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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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害悪と言われる記憶

誤字脱字修正



 転移アイテムの代金代わりに夜のお世話を頑張ろうか、なんてからかってくるゴドーに俺は「今日はもうお腹いっぱいなので遠慮します」と返したら、少し驚かれた。


「……娼館にでもいったのか?」

「へ? ああ、違う。朝、来てた少年覚えてる?」

「ああ。ちょっと……不可思議な子だよな?」

「不可思議?」

「なんというか……、見た目通りじゃないというか……。そうだな、エドに近い雰囲気があるかもしれない」

「俺に近い雰囲気ねぇ……。ルベルト・ホーマンって知ってる?」

「それはもちろん」

「彼」

「は?」

「あの少年がルベルト・ホーマン」

「……本物か? ……と、問うだけ無駄か……。エドが確認したのなら本物だろう。つまり……、エドを見に来たというわけか」

「みたいだね」

「あっさりと帰ったのはエドのステータスを見たということか?」

「うー……ん、違う、ミカが追っ払った。時間を止めるとさ、隠ぺいを見破る力に抵抗する意志がなくなって、悪魔の目で見放題なんだ。彼は俺に対しそれをしようとした。でもミカが止めたんだ。神官である自分の前で見るなっていってさ」

「そうなのか……」


 説明をしていくとゴドーの表情が曇っていく。おや?


「すまない、そんな危険な事になっていたとは」

「いや、別に危険じゃないよ? 大丈夫だったよ? それで色々聞いてみたくなってさ、みんなと別れた後、会いに行ったんだ。いやぁ、恐ろしいね、あの人。長いこと生きてるだけあるわ~」

「何かされたのか?」


 俺の隣、というかベッドの空いている所に座り、心配そうに尋ねてくるので俺は首を横に振った。


「そういうんじゃなくてさ、なんていうか経験の差? 会話の一つ一つで色々見透かされる気分になるね」

「へぇ……」


 ゴドーの手が俺の頭に伸びてきて撫で始める。

 ……いや、いいんだけど、最近、ゴドーさん、撫でる事増えたぞ? あれ? なんだろう、前よりも子供扱いされてる?

 まあ好きにさせるか、とゲームを手にし俺は俺でゲームをしつつ話す。

 スキル「並行思考」があると二つの動作、三つの動作を一度にやれるし考えられるのがいいね。……社会人だった時に欲しかったなぁ……。コレ……。

 ……そういう事はすぐに思うんだな、俺……。もしや社畜だった……?

 ぶるぶる。考えるのはよそう!


「もし戦う事になったとしても、負けないとは思うけど、勝てるかっていうのも微妙なところで……。隠し球の一つや二つは持ってそうだな、と」

「……なんで戦う事前提に話ししてるんだ?」

「あー……俺がもし、ヒューモ族を滅ぼすような存在だって思われたら、戦う事になるんだろうな、と。あの人は、国がどうのじゃなくて、ヒューモ族が大事なんだよね。たぶん、自分の血を引く子孫にも容赦はしないんじゃないかなぁ……」


 王家にとっても味方に見えて味方じゃないと思う。

 

「いや、だから、エドはそんな事しないだろ?」

「……する気はないけど、相手がどう思うかは分かんないじゃん? 夏の国の住人を救いたいっていうのがヒューモ族に徒なすって思われるかもしれないし」

「それは飛躍しすぎじゃないか?」

「……俺の考えすぎならそれでいいんだ」


 俺の大事な人に害が出ないのなら。

 ……まあゴドーは大丈夫みたいだけど。下手な事したら神の怒りに触れるみたいだし。

 

「……ところで何をやっているんだ?」

「ん? これ、ゲームやってみる?」


 ほいっと差し出すと戸惑った様子で受け取り、説明をしながら実際にやってもらう。


「……エド、このキノコ追ってくるんだけど!?」

「いや、そういう敵だから。倒して」

「た、倒す? えっと…………どれだっけ!?」


 ボタンをガチャガチャを押して、なんとか倒す。

 右にジャンプしようとすれば両腕が右にぴょーんと動き、左に逃げようとすればゲーム機ごと左に避けてみたり。まさに素人らしい動き!


