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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
91/143

紅茶と共に

あ。5/3過ぎてた……。

5/3分って事でお願いします。




 俺はたぶん、浮かれてたんだと思う。


 みんなが揃う。と言うことに。


 だから、気づかなかった。時折浮かべるどこか思いつめた表情に。




「おー。お帰りー」


 皆が帰ってきたのに気づき、風呂から上がった俺は、ホコホコとした湯気を上げながら皆を出迎えた。


 いやぁ、でかい風呂はいいね!


 城はやりすぎだが、風呂はありがたい。普通であれば『掃除が……』と思うとこだけど、魔法で一瞬だからな!


 トキミ様がどんな未来にするつもりだったかは知らんが、風呂はありがとう! と、言いたい。


「行け! ゴドー!」

「しっかりね」


 シェーンとミカが、何故かゴドーを俺の方へと押し出し、ゴドーは弱り切った顔で二人を見た後、その顔のまま俺を見た。そして、さらに弱々しい顔を見せる。

 どったの?


「あー……エド、その照明の事なのだが」

「照明? シャンデリア気にいらなかった? 気品があって、下品にならないように、って選んだつもりだったんだけど」

「あ、いや、そういうわけではなく……」


 ゴドーはそこまで言ったが、何故かシェーン達の方に逆戻りし、やっぱり魔法でとか、面倒だろとか、本人が言い出すならともかくとか、そんなやりとりをしている。


「あれ、お兄、そこに居たんだ。お風呂?」

「おお。良い湯だったぞ」

「良いよね! でかくておっきくて!」


 それ、意味一緒。

 でも、気分は分かるので頷いてやる。


「それでゴドー、照明がどうした?」

「ああ、えっと……」

「あ、アタシ達の分も作って!」


 ゴドーに聞いたのに、セリアが話に入ってくる。


「もう全部屋分作ってるよ。今ここに出すから好きなの持っていきな」

「「「えっ!?」」」


 なぜか神官三人が驚いている。そして、シェーンが、ハイ! と挙手をした。

 ……はて? この世界って挙手して発言って普通だったっけ?

『マスターとセリアの真似だと思われます』


「それはわたくし達神官三名の分も入っているのでしょうか?」


 ……シェーンが気色悪い。

 思わず半歩下がる。


「入ってるけど……」

「それって、いかほどで?」


 今度はミカがごますりすらしそうな下手で言ってくる。


 なんなの皆、気持ち悪いんだけど。


「ただ、だけど」

「「よっし!!」」


 えー? そこでガッツポーズの意味もわかんねーよ。


「なんなの?」

「エド、自分の魔道具が市場でどれくらいの値で売り買いされるようなものか、知らないだろ?」


 ゴドーが苦笑しつつ俺に解説をしてくれる。


「ん? 俺のオリジナルってこと? スキルで直ぐに作れるようなやつじゃなくて?」

「そう」

「それは確かに知らない、売ったことないし」

「うん、それのだいたいの値段が分かる者達があの二人の反応って事だ」


 よー分からんが、高いって事だけは分かった。


「これ高いんだ?」


 同じように思ったらしいセリアが確認してきて、ゴドーが静かに頷く。


「ふーん。ならお兄、お金に困った時に売って良い?」

「俺が居ない時に即金が必要になったらいいぞ」

「「「いや! 無理だから!!」」」


 即座に否定してくる三人。さっき、高く売れる言うてなかったかー? と思わず疑問の眼差しを向ける。


「エド様、これに内蔵されてる魔力ってどれくらい保つんです?」

「周囲の魔力を自動的に集めて発動するから魔力が周りにあれば半永久的だけど」

「……そうですか、なら夏の国では国宝級です」

「夏の国じゃなくても国宝級だよ……」


 バロンの言葉にミカが疲れたようにいう。


「そうなの?」

「ああ、君がわりといつも平気でくれる魔道具の多くは値がつけられない」


 ゴドーに確認を取ったらそんな答えが返ってきた。

 そうなのか。でも、個人的には、「あれで?」って言いたいんだけど。


「……まぁスキルの内容が内容だから、仕方がないのかなぁ……」


 というか、このレベルで国宝級かー。

 『神品質』なんて使ったらどうなるんだ?

『いわゆる伝説級とか神話級になるのではないのでしょうか』

 かねー。俺も内心びっくりなんだけど。


 まぁ国宝級でも、なんでもだ。


「もう一度作り直すの面倒だから、これ、使ってくれ」


 言いながらエントランスに作った照明器具を置いていく。

 俺にとっては結局、そんな扱いなんだよな。国宝級でも。

 どうせ、親しい人にしか渡さないし。


「ゴドーとシェーンも部屋決めてこいよ。それから照明決めてもいいし、気に入った照明があったら先に持ってってもいいし」


 皆の好みが分からんからシンプルなものから、ファンシーなものまで色々作った。

 たぶん、どれかは好みにあうだろう。


「ああ、ありがとう」

「すまん」


 みんなが選ぶ姿を見ながら俺はせっかくだから、飯も豪華にするか、なんて考えた。

 全員揃ったし、引っ越し祝いみたいなものだ、と。


 きっと俺は心のどこかで浮かれてたのだろう。

 だから。


「エド、後で話があるんだ。いつでもいいから時間を貰えないか?」


 そう声をかけてきた時のゴドーの表情に俺は気づくことがなかった。


 諦めているような顔を、俺は疲れていると読み間違えた。


「ん? いつでもいいよ。なんかあった?」

「……では、夕食後に」

「リョーカイ!」


 頷いて、俺は、キッチンへと向かった。






 夕食は、うん、ちょっと調子に乗ってしまった。


「お兄、やりすぎ。ビュッフェ出来んじゃん」


 所狭しと並ぶ料理にセリアが呆れたのを隠すことなく言う。

 長いテーブルに所狭しと並んでるっていったらどんなものか分かるだろ?

