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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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神の依り代事情



「おい、ミカ。どう考えても、ご褒美が凄すぎだろ」


 俺たちの様子なんて気にしないミカはさっさと門を開けて中へと入っていく。


「くれるって言うんだから気にせず貰えば良いだろ。どうせ君たちの懐は痛まないんだし」


 かなりどうでもよさげだ。最後の人は門を閉めてくれ、なんていうくらいだ。

 ミカは初対面……と、なってるあの日から、少しずつ変わってきた。

 四六時中一緒にいるからか最近のミカは仕事用ではなく素の表情を俺たちに見せ始め、そして若干、毒を吐く。


「やっかいごとにニオイしかしないんだけどな」


 眉を寄せてそう口にする。俺が中に入ろうとしないからか、他のメンバーも立ち止まったままだ。

 ミカはついてこない俺たちにため息をついて、肩を竦めた。


「あのさ、ボクは軽くしか聞いてないんだけど、君は、それだけの事をしたと聞いてるよ」

「んなわけあるか。俺たちがやった事なんて、盗賊を捕まえたくらいだぞ。そもそも悪い神官も、捕まってた神官も助けたのはゴドーとシェーンだ」


 確かにそこにゴドー達を送ったのは俺だけど。働いたのはあの二人だ。

 こんな豪華な城貰う覚えない。

 っていうか喩え俺たちがやったとしても、これは行き過ぎだろ。


「その前だよ」

「は?」

「確かにそれらも含まれるけど、その前が主な理由だよ。夏の国の第三王子を助けて、暴走した武神様を止めたんだろ。特に武神様のは一歩間違えれば、ヒューモ族はほぼ全滅だったって聞くけど?」


 ……そっちも含まれるのか……。


「あれだって止めたのはゴドーというか、ツキヨ様だし」


 なんとか受け取り拒否できないだろうかと思いながら俺は思いつくままに口にしてみる。

 そうするとミカは思いっきり眉を寄せた。


「前も思ったけど、君たち随分と気易くそれを口にするよね」

「え?」

「いいから中に入りなよ。聞かれたくない話もあるし」


 ちょっと怒ったようだ。

 俺たちは顔を見合わせたが、仕方がないかと中に入っていく。


 門から城まで馬車の通り道があり、左右は景観をよくするための緑が植えられている。

 ……これ、手入れも大変だろ……。

 なんて考えたりしながら城の中に入る。

 城の中は薄暗く、ミカが光り魔法で当たりを照らす。


「魔道具はあえて取り付けなかったらしいよ。色々改築しやすいように、って。どうせ高価な魔道具なんて置いても、君にとっては無用なガラクタで邪魔なだけでしょ?」

「いや、そんな風には思ったりしないけど……」


 俺の事どんな風に思ってるんだか……。

 

 ミカは家の見取り図を見ながら、廊下を歩く。

 足音が長い廊下に響いて返ってくる。少し不気味な感じだ。

 セリアが俺の袖を掴んできた。たぶん、無意識のうちに。

 ……気づかないで居てやる事にして、そのままひっつけて歩く。


 アニメで見るようなダイニングルームに案内される。そこにはすでに長いテーブルが置かれていて、椅子があった。

 それぞれ好きに座って貰い、俺は角っこに座る。誕生日席はノーサンキュー。

 そこにミカが座って一同を見渡した。


「まず、この建物は、君たちパーティーに渡される。これは神のご意志だ。拒否権は無いと思ってくれて良い」


 恩の押し売り止めてくんねぇかなぁ……。


「一階は共同スペースが主だけど、基本、エントランスから向かって右が男性用、左が女性用だよ。よく分かんないけど、奴隷買うんだろ? その寮に使えって事らしいよ。だからキッチンは共有だけど、風呂とかはそれぞれ男女で用意されてるし、それぞれの建物には一階を通らなきゃダメだってさ」

「へー」


 一応、本当に俺たちパーティー用って感じで作ってあるのか、コレ。

 そう考えるとまだ……。

 ……まだ? 騙されるな、俺。これはやっぱりちょっと非常識だよな?


