4.気配
4話目です。
敵がようやく見えてきたってところです。
予定より1話延びてしまいました。
「先生は魔王って見たことあるの?」
小学4年くらいだったか。子供の頃、グレイス先生に質問したことがあった。弟子入りし、先生の家に住み込んでいた頃。あの家の木の匂いが懐かしい。
当時は学費や生活費なんかを全て先生が出してくれていた。最初はうちの親が出したがっていたようだが、先生に説得されてそうなったそうだ。
先生の家は小高い丘の上にぽつねんとあった。緑に囲まれていたのは良かったのだろうが、正直不便な場所だった。一番近くの小学校へ登校するにも片道1時間はかかった。
賢者と一般人の教育課程は小学校から分かれている。わたしの入った学校は賢者専門学校で、魔法学と共に一般教養も一通り習うことになっていた。その中で一般教養の科目、歴史の授業で魔王の話が出た。
「魔王による実害が確認されてからもう6世紀程経っていますが、未だに魔王を直接見たという人はいないのです」
わたしは少なからず衝撃を受けた。魔物が絶滅したとされるのは50年以上前。その首魁である魔王もその時に共々滅ぼされたものだと思っていた。その亡骸を確認したからこそ"絶滅"と言っているのだとばかり。わたしは教卓に立っている社会科の先生に向かって手を挙げて、疑問を解消しようとした。しかし先生は苦々しくはにかむだけで、まともに答えてくれなかった。後で他の生徒に聞いたところによるとあの先生は賢者ではなく、一般教科の専門家なだけで、魔王はおろか魔物に対する知識もほとんどないらしかった。だからわたしはその日、何だか悪いことしたなと、悶々としながら家に帰ったのだった。
「どうしたの、ぶーっとふくれ面をして」
帰るとグレイス先生は庭先の肘掛け椅子に腰掛けていた。膝の上には編みかけの毛糸を乗せている。
先生はこの頃、外出することが少なくなっていた。天気のよい日は日長1日庭で編み物をしていることも多かった。
わたしは開口一番、質問を口にした。
「そうね、私は見たことないわね」
先生は大賢者と呼ばれていた。賢者の中では最高位で、そう呼ばれている者は世界中でも3人しかいない。そんな先生でも見たことがないとは。
「魔王なんて本当にいるの?」
「どうしてそう思うの?」
先生は驚いた顔をこちらに向けた。
「だって魔物は絶滅したはずなのに、魔王を見た人がいないなんておかしいじゃない」
先生の顔は柔らかな微笑みに転じた。その微笑みを向けられると、いつも日向に包まれるような暖かさを感じられた。
「魔物は正確には絶滅していないのかもしれないわね。最後の将軍は1944年の日本、シロウ・イシイね。それ以降は将軍も魔物も確認されていない。だから教会はヴァチカンを建国して、魔物の絶滅を謳ったわ。でもあなたの言うように魔王を討伐したという報告はどこからも挙がっていないから、絶滅というには早いという意見もあるの。私も当然の意見だと思うけれど、でも実際もう魔物は確認されていないから、教会の判断も分かるわ。何年間も音沙汰がないのに、その間中ずっと気を張り続けるのは経済的にもかなりの負担だもの。だから魔王は討伐していないけれど、魔物は絶滅したということにしたのかもね」
「え、でもそんなことでいいの?」
「今や人間の文明も成熟したと言っていいでしょう。現状であれば魔物がまた出現しても幾らでも対処できる。そういう自信もあっての事でしょうね」
「だからって…」
「確かに最良の選択とは言い難いかもしれないわ。でも最善を尽くしていると言ってあげてもいいんじゃないかしら。本当のところは分からないのだから。魔王は完全に撤退したのか、反撃の機会を探っているのか、死んでしまったのか、それとも」
先生はわたしに向かって少し意地悪く微笑んだ。
「実はいないのか。それはそれこそ『神のみぞ知る』かしらね」
