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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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クパン村のエド

前話「商人ギルドにやってきた。』の後半部分を加筆修正しました。

よろしければそちらの後半部分からチェック願います。





「あんまり愉快な気持ちじゃないんで、周りを巻き込むのは止めてくれる? 聞きたい事があるなら俺に聞けばいいじゃん」

「聞いたからと言っても本当の事を言うわけではないだろう?」


 そう言われたら俺は肩を竦めるしか無い。


「……では、聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「君は、本当にクパン村のエドか?」

「………………はぃ?」


 予想外な質問が来たぞ? 思わず頭真っ白になったぞ?

『なるほど。どうやらマスターは、クパン村のエドと入れ替わった偽物と思われてるようですね』

 はぁ!? なんでそうなるんだよ!?

『ルベルトから分かるマスターの情報を精査した時、あり得そうな一例だからです』

 ……ホントかよ……。


「……そうですけど。なんでそんなぶっとんだ質問になったか聞いてもいいですか?」

「……君は情報については秘匿している部分が多い。多すぎるくらいだ。少し調べれば分かる事まで、わざわざ鍵付きにし制限している。つまりそれだけ対価を払っているという事だ。そして、君はたぶん時空神の加護を得ている。過去にも未来にも行ける力だ。君があの時渡してきた異世界のゲームはこの世界の魔力で生成されたものだった。君が持っているであろうスキル『森羅万象』でも異世界の事はある程度調べられるだろう。君は未来から持ってきたゲームを、異世界の物だと称して、吾に渡し、自分が異世界人の転生者として、偽りたかったのでは無いか? 吾が君に持つ違和感を、全て異世界の人間だからと思わせたかったのではないか? エドが成長痛で寝込んでいたと言われる約二年の間に入れ替わり、家族の記憶を改ざんし、エドとして活動するための下地を作ったんじゃ無いか? そして今、エドとして、未来を、歴史を変えるために、動いているのではないか? 吾はそう思っているのだよ。神は随分と君に甘い。神の貴石は神官が君に不利益な事をした詫びだと聞いている。それだけの対価を神に払わせるのならば、その神官の事はそれなりに吾らの耳に入ってくるものだ。だがそれすら無い。しかし時間軸が違うのなら? 遠い未来で起こった内容に対してのものなら吾らには分かりようが無い。そもそもたった数ヶ月で、高位スキルや極スキルにまで到達するなどあり得ない。だから吾らが知らない、それだけのスキルを育てる時間があったのではないか、と仮説をたてたわけだ」

「はぁ……」


 思わず生返事になってしまった。

 なんとなく、言いたい事は分かったのだが……。凄い発想だな。

『異世界人よりも未来人の方が彼らからすればまだあり得るのでしょう』

 ……そんなもん……なのかも知れないなぁ。


「えーっと、違いますって言っても信じませんよね?」

「それは、クパン村のエドではないという意味での『違います』か?」

「いえいえいえ、俺はクパン村のエドですけど。未来から来たとか歴史を変えたいとかはないですよ?」

「まぁ、そう答えるだろうな」

「まぁ、そんな受け答えになりますよね」


 互いにそう答える。

 そんな風に思ってるのなら、何を言っても無駄じゃないかっていう気もしたんだけど、どうしたらいいんだろ、これ。

 あ、でも、昨日のは、そういう意味での興味だったのかな!? 良かった! 変なフラグじゃ無かった!

『安心するのは時期尚早かと』

 おいぃぃー! そこは俺の味方してくれよ、シム~。

『マスター。そうは仰いますが、目の前にいる男は、あのルベルト・ホーマンです』

 ……うん、ルベルト・ホーマンだな。

『自身の考えに自信があるのであれば今頃マスターが、実に良い種馬に見えてるかと』

 おいぃぃー!!

『もちろん、そういう意味で言えば、マスターが全てを開かすのは尚更危険ですが』

 詰んどるやん!


「さて、吾としては、だ」

「種馬だけは勘弁してください!」


 思わずそう反射的に答えた。

 ルベルトがきょとんとして、たねうま? と呟いて、意味が分かったのか、笑った。


「よく分かっているじゃないか」


 いーやーだー!!