「それで、本題だけど。これからどんどん人が増えるかも知れないのに、気易く、神の依り代がどうのっていうのは止めてくれる? 困るんだけど」


 ミカは一同を見て、それから嫌そうに言う。


「君たちがぽろっと口にして、それが神官の耳に入ると非常に困るんだよね」

「どうして?」


 セリアが当然のように聞き返すとミカは睨めつけて、そして俺を見た。


「君は、ゴドーから何も聞いてないのか?」

「何を?」

「……ゴドーは口止めすらしてないのか?」

「秘密にしてくれとは言われたけど」

「けど?」

「それだけ」


 告げるとミカは思いっきり舌打ちした。


「何考えてるんだよ、あいつら。危険性も教えずにボクの事もばらしやがってっ」


 ブチブチとミカは言ってる。ばらしてって、別にあいつら関係なくね?

『ミカの記憶は一部改変されてます。マスター達はもちろん、神が現れたために、ミカが時空神の依り代である事を知っていますが、ミカにとって、それを知られたきっかけはシェーンが時空神が自分の依り代をマスターの傍に置きたいと話した事になってます』

 ……そういやそうでしたね。


「ボク達依り代はね、神官にバレるとそれこそ神殿に一生幽閉されかねないんだよ」

「…………は?」

「神官にとって神様ってのはとっても大事な存在なんだよ。でも基本神は神山から出てこない。神の声を聴く事も出来ない者も多い。神に逢いたくても逢えない。神官にとって神ってのは、千年に一人の運命の恋人みたいな存在だ」


 流石、ファーストキスを大事にしてるだけ有る。たとえがロマンチストってか恋する乙女だ……。


「逢いたくて祈り続けても逢えない。そんな存在だよ。一年に一回、新年にのみ、一同にかけられる神々の言葉をみんながどれほど心待ちにしてるか分かる? 神官が一生懸命スキルを売る理由を考えた事ある? 酒や護符は? 全部少しでも偉くなって神に逢いたいからだよ。そんな中で神を降ろせる神官がいたらどうなるか分かる? 少しでも神の言葉を聴かせてくれって、逢わせてくれって群がってくるんだよ。実際、月神以外の依り代に取って神を降ろすのはそんなに難しい事じゃないよ。神が応えてくれるのならね」


 ミカはとてもよくしゃべる。


「言っとくけど、これ、実例だからね? 昔、バレた依り代が居たんだよ。彼は神に逢いたいがために、利益を求め、歪みつつ上層部をとっちめるために神を降ろした。効果は覿面だったよ。すぐに出た。そりゃそうだよね。永遠の愛しい恋人がお願いしてるんだから。そして、その願いを叶えると約束し、神官達は彼を神殿の一室に幽閉させた。彼が望む望まない関係なく、見目の良い神官が用意され、美酒が集められ、世界中の美味が集められた。そして言うんだ。神の声を聴かせてくれ。神の姿を拝見させてくれって。神も彼も頑張ったらしいけどね。こんな事は止めろって。ここから出せって。でもね、そういう言葉は聞こえなくなるっぽいね。実に都合の良い耳をみんな持ってるんだ。だから彼は神を呼ぶのを止めた。それでも彼は外に出される事は無かった。だっていつか彼が神を呼ぶかも知れないからね。結局彼はそのままそこで死んだよ」


 淡々と語る内容。そこまでするのか、と思うのと同時に疑問も浮かぶ。

 セリアも同様だったのだろうミカに質問する。


「誰も助けに行かなかったの?」

「誰かってのは? 神は動けないよ。この場合」


 神には神の決まり事があるみたいだからね。とミカは小さく口にした。そういえば、武神様がそんな事を言っていたような……。


「彼にも友達はいたけど、その友達は彼を閉じ込める側に回ったみたいだよ。熱心に彼にお願いをしてたんだって。いや、最終的には、彼と神を同一視してたっていってたかな?」


