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0話 始まり


——[魔女]それは、かつて強大な魔力を手にしおのれの欲望で世界を恐怖におとしいれた存在……。そして、その中でも最も脅威きょういだったのはソルシエールという名の魔女だった。


ソルシエールは己の美貌と知性で多くの人を魅了し、そして——絶望させた。


しかし、魔女の一族は4000年前に忽然こつぜんと姿を消した。それは魔女が大災厄を起こした時だった。

大災厄は多くの人間、町や村、大帝国さえも一瞬にして姿を消したのだ。その時の生き残りは、100人にも満たなかったという。


そして4000年経った今、魔女の存在を覚えている者は一部となった。

まったく魔女を知らない村があれば、魔女に深い憎しみをもつ村もある。


魔女の存在は、徐々に伝説になりつつあった——。



「マルール」


私の名前の由来は、『災い』らしい。白い髪、金色の目——それはかつて世界を滅ぼそうとした魔女の一族にみられる容姿だった。

なぜ、私がこの容姿に生まれたのかはわかっていない。


この姿のせいで、沢山の人間に恨まれてきた。私は何もしていない。この姿のせいで憎まれてしまうのだ。そう、両親でさえも。


外に出れば魔女だと石を投げられ、家に帰っても両親からの虐待行為が止むことはなかった。


いつからだっただろうか、暗いじめじめした路地裏に立っていたのは。


幼い私は、両親に捨てられた感覚さえもなく、ただ一人、誰かが迎えに来てくれるのを待っていた。


「おい、こんなところに女の子がいるぞ!!」

「まあ大変!!早く連れて帰りましょう……可哀そうにだいぶ弱ってるわ……」


少ししゃがれた男女の声が聞こえた。目を開けようとするが、まぶたが重く、少ししか開かない。

その時見えたのは、細見の男性と、少しふくよかな女性の影だった。



目が覚めると、私はベッドの上に眠っていたようだった。よく陽のす、暖かな部屋だった。


「あら!目が覚めたのね!!」


いきなりドアが開くと、入ってきた女性が嬉しそうな声で言った。


「あ……「ああ!!無理はしないで!!あなた3日も眠っていたのよ……よっぽど疲れていたのね…」


彼女は、起き上がろうとする私をまた寝かせた。


「私……3日も眠っていたの……」

「そうよ。でも、いつ目覚めてもいいようにご飯はちゃんと作っていたわ」


そう言いながら、ベッドの近くにあった少し古い椅子にギシリと腰を掛けた。


「あなたが路地裏に倒れていたところを旦那が見つけてねぇ……今にも死にそうだったから連れてきたのよ」

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいのよ!!」


女性は笑顔を見せながら私の頭を撫でる。


「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね。私はチーウィットよ」

「……マルール」


自分の名前を言うのは少し躊躇ためらったが、声が消えそうになりながらもなんとか名乗った。


「そう……やっぱりあなたは……「魔女の末裔まつえいなのか?」…アンタ!!」


言いにくそうにしていたチーウィットさんをよそに、いつの間にかドアのそばに立っていた男性が単刀直入に私に聞いてきた。私は思わずベッドから飛び起きた。

この人たちは、知っている人なのだ。

魔女の存在を……。


そう考えると、途端に血の気が引き、恐怖で胸が苦しくなってくる。


「あ……ぁ……」


呼吸ができなくなり、私は胸を抑える。


「マルール!!アンタ、水を持ってきな!!」

「あ、あぁ……!」


チーウィットさんは私の背中を擦り、男性に指示をだすと、男性は急いで階段を下りていった。


 数分後、ようやく落ち着いた私に、男性は申し訳なさそうな表情で言う。


「悪かったな」

「……!!」


そんな一言を言われたのは初めてだった。たった一言なのに、涙が出そうなほど嬉しかった。

私は、泣きそうになりながらもブンブンと首がもげそうなほど振った。


「ごめんねぇ……この人にも、悪気はないのさ……」

「……大丈夫」


私がそう声を発すると、二人は安心した表情になった。

それを確認すると、私は一呼吸置いた。ちゃんと、話さなければならないのだ。私のことを……。


「……私は、魔女の末裔まつえいではないの……お医者さまにも聞いたけれど、だれも、どうして私が魔女の容姿で生まれてきたのか分かる人はいなかった……ただ、私には魔力がないの……だから、魔法も使えない……この姿のせいで、みんなに嫌われてきた……私は……みんなが嫌い…」

「そうだったのね……話してくれてありがとう、きっと今まで辛かったでしょう……」

「お前が捨てられていた町は、魔女の話が色濃く残っている場所だ。よりによってそんなところに生まれちまうなんてな……」

「そうね……」


暗い雰囲気があたりを包んだ。しかし、そんな空気をなごませるようにチーウィットさんが明るい声を出した。


「そういえば!!アンタ、自己紹介してなかったじゃない!」

「おぉ!そうだったそうだった!!……オレはアマルってんだ!よろしくな!!」

「……マルール」


アマルさんが大きな手を差し出し、それを握り返した。やさしくて、あたたかい手だった。


「マルール、もしよかったらなんだけど……これから一緒に暮らさないかしら……?」

「え……?」


チーウィットさんの突然の提案に私は目を見開く。


「今まで大変だったのもよくわかってるわ、でもね、みんながみんなああいう人たちじゃないのよ……?とても優しい人がたくさんいるのよ。だから、私たちと一緒に暮らして、〝好き”も探してほしいの!ねぇ、あなた?」

「ああ、今まで辛い思いをしてきた分、これから幸せになればいいんだ……お前はまだ、これからの人生のほうがずっと長いんだからな……」

「そうよ!!私たち、マルールが眠っている間考えていたんだけどね……魔女の存在がもう薄れている町がこの近くにあるのよ……だから、そこにお引越ししようと思うの」

「どうして……そこまでして……」


私には、二人が何を考えているのかさっぱりわからなかった。ここまで他人に優しい人なんているのだろうか。けれど、少し疑ってしまう思いとは裏腹に、胸は徐々に暖かくなり、視界がぼやけてくる。


「私たちには子供がいたのだけど、病気で亡くなってしまって……その子は、あなたと顔がどことなく似ていてね……その代わりになんていう気持ちもあるわ……だけど、なぜだかあなたを放ってはおけないのよ……」


チーウィットさんは困ったような笑みで言う。


「けどな、これだけは確かだ…」


チーウィットさんの話をうなずきながら聞いていたアマルさんが口を開いた。


「オレたちは、お前に愛を教えたいんだ」

「そうね……今日初めて話したけれど不思議なものね、きっと、あの子に似ているってだけではなくて、今にも消えてしまいそうなあなたを助けたかったのよ……」


その言葉を聞くと、いよいよ涙があふれた。


「……ありがとう……ありがとう……!」


必死になって涙をぬぐっていると、チーウィットさんが私を抱きしめ、その二人をまたアマルさんが抱きしめた。

こんなに暖かな気持ちになったのは、いつ以来だろうか……もしかしたら、初めてなのかもしれない。

私は、嗚咽おえつを交えながら二人の胸で泣いた。

チーウィットさんとアマルさんは、ずっと私をなぐさめてくれた。





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