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神官のお兄さん



「こんちゃーす」


 相変わらず人の居ないカウンターに俺は座る。

 お兄さんは俺を見て、首を傾げた。

 え!? 俺の事忘れたのか!?


「昨日、店を新しく開くと聞いたが?」

「あー……防音お願いできます?」


 防音結界を張って貰い、俺はため息をついて、昨日のあらましを話しした。


「一人目で、店の九割以上買ってくって、どんな嫌がらせだ?」

「ほんっとそう思いますよね!」

「困ると強めに言っても良かったんじゃ無いか?」

「俺もそれは一瞬考えたんだけど、そうすると俺だけじゃなくて、実家も困ることになるんじゃないかって過ぎったんだよねぇ」

「ああ……、村にはあの店しかないからな」

「神殿もそこで買ってるの?」

「いや、神殿は週一で中央から送られてくるんだ」

「……俺の仕入れもそこで」

「無理だな」

「無理かぁ……。まぁ半分以上そうじゃないかなっとは思ってたけど。あとは騎士隊かなぁ……」

「ああ、確かに、あそこも独自ルートを持っていそうだな。……しかし、君は……本当に短命種か?」

「へ?」

「考え方がすでに成熟している大人のようだ」

「あー……」

「……いや、すまない、気にしないでくれ」


 なんと答えた物かと考えているとお兄さんの方が引いてくれた。

 俺はそれに笑みを返し、ここに来た理由を告げる。


「気まぐれスキル、買いに来ました!」

「……売り上げがそれなりにあったのなら、他のも買えるだろうに」


 呆れたように言いつつお兄さんはおみくじ箱を置いた。

 俺はそこに五万ゼニィを入れる。


 結果。

 調べる×2

 初級魔法(重力)

 初級魔法(雷):消費MP10 麻痺効果

 超常識辞典: 消費MP1 世界中の98%の人が知ってる常識辞書

 描く: 消費MP2 ペンが無くても紙に絵が描ける

 夜目: 消費MP1  夜目が利く

 未記入の白板×3: 消費MP50 真っ白な白板が一つ。対応スキルが必要。


 結構ダブった。

 そして、描くに関しては「かく」の劣化版なのではないかと思う。

 思うが、そう見せかけて違うってこともありえるからなぁ。

 ってか、あれだろ。

 『対応スキルが必要』っていうのスキルは、全て気まぐれにぶっこんでるだろ、これ……。


「いくつかだぶったな。こちらで引き取るかい?」

「いや、そのまま使いますよ」


 そう答えるとお兄さんは小さく笑った。バカにするというよりも、楽しいと言った様子だ。


「なるほど、君は、本当にあのままスキルを使い続けてくれているんだな」


 確信した言い方だった。


「いくつか使いようのないスキルもあっただろうに」

「いやいや、そんなことないですって」

「……君は、本当に、くだらないと思われるスキルでも、喜んで持つのかい?」


 伺うように、俺の本心を知ろうとするようにお兄さんは聞いてきた。


「うん。俺、今、すっごい楽しいっすよ!」

「そうか。……私の名前はゴドー。気まぐれスキル担当神官だ。これからもよろしく」


 俺はちょっと驚いて、それから笑った。


「俺はエド。よろしくゴドー」


 それが俺とゴドーが友達になったきっかけだった。




 騎士隊の方は神殿と同じく、基本的な食料などはこの村の物流には頼っていないらしい。二週間に一回、補給隊がやってくるらしい。で、そのタイミングで緊急性のないために遅れがちな情報をやりとりしてるんだって。

 そこに俺の分を紛れ込ませるのは難しいとの事。

 金は払うのにぃー……。と涙目だ。


「そんな顔をしないでくれ……。ああ、でも、君の分を一緒に購入して持ってきて貰うのは無理だが、君と一緒に買って帰ってくる事は可能だ」

「……どういう意味です?」

「明後日、その補給部隊が来るのだが、こっちに寄った後は隣の村に行くんだ。明後日だと……、あっ。セルキー街か! その時、情報収集にうちからも一人行くから、一緒にいけないか聞いてみるさ」


 町の名前を言ったあたりから隊長さんは嬉しそうだった。


「い、いいの!?」

「一人で行くにしても、君、場所知らないだろ?」

「知らないです」

「さすがに成人したてをなんの知識もナシで放り出すのはな……」

「ありがとうございます~!!」

「セルキー街は大きなところだからな。いろんなものが仕入れできると思うぞ」

「おおおぉおお!」


 詳しく聞いてみると、どうやら、冬の国との玄関口になっている大きな港街らしく、この村、クパンの何十倍もの規模らしい。


 なにそれ、すごい! 俺、運が向いてきたんじゃないか!?


