独白
活動状況にのせていたゴドーの独白です。
本編に持ってくることが出来た!
流石、ランダムアプリ様!!
漂う甘い空気に、出された紅茶を飲みながらただ耐えていた。
「うふふ。彼はね、私に愛してもらうために、三十一人の人を殺したのよ」
愛おしそうな目で、彼女は抱えて持つほどの瓶を見つめながら言う。
時系列的には逆ですよね。と思うが口にはしない。
冥府の神の依り代でもある身としては、この部屋の見た目にどん引きするわけにはいかないが、生命の神でもある太陽神の依り代でもある身としてはいささか居心地が悪い。
彼女はこちらが話を聞いているか聞いていないかはあまり関係ないのだろう。ただ話したいだけだ。自分の愛を、死者から与えられる愛を。
整った顔立ちで、愛らしさを残す少女とも言える女性。
アルフ族とは違う美を持った少女の背中には種族を表す羽があった。
ヒューモ族とは真反対とも言える種族、エジュラ族。それ故に狂ってしまった彼女。
「ゴドーは狂わないよな」
そう不安げに尋ねられた事を思い出す。
月に狂う事はないだろう。だが狂っているか狂っていないかと言われたら分からない。
目の前にいる彼女を見る。
そこにあるのは狂気と言われる愛情。
きっとそれは自分の中にもあるのだと思うと脳裏に浮かんだ顔に苦笑を返すしか無かった。
紅茶を見つめる。
脳裏に浮かぶのはここに至るまでの過去。
私にも、貴女に負けない愛情がありますよ。
彼女の惚気話を聞きながらそんな事を思った。
私は生まれながらに特別だった。
特別というと聞こえは良いが、孤独とは行かなくとも、仲間がいないという事だった。
月の依り代は狂いやすい。
大なり小なり、狂ってしまう。
それだけ月の神の力が凄いという事なのだろう。
だからそれを抑え込める太陽と共にする事で、月狂いを無くせるのではないかと試みられた新しい依り代、それが私だ。
二柱の依り代。
それは絶大な力を得るか、相反する力により死するか。二つに一つということ。
神を降ろす。
失敗すれば死ぬ事が決まっていたが恐怖はなかった。
私はそのための存在だし、神に不要とされる方が怖かったからだ。
神降ろしは無事に成功し、私は一神官として生きる事になった。
神の依り代は、神の目となり耳となること。
私たちと違い普通の神官は普通の家庭で育ち、一定の年齢になると、その胸に、神印が現れる。
神官になる権利が神から与えられたわけだ。
神官になるのも、別の道につくのも自由だ。
神印は数年程で消える。その間に将来を決めろという事だ。
私達はそんな神官達の監視となる。
神は、闘いは好むが戦は好まない。
神殿という組織と、国という組織と、それぞれ考え方の全然違う二つで、切磋琢磨していけばいいとも考えているのだろう。
だから、神が定めた法とは別に、それぞれの法を作らせ、文化を作らせる。
私達神の依り代はあくまで神の法に逆らう者を探し、罰する。
それ以外は普通の神官と変わらない。
変わらないように暮らしている。
だから普通に左遷もさせられる。
神山の神殿から、王都の神殿へと新人として、移動させられた時に言われた。
世間にもまれてこいと。
初めはなんの事かわからなかった。
みんな良い人達ばかりではないか、と思ってた。
喜んでくれた。と、思っていたスキルが直ぐに売られていると知ったのは、左遷を言い渡された時。信じられなかった。
信じたくなかった。
でも、事実だった。
喜んでいてくれたんじゃないのか? と問いかけたら、あんな使えないスキル、あなたの好感度を上げる以外に何に使えるのよ、と返された。
戻ってきたら、いつでも連絡頂戴と言われたが、正直、二度と会いたくないと思ってしまった。
セルキーの街も、同じ事が起こった。
月の神の影響か、私の見目はそれなりにかっこいいらしく、もてるらしいし。いや惹きつけるのか。でも、それは結局。
私は関係ないじゃないか。
そう思った。クパンでは顔を隠した。
前髪や眼鏡で隠す程度だったが、それだけで十分に効果があった。
私の前に座る人達は、私とは関係なく気まぐれを買う人だけになった。
気まぐれスキルを買う人達は、それこそ、「気まぐれ」でスキルを買う。
だから、言う。「ハズレだ」「役に立たない」「金返せ」「ゴミスキルだ」などなど。
……これ、一応、神が与えし力なんだけど、分かってるか?