さぁ、おやつの時間にしましょうか。先生はわたしとの小さな問答に疲れたと言うように、大きなあくびをして言った。そしてわたしに台所にあるシフォンケーキとお皿、紅茶の一式を庭に持ってくるように指示した。
先生はいつもわたしの意見を頭ごなしに否定したりしなかった。わたしの質問に対して幾つもの考え方を示して、後はわたし自身に考えさせるようだった。おかげで多角的な考察力が幾らか養われた気がする。そんな偉大な先生は数年後、わたしが15歳になる年に亡くなった。夕陽が西の空にゆっくりと、しかし呆気なく沈んでいくように。
台所におやつ一式を取りに行ったわたしは、ダイニングテーブルの上に置かれた目的のものを見つけた。一瞬受け皿とティーカップが6つ程あるように見えたが、目を擦りよく見ると2つあるだけだった。
「てすてすー。みんな来てるかー。はいほな点呼ー、いち!」
あかりがわたしの頭の中で点呼をかけていた。シグマ部隊のメンバーが欠けることなく、現地に時空間転移出来ているか確認している。アルファ部隊の隊長であるわたしも自身の隊の隊員が余すことなく来ているか、思念通話で確認した。冷静なイワン、心配になるほど元気なウィリアムズ、気だるそうなフランソワの返答をそれぞれ受け取った。
1943年のドイツでの調査を終えたわたしとあかりは、一旦2018年の3月13日に戻り、自身の部隊に必要な装備を指示し、今度は1923年11月9日のドイツへと来ていた。転移位置は案の定全員ばらばら。ミュンヘン一帯にランダムに落とされたようだ。わたしはどこかの煉瓦造りの屋根の上だった。頭上には幾らか雲が浮かんでいるものの、すっかり晴れている。その晴天の下、目の前には茶色や褐色等の落ち着いた暖色の屋根が連なっていた。日本ではあまり見られない光景だろう。
「おっけー、全員おるな。あ、先言うとくけど、全員に宮毘羅付けてあるからパニックにならんようにな」
あかりのアテンションを苦々しい思いで聞く。
「隊長、くびら…とは何でしょうか」
生真面目なイワンが確認してきた。
「あー、えっと…拳大の鼠なんだけど、皆の肩とかに乗ってるんじゃないかな」
「ねずみ!!?ちょっと冗談じゃないわよ!勝手にそんなもの付けな」
フランソワは文句を言い終える前に、わたしの頭の中で甲高い叫び声を上げた。どうやら宮毘羅を視認したようだ。初めてこの新人に対して親近感が持てた気がした。
「あーこらこら、潰さんでや。あんたの場所分からんなるから」
「ふっざけんじゃないわよ!!何でこんな気持ちの悪いものを!あんたの魔術ほんっと最低ね!」
「おん?うち仮にも上官やねんけど、明日香、新人教育ちゃんとしときいや」
「迷惑かけて、本当にごめんなさい」
「ちょっとあんた!勝手に謝ってんじゃないわよ!て言うか、この程度の魔術で上官が務まるのね。ほんと魔導師って聞いて呆れるわ」
「えらい言いたい放題やな。ほなあんたはもっと上手くできる言うんやな?」
「当たり前よ。半分以下の魔力で同じことができるわ。デザインもこんな気持ち悪くないのがね」
「へえ、そらすごいなぁ。専門何やったっけ?」
そこでフランソワは押し黙ってしまった。だから代わりにわたしが答えた。
「フランソワは人形遣いだよ」
「ああ、人形遣い《パペットマスター》ね。石像遣い《ゴーレムマスター》の下級派生のあれか」
人形遣いはぬいぐるみ等に魔力を落とし込み、簡単な作業をさせることができる。石像遣いの下級派生と言われるのは、魔術構成がゴーレム魔術由来である点からとされている。ゴーレム魔術ほど魔力を必要としないため使い勝手は良いものの、ぬいぐるみを携帯する必要があるため物理的な使用限度が存在する。
「下級派生?馬鹿じゃないの。そもそもこんな鼠程度ならゴーレム魔術の方がマシじゃないかしら。この程度で偉そうにして恥ずかしくないの」
「はいはい、あんたみたいなのと張り合って、うちほんま恥ずかしいわ、人形遣いさん。明日香、この子の相手疲れるわ。後はそっちでやっといて」