「でも、その前に……」

 手を組んで思わずその隊長さんを仰ぎ見ていると、ぽんっと後ろから、第三者に肩を叩かれた。

 振り返ると、文官の恰好をしている男性が居て俺を見て、笑った。非常にいい笑顔で。


「15000ゼニィの税金、払ってくださいね」

「はい……」


 素直に俺は頷いて払いました。

 騎士隊の人たちにはお世話になってるし、周りの治安とか守って貰ってるし異論はないっす。



 細かい日時を聞いて俺は川に向かった。

 お礼と俺の昼と夜をかねて魚を捕りにきたのだ。

 お昼の鐘が鳴る頃には家に戻っとかないと行けないので、急ぎ魚にあたりをつける。

 いつも通り呪怨でいこうと思って、さっきゲットした初級魔法(雷)を思い出して、ちょっぴり使ってみる事にした。


「雷よ」


 魚を指さし、唱えると、魚が一瞬びくっとした後、死んだようにぷかぁっと浮かんできた。

 ちょっぴり、毒っぽくてやだなぁ。と思いつつ、捕ろうとした時には麻痺が抜けたのか、魚はいきなり跳ねて逃げていく。

 

 つまり、呪怨がいかに強力な力か分かった結果となった。とも言えた。


 時間があるのなら、それでも雷をかけるところなんだけど、今日は時間がないので、呪怨と闇でさくっと七匹ゲット。

 ついでに引っ越しは見える範囲じゃなくても、また、時間をおいても発動可能なのか、の実験も済ましておく。

 見える範囲の程よい石を指定した状態で、俺は魚を騎士隊の人たちにお裾分けし、家に戻る。二匹の魚を冷たい水の中に入れ、庭に出ると引っ越し先に庭を指定すると、川に置いてきた石が瞬時に現れた。


 すげ……。


 これ、色々便利だし、色々犯罪にも使えて危険だなぁ……。

 いや、俺は使う気はないけど……。

 でもこれホント、盗難防止難しいんじゃないかな。

 触らなきゃいけない、とかいう縛りないもん。

 目に見えてたらそれで可能なんだよ……。

 ああ、でも最悪明後日はどこかで目を盗んでこのスキルで移動させるっていうのも手だよなぁ……。ただ、そこまで距離が離れていても大丈夫なのかは分からないけど……。って事はそれはもう本当に最後の手段として…………。

 重力を育てるか……。重力もダブったし、威力が増えるだろうし……。

 せめて、明後日までにレベル2に、出来れば3にしたい……。

 夜にはそっちのレベル上げに勤しもうと考えながら、俺は石で石をたたき割り始める。

 商品として使うにはまだ大きかったのだ。

 程よい大きさになったら、水で洗濯するように石同士をぶつけて角を取る。


 俺、水の扱い上手くなったよなぁ……。

 大放水したのが懐かしいとか思いながら、ゴウンゴウンとセルフBGMを心の中で呟きながら水を回し続けた。


 預かっていたみんなの衣服の引き渡しは特にもめることなく、皆喜んで帰ってくれた。

 本格的にこれでいいんじゃないかなって考えもやっぱり一瞬過ぎったけど! そんな毎日くるわけでもないし、出来ればもうちょっと売れるのが欲しい。

 明後日行く街で良いのが買えるといいんだけどなぁ……。

 願いが神に届くことを祈るばかりだ。


 

 さて。前世と比べて今世は寝るのが早いので、起きるのも早い。

 昨夜は重力の練習をしたり買ったスキルの確認をしてた。

 昨日ゲットした『超常識辞典』は、本当に超常識だった……んだけど……。

 魔法を使うにはMPが必要である、とかそんなの知ってるよ。本当に超常識ばっかりだなぁーって思ってたんだけど……。実は半分以上は知らない情報だったんで、地味にへこんだ……。

 98%に入ってなかった! って……。

 仕方ないじゃーん。学校行ってないしー。と一人で言い分けしてたよ。

 たとえば、この世界には四つの大陸がある、とか。ヒューモ族以外にも、ダワーフ族、ダビル族、ハビット族、エジェラ族、バースト族、アルフ族ってのが存在しているらしい。

 ヒューモが住む場所を春の国、バースト族とアルフ族が住む場所を夏の国、ダワーフ族とダビル族が住む場所を秋の国、エジュラ族とハビット族が住む場所を冬の国という。

 この当たりは学校に行っていればきちんと教えて貰えたと思う。


 そして、あくまで常識として知られているだけで真実が書いているわけではないという事も知った。


『スキルの最高レベルは『5』である。』という内容を見たからだ。

 俺が知る限り、レベル10まである。でも世界の98%の人はそう思っているって事だ。

 スキル情報の秘匿はこういう所にも影響が出るんだなって思った。


 そんな色々考えさせられた事もあったが、読み物としては面白かった。

 本とかこの世界ではほとんど読んでいないって事を改めて思い至った。読んでたのっていったら最近では『家庭の医学』でこれまたスキルだ。

 よくよく考えたらこの村、本屋なんて無いもんな。有るのは日用雑貨とかが売ってる雑貨屋と、鍛冶屋だけだ。

 娯楽が少ねぇ~。としみじみした。

 みんなどうやって休みを過ごしてんだろ。ってちょっと気になった。


 さて、朝食を食べた俺は、これからの事を考えて、畑を作ろうと土を耕している所だ。

 うーん。でも、ここの土、あんまり栄養なさそうだよなぁ……。

 重力の練習もかねて、川の土とか持ってくるかなぁ……。

 そんな事を考えていると、坂を登ってくる人影が見えた。

 ……あれ? 客? 客って……店に? 俺に?

 店にだったらちょっと困るなぁって思いながら見つめていると、その人影が誰だか分かった。神官のお兄さん、ゴドーだった。


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