そう思うが何も言えない。そもそも、買う人が喜ぶような、望むような強力なスキルは入ってないと思う。神殿長は売れないスキルばかりを設定してると思うから。
神殿側ですらその扱いなのだ。買う人達に何かを言うことはできないだろう。
ただ、彼らの喜ぶ顔を見る事は私は一生ないだろう。
左遷に左遷を繰り返した私は気まぐれの中身に何か発言する事は難しい。いや、そもそもが厄介者扱いだ。発言権があると思うのがおかしいのか……。
厄介者である私に皆は関わろうとはしない。
ただ二月に一回ぐらい、もしくは三月に一回くらいか、性欲処理に付き合ってもらっている。初めはみんな嫌そうにするのに、それでも始まれば、私の中に眠る神に気づくのか、狂ったように求めてくる。
「神よ。あぁ……、神よ!」
私を抱きながらそんな事を言う。
彼には私は見えてないのだろう。月に狂っているのか、それとも、神そのものに狂っているのか。
ヒューモ族の身であり、月の神の依り代でもあるにもかかわらず、この行為が楽しめなかった。
早く終わればいいのに、と、思うようになったのは、いつからだろうか。
気持ち悪いと思い始めたのはいつからか。
いっそ、今までの依り代のように狂えたら楽だったろう……。
しかし、太陽の力はそれを許しはしない。
狂いたくても狂えない。
そんな思いも、やがて慣れて、何も感じなくなったのはいつからなのか。
ただ毎日ぼんやりと過ごす。
もうどれくらい経ったのかは分からない。ただ、時間を消費するだけだ。
そんなある日、対面する椅子に誰かが座った。
子供だった。いや、もしかしたらギリギリ成人しているかもしれない。
「気まぐれスキルをお求めで?」
一応聞いてみた。
「気まぐれスキル?」
その少年は首を傾げた。明らかに聞き覚えないという顔をしていた。
「……君は、神殿を利用するのは初めてか?」
「うん! ずっと魔法使えるようになりたかったから凄くワクワクしてるんだ!」
どうやら、本当に新成人らしい。
言葉通り目を輝かせていた。
なんて羨ましい。
他の神官はスキルを売る時はこんな目を向けられるのかと思ったら、羨ましくて、……悲しくなった。
それが私と、私の大事な大事なひな鳥、エドとの出会いだった。
エドは気まぐれスキルをとても好んで買った。
エドは気まぐれスキルを役に立たないスキルとは言わなかった。
むしろ彼は、役に立つスキルばかりだと言った。
なあ、エド。君は知らないだろう。
私が呆れる横で、そうやって好んで買ってくれる姿を嬉しく思っていた事を。
見た目じゃなく、神の御力でもなく、私という存在と仲良くなってくれている事を嬉しく思っていた事を。
そして、私に、本当に気まぐれスキルが使えないスキルでは無いと見せつけてくれた時の歓喜を知らないだろう?
