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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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涙の理由

メインタグを恋愛に戻しました。

それに伴い更新時間を、随時とさせて頂きます。

そろそろ朝8時固定はきつくなってきたので……。

平日毎日更新は頑張っていきたいと思います。





 俺は、気まぐれスキルに育てて貰ったと言っても過言では無い。

 そんな俺に対して、気まぐれスキルなんて使えないなんて言われたら黙ってるわけにもいかない。

 ……というのは本音の半分。

 もう半分は知って貰いたかったのだ。散々使えないだなんだと言われ続けただろう彼らに、その『使えないスキル』の凄さを。


 俺は室内にずかずか入って行って、テーブルの上にビニールシートを敷く。


「いくつかは言葉の説明になるが、実演出来るものは実演してやるよ」

「え? ねぇ、ちょっと何なわけ? なんで君、……ゴドーの事では怒ってなかったのに、気まぐれの事で怒ってるのさ」

「ゴドーの事は神の依り代関係の事情も色々含まれてるんだろ? そこに俺が立ち入って良いのかも分からないし、俺からしたらあんたは、ゴドーの名前を使ってるだけで、自分が嫌われる理由があればなんでも良かった気がする」


 俺の考えを口にするとミカは一瞬真顔になった。それからまた馬鹿にしたような笑みを浮かべようとしていた。


 クパン村の神殿長の、あのネチネチっとした悪意のある言葉は確かに許せなかった。でもミカのはいつもどこか違和感がある。神殿長の嫌味に比べたら、まっすぐすぎである。

 嫌いなのは嫌いなのだろう。でも、どこか羨ましいっていう感情が見え隠れしてる気もする。

 そう、妬ましいじゃなくて、羨ましいだ。妬むまで行かずそこで終わって、諦めてる気がする。

 その理由はきっと神の依り代に関係する事情だから、俺が立ち入る事じゃないと思う。


「えー。まずは初級土で、バケツ一杯分の土を出しまして~」

「ちょっ!? ここでするの!?」


 ミカの慌てる言葉は総無視です。

 テーブルの中央にバケツ一杯分の土を出現させる。

 ビニールシートは敷いてあるから大丈夫だ。


「で、中央に種を植えて、軽く土をかぶせます~」

「ちょっと君非常識すぎないかい!?」


 はっはっはっはっは。その手の言葉は聞き飽きたからちっとも心に届かないぞぉ~。


「で、葡萄の育成方法を書いた図鑑を用意します。もちろんこれもスキルの図鑑です~」


 シムに作って貰った図鑑をミカに見せる。


「えー。これに、処理速度向上、土いじり、初級魔法(水)、初級魔法(土)、縁の下の力持ちを結ぶにて紐付けし、設定スキルとくっつけます。次に空気イスで支柱を作ってやります。空気イスは見えないので着色で色を塗った方がいいですね~」

