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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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比較のしようがないもの




 男は胃袋から落とせ、という事で。美味い飯を作ろうと思います。でもって、やっぱり可愛いかっこうもさせたいので、洋服も作ります。

 今日ゴドーに渡した服は業務魔法でぱぱっと出したやつですが、生産スキルもあるのだからそれを使って是非とも、糸の一本一本から拘るくらいの、『神品質』な洋服を作ろうじゃないか。っていうわけで、分身体百体出しました! 初めて出したよこんなに!

 あちこちの部屋を使っても、人多い。狭い。狭いけど気にしてられん。あまり離れると統合した時に倒れかねないし。

 料理は俺もあわせて十人。洋服作成に九十一。

 材料は忍達を使い運んで貰い、ゴドーが好きな料理から好きそうな料理、俺おすすめ料理などを作っていく。量は少なく種類多めである。

 洋服は一式って事で靴からの作成である。

 ズボンやロングスカートも作った。毎回ミニじゃないぞ。

 ゴドーが今着てる服は嫌がらせも兼ねてたからな。シンプルな物も作ったし、日本風だけじゃなく、元の世界の服装も作った。

 ひとまず、毎日洋服を変えても、三ヶ月は持つ。

 パジャマなども一週間分だ。

 それらをクノイチ達にゴドーの部屋のクローゼットに運ばせる。

 これで全て準備完了。

 ああ、やり遂げたぜ。と充実感に溢れながら、俺は分身を切り、テーブルに体を預けて短い睡眠を取った。

 



『おはようございます。マスター』

 ん……おはよう……。

『もうすぐゴドー様の起床時間となります』

 へいへい。


 あくびを一つし、伸びをする。コーヒーでも淹れるかね。

 立ち上がり、ポットにお湯を入れ、コーヒー豆を三杯入れてセットした所で二階が少し騒がしくなった。

 なんだ? と顔を向けると階段を慌てて降りてくるゴドーと目が合った。

 ゴドーはあからさまにほっとした表情を見せて、やはり階段を駆け足で降りてくる。

 ポットを置いてゴドーを出迎える。

 ゴドーは俺に抱きついてくると、力一杯抱きしめてくる。


「……どうした?」


 子供なら「怖い夢でも見たのか?」って声をかけられるけど、流石にそれは無理なので尋ねるしかない。


「……置いていかれたのかと思った」

「え?」

「……すまない、取り乱した」


 苦しそうにそんな事を言うゴドーに俺は小さく笑う。


「置いてかねぇって」

「……すまない、朝起きたら、見知らぬ場所だったから……。私一人、元の世界に戻されたのかと……」


不安げにするゴドーに俺は危うく、そうなったら転移すれば良いだろ? と言いかけた。

 その転移アイテム、俺が奪ったままだったという事を思い出す。

 もしかして、そのせいもあってか? 置いてかれたって焦ったの。

 可愛いねぇ。なんて思いつつ、ゴドーの顔を覗き込む。

 正確に言うとちょっと見上げてるんだけど。……ゴドーさんの背が低くなったっていっても俺よりは高いんですよ!