今まで心のどこかにあった陰りが、モヤが、晴れていくのを感じた。
透き通る氷のように、透明に着色された石。仄かに光る絵。
エドが私に見せてくれた力の一端。
きっと私はこれから使えないだなんだと言われても心の中では笑っていられるだろう。
だって君は見せてくれた。スキルは使いようなのだと。
私が君の事をひな鳥だと感じ始めたのはこの頃からだった気がする。
エドから相談に乗ってくれたお礼にと貰ったヤヨイシリーズ夜光を神へと献上する。
これが気まぐれスキルから作られたと知ればきっと神も喜んでくれるだろうと思った。
そして、それがいつかきっとエドの助けになってくれるかもしれないと願っていた。
思ったよりもその時は早く来たが。
「ゴドー助けてくれ! スキルが! スキルが! 暴走して、やばいんだ! 処分しないと俺死んじまう!」
ある晩、君は神殿に助けを求めて駆け込んだ。
怯えて、恐怖に顔が引きつっていて、何かがあった事はすぐに伺える。
不安で今にも倒れてしまいそうなほど青ざめているエドを連れて自室に戻った。私の手に負えなかった場合の事を考えると人目がない方がありがたかったからだ。
エドの話を聞いていくと確かに、スキルを処分すればどうにかなりそうではあった。
時間が掛かるが私でも対処出来るだろう。
でも。
それは、エドの頑張りを全てなかった事にするのではないか?
エドの言うスキルの暴走は、むしろ頑張った結果でもあるのだろう。
たしかに、スキルを持っていた数は多いが、だからと言って、スキルを持っていただけで起こっていた現象とは考えにくい。
あの日。初めて私の前にやってきた時に見た、キラキラとした目は、どこにもない。怯えていて、すがるように見ている。
ためらいがなかったわけではない。
もしかしたら、そのせいで私とエドの関係が変わってしまうのかも知れない。
もしかしたら、エドが私の事を神子としてあがめてくるかも知れない。
そう思うと、怖かったが、それでも、私には神を呼ばないという選択はなかった。
神よ。我が神よ。
私の大事なひな鳥を助けてください。この子はこんな所で翼を折られていいような子じゃない。
「『私は目であり、耳であり、口である』」
久しぶりに口にする呪文。
依り代に与えられた力。
神はすぐに来てくれた。
「……『あなたは私の口であり、目であり、耳である。よって私はあなたに現れる』」
私の口が勝手に動いてそう口にする。
私の意識は奥に押しやられ、神がエドに話しかける。
これで大丈夫だ。
これで、エドは元の元気なひなに戻れるだろう。
そして、私の心配をよそに、エドは何一つ変わらなかった。
神は神。ゴドーはゴドー。そう言うかのように、本当に、今までと何も変わらなかった。
私の特技を一つ知ったとかその程度か。
余りの変わりなさに思わず笑ってしまう。
君は本当に私を見てくれているのだな。
外見でもなく、神の力でもなく、私が私であるこの人格を。
私のために怒ってくれる君が嬉しい。
私のために一生懸命お土産やおもてなしを選んでくれる君が嬉しい。
週に一度の君とのお茶会は何よりも楽しかった。
一つ。また一つ。と積み重なっていく。
大事な思い出が。
大事な想いが。
君から貰った暖かな気持ちが重なっていく。
君を守りたいと思った。
もうあんな怯えた目をさせたくないと思った。
私の大事な大事なひな鳥。
いつか私の元から旅立っていくだろう。親の元から巣立った様に。
私は、君が旅立つその時まで、君の傍で、君を見守っていたいんだ。
そう願っていたが、まさか、君のおかげというかなんというか……、宣教師として、クパンから出る事になるとは思わなかった。渡りに船というべきなのか。
いや、そう思えるのは君と一緒だからか。一人だったらとても、そう思えなかっただろう。
ああ、でも、やはり世界は君を待っていたのだろう。
君が飛び立つ日を。旅立つ日を。
君を取り巻く環境が、大きく変わっていく。
私はどこまで君と一緒にいけるだろうか。
私はいつまで君と一緒にいけるだろうか。
少しでも一緒にいたい。私の心がそう強く願う。
神の忠告を受けて、君と対立する未来だけは絶対に嫌で、君を押し倒した。
エドに嫌われるのは辛い。想像しただけで胸が張り裂けそうな気がする。
それでも、それ以上に、エドと戦う事だけは嫌で。それだけは死んでも嫌で。嫌われる覚悟をしていた。
でも、君は嫌わないでくれた。怒らないでくれた。
正直に言うと、君との一夜---では収まらなかったけど、幸せだった。
役得だとすら思った。
ヒューモ族であった事と、月の神の依り代であった事に感謝した。
君の欲望を受け止められる事が嬉しかった。
余すことなく全て私に吐き出せば良いと願った。
その根本にある想いがなんなのか、この時の私は気づいていなかった。
ただ、エドの役に立てた事が嬉しくて、エドと一つになれた事が嬉しくて、エドが私を抱いてくれている事が嬉しくて。
嬉しくて、泣いていた。
ずっと言えなかった。抱いて欲しいなんて。
エドならきっと『私』を抱いてくれるんじゃないかって思ってた。でも、口にしてしまえば嫌われると分かっていた。
君が男同士でする事に嫌悪を持っている事を知っていたから。
男女であっても、友人同士がそんな事をするのはおかしいと思っている事を知っていたから。
だからこの状況を神に感謝した。のに、だ。
土下座してまで謝るか? 流石にそれは傷つくぞ?
