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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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告白




 俺の側に居られなくなる。

 そう言われた。

 なんで? どうして? そんな言葉ばかりが浮かぶ。

 目眩がしそうだ。


「神に、言われた。貢献度が貯まってるから、何か願いはないか、と」

「……俺が使えるようにしてるって、トキミ様から聞いたけど」

「ああ。クパン村でエドが買った物にたいしてはそうだ。神が言っているのは宣教師になってからのものだ」

「え? でもあれ、金に換えてもらっただろ?」

「それは君達の頑張りに対するものだ。神官の貢献度には関係ない」

「……そう、か」


 それで、宣教師を止めることでも願ったのだろうか。


「……ただ、条件も出された。全てをエドに話せと」

「俺に?」

「そう。でも、いざ話せと言われれば、何から話せばいいのか、悩むな……」

「じゃあ、先延ばしにしてみる?」


 願うように口にしたその言葉は、冗談としての口調だった。

 ゴドーは小さく笑い首を横に振る。


「前に神の依り代には秘密があると言っただろ?」

「うん」

「私達、神の依り代は……、神の一部を混ぜて作られた神工生命体だ。両親をもたず、この姿のまま、生まれる」


 静かに語られる言葉。

 俺はゴドーを見つめ、納得した。

 なるほど、どーりで依り代達はみんな美形のはずだ、と。


「……神の力を無作為に増やす事が無いよう、私達は、子をなすことは出来ない」


 へー。と、思わずゴドーさんをじっと見てしまう俺。って、あれ?


「な---」

「なぁ、エド」


 俺が声をかける前に、ゴドーが呼びかけてきて、俺は口を閉ざす。


「君から見たら、こんな生まれの私は、……どう映る?」

「へ? どうって?」

「……気味が悪くないか?」

「いや、全然」


 だってここ、異世界よ?

 獣人が至りするのよ? 長命種なんていう、バカ長生きする種族がいるのよ?

 そんな中、魔王に作られたとかいうならまだそう聞きたくなる理由も分かるけど、神様が作ったんだろ? なんで気味が悪いなんて感想になるのか。


 でも、ゴドーは本気でそれを心配していたようだ。

 俺の答えを聞いて、嬉しそうにうっすら涙を浮かべて微笑んだ。そして、顔を少し俯けた。


「ああ、そんな君だから、私は君のことが好きになったんだ」


「え?」


「エド、私は君のことが好きだ。友人としてだけではなく、恋愛感情として、君のことが好きだ」


 必死に言い募るゴドーの様子にこれが冗談ではない事が知れる。


「君が、同性にそういう感情を向けられる事を嫌っていることは知っている。それでも、私は、君の傍に居たいんだ。恋人になりたいだなんて考えていない。君の恋路も邪魔したりしない。ただ、傍に居たいだけだ。君と笑っておしゃべりできる、今まで通りの関係でいいんだ」

「……だったら……なんで……」


 それ以上を望まないというのなら、今ここで告白する理由なんてなかったはずだ。


「それが、神の出した条件だからだ」

「条……件……」

「そう。私の想いを全てエドに告げる事。それが神が出した条件だ。なぁ、エド、私が神に願ったのは、ずっと君の傍に居たいという事だ。君が神になってこの世界を出て行くのだとしても、私の命がつきるまで、一年に一度でいい、君と会って話がしたいと。それ以上は望まない。でも、それには君の許可も必要なんだ。もう二度と、君に想いを告げたりしない、もう二度と君にも触れたりしない。だから、だから……」


 頼むから、そんな泣きそうな顔で、必死な顔で言わないでくれよ。

 