 こんな顔させるつもりなかったんだけど。

 ゴドーの頬を撫でて、軽くキスをする。


「着替えてこいよ。その間にゴドーが好きな紅茶用意するからさ」

「……ああ」

「あ、あとゴドーが居た場所ゴドーの部屋だから」

「私の?」

「そ。クローゼットの中に色々服があるから好きなの選んでこいよ」

「服、これじゃ駄目なのか?」

「駄目って事はないけど、それは若干嫌がらせ入ってるから」

「嫌がらせ……」

「丈の短いスカートにゴドーがどんな反応するのか見たくて」


 笑顔でそういうと、なるほど。とゴドーは非常に納得して苦笑していた。

 着替えのために戻る背中を見て、ふと、思った。

 ゴドーが自由に使える転移アイテムを渡す気はしないけど、耳栓みたいな独立タイプのイヤホンに全てのスキルを貼り付ける。


「ゴドー」


 呼びかけて、振り返ったゴドーにそのイヤホンを投げ渡す。

 ゴドーはそれをキャッチし、首を傾げた。


「システムが張ってある」

「システム? あの?」

「そう。耳の中に入れてみて」


 戸惑いつつゴドーは右耳に入れている。


「それがあれば、俺が居なくても、この世界の中だったら割となんでも出来るから、使うと良いよ」


 使用方法はどうせシム本人が説明するだろうと俺はティーポットと茶葉を取り出す。

 あとはティーカップも温めて、と。


「この体は気に入らなかったか?」


 一瞬何を言われたのか理解出来なくて、顔を上げるのに時間がかかった。

 ゴドーは俺を苦しげに見ている。


「なんで、そんな話になるんだよ、今のゴドーを嫌ってなんかないぞ?」


 むしろ、昨日、さっそく独占欲出したからね。


「……でも、エドは私には触れなかった」

「する事だけが『お付き合い』でもないだろ? 俺は昨日、楽しかったよ? ゴドーは違ったの?」

「……そういうわけじゃない」

「じゃあ、なんでそんな事をいうかな?」

「……距離を感じるからだ。今まで無かった距離を、感じる」


 聡いなぁ。というべきなのかねぇ。

 っていうか、それはすぐ分かるんだな。


「それはただ単に男女の差で変わるものじゃないか?」


 とりあえずそう答えた。

 ゴドーは俺を見つめてくる。俺はそれに困った笑みしか返せない。


「本当に嫌いじゃねぇって。女の子扱いしてるからそう感じるだけじゃねぇの?」

「……分かった。着替えてくる」


 静かに、納得してないって顔でそう言って階段を登っていった。

 俺はその姿を見つめ、それからシムに確認を取る。


 俺の態度ってそんなに変だったか?

『態度的にはマスターらしい態度だったと。扱いに差があるとすれば、それこそ好きな女性に対する物でしょう』

 だよねぇ……。

『なので距離を取ろうとしているマスターの心を敏感に感じ取っているのではと推測します』

 ハーレムの末席だなんだっていうくらい鈍感なのに、どうしてこういう事は聡いかなぁ。

『愛を知らない。ご本人が言った通りだと思います』

 どういう意味?

『ゴドー様にとって『愛情』というのは『比較のしようがないもの』だと思われます。比較できる経験がないために、自分に向けられる感情がなんなのか、どれほどのものか、重いか軽いかの違いが分からないのかと。マスターからの心の機微を敏感に感じ取っているのはそれだけゴドー様がマスターの事を注視してるからと推測します』

 ……そう、なのかねぇ。

 だとしたら嬉しいんだけど。


 期待を胸に、俺は途中になってたコーヒーを先に入れる事にした。


『あ』

「?」

『マスター、予想外の事が起こりました』

「え?」

 この世界でシムの予想を超える事って起こるのか?

『一人居ます』

 その一人は深く考えなくても分かった。俺の胸に不安が過ぎる。

『心配は不要です。降りてきたら分かります』

 ……そうなのか?

『はい』

 ……なら、いいけど。


 腑に落ちないもののシムに教える気がないのなら、ゴドーが部屋から出てくるまで俺にはどうしようもない、とお湯を注いでいく。

 扉が開く音がしたタイミングで紅茶の方にもお湯を注ぐ。

 階段を降りてくる音に、顔を上げて、見た姿にぽかんと思考が停止した。


「な、ん、え?」


 まともに言葉にならず、ゴドーを見つめる。

 見慣れた神官服。


「あの姿は不興みたいだから止めた」


 そう、男のゴドーが言った。


「……自分で……戻れるのか?」

「ああ」

「……だって、神降ろししてたじゃん」

「肉体に変化を及ぼすスキルだったから念のためだと思う。……あの姿は、エドの傍に居たいのなら有った方が良いだろうと言われて、もとから神からの褒美に入ってたものだったんだ。君の傍に居ても良いという君の許可が貰えれば、与えられると分かってた。だから、君に傍に居て良いのかって許可を取った。……でも、気に入らなかったみたいだから、もう一度貢献度をためて、今度はきちんとエドの好みに作り直して貰う」

「いや、ちょっと待った! それ、マジで誤解だから!」


 止めろ。そんなもったいないコトするな!


 俺はゴドーのすぐ手前に転移し、ゴドーを見上げる。

 落ち込んだ様子のゴドーに俺は苦笑を一つし、頬に触れる。

 ゴドーはその手を見て、それから俺に視線を向けた。


「エド、私はどうしたらいい?」

「……本当にすぐに変われるのか?」


 確認を取ると、ゴドーは頷く。

 どこからともなく現れた白い糸が繭となりゴドーを包む。全て包み終わった瞬間、繭は蝶となり飛び去る。しかし遠くに行く前に薄れて消えていく。

 残ったのは、サイズの合わない神官服を身に纏った女性のゴドー。


 気落ちした女性ゴドーの唇を一瞬だけ奪う。そして笑う。


「なんだ……俺、てっきり……」

「てっきり?」

「毎回神の手を借りなきゃ駄目なんだと思ってたよ。だから嫌だったんだ」


 ゴドーの背中に腕を回して、もう一度キスをする。


「ゴドーが今までの人生を捨てたみたいで」


 今度は深く、唇を重ねる。

 ゴドーも応じてくれて、しばし、キスを堪能する。

 知ってたけど、やっぱ、ゴドー、キスうめぇわぁ……。荒くなりそうな息を飲み込んで俺はゴドーを見上げる。


「でも……そっか、自分の意志で簡単に変われるのか」


 情報操作だとスキルを犠牲にしなきゃいけないから俺ならともかく、他の人間はそう自由自在とは行かないだろう。

 そこらへんはやっぱり神様が褒美にくれるスキルなんだなぁって思って、笑えてきた。

 でもそっか。そうなんだ……。


「なぁ、ゴドー。本当に女性として生きていくのが嫌じゃないのなら、俺と結婚してくれないか?」






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