私との行為はそんなにダメなのか? 忘れろとでも言うのか? それは絶対に無理だぞ。
そう思ってたけど、どうやら違ったらしい。三日間抱いたことによる謝罪だった。
……私の心は満たされてたから謝られる覚えはないんだが……。
ただエドには色々思う事があったらしく、エドを抱いて良いという事になった。
それはまた、破格のご褒美だな。
ああ、でもそうすると、「俺の尻は俺の物」ももう見られなくなるのかな? あのエドはあのエドで可愛くて好きだったのだが……。
でも、ここで抱かないという考えは私にはこれっぽっちも浮かばなかった。
精一杯抱かせて貰った。
少しでも嫌悪感や忌避感が薄れると嬉しいし、記憶に残って欲しいという思いもあった。
それにもしかしたら、またしたいと言ってくれるかもしれないという打算もあった。
結果はエドからお願いではなく、無駄に我慢するというエドを、私がもう一度襲うというものになったのだが。
でも何故、エドは我慢するのだろう。思っても口にすることはなかった疑問。
エドが望めばネーアは喜んで抱かれるだろう。彼女はそれだけの恩義を感じているし、恩義以上のものを持っていた。
むしろ、エドがなんでネーアを抱くわけでもなく、娼館に行くわけでも無いのかが不思議だった。友達とは嫌だというのなら、娼館に行けば良いのだ。
そんな一人で考えても答えが出ない事を考えていた時、ふと気づく。
もう、私だけのひな鳥ではないのだという事を。
ネーアだけじゃない。バロンにも、瞳に熱が籠もっている。
クパンの村の多くの人は、エドが短命種だからと、ただそれだけで関わろうともしなかったが、ここでは違う。
みんながエドの事を好きなのだ。
そう思ったらなんだか寂しくなった。
きっと、もうすぐ、私の傍から居なくなってしまう。
寂しさと同時にそんな思いを持つようになった。
それから、私はエドに触れたくなった。
エドの頭を撫でる。
不思議そうにしていたが、撫でさせてくれるので、甘えて触れる。
子供扱いするなと言われるまでは撫でていたいと思った。
それが同性である私に出来る精一杯の触れあいだったからだ。
そして私は知る。
「神の依り代だって、誰かを愛して、そして同じように愛して貰ってもいいはずだろ!?」
ミカの言葉を聞いた時。悲痛な彼の想いを聞いた時、気づいた。
そう。きっと神の依り代だって誰かを愛してもいいのだろう。
私だって、……誰かを愛して良いのだ。
この胸に宿る本当の想いに気づいた。
ああ……。でも、愛されることは無理だ。
なあミカ、お前はどんな気持ちでずっと過ごしてきたんだ?