「女は何人欲しい? 男も用意した方がいいか?」

「いらないいらないマジで要らない」


 左右に俺は首を振る。勢いよく振る。


「なに、遠慮するな。お前の好みを教えて貰えば、お前の好みに合うよう、女を作らせる(・・・・・)ぞ」


 その言葉に俺の恐怖が止まる。言葉の違和感にルベルトを見る。


「どういう意味?」

「言葉のままだ。お前の好みの女に子を産ませ、その子供をお前の好みに育てていく、ただそれだけだ」


 脳裏にネーアとニアが浮かんだ。


「……ふむ。こういう事にはしっかりと怒るのか……。君は本当にヒューモ族らしくないな」

「内面はヒューモ族じゃないからね」

「例のニホンジンとやらか?」

「そうだよ。あんたが信じるかどうかは知らないけどな。俺は未来から来た人間じゃない。異世界の日本から来た転生者だ」


 睨み付けるように言うとルベルトの表情が笑みに崩れる。


「ふ……ふふふ。実に面白い、君はほんとうに、興味深い」


 そういうと、ルベルトは己の唇を舐めた。

 ゾワリッと足下から悪寒が走る。

 あ、これは、ヤバイ方の悪寒だ。


「そう。吾の先ほどの仮説は、どうあがいても仮説の域を出なかった。君の言動は短命種のもの。未来からやってきたヒューモ族だとすれば、百数年は生きている。この時点で君のその言動と合わなくなる。短命種として何度も転生してたとしても、それは同じだ。次の転生で上手くこなせばいいだけ。そうなると、やはり、君が言っていた通り、異世界人の転生体と考える方が吾には納得がしやすい」

「……信じてくれて嬉しいですよ」

「さて、そこで商談なのだがな? クパン村のエド殿」


 一歩俺に近づいてくるルベルト。俺は思わず一歩下がった。


「商談……ですか?」

「そう」


 ルベルトが俺を見て、笑ったのだが、その笑みが怖いこと怖いこと。

 脳裏に綺麗なオネエさんがチラチラと浮かぶ。


「……なんか、肉食獣に狙われてる草食獣の気分ですけど?」

「草食獣? 君がか? なんの冗談だ?」


 そう口にした時、先ほどまでの『食べられそう』な気配は無くなって、俺は内心ほっとする。


「いや、冗談って」

「吾の殺気に青ざめるどころか、眉を一瞬動かしたかどうかすら怪しい君が、草食獣のわけがないだろ?」

「ああ……、ちょっと前にもっと怖い殺気を感じたことあったんで、それに比べたらまだ、ルベさんの殺気なんて可愛いものよ?」


 いやぁ、あの綺麗なオネエさんの殺気は怖かった。

 本気で怖かった。今思い出しても震えそうなくらい怖かった。

 それに比べてルベルトの殺気なんて子供に睨まれたくらいだよ。ホント。


「……まさか、怯えないどころか、可愛いと称させるとは思わなかったな……」


 ルベルトはちょっと複雑そうにそんな事を呟いた。


 だってねぇ、そう思っちゃうんだから仕方がない、と肩を竦めると、ルベさんは軽く息を吐いて流した。


「しかし、そうか。君は殺気を向けられるよりも、色恋の感情を向けられる方が苦手か」


 そう言ってまたずずいっと近づいてきたので、俺は思わず持っていた茶封筒をルベルトの顔に押しつけた。


「痛いだろうが」

「悪ノリしたのあんたでしょうが!」


 そう怒鳴る。ルベルトは俺を見上げて肩を竦めて、そして茶封筒を取り、中身を出して確認する。


「しかし……、確かに、あれでは、吾に利用されたと思われても仕方が無いか」


 かなり前にした話題が戻ってきたな。


「俺、正直、あのおっさんのダメッぷりを露わにして、それを理由に降格とかその辺りを狙ってるのかと思ったよ?」

「アレを降格にするぐらいなら、さっさと首にしている」

「クビか。結構、思い切るね」


 やっぱこの人、王様なんだなぁ。

 ……種馬宣言もマジにありそうでやだなぁ……。


「アレは、ギルドマスターだぞ? あそこの一番上だ」

「……………………あれが?」

「そう。あれが」

「え? ありえなくね? 幹部ですら駄目出ししたかったのに」

「そうだな。しかし、致し方ない」

「いや、そこらへんは致し方なくない。親の七光りとかそんな感じなの?」

「いいや。派閥関係はあるだろうが、親の七光りなどではない。なぁ、エド、この世界を上手く回すのにはどんな方法が一番楽だと思う?」

「上手く?」


 シム分かる?

『分からないと考えた振りして答えればいいかと』

 いや、そうじゃなくてね。

『彼の言う上手く回すが、どこ視点にもよるかとは思いますが、彼が言いたい事は、思考能力を低下させる事でしょう』

 へ?

