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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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模型



 



 あれから、きちんとした休息を取り、「はっ! 一週間分のスキル!」「一日一回!」のある種お約束なやりとりをすませ、俺たちは家に戻ってきた。この世界から転移したコンマ数秒後に。

 これで俺がゴドーに何かしたと、神の怒りに触れてヒューモ族に危害が及ぶとかなるのと、どっかの英雄王が敵に回るので極力気を使ったのだ。


 それにしても、中々当たんないな、シム。

『本格的に幸運を使用しますか?』

 そすっと楽しみもなくなるから我慢するよ、欲しいけど……。

『畏まりました』

 残念そうに言うなー。俺だって残念だー。




 せっかく村に戻ってきたのだから、と、母さんの所に顔を出して、鍛冶屋のおっちゃんのとこ行って、農家のおばちゃんの所に行って、と、売り物を補充する。

 上流階級向けの商品は今まで通りお世話になってる店に納品しそこで売ってもらい、新しい店は中流階級の人達をターゲットにする事になった。

 貴族相手に接客出来るか? と、ルベルトに問われたから気づいた。

 無理ですごめんなさい。って謝れる自信は有る。

 やれってならやるけどさ。でも、そこまでする必要性を感じなかったので、中流階級をターゲットにした店をする事にした。


 俺たちの目的はあくまで夏の住人の支援だし。




 宿屋に戻り、黒天馬を馬小屋に戻す。

 バロン達は……王都を散策中か。マップで確認し、グループの中にセリアがいるのも確認したところでまずは一安心する。

 いや、大丈夫だとは思うけど、アルフ族とバースト族だけで歩いていると妙な絡まれ方しないかな、と不安なんだよな。

 セリアが居れば嫌な言い方だが、彼らはセリアの奴隷とでも思われるだろう。

 ……ホント嫌な考え方だけどな。



 俺は夜に使う夏の国の模型というか3Dマップを作り、ゴドーは転移アイテムの使い勝手を確かめるために、あちこち転移してて、現れたり消えたりしている。


 3Dマップに着色し始めると思わず苦笑してしまう。

 緑なんてほぼないね。砂漠を表す肌色に、紫霧を表す紫色に、海の濃紺がほとんどだ。

 こうやって見るとほんと夏の国は人が住める場所が少ない。


 3Dマップがほぼ完成間際になった頃、転移を十数回繰り返していたゴドーが首を傾げて俺の前に立った。


「なぁ、エド、これ、魔力を消費してる感じがしないのだが」

「ああ、星屑が入ってるからね」

「……星屑?」

「スキルだよ。シェーンとミカのは使用者のMPと周囲の魔力を集めて使う魔法陣を組み込んであるけど、ゴドーのは、お詫びもかねて、『星屑』ってスキルを埋め込んであるんだ。まぁ、デカイ魔石が埋め込んであるとでも思っててくれよ」

「…………そういう言い方をするって事は、それ以上の性能を持ってるって事だよな?」

「人生知らない方がいいって事もあるよ?」

「………………エド、お前がそういうとシャレにならないのだが……、実際のところどうなんだ?」


 おや、聞きます? 聞いちゃいます?


「星の始まりから終わりまでのエネルギーが蓄積されてる。まぁ簡単に言うと世界中の魔力を集めたものが数十万年分よりももっと凄い物が凝縮されてるって事だな」


 ぐっと親指を立てて、にこやかな笑顔で言った。

 ゴドーは絶句し、「聞かなきゃ良かった」と呟いた。

 俺はそれに「だからいったじゃん」と笑って返す。


 ゴドーはブレスレットを撫でては眉を寄せて難しい顔をしている。俺はその様子を笑ってみていた。

 ゴドーのあれは特別製だ。

 前に渡した指輪にもプラネタリウムにも、実は星屑は入っている。でもそのスキルの持ち主は俺で、俺がそのスキルを外したいと思えば外せる。でも、今ゴドーがしているブレスレットは違う。

