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赤い風と呼ばれた鳥

 ある風の強い日でした。


 木の葉がくるくると舞い上がり、空高く飛ばされていきます。


 そのとき一羽の鳥が生まれました。


 風の神に祝福された鳥は幸せになると言われています。


 そのよき日にお父さん鳥、お母さん鳥が待ちに待った子どもが誕生したのです。


 長らく子どもが出来ずに今回やっとできた子です。


 卵も小さかったので、お父さん、お母さんも心配でたまりませんでした。


 二人で、交代で卵をあたためていましたが、今やっと殻が破れ、小さな男の子のヒナが誕生したのです。お父さんお母さんの喜びはひとしおでした。


 しかし、その子の姿を見て二人は「あっ。」と声をあげました。


 真っ赤な色の鳥だったからです。お互いに顔を見合わせましたが、お父さんは「迷信だよ。心配いらないさ。」と自分に言い聞かせるように言いました。


 なぜなら、昔からの言い伝えに、真っ赤な羽根の鳥は赤い風と呼ばれて、風のように速く飛べるが、それゆえに普通のおだやかな人生は送れないと言われていたからです。


 それから、色々な鳥がお祝いにかけつけてくれたのですが、みんなその子の赤い羽根を見ると複雑な表情を浮かべました。


 しかし、その小さな体のヒナを見て「まさかね。」と気をつかい、そのことは話題にしないようにしたのです。


 やがて、その子はお父さんお母さんの愛情をいっぱいに受けて、すくすくと大きくなりました。


 どちらかというとおとなしくて優しい子です。


 でも、運動は苦手のようでした。


 誰よりも速く飛べるという赤い風であるはずがありません。


 しかし、お父さん、お母さんは赤い風の伝説を気にすることもなく、この子を心から愛していました。


 この世界では様々な種類の鳥が集まって、複雑な社会をつくっていました。


 巣作りがうまい鳥は家作りの仕事、器用な鳥は服を作ります。


 食べ物をつくり運ぶ鳥、音楽や美術の仕事をする鳥、知識を教える鳥、さまざまな仕事をする鳥がいました。


 鳥だというのに満足には飛べなくなっているものがほとんどでした。


 それゆえに、大昔の鳥のように空を高く速く飛ぶことは、皆のあこがれでもありました。


 この赤い鳥が少し大きくなって、仲間と遊んでいるときに、うまく運動ができずにからかわれていました。


 それを通りかかった年とった鳥が見て、吐き捨てるように言ったのです。「それでも赤い風か。なさけない。」


その子は泣きながら家に帰ってお父さんに聞いたのです。「僕の羽根が赤いのはいけないことなの。なさけないって言われたよ。」


 お父さんは伝説の話をしたうえで「お父さんもお母さんも、今のお前が大好きなんだ。赤い風なんて関係ない。お前には平和で幸福な人生を送ってほしい。それだけが願いなんだ。」


 そういって息子を抱きしめたのでした。


 それでその子も安心して、それからは赤い風の話をしなくなり、両親の期待に応えて素直でやさしい鳥に成長していきました。


 さて、年頃になると若い鳥たちの話題は、好きな鳥のことと将来の職業でした。


 その地方の若者の中でもひときわ美しい真っ白な羽根をした女性の鳥は、ふわふわと優雅に飛ぶことができました。そして鈴のような美しい声で歌うのでした。


 皆の憧れの的です。彼女の気を引こうとして、男性の鳥たちは自分の力を見せつけようとするのですが、彼女は誰にもなびきませんでした。


 それぞれの鳥は社会の一員として、自分に合った職業につくのですが、その前に最後のチャンスがありました。


 鳥でありながら、飛ぶことが下手になってしまった鳥たちがつくるこの社会では、空を高く速く飛ぶことは貴重な役目でした。


 もし才能があれば、普通の職業とは違った別の人生が開けるのです。


 望めばそのための試験を受けることができました。


 特に今回は例の美しい女性の鳥が「この試験で一番になったものと結婚したい。」と言っておりましたので、例年以上に参加者が多かったのです。


 そして、運動がからきし駄目な、あの赤い鳥さえも参加するというのです。


 お父さんお母さんは反対しました。


 「お前は私たちと一緒の人生を歩んではくれないのかい。」


 それに答えて赤い鳥は言いました。


 「風の強い日に僕は風の神に祝福されて生まれたと聞いているよ。そして赤い風の伝説も知っている。自分がそのような存在ではないと思うけど、それを確かめないと、もう前には進めないような気がするんだ。」そう訴えるのです。