「え? 着色ってそんな事が出来るの?」

「出来るよ。空中に文字を書くだろ? それの応用」

「……いや、待ってくれ。応用にしてもなんでこんな一瞬で色が塗られるんだ!?」

「んで、設定に時間と加速を設定して……。とりま三年かな? スタートってね」


 俺の言葉にスキルが発動する。

 土から芽がぴょこんと出たら、そこから一気ににょきにょきと伸びていく。

 土と水は面積は少ないのにもかかわらず適した養分を葡萄に与え続ける。

 ツルは支柱に巻き付き、葉が生い茂る。

 そして大きめな盆栽になったところでその動きが止まった。


「んー、実らなかったか。じゃあ、もうちょっと時間を進めてっと」


 手動で加速による成長を促す。花が咲いたところで一度止めた。


「で、引っ越しで花粉をめしべに移動させて、と。数が多いから、確実に受粉させるのはコレ一個で後は風で花を揺らす程度にするからな?」


 葡萄の一粒ずつが花だと思ってくれれば花の数が多いのがわかるかと。シムにも手伝って貰って受粉させるが、なんで俺、葡萄にしたんだろうって自分自身でも思った。

 ミカはもはや何も言ってこない。


「で、加速させると」


 花はまるで早送りしたようにしおれていき、花びらが落ち、子房が果肉となって大きくなっていく。他の株もいくつかは実ったっぽいな。


「ほれ、食ってみろよ」


 一粒取ってミカに差し出す。

 ミカは受け取ってしばしそれを眺めた。そして俺を見る。頷くと恐る恐る食べた。


「……甘い……」


「だろ? せっかくだからコレを使って酒でも」

「もういい……」


 さらに凄さを見せつけようと思ったらミカから力のない声で止められた。

 いやいや、折角だから最後までさせてよ。なんのために葡萄にしたと思ってるのか。

 って、思ったけど、俺は何も言えなかった。

 ミカは泣いてた。ぽろぽろと泣いていた。あの時も思ったけど……。いくらこの世界じゃ普通だって言われても、やっぱ男に泣かれるのはちょっといたたまれないというかなんというか……。

 俺はぽりぽりと頭をかく。なんか俺が泣かしたみたいだ。

 ……みたいじゃなくて、泣かせたのか。


「か、……加速の使い方は……分かった。鈍足は?」

「あれは対象者がいないと見せるのは難しいな。まぁ、効果としては動きを遅くするとかだけど、食品を傷みにくくするとかも出来るぞ」

「移動……」

「こんなん」


 部屋の端から端まで移動し、そして元の位置に戻る。


「育てば移動出来る距離も長くなるし、最終的にはスキルを使用した視界でも移動可能だから術者によって大きく威力は変わるけど、転移門並の実力はあるよ」


 実際にはその上のスキルに近いんだが、そっちはあまりなじみが無いだろう。

 答えつつ、気づいた。ミカが上げているスキルが何に繋がるか。だから先に次のスキルを説明する。


「時間はさっき設定したみたいに、補助の役割が大きいかな。十分間照らせとかに使えるし、明日の八時に朝の加護を発動させろ、とかか。時空神の加護へと繋がるスキルはわりと強力過ぎて、調べるのスキルじゃすぐには分からないようにってなってるんだよ」


 ミカが上げたスキルは、俺がやらかしたスキル達だ。それを時空神の依り代に説明してるってのもなんだか変な感じで笑ってしまった。


「……何がおかしいのさ」

「いや、さっき言ったろ? 耐性のおかげで、助かったって。あの時、大暴走をしてたスキルは増殖と時空神の加護へと続くスキル達だったからな。発狂してもおかしくなかった状況を止めてくれたスキルを気まぐれに入れてくれたのも、時空神の依り代ってんだから、これも有る意味、神のご加護だったのかなってさ」


 酒、作んなくて良いっていうから、出来た葡萄を摘まんで食べていく。ミカにも渡して、食べて貰う。


「神の貴石だって使ってるのは着色だし。分かりやすい文言にしか飛びつかない馬鹿達は無視しとけ。むしろ、気まぐれに入れられるような、わかりにくい、もしくは使えなさそうなスキルの方が強力なの多いから。時間スキルのレベル6からなんて強力過ぎるからな?」

「……そうなの?」

「時間を止めるんだよ。そんなのが消費MP6~10だぜ? 悪用しようと思ったらいくらでも出来るっての」

「……そうだね」


 俺の言葉にミカは少し困った表情を浮かべてた。


「……確かに、それはちょっと……問題あるね……」

「だろ? 加速だって後半レベルは今見た内容だしな。だから、ま。気にするな。言いたいヤツには言わせておけばいいんだよ」

「……うん。ありがとう」


 ミカはまた涙をこぼして葡萄を一粒口にいれる。


「……ボクは…………時空神様に……嫌われてるんだ……」


 ぽつりとミカは呟いた。


「だから、神に愛されてるゴドーが羨ましかった……。気まぐれスキルを買った人が言う役立たずって言葉は自分に言われてる気がしてた。……孤独になりたいわけじゃない……。でも、好かれてるのか、嫌われてるのか悩むより、嫌われてるんだって分かってる方が楽だった……」

「……だから、あえて不和を作って、厄介者っていう扱いにしたかったってわけか?」


 ミカは力なく頷く。


「セリアに謝ったのは?」

「……やり過ぎたから。エドがいうように厄介者ぐらいが丁度いいから……」


 ぽつりぽつりとミカは口にする。まるで傷ついた子供のような姿で、葡萄を一粒一粒噛みしめるように食べていた。


「……ボクがもうちょっと使えるやつだったら時空神様もボクの事、少しは好きになってくれるかもしれないって……。だからさ、本当は嬉しかったんだよ、宣教師の話が来た時、まだ名前も知らない君に感謝すらした。……残念な事があるとしたら、セルキーの自室にシャワーを付けて貰うって発注したあとだった事かな? 金払った後だったせいで、中止も出来なくて、結局、次の入居者のためのものになったけどさ」