 スキルの所有者は俺ではなく、アクセサリーの装着者にしてある。

 星屑だけではなく、『輪転』という死んでも生き返られるスキルも、結界の中で一番強い『異次元結界』も入れてあり、それの持ち主はアクセサリーの装着者にしてある。たとえ何があっても……、そう俺が死んでも、ゴドーが生き残れるように、と。

 あと、こっちは所有者は俺のままだが、異世界転移も農園のスキルも付けてある。ゴドーが飛びたいと思った時に飛べるための道しるべとして。

 アクセサリー自体はゴドー以外に使えないようにしてるから落としたり盗まれたりしても大丈夫だろう。


「……エド、さすがに、これは……」

「さっきも言ったけど、お詫びだよ」

「……確かに、縛られて目隠しされたのは少し怖かったが、それ以外は大した事はなかっただろ?」


 ゴドーの言葉に俺の手が止まる。

 そして、こいつマジで言ってんのか? って目でゴドーを見た。


「大した事ない? 他にも殴られたり叩かれたりしたのに?」

「ああ、それは」


 ゴドーは笑う。大人が子供に対して見せるような笑みだ。


「自分の事だから気づいていなかったかもしれないが、あの時のお前は泣きそうな顔をしていた」

「…………」

「だから、きっと何か辛い事があったのだろう、と」

「ゴドー、ちょっとそこに正座」

「ん?」

「いいからそこに正座」

「……なんで、怒ってるんだ?」

「ああ、きちんと怒ってるのは分かるのか、それは良かった。正座」

「はい」


 にこやかな笑顔と共に床を指させば、ゴドーは素直に従った。

 正座が分からないのか足を崩して座ったので、俺が対面する形で正座し、同じように座るように指示する。

 ゴドーは指示に従い、正座に座り直す。


「いいか、ゴドー。確かに俺はあの時、精神的に参っていた。それは認める。実際ゴドーが俺を受け入れてたからこそ、今の俺があるわけですが」

「精神的に参っていたってなにが」

「黙って聞く」

「はい」

「俺は確かにゴドーに感謝しているがな。でも、あの時も言ったが、NOと言える人間になろうか、ゴドー。自分が殴られるも叩かれても、受け入れるっていうのはいかんだろ? もっと自分を大事にしろ。もっと自分を」

「…………エドの言いたいことは分かった」

「なら、次は」

「でも、私にも矜持がある。エドがニホンジンとしての矜持があるように私にもヒューモ族としての矜持がある。悪いが、従えない」

「……なんだよ、ヒューモ族の矜持って」


 あんのかよ、そんなもの。少なくとも俺にはそんなもんあるようには思えないんだがなぁ?

 ほぼ睨むような感じでゴドーを見ているが、ゴドーはそれに対して微笑すら浮かべていた。


「あるんだよ。ヒューモ族にも、そういうのは、きちんと」

「……ゴドー」

「エドの心配はありがたく受け取る」


 ゴドーの表情は何を言っても無駄だって分かった。

 舌打ちしたいのを堪える。


「…………分かった。でもそれならなおの事、そのブレスレットは持っててくれ」

「いや、これせめてもうちょっと」

「持っててくれ」

「……分かった。エドは心配性だな」

「心配性にもなる」


 はー。とため息をついて俺は立ち上がろうとして止めた。

 そしてゴドーをじーっと見る。


「……まだ何かあるのか?」

「……とりあえず、三十分この体勢でいる事が出来たらゴドーの決意が本物だって認める」

「はぁ」


 別にこんな事しなくても、その矜持とやらが本物なのは分かってるんだけどな。でも、納得出来ないから、嫌がらせぐらいはする。

 子供か! って言われそうだけど、実年齢は子供だ! 問題ない!