「本当にごめんなさい」
「だから謝るんじゃないわよ!て言うかこの私を馬鹿にしてるわけ?だいたい」
「ほなブリーフィングに入るで。ターゲットはアドルフ・ヒトラー。アル、全員に写真見せたって」
あかりはフランソワの文句を気にも留めずに話を進めた。わたしの視界の右上に白黒写真が表示された。わたしが神父の懐から見つけた写真だ。どうしても右端の女性に目が行ってしまう。写真が表示されるとフランソワは急に静かになった。
「ここに写ってる、真ん中のちょい右のチョビ髭のおじさんがターゲットな」
写真の人物の上に矢印が示された。アドルフ・ヒトラーが胸を張ってこちらを見ていた。わたしはあかりの言葉を引き継いだ。
「調査した1943年のドイツは実際の史実とかなりの解離が見られ、このアドルフ・ヒトラーが独裁体制を敷いてホロコーストを行っているのを確認しました。それも正規の歴史、死の天使の被害とは比較にならない規模。よってわたしと安部隊長とでこれを今回の将軍と断定。これを討伐するため、今回ターゲットの行動がはっきり分かっている通称:ミュンヘン一揆を利用します。ターゲットは1923年11月9日、今日の12時30分頃にオデオン広場のフェルトヘルンハレにてデモ行進を行う事が判明しており、我々は今回これを強襲、現場の魔物を炙り出し殲滅します」
「てなわけで今回の作戦やけれども」
突然アルから報告が上がってきた。視界の右上に感嘆符が表示されている。意識をそのマークに向けて内容を確認した。
「上位権限によりあなたの記憶内容を一部ユーザーに公開しました」
え、どういうこと?わたしはアルに公開先の相手を確認した。が、拒否された。得体の知れない気味の悪さを感じた。
「隊長、桃太郎とは何でしょうか」
イワンの質問に意識がブリーフィングに戻された。どうやらあかりから桃太郎作戦の説明があったようだ。
「うん…少しややこしいから帰ってから説明しますね」
「で、爆発したら後は掃討戦になるし。普通の将軍ならこっちの被害もほぼ出さんと落とせると思う」
わたしとあかりで考えた桃太郎作戦は、あかりへの負担が大きいものの、かなり簡単なもので、上手くいけばこちらの損害はゼロで済むものだった。
「やけど今回のは普通とちゃうからなぁ。因みにうちの勘やけど、今回のターゲット、ヒトラーは魔王の可能性が高いと思うねん」
あかりの突然の一言に両隊員がざわついた。だが、あかりの勘にはわたしも同意見だった。
『魔王』と『将軍』の違いは確立されているわけではない。そもそも『魔王』を見た者は皆無なこともあり、外見的特徴からの判別は困難を極めることが想定されている。既知である『将軍』の姿が魔物とは違い人間に近く、それ以上の存在である『魔王』の姿が予想すら出来ない状況に陥っていることも関係している。魔物の場合、基本的におぞましい姿なので、一目見ただけで誰もが認識できる。しかし『将軍』はベースの人間の姿に少し角が生えたもの、肌の色が変色しただけのもの、尻尾が揺れているもの等、軽いコスプレ位にしか変化が認められないものが多いのだ。このため『魔王』と『将軍』を見分ける方法として考案されたのが、それぞれの魔物への役割に違いを見出だすというものである。
『魔王』は魔力耐性の無い一般人を変成させ魔物とし、自らの軍に取り込むものと言われており、魔物のこれまでの捕獲研究からも生物学的、遺伝学的に人間との差異は認められていないことがその裏付けとして挙げられる。それに対して『将軍』は、捕獲実績は皆無に等しいものの、過去に回収された体の一部の解析結果等から、人間とは異なるものであるという結論が得られている。つまり『魔王』が魔物を生み出し、『将軍』がそれを使役するという関係が推察される。よってこの推論から導き出された判別方法は、討伐してみて魔物が消滅するか否か、である。今のところこの乱暴な手しかないと言われているが、今回わたしとあかりが、この討伐戦が魔王戦になる可能性を感じ取ったのには理由がある。
