頭上の緑色のバーが僅かに減少した。

 先に現れた光の円はロケットが抉った縁を、1寸も狂わずに予告していた。

 沈黙。周囲からパチパチと炎がはじける音がする。


「なにこれ······」


 円形に抉れた教会の床を眺めながら、啓太が呟く。それに誰かが応える間もなく、赤い円がまたも出現した。今度は先刻よりも小ぶりの円だが、場所が悪い。教会の残っている部分を完全に包んでいた。ここに居てはロケットに当たる──誰もがそう考えるが、どうすればいいのか分からず、うろたえていた。

 しかし、その状況を創が打破した。

 創は教会の屋上──地上約10メートルからえいっとばかりに飛び降りた。そのまま地面に落下、ダメージをくらうと思われたが、意外にもふわふわと落ち──というよりは『舞う』の方が正しい──すとんと地面に着地した。無論、頭上の緑色のバーは一切減っていない。

 直後、2度目のロケットが現れた。

 創を見ていた5人はコンマ1秒、その光景の処理に時間がかかったが、すかさず飛び降りた。5人が円の外に出る直前、ロケットが教会に着弾。爆発が起きた。

 2度目のロケットは1度目よりも速度が遅かった。さらに小ぶりだったことで5人へのダメージは軽くで済んだ。もし、これをもろにくらっていたら、致命傷になっていたはずだ。

 つまりこれは、創の気合いが生んだ解決の糸口だったというわけだ。


「飛べるんだ······」


 創が驚きの声色を混ぜながら言った。


「僕達はこれから何をすればいいの?」


 直也の問いに智徳が答えた。


「あのサンタクロースの緑色のバー、つまりHPをゼロにしたらいいんだよ!」


「どうやって?」


 隼也の問いに今度は爽が答えた。


「それを今から探そう! ひとまず、皆で一緒に行動していたら危ないよ。バラバラになろう。それで、サンタクロースに攻撃する手段を見つけるんだ」


 皆が頷く。同時に赤い円が6人を包んだ。最早、反射的に円から出る。


「よし、行こう!」


 啓太の掛け声と共に、6人は放射状に広がり、初めて来た夜の街へ走った。



 *  *  *



 最初にサンタクロースへの攻撃に挑戦したのは啓太だった。


「サンタクロースの真似をしてみるのはどうだろう?」


 こんな独り言と共に、啓太は手を上に突き上げた。

 だが、しばし待ってみるも、見事に何も起きなかった。挙句、止まった啓太に赤い円が襲い、爆風によってHPバーが3割ほど減った。


「サンタクロースみたいに手を上げても何も起きないよ!」


 啓太が大声で報告した。

 それに対抗するように、今度は爽が攻撃方法を試した。

 意外にも、爽は啓太と同じ方法だった。手を勢いよく天に上げる。

 だが、啓太の時とは変わり、空から今までで1番巨大なロケットが降ってきた。


「やった! イメージの力なんだ! 想像するんだよ!」


 爽が出したロケットはサンタクロースの体に当たり、HPバーを少し減少させた。

 それを見て、皆が我先にとロケットを出し始めた。

 この世界の理に気付いてから、サンタクロースのHPバーは黄色から赤色へとすごい勢いで減り、ものの5分足らずで色が完全に消えた。同時に、サンタクロースの動きも停止する。


「やった······!」


 それを見た隼也が呟いた。

 すぐ後に、サンタクロースの体は光の粒になり、夜空に溶けた。


「やったー!!」


 6人が一斉に叫んだ。



 *  *  *



 ミンミンとセミが少しうるさいぐらいに鳴く朝。


「なんだか······疲れた夢を見たような······気がするなあ······」


 少女がひとつ、大きなあくびをして起き上がった。

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