 しかし、本当の理由はほかの男性たちと同じように、彼もまた、あの白い鳥が大好きだったのです。


 お父さんたちを裏切るような気もしましたが、若さがそれを忘れさせたのです。


 さて、いよいよ試験の日です。


 その場所は高い山の上です。


 参加者たちは、やっとの思いで到着しました。


 こちらの山の崖から向こう側を見ると、ずいぶん先に岩の壁が見えます。


 そこに小さな黒い点のように見えるのがゴールの洞窟です。


 下は海ですが、この高さだとへたに落ちると死んでしまうでしょう。


 しかも複雑な風が上下に左右に吹き荒れて渦を巻いています。


 風の神に愛されているかどうかがこの試験で分かるというのです。


 この場所に到着すると急におじけづいてしまったものがたくさんいました。すでにこの時点で参加者は半分に減りました。


 赤い鳥の両親も見に来ていて、当然息子もあきらめてくれるものだと思っていました。


 しかし、赤い鳥は引きさがりません。ひざが、がくがく震えていましたが、それでも参加しようというのです。


 さあ出発の合図です。鳥たちが精一杯に羽ばたいて飛び立ちました。


 力強い鳥たちが先を飛んでいきますが、風にふりまわされて、なかなか前に進めません。


 後を追う赤い鳥も一生懸命に羽ばたくのですが、うまく飛べません。


 それどころか風にあおられて、落ちそうになります。


 怖くて背筋がぞくぞくします。


 赤い鳥が「風の神に愛されているかどうかを教えてください。」と心の中でつぶやいたときでした。


 最初はどきどきして怖くてたまらなかったのに、次の瞬間、頭の中が静かになって恐怖も消え、目の前の景色が違って見えてきました。


 なんと風の流れがはっきりと色のついた絵のように見えるのです。


 赤い鳥はその流れに乗ってみました。


 すると自分の体がすーっとすべるように進むのです。


 まるでダンスをしているように優雅に体が動いていきます。


 そして羽ばたいてみるとまるで自分が風にでもなったようにスピードがでました。


 赤い鳥はずっと前を飛んでいた鳥たちをぐんぐん抜いていきました。


 ほかの鳥たちには何が起こったのか分かりませんでした。


 そばを赤い風がすり抜けていったとしか思えなかったからです。


 圧倒的な強さと速さで見事あの赤い羽根の青年が優勝しました。


 白く美しい羽根をした彼女もまさか彼が優勝するとは思っていませんでした。


 しかし、もともとやさしい青年だと好ましく思っていた彼がすばらしい速さで飛ぶことができたのです。彼女は、選ばれた存在になった彼との結婚に迷いはありませんでした。


 また、その場所で息子の姿を見守っていたお父さんとお母さんも、最初は馬鹿なことをする息子をとめることもできず、ただいのちが助かってほしいと無事を祈るだけでした。


 ところが、息子が赤い風となって飛んだのです。


 その姿を見たとき、お父さんとお母さんは驚くと同時にこれまで大切にしてきたものが崩れ去っていくような不安にかられたのです。


 そして、両親が予感したとおりに、それからの赤い鳥の人生はまったく違う方向に変わっていってしまったのです。


 赤い鳥は両親のもとを遠く離れて、飛行訓練のための施設に入りました。


 そこでの体験は秘密とされており、親元に帰ることは許されませんでした。


 一人息子がいなくなった両親は抜け殻のように気力がなくなってしまいましたが、息子の便りを楽しみにして、いつか息子と一緒に暮らせる日を夢見て二人で支えあっていたのでした。


