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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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居残り組

別タイトル。「会話回」

……今回主に会話ばっかりです。




いつもだって言われそうだけど……。あと今回はいつも以上にルビが多いです。


 何故、ついて行かなかったのじゃ?


 皆居なくなったら、何か有った時、宿の人達が困ると思ったからです。


 ふん、如何にもらしい(・・・)言い訳じゃの。本当はただ、ゴドーと一緒に居たくなかっただけじゃろ。


 ……違いますよ。


 そうかの。それなら良いが。お前は勝手にゴドーに対し、劣等感を抱き、嫉妬し、逆恨みしておるからの。


 …………。


 言うておくが、誰もお前とゴドーを見比べてなどおらんぞ。


 分かってます。


 言葉だけじゃの。


 ……ええ、どうせボクは狭量な男ですよ。


 ふん。そんなに悔しかったのか? 気まぐれを買ってくれる者がすでにゴドーのお手付きだった事が。


 そんなんじゃないです。


 ではなんだ? 左遷されても良かったから、自分の事が好きじゃいうて、気まぐれを買ってもらい裏でコソコソ売られる方が良かったかの? それがゴドーを上回る三回もあれば満足か?



 ……ボクを虐めて楽しいですか?


 楽しいの。実に楽しくて、実に不愉快じゃ。


 不愉快なら……。


 お前にはお前の悩みがあるかも知れぬが、ゴドーにはゴドーの悩みがあるであろうよ。むしろ、二柱の依代であるゴドーの方が悩みが深いかも知れぬな。


 …………。


 我がゴドーの肩を持つだけで嫉妬の炎を燃やすか。

 いや、我がではないか、全ての者がか?

 ほんに狭量じゃの。


 ……分かってますよ、そんなこと。


 願いを口にすること(叶える事)も出来ないお前はそうやって他者を羨むばかり。お前は何がしたいというのか。


 ……そんなに、そんなにボクの事が嫌いですか?


 いいや? お前はかわいい我が依り代。嫌いな訳がなかろうて。


 …………次は、必ずついて行きますから……。もう、許してください……。


 ……興ざめじゃの。



 その言葉と共に神の気配が消えた。

 薄暗い室内でミカは膝を抱えた。




***  ***



 あれはほんに、馬鹿じゃのう。


 トキミはミカから離れ、別の方法で声を押し殺し泣く姿を眺めてため息をつく。

 すくっと立ち上がったトキミに一人の女性神官が尋ねる。


「お出かけですか?」

「ヒノワの所に行く」


 そう言うと同時にトキミの姿が消える。

 神官の女性はため息をついた。


 暇だ暇だと騒がれるのも困るが、頻繁に神の宮を空にされるのも困る。

 しかし言っても無駄だろうと彼女も諦めて口を閉ざした。






「ヒノワ邪魔をするぞ」

「いらっしゃい。残念だったわね」


 ヒノワの言葉にトキミは眉を寄せた。


「ふん。あの馬鹿はゴドーに対して嫉妬しておるからの。エドとゴドーが一緒にいるのを見たくなかったのじゃろう」


 腕を組んでふんっと顔を背ける。そんなトキミにヒノワは苦笑する。


「もう、またそんな呼び方をする。それにそんな言い方しないで上げて? ゴドーの事ばかり気にかけてた私達にも責任はあるわ」

「有るわけなかろう。ゴドーは初めての試みじゃ。ヒノワとツキヨが気を遣うのも当然であろう。神降しを失敗すればあっさりと自壊したであろうしな」

「……そうね」

「そもそもじゃ、太陽神と月神の依り代(ゴドー)に嫉妬してどうする! 時空神の依り代(先輩)に嫉妬するのならともかく! そういうところがあれは馬鹿じゃというのだ!」

「それだけ、周りの注目をゴドーが集めていたというわけでしょう? ミカ君とゴドーは同じヒューモ族だし、同じ男。誰に何を言われなくても、自分で自分を傷つけるという事だってあるでしょうし」

「ふん。馬鹿馬鹿しい」

「トキミ」

「なんのために我がミカ(あの馬鹿)を選んだと思っておる! 他の者達よりも仲良くなれる可能性が高かったからじゃ! ゴドーに変な嫉妬をしなければ、今頃普通に話しておったはずなのじゃ! 確かに、ファーストキス騒ぎは誤算じゃったが」


 最後の一言は視線を逸らして言う。ヒノワも騒ぎを知っているので苦笑する。


「まったく忌々しい」

「……あなたの気持ちも分かるけど、あまり自分の子をいじめてはダメよ? 嫌われてしまうわよ?」

「それは重畳。それだけの覚悟を持てるのであれば、我は喜んでアレの願いを叶えてやろう」

「もう……」


 呆れたのを隠すことなくヒノワはため息をついた。


「ミカには覚悟がなく、ゴドーには覚悟があった。ただそれだけの差じゃ。その差が今を大きく変えておる。エドのスキルが暴走した時、ゴドーはその覚悟を見せた。躊躇うことなく、神を呼んだ。他の神官に気取られれば、自由を失うのに何一つ躊躇わなかった」

「ええ、そうねえ」

「あれが無ければ、エドとゴドーの絆はあそこまで強くは無かったと我は思うぞ」

「それはどうかしら?」

「我が太鼓判を押そう。あれが分岐点じゃ」

「そう。トキミがそういうのならそうなのでしょうね」


 ヒノワは頷いて、それから小さく笑った。


「---ひな鳥」

「ん?」

「ゴドーはエドの事をそう呼んでいたのよ。私の大事なひな鳥を助けてくださいって私達に願ってきたの」

「ひな鳥……ね。なるほど?」

「あの子がエドの事をどう思っているかよく分かるでしょう?」

「ほんに」

「……そうね。確かに、ミカ君には覚悟が足りなくて、ゴドーには覚悟があったのかしら? あの子はあの見目で何度となく裏切られてきたからエドの純粋な好意が嬉しかった。あ、この場合の純粋な好意はスキルに対してなんだけどね?」