「駄目か? やはり……こんな私では……駄目か?」


 俺は答えられなくて、ゴドーはしばらく俺を見ていたが、やがて力を無くしたように、肩を落とし、顔をうつむけた。


「すまない……」


 消え入りそうな、後悔すら滲んだ、震えた声。


「あー……もう駄目だ」


 俺の口から出たのはそんな言葉だ。

 流石にこれは無理だ。


「流石の俺でも、本人の言葉は無視出来ないや……」


 疲れ切ったように言う。ゴドーはもはや何も言わず、ただ落とした視線のままどこか見ている。

 俺が立ち上がるとその肩が小さく震えた。

 隣に立ってもゴドーは顔を上げない。


「ゴドー」


 呼びかけると流石に顔を上げた。

 せっかくの美形もそんな怯えた様子じゃ形無しだなぁ。


「俺の事、雛だと思ってたんじゃないのかよ」

「ヒナ?」

「トキミ様が言ってたぜ? 俺のこと、ゴドーは雛って思ってるって。ガキ扱いしてたんじゃねぇの? 最近、よく頭撫でてたじゃん」

「それは……。……そうしたら……エドに触れられると思って」

「…………」

「それと、ひな鳥と思っていたのは事実だ」


 事実かよ。


「大きくなったら渡り鳥のように、世界中を旅するのだろうな、と思ったから……」

「渡り鳥ねぇ……」

「ああ。だから、宣教師になって一緒に旅をするようになって……、欲が出たようだ。すまな---」


 謝るゴドーの顔をあげさせ、唇を奪う。

 一瞬だけ。それでもゴドーの言葉は止まった。


「謝らなくていいよ、別に」

「エド?」

「でも、ごめん……」

「……ああ。分かってる。私の方こそすまない」


 また謝るゴドーに俺は首を横に振り、その肩に頭を置く。


「謝らないでくれ。頼むから」

「……」

「ゴドーの事が嫌いなんじゃない。傍に居て欲しいのは俺も一緒だ」


 分かってる。分かってるよ。何で今日、こんなに浮かれたのか、分かってる。

 皆が揃ったからじゃない。

 分かってる。

 分かってるからこそ、認めるわけにはいかないんだ。


「でも、ごめん。俺はまだ、自分の気持ちを認めるわけにはいかないんだ」

「気持ち?」


 聞き返す、ゴドーの両頬に手を添えて、もう一度キスする。触れるだけのもの。それでも今の俺には精一杯なもの。


「認めたら、俺はきっと、ゴドーに酷い事を言う」

「私に? エドが?」

「そうだよ」


 ゴドーの手が俺の頭を撫でる。ゆっくりと労るように。

 ……優しくするなっての。

 分かってる? 俺、お前の告白を無かった事にして欲しいって言いたいんだぜ?


「なんて言いたくなるんだ?」

「…………」

「エドが私に酷い事を言うのはあまり想像がつかないんだが?」

「……そんな事ねぇよ。ゴドーの人生全てを否定するようなものだ」

「私の?」


 問いかける言葉。先を促す言葉。

 ゴドーは嫌われる覚悟で俺に伝えた。なら、俺も伝えるべきなのだろう。


「……女になって欲しい」

「女?」

「そう、どうしてもまだ、俺は……、俺が男と恋愛するっていう事が認められない。自分が誰を好きか、分かってる。理解してる。でも認めるわけにはいかない。知らなければ問題なかったんだろうけど、俺は知ってる。認めたら衝動的にしかねない」


 知らなかったら、諦めもついたのかもしれない。

 でも知っていた。だからこそ、諦めがつかなかった。だからずっと知らない振りをしていた。それらしい言葉を無視し、別の言葉に注意を置いた。

 

「しかねない、というのは女にって事か? 役割的なものではなく、実際の性別を?」

「ああ。そうだよ。そんな事が、俺には簡単に出来てしまうんだ」


 同意を返して、俺はゴドーの肩から頭をどかし、一歩ゴドーから離れる。


「……エド、一つ確認を取りたいのだが」

「なに?」

「私は、君の傍に居てもいいのだろうか?」

「え?」

「君が神となったとしても、私は、傍にいても良いのか?」

「……俺が神になるかどうかわかんねーけど?」

「なるよ、君は」


 断言されて、俺は言葉に詰まる。それを見て、ゴドーは言葉を変えてくれた。


「いや、ならないのなら、ならないで構わないのだが、神になった後だと聞ける機会がないと思う。だからなったとしたらの場合で良い。答えてくれないか?」

「……嫌がる理由はねぇよ。喩え、ゴドーが俺の事好きだとしても。ゴドーだけは……それが傍に居られない理由にはならない」

「ありがとう」


 ゴドーは礼を言って、目を閉じた。


「『私は目であり、耳である』」


 神下ろしの呪文? なんで!?