 肩を竦めて、それから吐息を零しつつ、それとも、と続けた。


「まさか、他の神の依り代が助けに行かなかったのか? って言うつもり? ボク達は基本的には、神が呼べるだけでその他の神官と変わらないよ。スキルだって貢献度を溜めなきゃ貰えない。下手な事をすれば彼の二の舞か、神官達に殺されるだけだよ。ああ、でも神の依り代が殺されそうになったら、神も動けるね。君の言う、助けにってのは殺されに行けって事かな?」

「…………」


 もちろんそんなわけがない。セリアはゆっくりと首を横に振る。その表情は泣きそうな顔だった。

 ミカはそれを見て、息を吐いた。


「ごめん。ちょっと八つ当たりした……」


 謝ってもう一度彼は深々と息を吐いた。


「……少なくともその当時は、助けようがなかったんだ。今は神の依り代にそれぞれの神の力が、多少なりとも備わってる。だからそこまで酷い事にはならないと思うけど、でも……、なるかもしれない。少なくとも、全てを失う事には変わらないんじゃないかな? 彼の友人のように、周りの見方が変わるのが普通だろ? ……ボクからしたらなんで君たちが普通にあの二人を受け入れているのかが分け分かんないし、驚きなんだけど」

「え? なんで?」

「なんでって、相手は神だよ? 神を呼び出せる神子だよ? 普通は敬うもんだろ? 畏怖したり、崇拝したりしないか?」

「えー?」


 シェーンを崇拝とか無理~。ゴドーには、俺、色々やらかしてるから拝んでも良いとは思うけど。


「……ミカ殿の言いたい事は分かりますよ」


 と、言ったのはタンガだ。え? 分かっちゃうの!? って俺は驚きでタンガを見た。

 タンガは俺の視線を受けて苦笑していた。よく見たらネーアとバロンもちょっと困った顔をしていた。


「でも、ゴドー殿もシェーン殿もそれは望まなかった。普通に接して欲しい、と」

「そう言われたからって出来るんだ? 不敬にならないかって恐ろしくなかったの?」

「初めは。でも、セリア殿もエド殿も普通に接してましたからね。……それに俺は殺気だったエド殿の方が恐ろしいです」

「なんでそこで、上げて落とす!?」


 俺から顔を背けて、そんな発言したタンガに俺は不満を口にするが、彼は訂正しない。

 …………。


「バロン。バロンは?」

「何がですか?」

「お前、武神と俺とが戦ってるの一番間近で見てただろ?」

「はい!! エド様凄くかっこよかったです!!」

「……ボロッボロに負けてたけどな……」

「それでも、ですよ。相手は神ですよ? ボロボロになりながらも立ち向かうエド様はとても素晴らしかったですっ!」


 ……やべぇ。バロンがトリップしてる……。

 なんでそこで手を組んで、明後日の方向を見上げるんだ? そこに何があるんだ? 帰ってこい。っていうか、真面目にそういう扱いは止めてくれ。


「正直なところ、エド様の印象の方が強くて、神の依り代って言うのが特別というのを、今、ミカさんから言われて改めて、というか、初めて気づきました」

「……あ、そう……」


 ミカは複雑そうな顔で俺を見てた。

 俺は肩を竦めるしかない。


「一応、気をつける。で、何かあれば助けに行くでいいじゃん」

「……随分と簡単に言ってくれるな……」


 ジト目でしばらく睨み付けられたが、ミカは諦めたようだった。

 肩から力が抜けた。このタイミングで俺も質問をする。


「俺からも質問して良い? なんで、月の神の依り代以外(・・)は、って言ったんだ? 月の神は簡単に呼べないのか?」


 これが俺が話の中で気になった部分だ。


「……喚ぶのは簡単だよ。でも、月の神は強すぎる。神を降ろせば、降ろした分だけ、月の依り代は狂うんだ」


 ミカの言葉に俺は目を大きく開けた。


 ……それは、つまり、ゴドーもやがて狂うって事か?


 



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