「今回が異常なんは、まぁ誤差率が20%を超えてるってことから容易に想像できると思う。調査で見れた異常としては、教会が魔王側に回ってる可能性があるとこと、向こうさんが魔法を使用してくる可能性があるってとこやな。どっちも今までの討伐戦では無かったことや」
ざわつきが大きくなる。その内の誰かが発言した。
「教会が敵…ってどういうことですか」
聞き慣れない女性の声。どうやらあかりの部下の一人のようだ。
「調査で教会関係者の中に魔物が混ざってるんを確認してん。神父が豚になってな」
「魔法戦になるというのは」
「所属不明の亀のゴーレムがおってな。あれが敵さんのやったら、そういうことになるやろ」
「では…魔王というのは」
「敵ん中で魔法が使えると考えられてるのは魔王だけやから、かな。教会の中に魔物がおるなんて一番考えられへん。教会の人間は基本的に魔術耐性が高いねんし。せやのにそれが起きてた。そんなん魔王が直接関与したとしか思えへん」
質問者は絶句した。
「あ、そうそうマリア。アルファ隊の回復役の子見たってくれへん?名前はえっと」
「ウィリアムズだよ。ごめんね、マリアさんだっけ」
「…はい、隊長様。新兵なのですか」
先程の質問者の声が答えた。
「そうではないけど、まだ経験が浅くてね」
部隊では隊員それぞれに役割がある。敵と味方の間に立ち、敵の注目を引き付ける前方。前方のカバーや敵への有効打を与える後方援護。そしてそれらを支える回復・補助。アルファ隊では前方がわたしとイワン、後方援護はフランソワ、回復・補助はカテリーナとウィリアムズが担っていた。
「指導担当がついてたんだけど、この前の討伐戦で亡くなってしまって…。だから悪いんだけど」
「待ってください、隊長!大丈夫です!俺独りで大丈夫ですよ!」
ウィリアムズが抗議の声を挙げた。
「ウィル、今回の作戦の危険性は分かったでしょ。実戦経験が少ないあなたを独りには出来ない。もうカテリーナはいないの」
「いや、でも―」
「ウィル、これは命令です」
ウィリアムズは不服そうな呻き声を寄越した後、了解しました、と答えた。
「私はマリア。よろしくね、ウィリアムズ」
「…よろしくお願いします」
「よしゃ、ほなブリーフィングおしまい。各自作戦ポイントに移動して」
あかりの合図で行動が開始された。目の前に地図が表示される。調査の時にアルが作成したものだ。大まかな現在地と目的地が示されている。
わたしは内ポケットに手を伸ばし煙草の箱を引っ張り出した。一本引き抜き口にくわえる。煙草の先端に少し魔力を込め火をつけた。息を吸い込む。煙が身体に染み込んでいく。
討伐戦の始めと終いは一服することに決めていた。わたしの小さなジンクス。自分の部下を生かして帰す。毎回そう誓いながら紫煙を吸い込む。煙草を唇から離すと、隙間から煙が漏れた。
視界の中央にプライベートトークの依頼が表示された。相手はあかりだ。私は許可してあかりとだけの通話を開始した。
「明日香、さっきの作戦説明の時黙っとったけど、何か気になる点とかあったんか。欠陥があるんやったら言うてや。参考になるし」
「ああ、ごめん。違うんだ」
わたしは先程の上位権限に記憶を閲覧されたことを話した。
「フョードルやな」
話を聞き終わったあかりは勝手に犯人を断定した。
「そう決まったわけではないんだけど」
「そんなんフョードルだけやろ。さっき帰ったとき、まともに報告挙げんかったんが気に入らんかったんちゃう」
「時間がないのはいつものことじゃん」
誤差修正に時間がかけられないのは当たり前のことだ。クロノスによる時空間保持には限界があるからだ。