私には分からない。
エドに何故? と尋ねられた時、答えられなかった。
答えたくなかった。
あの時には自分の気持ちを理解していたから。
エドの私を見る目に変化が出るのが怖かったから。
昔以上に、エドが離れていくのが怖かったから。
物理的な距離よりも、その心が離れていくことの方が遙かに恐ろしいことを知った。
何も言えない私にエドは無理矢理聞くようなことはしなかった。
そして言ってくれた。
「俺に出来る事があれば言えよ? 神の依り代だから駄目だって諦める前にさ。出来る事があれば手伝うから、『求めるだけ辛い』なんていうなよ」
嬉しい言葉であり、辛い言葉だった。
エドはいつもと変わらない表情で私を見ていた。
好きです。愛しています。傍に居させてください。
浮かぶ言葉。でもどれ一つ言えない言葉。
男だからとか、せめて女だったらとか、そんな事よりも先に、思う事は一つ。
私には無理だという事。
視線を逸らす事しか出来なかった。
せめて……。
……普通の人として……生まれたかった……。
そしたら、男でも、優しい彼の事だ。もしかしたら、ハーレムの末席にでも置いて貰えたかもしれない。
そんな事ばかり考えた。
彼の傍に、居場所が欲しいとそんな事を願った。
手のひらだけで良い、指一本だけでも良い。君に触れる権利を、君に触れて貰える権利を得られたのかも知れないのに、と。
あり得もしない未来だけを考えて願ってしまった。
ミカの言葉がきっかけで、自分の気持ちを自覚した。
自覚しただけだ。私のする事は変わらない。
エドがその翼を大きく広げて飛び立っていくその日まで、傍で見守っていたいだけ。
大事なエドを守りたいだけ。
それぐらいは、良いだろ? 自分の心に、素直でも。
私は、自分の命よりも君が大事だ。
私は、自分の体よりも君の心が大事だ。
何よりも大事なんだ。
君に怒られても叱られても、たとえ、嫌われても。それだけは譲れない。
「……なんだよ、ヒューモ族の矜持って」
睨み付けてくるエドを私は笑顔で受け止めた。
「あるんだよ。ヒューモ族にも、そういうのは、きちんと」
ツキヨ様はきちんと言っていただろ?
覚えられてると、私の想いにも気づかれそうだから忘れたままで良いが。
君は自分の事を大事にしろというが、私は本心で、エドが幸せなら、私も幸せだと思っている。
エドが私の元から飛び去ったとしても、戻ってこなかったとしても、君が幸せならそれでいい。
だから、それまで、少しだけ、触れさせてくれ、撫でさせてくれ。
愛しているよ。君の事が好きだよ。私のこの想いは誰にも伝えないから、この想いを持ち続ける事は許してくれないか?
エド、大事な私の一番目。
神の依り代という立場でなければ、私は確かに、君のためにどんな汚れ仕事だってしただろう。
たとえば、そう。目の前にいる彼女に命を狙われる事になったとしても。君への愛をそれで示せるのであれば、私は喜んでするだろう。
口元に笑みが浮かぶ。
「なぁに?」
「いえ、幸せそうだなと思いまして」
「ええ、幸せよ。だって愛し合う人とずっと一緒に居られるもの」
「良かったですね」
内心の想いとは別に、そう口にする。
もし、と考えたとして。
エドのためにこの手を汚し続けたとして、その首がここに並んだとしても、私の想いはエドに向くだけで彼女を愛しはしないだろう。
そう思うと、彼女の想いは滑稽に見えるが、私の想いだって他者から見れば滑稽に映るのだろう。
当たりスキルの内容を知った。
エドが女性を抱かない理由を知った。
なら、もう、私が彼に抱いて貰える機会はないだろう。
一方的な想いを向けて幸せに浸るだけ。
「……先輩、聞いてもいいですか?」
「……なぁに? 後輩君」
「報われない愛を抱き続けるのは、狂っていると思いますか?」
彼女の唇は弧を描く。
「狂ってこそ愛よ」
そんな答えに微笑すら浮かんだ。
「確かにそうかもしれませんね」
ああ、なら喜んで狂おう。
月でも太陽でも、愛せるだけ愛したい。
活動状況で読んでる人は読んでるので(加筆されてる部分があるとはいえ)
今日、もう一個上げられたら上げたいなぁ……。