 向かい合って、互いに正座する事、五分。

 ゴドーの目がちょっと泳ぎだした。

 十分も経つと足がもぞもぞと小さく動く。

 十五分もすると、「エド、何か話そう」と気を紛らわせにきた。

 二十分もすると「あー」とか「うー」とか言ってくる。

 三十分もすると、程よい感じで痺れて、ちょっと触るぐらいで、ピーピー言い出した。


 俺? 俺は状態異常効かないし。

 ゴドーも俺が上げた指輪の影響で本当は効かないんだけど、今だけ効果切ってるから十分に痺れてる。


「ちょ、え、エド、触らないでくれ……」


 足が痺れて動くことも出来ないゴドーの靴の上から揉む。


「えー。ゴドーは優しいからこれぐらい許してくれるだろ?」

「……あのな、いたズっ!? ……ら、を許すのとは、また、別……ちょ、待ってくれ……」

「いたずらじゃないし、嫌がらせだし」

「変わらない!」


 悲鳴のような声が聞こえてきた。俺が指輪の発動を再開すると一瞬淡い光が包んだ。

 ゴドーは一息つき、俺を見てくる。恨めしそうに。


「ほんと、自分を大事にな」

「…………ああ、分かってるよ……」


 お前が言うなっていう顔をしてたが、それは飲み込んで頷いてくれた。

 ほんと、頼むぜ、ゴドー。

 俺はそう願うしかなかった。






 夕食を終えた俺たちは、全員が集まると狭い宿の部屋で、一つの模型を囲んで座っていた。

 昼間作ってたそれは、一発で、夏の国は人が住める地域が少ないとしらしめる。

 セリアはそれを見て、眉を寄せていた。

 それが当たり前の夏の国の住人は、3Dマップに感動をしていたようだが。


 俺としては、セリアの反応の方が良かったなぁ……。


「すごい、分かりやすいですね、この地図……」

「そういう感動は今はいいから、ネーアとタンガの故郷はどこ? まずはそこの水は増やそう」


 二人の家族がいるのだからそこは最優先である。

 3Dマップと言われても、縮尺はそれなりにあるからか、ネーアには村の場所が分からないようだ。ネーアの村の名前を聞いてタンガが二つの場所を示す。

 


「じゃあ、ネーアとセリアとニアはネーアの村にまず行ってきてくれ。積もる話もあるだろうし。あ、もしセリアが邪魔だった場合は、そう言ってくれれば回収するから」

「ちょっとお兄!」

「いえ、どうせならきちんと紹介したいです。私の大事なお友達だって、何度もセリアには助けられたって」

「ネーア!」


 感動しているセリア。ちょっと前から思ってたのだが、セリアはチョロインではないだろうか。

 いや、でもやっぱり友達にそう言われると嬉しいだろうか。

 想像してみる。…………。

 …………気恥ずかしいってのはないのかね、あいつ。


「じゃあ俺たちはタンガの村に行くとしよう。三人はどうする?」

「オレはセリア殿達と一緒に行こう。男手が必要になるかも知れん」

「私はエド達と一緒に行くぞ」


 シェーン、ゴドーは即座にそう返してくる。ミカはそんな二人を見て、視線を俺たちに向けて、軽く息を吐いた。


「私はここに残る。全員居なくなったら宿の人達が困るだろう」

「じゃあ、コレ渡しとく。ここのボタンを押すと俺と話し出来るから、セリアにも」


 連絡手段がないと何かあった時に困るしと『伝話(電話)』を作っていたのだ。


「あと、これはネーアとニアに。二人が今まで頑張って生み出した水が入っている。時間は経過してないから普通に飲める。村で配るといいよ」


 もちろんステータスの面もあったが、実はそのために水袋を渡して、ひたすら水を生んで貰っていた。

 本人達が有効利用するか、帰った時に配るかして貰おうと思っていたのだ。


「ありがとうございます」


 水袋をネーアは大事そうに受け取った。ニアはよく分からないようで首を傾げて水袋を見ていたのでセリアがその水袋を取り、ネーアに預けている。


「さて、それじゃあバロン。この地図をよぉーく覚えておけ」

「は、はい!」


 俺の言葉に3Dマップの細部まで覚えようとしているバロン。そんな彼に俺はこう声をかける。


「覚えておけ。お前がその地図を緑色に変えてくんだから」


 驚いた後彼はとてもいい笑顔で頷いた。

「はい!」




 それから数分後、俺はセリア達を先に転移させ、そして俺たちもタンガの村に転移する。

 






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