セリア組②
力つきました。スッゴク眠いです。
お休みなさい……。(ただいま12時ちょいすぎ)
まさに神出鬼没といった風情で、エドが現れたり消えりするのを見て、妹のアズアが感嘆していた。
「今の人がお姉ちゃんのご主人様なの?」
「違うわ。私はもう奴隷じゃないの」
首元を見せて、ネーアは言う。
「個人的にお慕いしてるんだけどね」
苦笑一つ見せてから、そして母親を見る。
「お母さん。大好きな人ともっと楽しく笑える場所に行こう? 春の国がそういう国だとは言わないけど、でもエドさまの周りは心地良い空気が流れてるんだよ」
「怒らせると途端に極寒の地ではあるがな」
「……ネーアの邪魔しないでよ」
「そうはいうがセリア殿。事実はきちんと伝えるべきであるとオレは思うぞ。エドは普段ああだが、怒るともの凄く怖いのだぞ?」
「それは否定しないけど」
「怒ったあいつと敵対するぐらいならオレは千人の敵に素手で殴りかかる方がまだ勝率はあると思う」
「…………否定しにくいなぁ……」
否定したかったが、セリアもどっちを選ぶかと言えば、無手で千人の敵である。
セリアはパイプの端を持って妹の方に傾げてる。
「使ってみる? その取っ手を回すと水が出るはずよ」
細かい使い方は聞いてないが形状からしてそうだろう。
「えっと」
戸惑いながらも彼女は取っ手を握りひねった。
途端に脱力感を感じる。
きゅっと蛇口から音がして、水が勢いよく放たれた。
「「「「え!?」」」」
「あ」
水は勢いよく蛇口から放たれる。水圧でホースの先を絞ったかのような勢いで。
それはパイプの反対端を持っていたセリアが立っている方向だった。
セリアは全身ずぶ濡れとなり、それでも水の勢いは止まらない。
「え!? セリア、これ、どうやって止めるの!?」
「反対方向にひねってぇ!」
腕で顔を隠して叫ぶように言う。途端に水がかからなくなったと顔を上げたら、ずぶ濡れの人間が一人増えていた。蛇口とセリアの間にシェーンが立っていて、セリアと違い蛇口の方に向けて背中を向けているのであまり苦にした様子も無い。
「大事ないか?」
「え? あ、うん」
「それは良かった。しかし、ただの水で良かった。エドもきちんと使い方を教えていけばいいのに」
シェーンが少し不満そうに言う。セリアは笑った。笑って誤魔化した。
エドからしたら、どう見てもセリアの不注意じゃん! と言っただろう。セリアも自覚がある。こうなる事はちょっと考えれば予測も出来た。
結局、蛇口をどの方向に回しても止まらなかったので、水袋に蛇口を突っ込んで止まるまで待つことにした。
セリアは即座に「生活魔法(清潔)」を使用し水浸しの家を綺麗にする。
水浸しだった床や壁や家具は、水跡もなく綺麗になっていた。
この世界では当然な結果だが。セリアとしては「清潔って意味から考えるとちょっと威力桁違いすぎない?」と言いたいが、自分の不手際なのでありがたい事だと突っ込むような事は何一つしなかった。
水騒ぎが落ち着いて、一息つこうかとした時、扉が開いた。
全員一斉にそこを見る。
そこには幽鬼が立っていた。
青白く生気の無い顔。整った顔は余計に恐怖を駆り立てる。
ひっ。と思わずセリアが肩を震わせた。
シェーンは一歩だけ前に立つ。
「バースト族……」
シェーンを見た彼はそう呟いて、生気の無かった顔が憤怒になる。
「何故、ここにいる! 彼女に何かしたのかっ!?」
「む?」
「アナタ!」
「お父さん! まって違うの!」
ネーアの母親は現れた人物に駆けだし、ネーアがシェーンとセリアの前に立つ。
敵ではないとわかりシェーンは警戒を解き、そして、結界を家をまるまる包むように張り直す。
先ほどあっさりと侵入されたために三重にまでした。
「アイーザ! 無事か!?」
妻を抱きしめ彼はすぐさま安全を確認する。
「え、ええ」
妻は頷いて、視線を後ろ、ネーアへと向けた。
父親もその視線を追って初めてネーアに気づいたようだった。
「ねー……あ?」
「うん。お邪魔してます。こっちの三人は」
「ねぇ、ネーア、さっきから気になってたんだけど……」
セリアがネーアの言葉を遮る。
「なんで、『ただいま』じゃないの?」
セリアの表情は不服そうで下手な事を言うとまた怒りがぶり返しそうだなってネーアは思った。
「私にとって帰る場所はこの村じゃないから……かな?」
「……それでも、実家なんでしょ? 普通なら『ただいま』じゃないの?」
「……そうね、ただいま、お父さん。お母さん。アズアも」
セリアが納得する言い分けを考えつかずに、本当の事を言うよりもセリアに従った方がいいとネーアは判断した。