「おい、ゴドー!? 止めろ!!」


 俺はとっさにゴドーの口を塞ぎ、呪文を中断させる。

 ゴドーは不思議そうに俺を見ている。


「お前、神を呼んで何をするつもりだ!?」


 ゴドーは答えられない。俺が口を押さえているのだから当然だ。


「まさか、お前、俺の願いを叶えようとかしてないよな!?」


 問いかけると、ゴドーは小さく頷いた。

 

「なんでだよ! 止めろよ! 前にも言っただろ!? もっと自分を大切にしろよ! 今のお前を認められないやつの想いに応えようとしてるんじゃねぇよ!」


 何か反論しようとしているのを感じて、俺は首を横に振る。


「頼むから、止めてくれ。俺はゴドーの事が大事なんだ。あんな身勝手な想いを抱いてても、大事なんだ。大事だから嫌なんだ。ゴドーがゴドーとして認められない俺なんかのために、そんな事しないでくれ」

「…………」


 ゴドーは俺を見上げて、俺の手に手を添えて、口から降ろそうとする。

 俺も抵抗せず、口元から手をどかした。


「それでも、エドから気持ちを貰えるのだろう? なら、私はその方がいい」

「……なんで……そこまで……」

「私にとって、女になるという事がそこまで抵抗がないというのもあるが、エドの事を愛しているからだ。私にとってエド、君は第一欲求になるんだよ」

「第一欲求? 俺が?」

「そう。エドを愛したい。エドの傍に居たい。エドに愛されたい。その中で、エドに愛されるという事だけは絶対無理だと思ってた。でも、もしかしたら、女になったら、エドに好きになって貰えるのかもしれないのだろ? なら私は私自身の幸せのためにそうしたい」

「…………俺なんか、ゴドーにそこまでして貰う価値ねぇよ」

「そんな事はない」

「あるよ。たまたまスキルと相性がよくて、ちょっと強くなってるだけのただのガキだ。前世()のコンプレックスのせいで、自分の気持ちすら認められない。ただのガキだ」

「その『ただのガキ』が私を救ってくれたんだよ」

「救うって? 俺、ゴドーに救われた事はあるけど、救った覚えなんてねぇけど?」


 そう返すとゴドーは頭を横に振って俺の言葉を否定した。


「私達、神の依り代は、神官として働く時、最初に付く仕事は『神の気まぐれスキル』の担当なんだ」


 それは、なんとなく分かってた。三人ともそうだったからだ。


「神が決めた事なのか、先輩方が決めた事なのかは分からないが……、それはきっと私達に驕るなという事なのだと思う。私達は神を呼べる。それは神官に取って絶対的な力だ」

「でも、それをしたら幽閉だろ?」

「ああ、でも上手くやれば、エドを助けた時の様に出来るだろ?」

「それはそうかも知れないけど……」

「なぁ、エド。……私達と、スキルは同じなんだよ。神に作られた。そういう意味では変わらないんだ」

「…………」


 違う、とは俺には言えなかった。

 スキルから生まれてくる存在には人格や肉体がある。

 シムだって肉体は持たないが、俺とは違う性格を持っている。


「気まぐれスキルに対する言葉は、私達にも響くんだ。使えないと言われる度に、心が傷つく。役にたたないと言われる度に、自身もそうなのではないかって思ったりもするんだ。だって、そうだろ? 絶対的な力があっても、使えない。これにより自分の人生が閉ざされる可能性があると思うと使えないんだ。役立たずと一緒だ」

「違う」


 思わず否定した俺にゴドーは頷いてくれた。


「エドはいつもそうやって、違う道を示してくれた。気まぐれスキルをいつも嬉しそうに買ってくれてた。気まぐれスキルが使えない物だとは言わなかった。そして私に見せてくれた。気まぐれで得たスキルが本当に使える物だって」

「あんなの、誰にだって出来る……条件さえ揃えば……」

「そうだろうか? でも、もしそうだったとしても、神を呼べる私に対して、あそこまで態度を変えないのは、エドくらいだと思うんだけど」


 そういやミカもそんな事言ってたな。


「……そんな事ねぇよ、他のみんなだって態度変えなかったじゃん」

「それは君が居たからだろ? パーティーリーダー的な君が態度を変えなかったからだ。君が関係なくと考えるとセリアくらいだと私は思うぞ」

「セリアがいるんだから、俺ぐらいじゃないじゃん」


 なんというか、本当に子供のようだ。と自分自身に思う。もうちょっとどうにかならないのか、と考える。せめてもうちょっと大人な考え方が出来ないのか。

 死ぬ頃の俺だったらもう少し、まともな事だって言えたんじゃ無いのか?


「私の気持ちは迷惑か?」

「……んなワケねぇじゃん」


 それならこんな気持ちになってねぇっての。




大方の予想通り。告白の回。

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