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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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???の視点 -5-


 ヒノワは白い汚れ一つない廊下を歩く。神官達は中道を開け、頭を下げ、彼女が通っていくのを待つ。

 ヒノワは一つの扉の前に立ち、ノックする事なく、その部屋に入っていく。

 そこはまるで上空に浮かんでいるかのような場所だった。

 宇宙と空の間も言える場所にツキヨとトキミが立っていた。

 いや、もしかしたら空気イスの様に見えない何かに座っているのかも知れない。

 


「あら? 姉様。休憩に入ったんじゃ無いの?」

「我はもうこれ以上仕事はせぬぞ!!」


 ヒノワが口を開く前にトキミがそう口にする。その頬をツキヨがひねった。


「アナタは普段遊んでるのだから、こういう時くらいはキチンと仕事をしなさい」

「ひておるわ! ひゃわいいフェドをみまふぉっている!」

「エドちゃんを見守ってるのが仕事になるのならアタクシもぜひ、それを仕事にしたいワァ」


 さらにツキヨは捻る。トキミはその指をはずそうともがくが神としての力の差なのか、男と少女の力の差なのかその指が外れる事はない。

 そんな二人に構わずヒノワは話を切り出す。


「さっきね、エドが、例の当たりスキルを当てたのだけど」


 ヒノワの言葉に二柱の動きが止まり、そして同時にヒノワを見た。


「え!? 愛の結実当てちゃったの!?」

「なんじゃと!? どういう事じゃ!? ゴドーを山から出さぬよう我は手を回したぞ!?」

「「…………」」


 トキミの言葉にヒノワとツキヨが物言いたげな目を見せたがツキヨは文句を後回しにしてヒノワに問いかける。


「当てたのは間違いないの?」

「ええ、私も見てたから。それは間違いないわ。ただ……あまりエドは嬉しくなさげだったけど」

「……それは…………そうでしょうね……」

「幸運を使用したのか!?」

「いえ、あの喜びようからするとたぶん普通に当たったのだと思うわ」


 ヒノワは当たった時の表情を思い出し、トキミに返答する。

 そう当たった時は嬉しそうにしてくれたのだ。とヒノワはこっそりとため息をついた。

 よかれと思ってやった事は結局、エドに迷惑ばかりを与えてしまう。


「なんて事だ! これではネーアの一人勝ちではないか!」


 あのメンバーの中でエドが恋愛感情を持てる女性はネーア一人。

 エドにとってはステータスによる弊害があったから二人の関係は進んでいなかったが、それがなくなったとなれば一気に進む可能性もある。


「うむむ、こうしちゃおれん!」

「何をする気なんだ?」


 転移をしようとしたトキミに男の声がかかる。

 男性といってもツキヨのものではない、三柱は驚いてその声の主を見た。


 黒い髪に黒い瞳。どこか女性寄りではあるが、日本人の少年だと分かる人物が居た。

 その人物を見て、トキミは鯉のように口をぱくぱくとさせる。


「悪いね、勝手に邪魔してるよ」

「い、いえ、それは構いませんが……」


 ヒノワはそう受け答えて、それから少年を見て、そして、挙動不審なトキミを見た。

 その瞳は「何かしたの?」と言いたげだ。


「何かご用があればこちらから伺いましたが」


 ツキヨはいつもの甘ったるさを残す話し方ではなく、どこか上官に話しかけるようにハキハキとしゃべっている。


 事実三柱からすれば少年は上官だった。自分たちよりも高位の存在。

 ヒノワ達は神と言っても新米に近い。だからエド達が使っているスキルを作って貰ったのも、それを金型にし、神の力を人が使えるようにするという練習に過ぎない。だから大量とも言えるスキルを作り、神殿で販売する。