その様子がセリアにはさらに納得出来なかった。
心がこもっていない言いたい。
しかしこれ以上つっこんでいいのかも分からない。仕方が無くセリアは口を閉ざした。
それを感じ取ったわけではないだろうが、ネーアは話を進めていく。
「あのね、父さん。村のアルフ族を全員連れて春の国にお引っ越しをしない?」
「そんなの無理だ」
「大丈夫! これがあるから!」
セリアは水の魔道具を掲げる。
「消費MPがたったの5でもいっぱい水が出るわ。これとアルフ族全員と交換よ」
「……水の魔道具?」
「そう。えーっとアズアちゃん? でもいっぱい水が出せたわ」
名前を呼ばれたアズアは父親の視線を受けて何度も頷く。
「……それは何回ぐらい使えるんだい?」
「え? 魔力があれば何回でも大丈夫だと思うけど?」
特に何も言われてないし。とセリアは考えるが父親は難しい顔をしたまま。
セリアはそれを見て、内心落ち込む。
きっと兄だったらもっと上手く出来たのだろう、と。
兄ほどの実力も無いがゆえに最終的には『絶対的自信』がない。それを見抜かれてしまう。だからと言ってここで兄に泣きつくのもイヤだった。
戻るときに言われたのだ。「交渉頑張れ」と。
セリアは自分を激励する。
「……よし! 今から村長さんの所に行こう」
「え!? 今から!?」
唐突な言葉にネーアが驚き聞き返す。
「そう! ネーアには悪いけど、アタシ、こんな村にニアやネーアをあまり長居させたくないもん」
「だからって……」
「失礼だって言うのは分かってるわ。でもね、今はやる時よ! 一歩も引いちゃ駄目なんだって思うんだ!」
「えぇー……」
「最悪でもネーア達の家族はお兄に連れ出して貰うから、荷造り今すぐして」
「……セリア~」
「だってイヤなんだもん。根本的な考え方がダメ。合わない」
首を横に振るセリア。今すぐにでも飛び出していきそうだ。
「ねえ、セリア落ち着いて」
「落ち着いてるよ! 大丈夫!」
「大丈夫じゃないよぉ……」
「何というか、兄貴と似ているな。流石兄妹」
シェーンは少し呆れたようだ。それから外套を脱ぎ始める。
「シェーン?」
「交渉にいくのであろう? 制服のままだと不味いからな」
外套には神殿のマークがついているのだ。
「シェーン。止めるの手伝ってよ」
「無理だと思うぞ。ここで押し問答をしていては余計に時間を食う。さっさと言ってさっさと交渉した方が建設的である。それと、この家は見張られているようだ。騒がしい、もしくはオレの防音結界で妙に静かだと思われているだろう。下手をすればバースト族が押しかけてくる。結界は張っていくが、何かあった時はお前が家族を守るのだぞ」
「えぇー……ちょっと待ってよ……」
「ネーア、これ、渡しとくね」
そう言ってセリアは電話をネーアに投げ渡し、さっさと出て行ってしまった。
シェーンもそれに続いて出て行く。
ネーアはぽかんとそれを見送っていたが、手だけは先に動いた。
通話ボタンを押す。
「……エドさま? セリアが……交渉に言ってくると村長の所行ってしまいました……」
『は?』
電話の向こうからエドの声が聞こえてきてネーアはやっと頭に回ってきたように電話を両手で握りしめ顔の前に持ってくる。
「それが! 今すぐアルフ族を全員引き取るっていって村長に交渉しにいっちゃったんです! シェーンと二人で!」
助けを求めるようにネーアは事情を説明する。
電話の向こうのエドは何も言わない。ネーアは、ふとエドが怒ってしまったのではないかと不安になる。
『アルフ族はその村には今、十六人居るようだな。そのうちの一つがネーアだ。だから十五人居る。それはセリアに後で知らせてくれ。で、もし娘と一緒に行く。とか引き離されるのはイヤだっていう人が居たら、一緒に連れてきて良いから』
「……え? 止めないんですか!?」
『たぶん止まんないと思うし。こちらでも注意を払っておくから、ネーアは家族のことをまずは考えな』
「……はい」
『じゃあ、またなんかあったら電話して』
そんな言葉と共に通話は終わった。
ネーアは電話を見つめため息をついた。
こんな予定じゃなかったのに。と。
本当は家族を紹介するタイミングで、ニアにも本当の事を言うつもりだったのだ。
貴方の母親なのだと。
なのに結果はお互いに自己紹介のジの文字もしてない。
こんなはずじゃなかったのに。私もゴドーさんのように暴走するセリアを止められるようになりたいなぁ……。
そんな泣き言を胸にしまい、ネーアは両親と妹を見た。
「引っ越しの準備をしましょう。必要な生活用品は後で買いそろえられるから、本当に必要な物だけまとめて」
戸惑う家族にネーアは精一杯の笑顔でそう指示を出した。