 赤い鳥は訓練を終えてからから約束どおり彼女と結婚しました。


 しかし、今度は飛行の公式レースで全国を回ることとなり、妻と暮らしたのはほんの短い間だけだったのです。


 間もなくして赤い鳥にも自分の息子が生まれたのですが、一度も息子の顔を見たことがありません。


 しばらくすると、あるお金持ちの男があらわれて援助を申し出ました。


 赤い鳥は、その男の力を借りて大きな大会に出続けて実力をつけていきました。


 風を味方にしている赤い鳥は、誰にも負けることがありません。


 しかも、その国の人は赤い風の伝説を知っていましたので、大変な人気だったのです。


 しかし、平和なときは長くは続きませんでした。


 隣の国との戦争がささやかれるようになりました。


 そのときでした。赤い鳥を助け続けてきたお金持ちの男がいうのです。


 「この国の一大事だ。これまで助けてきたのだから言うことを聞いてもらうよ。」


 実はその男は国の偉い人に働きかけて、自分の推薦する赤い鳥を隣の国との話し合いに送ろうとしたのです。うまくいってもいかなくても殺されることがある危険な使命です。


 しかも、これからの行動は秘密とされましたので、もう家族に会うこともかないません。


 「これまでお父さんお母さんに寂しい思いをさせてきたが、今から僕は隣の国に命がけで使命を果たしに行く。帰ってこられるかどうかも分からない。自分がお父さんたちにずっと会わなかったむくいなのか、自分はもう息子に会うこともできないのだ・・・。」


 赤い鳥は国の責任者と平和の話し合いのために詳しい打ち合わせをしました。


 そして、相手国の要求どおり、ひとりで飛んでいったのです。


 隣の国に行ってびっくりしました。てっきり平和の話し合いを命がけでするものだと覚悟していたのに思いがけないことを言われました。


 「お前は、わが国の代表と、空の闘いを繰り広げてみごと勝つことができ、平和を築くという使命を果たしたが、そのときの傷で死んでしまったということにさせてもらう。そして、お前の国には、お前だと言って別の骨を返す。お前はもう自分の国には帰れないのだ。


 実は、お前には遅れているわが国の飛行部隊の訓練をして欲しいのだ。」


 さらに驚いたことには、「ずっとお前に目をつけていたのだ。お前を助けてきた、あのお金持ちの男は、実はわが国のスパイで最初から仕組んでいたことなのだ。」そう言うのです。


 赤い鳥は、怒りがこみあげてきました。


 「敵の手伝いをして、自分の国を裏切ることなど出来るはずがない。帰らせてもらう。それが駄目なら殺せばいい。」


 そうすると敵国のものが「それではお前の両親、妻、そして幼い息子が無事ではすまないぞ。お前を助けてきたあの男は、簡単にお前の家族を殺すことができるのだぞ。」と脅すのです。