基本的に過去改編は過去に、歴史上にあり得ないものが存在するということが発覚した時点で既に完了する。時間軸上で矛盾するものは淘汰される、当然のことだ。だからあり得ない箇所に魔物がいることになると、わたしたちの時代も知らない内に改編されることになる。だがそれでは人類史すら無かったことにされかねない。そこでクロノスには安全装置が備わっている。それが時空間保持、過去からの介入から一時的に時空間を単離し、保持する。これにより誤差が発覚した時点での人類史は一旦保護できる。だがそれにも限度がある。単離された時代は本来存在し続けることが出来ない。元の時間軸から剥がされた時点で消滅する。それをクロノスは膨大な魔力を消費することで無理矢理実現させることができる。理論上は魔力さえ尽きなければ半永久的に可能ではある。しかし誤差が発覚した2018年での保持可能時間は、全ての都市機能、全ての賢者の魔力を総動員しても、もって7分程度と算出されている。しかも7分一杯使うことはできない。時空間保持を行うとその分魔力を失ってしまい、7分間分使うと次に誤差が生じたときに対応できないことになるからだ。だから迅速に解決することが求められる。しかしこの時間制限は都合の良いことに、誤差発生の現地では当てはまらない。修正する現地は、既に過去改編が起きている。保持する必要がないのだ。だから十字軍ではこの特性を利用し、情報共有に時間のかかる調査班は立ち上げずに各部隊の隊長が直接調査を行い、その場で作戦を練る。2018年での作業をできる限り抑えている。そのためフョードルなんかに報告を挙げている時間すら惜しいのだ。
「ほんまあのおじさん気持ち悪いよな。女子の頭ん中勝手に覗くやなんて、最低やん」
「嫌いなのは同意できるけど」
フョードルへの悪口ならいくらでも尽きないようだ。その時突然あかりがパブリックトークに切り替えた。
「ちょい待って、誰か欠けた?宮毘羅の反応1個消えてんけど」
驚きの報告をゆっくりと出してきた。それを聞いてわたしはすぐさま点呼をとった。煙草をくわえた口から煙が零れていく。イワンの声が返ってくる。ウィリアムズも返事をした。
「こっちは問題あらへんな。てことは―」
「フランソワ、応答して」
フランソワから返ってこない。まさか、そんな―
「何や生意気ガールか。いきなりリタイアかいな。早いなぁ」
「そんな悠長なこといってる場合じゃ」
「隊長、こちらイワン。フランソワを視認できました」
「え、ほんと!?」
「近くに落とされていたようです。見たところフランソワは無事なようです。集合場所とは別方向に歩いているようですが」
「そう、良かった。悪いけどイワン、フランソワを一緒に連れてきてもらえますか」
「何や無事なんかいな。つまんないなぁ」
「ちょっとあかり」
「でも何で宮毘羅消えたんや?思念通話も反応せえへんねやろ?おまけに変な方向に歩いてってる言うし」
あかりの指摘も尤もだ。わたしは急に不安を覚えた。
「イワン、ごめんなさい。やっぱり少し距離をおいてしばらく様子を見ていてもらえますか」
「了解しました」
「変なトラブルやな。でももうあんまし時間ないし、とりあえず二人は作戦から外すで」
「ごめんなさい。そちらの負担が大きくなっちゃうね」
「気にしやんで。それより作戦ちゃっちゃと終わらせて、二人と合流しやんとな」
一応全員の無事は確認できてほっとした。煙草の煙を肺に吸い込む。先端の火が明るく光った。ふと先程のあかりの話を思い出した。『魔王』は人間を魔物に変えて操る、教会の人間は基本魔力耐性が高いのに魔物に変えられていた。急に強い不安に駆られたが、まさかフランソワに限ってそんなことはないかと思い直した。口は悪いが魔術の才能だけは一流だ。教会の神父とは比べ物にならない。ほんと口は悪いのだが。それにイワンも付いてくれている。わたしは魔王の影を煙に巻くように大きく息を吐き出した。
ご精読ありがとうございました。
次は唯一の派手な戦闘があります。