 神官特有スキルが強力なのは、神々が練習を経て、作り始めた物だからだ。

 そして、目の前の少年は、練習用のスキルを作ってくれた、師匠、先生と言える存在だった。神見習いの頃からお世話になっているので頭も上がらない。


「いや君たちに用はなかったんだけどね、日本人の転生者がいるだろ? その子を見に来たんだよ」

「ああ、それでしたら二人います」

「うん。知ってる数ヶ月見てたから」

「「「え!?」」」


 三柱は思わず声を上げた。彼がこちらを覗いていた事に全然気づかなかったためだ。

 それだけの実力差があるのだと、ヒノワからは感嘆すら零れた。


「トキミ」


 少年が呼びかけた時の声は、先ほどの和やかさはどこにもなく、冷たく鋭利な刃物のようだった。

 呼ばれたトキミはその首元に刃物を突きつけられている感覚を覚えながら答える。


「は、はい」

「エドは俺じゃない」

「……」

「そしてミカもお前の代替え品じゃないし、オモチャでもない。一人の人間だ」


 トキミは答えない。ただその表情は青ざめている。


「本当は顔を出すつもりはなかったんだけどな? お前、こっから飛んで何しに行くつもりだった?」

「それは……」

「ミカにエドと肉体関係を持てと命令を下すつもりだったな?」


 トキミは答えない。だが逆にそれが答えだと知り、ヒノワとツキヨが呆れを強くし、やがて、ヒノワの表情にも怒りが表れ始める。


「わ……我は、きちんとエドをエド個人として見てます。代替えになんてしてません」

「……いいだろう。信じてやるよ。だが、今後、エドに対し、力を行使する事は禁止する」

「なんで!?」

「自分の好む未来になるよう必要以上に手を出してるからだ。ヒノワもきちんと止めろ」

「すみません」

「姉様は悪くないわ。悪いのはアタクシよ」

「お前に直接言うより姉貴を怒った方がお前にもショックが来るのが分かっててこっちは口にしてんだよ」


 ぐっとツキヨは詰まる。まさにその通りだからだ。


「あのさぁ? 独り立ちしたやつに対してあれこれ言いたくはないんだぜ、俺も。でも今回は流石に黙ってるわけにはいかないから出てきた。そう思うぐらいにはトキミ、お前の行動は酷いからな?」

「…………」

「納得いかねぇって感じだな」

「……いきません。確かに我は環境を整えましたが、それだけです」

「……それだけねぇ……。その環境には人間の配置も当然のごとく入ってるよな? 裁判のためにと二人を拘束してるのはなんでだ? シェーンは武神の依り代、お前の力を相殺する力を持つ者の依り代だ。ただでさえ揺らぎやすいエドの未来をこれ以上揺らがせたくなかったからだよな? ゴドーはミカを襲って貰いやすくするためにエドから遠ざけたな? あの城の作りも当然の配慮として、男女別として作られてるけど、あれは、ネーアを遠ざけるためだよな? お前が視た未来を俺が視てないと思ってるのか? 俺だって時空神に名前を連ねるんだぜ?」

「そ……それは……」

「別に、俺がお前が視てきた未来を潰したわけじゃないぞ? エドが自分の力で危機回避した結果だ。お前は言ってたな。『当たりスキルが当たったらミカに未来はない』と。エドは当てたぜ? なら大人しく、受け入れろ。ミカが自分の意志で動くならともかく、お前のこれ以上の介入は許さない。それになにより」


 少年は言って、右拳を振り上げる。トキミはその動きを目で追ってしまう。そして、脳天に落とされた。

 鈍い音が響き、トキミは頭を抑えて蹲る。


「お前はもうちょっと自分の依り代の事を考えて行動しろ! いったいいつまで少年神のつもりだ! お前の好意はこれっぽっちも伝わってねぇよ! どんだけ追い詰めてんだお前は!!」

「ふぁ、ファーストキスの騒ぎは誤算でしたが、記憶も消したし、問題はないのですじゃ」

「それじゃねぇよ」

「……じゃあ、どれですか」


 頭をさすりながら涙目でトキミは少年を見つめる。

 ここでずっと仕事をしていたためにトキミは見ていない事を少年は知っていたが、言う気にもならなかった。

 体ごとトキミを視界から外し、ヒノワとツキヨを見た。


「二人は今まで通りで良い」

「「え!? いいんですか?」」

「いいよ」

「え? でも、あの……エドを贔屓してるという自覚はあるのですが……」

「別に贔屓が駄目だと言ってるわけじゃないから。度が過ぎなければいいだけだ。それに、お前達は一応まがりなりにもエドのためを思って動いているだろう? アレは、自分の享楽のためにやってるから」

「ツキヨだって似たようなものなのじゃ……」

「……ツキヨは自分の依り代の進言を聞き入れたぞ? エドに嫌われるぞという言葉に。で、お前ならそれを聞き入れたか?」

「……」


 思わず無言になったトキミに少年はそれ以上言う気にもならず、二柱を見た。


「じゃあ、俺は帰るから。……エドとセリアの事、よろしく頼むよ」


 彼は最後にそうお願いして現れた時と同じようになんの痕跡も残さず消えた。


 二柱はそれを見送った後、ヒノワはふてくされたように座っているトキミの後ろに立った。


「さて、トキミ。丁度貴方の集中力も切れかかっていた頃のようだし、ちょっと私の部屋でお話しましょうか」


 にっこりと笑い、トキミが逃げられないようにその首根っこを捕まえる。


「もうこれ以上の説教はいやなのじゃー!!」

「何言ってるの! あの方があれだけ怒るなんてよっぽどの事でしょう! 来なさい!」


 いやじゃーと叫びながら連れて行かれるトキミと、細腕なのにもかかわらずトキミを引きずっていくヒノワ。

 そんな二人をツキヨは見送り、しばらく考え事をしながら宙に漂っていたが、傍仕えの者を呼び出し、一言命令する。


「ゴドーを呼んできて頂戴」




エドのパラレルの人が出るかもランダムアプリの結果です。

5パターンくらい用意してました。

本人登場でトキミが居る、居ないの2パターン、イクサが伝言だけを持ってくる2パターン。一切登場しない。の計5パターンです。

その中で唯一、絶対にトキミを止められる方法が選ばれました。


……ランダムアプリのチョイスが的確すぎてびっくりなんですけど。


トキミ、お前、まじで何やった。

って言いたくなりました……。

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