「気まぐれスキルを担当すれば誰だってそう思うであろうよ」

「ええ、要らないとか役に立たないとか、彼らが何気なく口にする言葉は神の依り代(あの子達)にはどう響くのかしらね」

「さての。(我ら)には分からぬよ」

「……そうね」


 悲しそうに目を伏せた後、ヒノワは思い出す。


「そういえば、ゴドーにお願いされたことがあったのだったわ」

「ゴドーはすんなりと願いをお前達にもの申すのじゃなぁ……」

「主にエドに関しての事か、本当に自分ではどうしようもない時だけね。それでね、あの子時間が止まっていても動けるようになりたいって願ってきたの」

「ん?」

「ルベルトが来て時間を止めたでしょう? それを後で知って自分も動けるようにして欲しいって」

「過保護じゃのぉ」

「ふふふ。そうね。私達は構わないと思っているの。後は時空を司る貴方の許可が貰えたらそうしてあげようと思って」

「ふむ? ……構わぬぞ。ただそれにより、辛い思いもする可能性も上がるがの」

「あら? そうなの?」

「何があるとは言わぬぞ。エドが関わっておる分、確定するかも怪しい未来じゃからの」

「そう言えば、エドは、『ふらぐくらっしゃーじゃー!』とか言ってたわね、貴方」

「言いたくもなる! 予定通り進んだかと思えば突然方向転換をするかのように未来を変えるのじゃからな!」

「ふふふ。ならきちんとゴドーに確認を取ってから授けるわ」

「……答えは一択のような気もするがの」

「そうね」


 一瞬二柱の間に沈黙が流れる。

 そしてヒノワは頷く。


「うん。やっぱり一択だったわ」

「であろうな」


 この短い間にヒノワはゴドーに時間停止の中でも動けるようにしたようだ。


「それで? 昼間、エドとゴドーはどこに行ったのじゃ?」

「どの辺が『それで』なのよ」


 話が繋がっていないわ。と言いたげなヒノワにトキミはふんぞり返る。


「我がここに来た理由じゃからじゃ!」


 先にヒノワから話しかけられたせいで、後回しにされたがトキミにとってはそれが気になる話だったのだ。


「でも、私達あの子から何も聞いていないのよ」

「何?」

「エドが精神的に参っていたのは事実みたいね。でも、何があったのか、どこにいったのか、あの子教えてくれないのよ」

「……告げられないように呪をかけられたか?」

「うーん……。その可能性もあるけど、エドと一緒だったから、口をつぐんでる可能性もあるのだけど……」

「しかし、一瞬とは言え、ヒノワとツキヨのリンクが弱まったのであろう?」

「ええ」

「ならば他の神の神域に入ったことは間違いないじゃろうて」

「まあね。そうなんだけどねぇ。その割にはあの子ピンピンしてるから」

「……エドと一緒だったのだし、日本にでもいったのではないか? あそこなら大らかな神も多いというしの」

「そうね……それならいいのだけど。神によってはとても嫌がると思うし、何も無くて良かったわ」

「うーん。何度見返しても異世界転移しているようにしか見えんのぉ」


 念のためにと己の力を権限させて過去を見返してトキミが言う。


「そう。ならきっとそうなのね」

「特にこれと言った異常も見当たらないのであろう?」

「ええ」

「なら、これ以上心配する必要はないじゃろうな」

「そうね」


 権限させていた力を回していたトキミの動きが一瞬ぴたりと止まる。


「……ヒノワ。さっき、ゴドーの願いを叶えた代わりに、我の願いを叶えてくれんか?」

「どうしたの急に」

「ハニの通りに神殿を建てるつもりで土地を確保してあった場所あったじゃろ? あれ、エドに授けたい。『箱』もきちんと用意して」

「えぇ!? そんな事したら、またエドに迷惑がかかるじゃない。そんなのダメよ」

「ダメは無しじゃ!」


 あまりにも必死に首を横に振るトキミにヒノワは首を傾げた。


「何かあったの?」

「今確認したら、エドとミカがくっつく未来が激減しておったっっっ!!」

「あら……」

「『あら』ではない! お前達が『当たりスキル』なんて用意するからじゃぞ!! あれが当たったらミカに未来はない!!」

「あー……まぁ。そうかもしれないわね」

「ただでさえ、あのミカ(馬鹿)のせいで減っておったというのに! とにかく! あの土地は我が貰っていくからの!」

「もぉー、きちんと二人にも許可を取りなさいよぉー」

「分かっておる!」


 慌てて立ち去っていったトキミにヒノワは肩を竦めた。

 気持ちは分かるが慌てすぎだろう、と。

 ヒノワは目を閉じて、開く。

 それだけでゴドーの視界が見える。

 ゴドーの目が自分の目となり世界を見つめる。


 天空からとは違う視線は色鮮やかに、人々の表情をその瞳に映す。




 過保護、か。そうね、トキミ。ゴドーは確かに過保護かも知れないわ。

 何からも守ってあげたいって思ってる。

 大事な大事なひな鳥が、成長し巣立っていくのを。

 けして凶兆を呼ぶ鳥にならないように。


 もし凶鳥(そう)なってしまったら……、きっとその時は狩人(ゴドー)も壊れてしまうかも知れないわね。


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