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部活⑥・魔王達は解決策を提案する

 皇太子を始めとする神聖帝国有数の名門貴族の子息や令嬢が結集した学園生徒会の帝都巡回は否応なしに周囲の注目を集めていた。更には多くの観衆が物珍しさに集まり、左右の建物からも住民が物珍しそうに見物してきている。


 そんな中、三人の悪役令嬢が正面から生徒会一同と対峙していた。アーデルハイドは自信に満ちた様子で腕を組んで胸を張り、ジークリットは手で口元を隠しつつ妖韻な微笑を湛え、ヴァルプルギスは凛とした佇まいで相手を見据える。


「それでルードヴィヒよ。初めて旧市街地に赴いた感想は如何だったかな?」


 最初に口火を切ったのはアーデルハイドだった。

 生徒会役員の何名かがいかに婚約者とは言え馴れ馴れしい態度に憤りを露わにする。当のルードヴィヒは全く気にせず、それどころか彼女を可愛いと感じたのか微笑ましく暖かな視線を彼女に向けた。


「あー、何か思ったより酷いな。服は破れっぱなしな布きれ一枚羽織っただけの奴もいたしよ」

「毎日の食べ物にも困っている感じだったな」

「皆さんいつ崩壊するかも分からない建屋に住んでいるのは驚きでした」

「あら、その程度でございますか」


 ルードヴィヒ達一向は軽く衝撃を隠しきれていない様子で各々の所感を口にする。そんな彼らを生ぬるいとばかりにジークリットは嘲笑った。


「もっと奥の方へ足を運べば家すら無く道端に敷物を広げて生活を送る方も少なからずいらっしゃいますよ」

「道端で……!?」

「雨風を凌ぐ為なら暗い地下水路に逃げ込みますし。皆様が普段身に付けていらっしゃいます華やかな服飾や煌びやかな宝飾を一つ売るだけでも一家族が当面食べ物に困らなくなる程なのですよ」


 ただ、ヴァルプルギスはジークリットの嘲笑の中から帝都の裏を知りもしなかった者達への憤りがわずかに滲み出ているのを感じ取った。


「ジークリット様はわたくし達を批難しにわざわざ立ちはだかってきたの?」

「ベルンシュタイン嬢も、我々は学園生徒会の活動の一環として帝都を視察中だ。この場は控えてもらおうか」

「ふむ、しかし神聖帝国が誇る帝都では陰でこのような生活が送られていた。へーそーなのかーおしまい。感想を抱く程度ならはしゃぎまわる子供でも出来ようぞ」


 ジークリットの弁を遠まわしな批判に苛立ちを募らせたターニャとデニスが一歩前に歩み出る。だがアーデルハイドは怯むどころか小馬鹿にした笑いで返答した。大人しく引き下がっては悪役令嬢の名が廃ると言わんばかりに。


「無論です。学園生徒会の理念は神聖帝国の発展と繁栄。それは貴族による搾取ではなく国全体の力が底上げされるべきなのです」

「随分と立派な回答だなレオンハルト。ならお前は殿下が酷いと称したこの現状、どのように改善していくつもりだ?」


 今度はレオンハルトがやや強い口調で意気込みを露わにする。しかしそんな彼に対して今度はヴァルプルギスがやや冷たい眼差しを向ける。まるで口だけは達者だと咎めるかのように。


 生徒会の誰もが口を噤んだ。無理もなかった。後に帝国を担う体制者となる定めを持つ一同の発言はとても重く深い意味を持つ。軽はずみに希望的観測をしたら最後、叶えるには綿密な摺り合わせと莫大な資金が必要となり、反故にすれば市民の心が離れていくから。


 加えてヴァルプルギスは無言ながら彼らを威圧して逃げの一手を許さなかった。目下検討中などと口にしようものなら見下げ果てたと断じるだろう。レオンハルト達は悪役令嬢達から突き放される未来像など想像もしたくないから。


「そ……その点につきましてはわたしに考えがあります」


 代わりに勇気を振り絞って手を上げたのはユリアーナだった。彼女はルードヴィヒ達が驚いたりターニャ達が余計な事を口走るなと睨む中で進み出る。そして彼女、ヒロインはアーデルハイド達、三人の悪役令嬢と対峙した。

 予言の書通りの展開となりアーデルハイドは内心で歓喜した。そして同時にどのような打開策を提示するか、心が騒ぐのを何とか抑え込んでいた。彼女はそんな思いを表には出さずに仕草だけでユリアーナに続けるよう促す。


「学園には多くの貴族の方や帝国から援助を貰っています。そのお金は元は帝国市民から徴収された血税です。なら、市民に還元すべきだと思います」

「ほう、では市民から搾り取った金をばらまくか?」

「食べられないなら炊き出しをすればいいです。街が汚いなら掃除しましょう。人や物を買えるお金は沢山あるんですから」

「施しの考えだな。ご高尚なご意見どうもありがとう」


 アーデルハイドはユリアーナに拍手を送った。しかし彼女を讃えてのものではないのは誰の目からも明らかだった。


「何が可笑しいんですか……っ!?」


 馬鹿にされたと受け取った当のユリアーナは顔色を変えて歯を強く噛み締めた。そして強く握り込めた手でかぶりを切る。


「ではそなたの提言通り食を与えて街並みを綺麗にしたとしよう。確かにその日は多くの者に感謝されるであろうな。で、次の日は如何する?」

「次の日……?」

「人は毎日飲み食いしなければ生きては行けぬぞ。まさかそなたは学園の費用で旧市街地市民の食を賄い続けるつもりか? 確か焼け石に水、と遠方の国では表現するのだったな」