『常識になんの疑問を抱かない。そういう者達を作る事ではないでしょうか』

 なるほどねぇ。と思いながらも、俺はシムに言われた通り、首を横に振った。


「ふむ……。警戒させたか?」


 ……俺の演技そんなダメダメだったのかな……。


「では、答えるが、一言で言えば馬鹿を量産する事だ」

「……言い方」

「事実だ。馬鹿が増えて国が滅びるのと、スキルのレベル10を持つ人間が増えて殺し合うのと、よりどちらが危険だと思う?」


 それは考えるまでもないだろう。


「…………つまり、常識に疑問を覚えさせないために……噂を操作しているという事ですか?」

「噂だけではない。学校もそうだ」

「…………なるほど、その方が確かに、手っ取り早い」

「平民が行く学校。貴族が行く学校、多少の差はあれど、そう大して変わらん。国を運用するごく一部の者しか知らぬ情報も多い。それもまた制限されているがな」

「……つまり……スキルの抱える危険性を丸ごと秘密にするために、人々の質の低下は仕方が無い? と」


 それはそれでどうなの? と思ってしまうのだが、それがやっぱり顔に出たのか、ルベルトは逆に俺に問いかけてくる。


「何か問題あるか? 民は飢えも知らず、温かい寝床もある。病気やケガをすれば治してくれる者もいる。どこに不幸がある?」

「それは……」


 答えられなかった。外交の問題……はこの世界には無いと言って良いだろう。

 他国を攻めたら神の怒りを買い、逆に仕掛けた側が滅ぶ可能性が高い。

文明が進まなくても人々はスキルを使えば事足りる。

 

「……でも、ああいう人のせいで、不幸になる人もいるんじゃ……」

「皆無とは言わん。だが、王都でなければ行けないという法はない。他の大きな街に行けば良いし、小さな村ならそれこそ、簡単に商売はできる。王都に拘って、あのような馬鹿のせいで泣く羽目になろうとそれは自業自得と吾は答える」


 ……ああ、まただ。意外にまともな意見で反論に困る。

 彼は元々全てを救えないものと考えている。その中で最小限に抑えようとしているのだろう。確かに、壊れスキルを世界中の人間が持っている方が怖い。

 多少の不自由はあれど、十分に生きていける今の何が問題かというと、難しい。


「なぁ、エドよ」


 彼は呼びかけて俺のすぐ目の前に立った。俺は、即座に顔を逸らす。

 先ほどまで俺の顔が合った位置に、彼の顔がある。


「……何すんだよ……」


 危うくキスされるところで、俺は今度は自分の手でルベルトの肩を押さえて距離を保つ。


「残念。もう少しだったのだがな」

 

 彼はそう言って笑う。そして茶封筒を俺に戻した。


「登録はもう数日待て。あの馬鹿は首にしておくから」

「え? いや、別にそこまでしなくても……」

「アレが上にいてはまだまともな人材が上に行けないだろ?」

「それは……そうだろうけど」

「それにだ、これはこちらのメンツの問題もある。吾らはきちんと使いを出した。情報を先に入れておいた。にもかかわらず、あの対応だ。お前が子供故に上手く操れると思ったのだろうがな。いくら吾らが馬鹿に寛容と言っても限度はある。あの男は吾らの客を、利用しようとしたのだ。己の欲望のためにな?」


 ルベルトは今度は後ろに下がっていく。


「ここから先は、権力争いだの派閥争いだの、お前が嫌った世界の話だ。それが嫌で爵位を蹴ったんだろ? ならば関わるな。それとも貴族の仲間入りしたいと考えが変わったか?」


 首を横に振り否定する。


「それでいい。お前に関係のない、名前すら知らない者だ。むしろこれで救われる者が居ると思うぐらいで丁度良い」

「や、流石にそれは無理ですけど」


 苦笑を一つ返した。


「……お前のその『優しさ』とやらはどこから出てくるんだろうな」

「……一度死んでますからね。あまり後悔ってのを残したくないんだと思いますよ?」


 他の人からすれば、どうでも良いと思うようなくだらない事でも人は時折、長らく忘れる事無く覚えているものだ。逆に忘れた事で、苦しむこともあるみたいだけど。


「前世の記憶の多くは消えてます。それでも覚えてる事もあるんですよ。そのせいも有るんじゃないんでしょうかね? よく分かりませんけど、俺は俺でしかないので……」

「……そうか。吾が吾であるように、と、同じなんだろうな。ではまた連絡する」


 彼はそう言って消えた。途端に俺たちを包んでいた結界が消えた。俺もそのタイミングで城の自室へと戻った。



 





すっきりした!

って気分を味わってます。



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