 「何と、ひきょうな・。」そう赤い鳥はうめくように言いました。


 しかし、赤い鳥は、自分のせいで寂しい思いをさせてきた両親と、妻や会ってもいない息子を死に追いやることだけはできないと思いました。


 それでしかたなく敵国で飛行訓練の仕事をするようになったのです。


 そして、自分の国では赤い鳥は平和のために死んだということで英雄のように扱われました。


 しかし、息子が死んだと聞かされた両親は、血を吐くような悲しさのあまり重い病気になり寝込んでしまいました。


 そして周囲の看病もむなしく、しばらくして死んでしまったのです。


 また、妻は一生懸命に子どもを育てていましたが、夫をなくした寂しさで気が狂いそうでした。


 赤い鳥には独自にあみ出した、ひとつの技がありました。


 敵から襲われたときに、まっさかさまに落ちてから回って相手の後ろにつく技です。


 これは誰にも教えずに来ました。


 結婚してすぐのころ、妻に見せたことがあるぐらいで、その技の秘密を知るものは他にはいません。


 敵国での訓練でもそれだけは教えなかったのです。


 それは自己満足だったかもしれません。しかし自分なりに最後のところでは国や家族を裏切っていないと思いたかったのです。


 それから長い年月がたちました。


 赤い鳥は敵国でたくさんの若者たちを訓練しました。


 不思議なことですが、自分の技術を伝えるのは楽しくもあり、自分の弟子たちの成長もまた喜びであったのです。


 しかし、自分の国を裏切っている辛さと、会えない家族を思う気持ちがあばれまわり、赤い鳥の心は引き裂かれていきました。


 そのために赤い鳥は病気がちになり、年齢よりもずっと早く弱っていったのです。


 そして、その隣の国が充分に強くなったころ、赤い鳥の国に戦争がしかけられたのです。


 「もうお前には用はない。帰りたかったら帰るがいい。しかし英雄として死んだはずのお前が、実は敵の味方だったと知ったらどうなるかな。」彼らはそう言うのです。


 赤い鳥は「確かに国を裏切った自分は、もう誰にも合わせる顔がない。妻にも子どもにも英雄だと思ってもらっていたほうがいい。」と考えましたが、一つだけ許せないことがありました。


 自分をこのような目に合わせた、あの金持ちの男だけは許せない。どうにかして復讐をしないと気がすまないと思ったのでした。


 そこで、赤い鳥はめだたないように変装をして、ひっそりと自分の国に戻り、苦労してその鳥を見つけました。


 そして、赤い羽根の姿に戻ってみせると相手は青ざめました。


 赤い鳥は「親の死にも立ち会えず、愛する妻とも離れ、息子の顔も見られずに長年たってしまった。そして、もう息子が戦争に出る年齢となってしまった。親として息子に何も伝えることもできなかった。そのくやしさが分かるか。」といって詰め寄りました。


 すると、その年老いたその鳥は「私も同じだったのだ。家族が人質だったのだ。」と言うのです。


 「ああ、自分と同じ犠牲者だったのか・・・。」


 赤い鳥は敵国の仕打ちを恨み、運命を呪うことはできても、もうこの男を憎むことはできませんでした。


 そうして、復讐をあきらめた赤い鳥の心には、たった一つのことしかありませんでした。


 「息子に会いたい・・・。」


 戦争を前にして、あの風の神の試験を受けるものが増えていました。


 そして、自分の息子も試験に向けて訓練中だというのです。


 尋ねていくと、息子らしい鳥が一羽で練習をしていました。


 自分のように真っ赤な羽根ではありませんでした。


 白い羽根のお母さんに似たのでしょうか、全身は白い色です。しかしよく見ると頭の上や翼の先に赤い色があります。それに気付くと赤い鳥は嬉しくなりました。


 赤い鳥は息子に話しかけました。


 「おおい、頑張っているね。うまく飛べるかい。」


 休憩したかったのか、息子は自分の父親だとも知らずに近寄ってきて言いました。


 「色々と工夫したいけど、分からないことだらけだよ。他のみんなは自分のお父さんに教えてもらっているようだけど。」


 「それで君のお父さんは。」と赤い鳥があえて尋ねると、「この国の平和のために死んでしまったのさ。英雄だといわれているけど僕は顔を見たこともない。


 おじさんみたいに赤い色の羽根をしていたって聞いたよ。」と息子は答えました。


 赤い鳥は、「そうか、赤い色の羽根ねえ。それも何かの縁だな。おじさんが飛び方を教えてあげよう。」と言うのです。


 赤い鳥は息子にさまざまなことを教えました。敵国での訓練の日々が役に立ちました。息子の飛行の伸ばすべきところと注意すべきところ、それがたちどころに分かるのでした。


 そして、誰にも教えなかったあの秘密の技を息子に伝えたくて言いました。


 「いいかい、明日もさっきの時間にここに来るんだよ。おじさんがしっかりと教えてあげるからね。それからお母さんには秘密だよ。もっとうまくなってからびっくりさせよう。」