 自分で作ったのもあるけど、業務魔法で出したのもあって、ホントに多種多様な料理が並んでいる。

 業務魔法なんて、写真を押すだけで出てくるから、気づけば凄い事になるんだよな。


「うっせぇ。お前だって途中で悪のりして色々出してただろうが。まぁ、残ったら、タッパーに詰め直して、明日食おう」


 むしろビュッフェ以上だよ。思いつつそんな事を口にする。


「なんで? 皿そのままに保管すればいいじゃん」

「ん? ああ、そっか。そうだな。じゃあ……、終わったら詰め直しするか別の大皿に移すかするか」

「え? わざわざ?」

「食いかけの皿を出されるよりも、残り物だとしても綺麗に詰め直された方を出された方が気持ち的にはいいだろ?」

「お兄めんどくさい」

「お前はそういうところががさつなんだよ」


 そりゃ、家族だけとか自分だけならお前の様なものでもいいけどな。客じゃないとはいえ、それなりに気を遣ってやれよ。気になってる人間がいるんだろ? お前は……。


「だから、もてねぇーんだよ」

「そんなことないよぉー! 詰めるよ! 詰めればいいんでしょ!」


 なにやら図星だったのか、セリアが少しムキになってる。


 俺はそれに笑い、テーブルに、業務魔法で出した酒やらジュースやらを置く。デザートも! と言われたからそれらも並べたら、ホントにビュッフェかパーティーの様だ。


 うーん、確かにやりすぎたか?


 そう思いつつざっと周りを見る。そこに浮かんでる表情に、肩を竦めた。


 でも、まぁ、皆喜んでるからいいか。


「じゃあ、準備できたし、食べようぜ」


 そう声をかけると、歓声が上がって、みんな皿を持って興味のある料理を乗せていく。

 和気あいあいとしたみんなの様子を見ると、やり過ぎたなんて気にする気にもならなかった。

 残れば後日に回せば良いんだし。どうせ痛まないんだし。

 そうやって始まったパーティー。

 そんな中で、ゴドーがやけに印象的だった。


「ああ……。普通に酒がうまい……」


 ゴドーがそう呟いて、見せた表情はまさに、旨い酒を飲んでる! って内心歓喜している酒飲み共の顔だ。


「ゴドーのやつ、どうしたんだ?」


 俺はこそっとシェーンに尋ねる。

 ゴドー自身に聞くのもためらうくらいの背景があると見た!


「ここ数日、先輩方のグチばっかりの飲み会に連行されてたぞ。毎日」


 うわ、嫌だー。


「お疲れ! なんか飲みたい酒ある? 出すぞ? なんでも」


 酒に絞った業務魔法の魔導書を差し出す。

 ゴドーはそれを見て、受け取るかと思ったが、首を横に振った。


「……いや、あとで、紅茶を淹れてくれないか?」

「ん? いいけど」


 頷いて、そういや、なんか話があるって言ってたことを思い出す。

 ……酒出したの失敗だったかな……。

 このまま飲みの会になっちまうかも。

 ……飲むヤツだけ、別の部屋に移して、ここは一度お開きにすればいいか。


 段取りが上手く行くように、と、酒のつまみによさそうなものを別の大皿に移していく。


 結局、ゴドー以外の男共は引き続き、酒を飲むことにし、女性陣はスイーツパーティーだ! とダイニングでおしゃべりしてる。


 君ら、よく話つきないね……。


 そう思いつつ、俺とゴドーは先に部屋に戻る事にした。

 ゴドーは三階の部屋にしたらしい。

 なら俺の部屋の方が近いから、と、話は俺の部屋でする事にした。


 ゴドーを招き入れて、ゴドーさんがご所望のダージリンティーを淹れていく。


 こうやって一つのテーブルを囲いながら紅茶を飲むって、なんか村に戻ってきたみた----、いや、内装が違いすぎるからそれは無理があるか。


「良い香りだな」

「そだね」


 お茶会によく出した。紅茶。

 ゴドーが好んだ紅茶だ。いつも帰る時に買って帰ってたけどもしかして、もう手持ち残ってないんじゃないか?


「ゴドー、これ」

「え?」

「茶葉。もうじき切れるか無くなってるだろ?」


 テーブルの上に紅茶を置く。

 ゴドーはそれを見て、目を細めた。嬉しいでもなく楽しみでもなく、困ったような表情だ。


 なんで、そんな顔すんの?


 そんな事を今更気づいた。

 ゴドーは紅茶から視線を俺へと向ける。


「エド、聞いて欲しい事がある」

「……深刻な何か?」

「ああ。……場合によっては、エドの傍には居られなくなる」


 何だよ、それ……。







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