 ユリアーナは論破されて悔しさを露わにさせる。更に追撃を加えようと口を開きかけ、レオンハルトがユリアーナを庇うように前に歩み出た。ユリアーナが大丈夫だと主張してもなおレオンハルトやルードヴィヒ達は彼女を引き下がらせる。


「アデル。そうは言うけどよ、俺達が出来るのは精々そんなものだぜ。いくら学園が恵まれてるからって連中にただ飯を食わせ続けられやしねえよ」

「ほう、生徒会長たるそなたが白旗を上げるのか。やれやれ、それでは今日の視察はただの観光だな」

「……っ。旧市街地の住人が貧乏なのはそもそも金がねえからだ。稼げたらとっくの昔に新市街地の方に引っ越してるだろ」

「ならそなたは何故ここの者達が貧しさから脱出出来ぬ程度にしか稼げないと?」

「報酬はそれに見合った労働があってですから。雇い主を呻らせる働きをするなら賃金を多く弾むでしょうが、あいにくここの方々は高給を与える能力があるとは言えません」

「言い切りますねえレオンハルト様。ですから結局は生まれや育ちのせいにして自己満足の施しで済ませてしまうのですね。これもお茶を濁す、と表現するのでしたっけ?」


 アーデルハイドは大げさにため息を漏らし、ジークリットも鼻で哂った。散々好き勝手に駄目出しをする令嬢達にターニャとデニスが苛立ちを募らせたように顔を歪めさせていく。とうとう痺れを切らした二人はもう良いと吐き捨てた。


「貴女達、どなたに向けて口を利いているの? こちらにいらっしゃる方は畏れ多くも――」

「皇太子とその取り巻きご一行、であろう? わたし達貴族が忠誠を誓う相手は帝国であってそなた達ではないぞ」

「……っ」


 ターニャは頭に血を上らせて思わずアーデルハイドに掴みかかろうとした。だがその細い手首をルードヴィヒに掴まれて未遂に終わる。ターニャは彼女の言う畏れ多い方であるルードヴィヒに非難の目を向ける。


「会長、いくら殿下の婚約者だからとこんな好き勝手言わせていいのですか!?」

「アデル、ターニャもこう言ってるぞ。そこまで俺達を散々コケにするんだから何か改善案はあるんだよな?」

「勿論だとも。無策でこの区域に参る程愚かではないぞ」


 アーデルハイドは待ってましたとばかりに鼻息を荒くさせた。彼女の両隣にいる侯爵令嬢と辺境伯令嬢の様子も変わらぬまま。アンネローゼにとっては生徒会を構成する者達を前にして全く怖気づかずに堂々とする姉達に驚いてしまう。


「そもそも帝都はな、旧市街地の者達を満足に食べさせていけぬのだ」

「その理由はレオンハルトがさっき喋っただろ」

「せっかちだなぁ、しばし黙しているが良い」


 自分の主張を断ち切られたアーデルハイドは不機嫌さを隠そうともしなかった。しかし発散させるその身振りがルードヴィヒにとっては可愛い仕草に見えてしまい、顔を綻ばせる。


「帝都などと銘打たれたこの都市の華やかさに夢を見る者も多くいるだろうな。現に神聖帝国はおろか周辺諸国の都市と比べても誇れるものだと私は思う」

「ですが、経済の巡回は需要と供給で成り立ちます。帝都はまだそれほど多くの者を豊かにするほど発展していないのですよ」

「人が多くおれば仕事を安請け合いするようになる。一般市民はある程度選択の余地があるが、ここの者達に残されるのは過酷な肉体労働やドブさらい等だ。既に都市構造からして限界が来ておるとわたしは考える」

「なら抜本的な解決案は三つある。一つは学園などではなく帝国そのものが公共事業を起こして労働者として雇う、だな」


 ヴァルプルギスが鋭く指差した相手は皇太子たるルードヴィヒ。それはまるであくまで恵まれないのは自己責任とばかりに無策な国自体を批難するかのようだった。


「もう一つは、帝都でなら成功できるって幻想を捨ててもらう事です。これ以上浮浪者が増えぬよう街道の各所に関所を設けて諦めていただけばいかがでしょう?」

「経済の流通の為にある程度人の往来の制限は緩めなきゃ駄目だろ。生まれた土地に人を縛り付けるだけだといつか市民の不満が爆発するぞ」

「マクシミリアン様、その結果が帝都への人の流入でしょうに。ですからわたくし共は皆さまに仕事を提示する準備がございます」

「何だって……?」


 真っ先に声を挙げたのはマクシミリアンだったが、その場にいた誰もがジークリットの言葉に驚きを露わにし、一帯が騒然となった。一日を生きるのが精一杯な現状を覆せるのか、と周囲の住人達は目の色を変えて前のめりになる。

 そんな皆に向かって三人の悪役令嬢は宣言した。


「はい。わたくしの家であるキルヒヘル家と」

「私の家、ヴァルツェル家と」

「わたしの家、ベルンシュタイン家が各々の領地に迎え入れようぞ」


 自分達が雇い入れる、と。

お陰様で十万字突破しました。

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