 そして、数週間の修練を積んで、息子のめざましい成長を見て取ると赤い鳥はさそいました。


 「本番のときに使われる試験の場所に行こう。そこで、これまで学んだことを試してみよう。」


 体の弱っていた赤い鳥は全身全霊を傾けて息子に教えていましたので、もう体力の限界にきていました。それでも、どうしても風の道を教えたくて、この場所に来たのです。


 「よーし、一緒に飛ぼう。おじさんが風の道を飛ぶからよく見てついてくるんだよ。風は渦を巻いているように見えるだろうけど、そこには道があるんだよ。」


 風が親子を祝福するように強く吹いてきました。複雑な渦がからまって、空気がぎしぎし言っています。ときおり、ひゅーという音がすすり泣いているように聞こえます。


 赤い鳥はつぶやきました。「最高の日だよ。」


 風に愛され、それゆえに人生をふりまわされてきた赤い鳥にとって、この風の中で息子に伝えることがある幸せを風の神に感謝しました。


 「自分の人生は本当に赤い風のようだった・・・。」


 赤い鳥は飛び出しました。後ろを息子がついてきています。


 「たくましくなったものだ。」


 振り返って息子の姿を見ながら、赤い鳥は嬉しくてつい口に出しました。


 それから、赤い鳥は風の道を探してすべるように乗りました。


 息子がそれに習って風の道に乗りましたが、すぐはずれそうになります。


 赤い鳥は叫びました「風の目を先に先にと読むんだ。」


 赤い鳥のあとをつけて飛んでいた息子は、次第に風の道にのって飛べるようになりました。


 「おじさん、分かったよ。すごいね。」


 息子は気持ちよさそうにはばたき、すべるように飛んで、赤い鳥のすぐ後ろにせまってきました。


 赤い鳥は胸のあたりが苦しくなってきました。どうやら無理をしすぎたようです。


 息子にすっと抜かれてしまいました。


 「おじさん。なにやっているのさ。」


 「いや、油断しただけだ。」


 先を行く息子を赤い鳥は追いかけます。渦巻く風のなかを二羽の鳥が抜いたり抜かれたりしながら競争をしています。



 風の神に愛された二羽の鳥がまるで踊っているようにも見えます。


 息子は無我夢中で飛びました。


 そして、やっとゴールの洞窟についてから、振り返ってあたりを見渡しましたが、おじさんはもうどこにもいません。


 「やったぞ。あのおじさんに僕は勝ったんだ。ふーん。姿が見えないのは僕に負けたのが恥ずかしくて隠れたんだな。」


 その若い鳥には叫びたいほどの喜びと自信が湧いてきました。


 家に戻ってから、はじめてこの話をお母さんにしました。


 赤い羽根のおじさんと訓練を重ねてきて今日、試験の場所を飛んだこと。そして急におじさんがいなくなったこと。


 息子は「あっ、それから僕はすごい飛び方が出来るんだよ。」と言って、教えてもらった秘密の飛び方を母親にしてみせたのでした。


 お母さんは青ざめました。それは夫がけっして誰にも教えないと言っていた技だったからです。


 「その赤い鳥のおじさんはお父さんに違いない。」


 お母さんは息子と一緒に急いでその場所に行ってみましたが、いくら探しても夫は見つかりませんでした。


「なぜ私のところに会いに来てくれなかったの。なにがあったの。」


 そう言って泣くのでした。


 あのとき・・・。


 息子の背中を追いかけるように飛んでいたとき、赤い鳥は胸が苦しくなり、意識が遠のいてきました。


 それで風の道をはずれて落ちていったのでした。


 「自分は息子に大切なことを伝えることができた。妻よ、何もできない私だったがこれで許しておくれ。」


 海に吸い込まれるように落ちていった赤い鳥は、とても満足そうな顔をしていました。


 風の強い日に生まれた赤い鳥は、立派に赤い風としての人生を送りました。


 そして、この最後の瞬間、風が赤い鳥の体を包んで天国へと運んでくれたのです。


 おしまいです。

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