 

 あ、これは本物の愚痴だな。


「でも、そんなのどうでも良いってくらい嬉しかったんだ。でも、現実は違った。山に着いたら時空神様に…………………アレ?」


 首を傾げてぼんやりするミカにはっとした。記憶消去された部分だ、と。


「と、とにかく、シャワーは残念だったな!」

「え? ああ、うん。そうだね」

「でも、ここ、大浴場あるし、もっと楽しいバスタイムをエンジョイ出来るって!!」

「ああ、そうなんだ。それは確かに嬉しいかな」

「そうそう! そうやって前向きに行こうぜ前向きに!」


 あ、危なかった。

 なんで俺が、そこのフォローもしなきゃならんのか……。


「前向きね……。君のそういう所が……時空神様に愛されるのかな……」


 ため息を零す。


「じゃあ、お前も前向きに考えれば良いじゃん」

「簡単にいってくれるね」

「言うは易く行うは難し。それは分かってるけど、だからって嘆いてたってどうしようもないだろ? 好かれる努力をしろよ」

「……それで失敗したらどうするんだよ」

「だから、そういうところがマイナス思考で駄目なんだって。失敗してももう一度チャレンジするくらいの気持ちじゃなきゃ駄目だって」

「簡単に言うな……」


 ぽつり、と零れた声は感情を押し殺した声だった。

いや、逆か。

 ミカの目は強い怒りが宿ってて、俺を睨み付けていた。怒りゆえに平坦な声になったのだ。


「簡単に言うな! 簡単に言うなよ! あの方にそれでさらに嫌われたらどうするんだよ!? そしたらボクにはもう本当になにも残らないじゃないか! ボクは要らないヤツだって突きつけられるだけじゃないか!」

「…………」


 涙を流して叫ぶその姿に俺は言葉を無くした。

 これは……。

 

「分かってるよ! 好かれる事をした方が建設的だって事は! 出来ないんだよ! 怖いんだよ! お前にもゴドーにも分かんないよ! 神様に好かれてるあんたに、嫌われてるボクの気持ちが分かるかっ!? 神に嫌われるって事は世界に嫌われるって事だぞ!? それを確定しろっていうのか!?」


 泣き叫び、感情の高ぶりからか、息が上がっている。

 睨み付ける瞳にあるのは怒りじゃなくて、怯えや恐怖。


 あのある種自傷行為の根本はここか?

『可能性はあります』


「頑張ったのに認めて貰えなかったよりも、頑張らなかったから認めて貰えなかった。その方が楽か? ミカ」

「っ!」


 息を呑んでミカは俺を見た、そして、悔しげに頷いた。


「そうだよ……。君に好かれる事をすべきなのは分かってるさ。でも結局それをやったって、好かれるのは君であってボクじゃない。頑張っても成功しなかったら? 頑張っても報われなかったら? そんな事を考える方がずっと怖い。それよりは最低限の事をするだけの方がずっとましだ。喩えそれで嫌われても、もっと呆れられても、好かれる努力をしなかったボクが悪いだけだしね」


 嗤う。自分を嘲笑う。

 なんでそこまで追い詰められているのか。なんでそこまで自分を追い込むのかわからない。

 分かる事があるとすれば、それは、神が全ての原因だという事。


 ああ……でも、ごめんな……。


 怒りを感じる。でも、同時に大事な人達の事が頭に浮かぶ。だからミカに心の中で謝った。


「お前の考え方も、事情も分かったよ」


 俺はお前のために、神を殴りにはいけない。


「とりあえず、わざと不和を起こすような事をしなければ、それでいいから」


 神に嫌われるという事は世界に嫌われるという事。確かにそれは正しい。

 母さんやセリア達に迷惑はかけられない。

 何よりも、俺を殺したくないと言ったゴドーと敵対する理由なんか作りたくない。


「後は俺の方で上手くやるからさ。だから」

 だから。

「もう泣くなよ」

 ごめんな。






 

 






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