 和むわー。


 どっかの誰かさんは玄人並みだったからなぁ。

 初めてやるクセに全ステージクリアとか。

 スキル使用は思いっきりチートだよな。ゲーム会社は泣いているぞ!


「うわっ、なんか変なキノコが出た」

「あ、それパワーアップのキノコ…………って、なんで避けたんだ?」

「どう見ても毒キノコだったから」

「……あれは取って良いアイテムです。赤い笠の白斑点だとしても……」

「そ、そうなのか。敵のキノコとの違いがわからない……」


 そんな事をぼやきながらゴドーはゲームを進める。何度か死んだけどなんとか一面をクリアした。


「やった! 出来たぞ!」

「おぉ、おめでとう」

「疲れた」


 そう言ってゴドーは俺にゲーム機を返してベッドに転がってしまう。

 俺は続きを進める。


「……エドの世界では、こういうのが溢れていたのか?」

「うん」

「そうか……凄いな」


 ゴドーはそう呟いて目を閉じた。

 眠るのかと思ったが、疲れた目を休めているらしい。

 動く絵がかわいいな、とか、音楽が面白かったなんて感想をぽつぽつと口にしている。


「エド達の世界はああいうので溢れていたんだな……」

「うん」

「エドの家で、色々異世界の遊びを教えて貰ったが、これは全然違ったな」

「ああ、あれは、この世界でもすぐに出来そうなものばかりだったからな。実際に似たようなものはあるみたいだし」

「……楽しかったな……。エドが用意してくれたお茶やお菓子も美味しかったし……」

「ゴドーが持ってきてくれた果物でフルーツポンチを作ったりもしたっけ?」


 思い出を語るゴドーに会わせて俺も思い出した事を口にすると、ゴドーの唇が笑みの形を作った。


「果物だろうと野菜だろうとエドがいつも美味しく調理してくれたから、持っていくものを選ぶのも楽しかったよ。どんな……ものが、出来るだろうか……って」


 あふっとあくびをするゴドー。声もだんだんか細く、とろいしゃべり方になってきた。


「ゴドー、こっちで寝るの?」

「んー……」


 どっちだよ、と思うような答えが返ってきて、そしてぽつりとゴドーは呟く。


「幸せ……だったな……」


 幸せとはまた大げさな。

 そう思ったが、確かに美味しい物を食べた後は幸せな気分にもなると納得してしまった。

 そうこうやってる内にゴドーは眠っちゃって、俺はとりあえず音を鳴らし続けるゲームを止め、前にも使ったブランケットを出しかけてやる。

 その時、気持ちよさそうに眠るゴドーに……、ムラっと来た。

 死ね俺。

 


 自分自身に悪態をついたからか、翌朝は、いつもより症状が酷かった。

 いや、本当は、ここ数日の我慢が限界に来てたのだろう。


 女性を抱きたいっていう欲求だ。


 流石に本気で不味いと不安になって、シムに絶対止めろと一番上の権限まで渡しつつ、ネーアと二人っきりにならないように気をつけてたのに。


 廊下でばったり会って、それが二人っきりだったと分かった瞬間手を出すとは思わなかった。


「……エド……さま……?」


 熱の籠もった目で俺を見上げてくるネーア。

 俺、汗ダラッダラ。


 シム……せめて、キスする前に止めてくれ……。

『流石にアレは無理です』

 うん。ごめん。悪いのは俺です。


「……ごめん。……ちょっと、暴走気味になってて……。ごめん、気をつけてたのに……」


 ネーアの二の腕を掴んで離さない手。

 動け、俺の、手。離せ、俺の手。

 俺の体なんだから、俺のいう事聞けよ。手を、離せ。


 意識して、強く意識しないとそのぬくもりを離せなくて、俺は痕が付きそうな程、強く握ってしまった腕を放し、一歩、また一歩下がる。


「ごめん……」

「ふふ……。謝らないでください。かまいませんよ」

「え?」

「エドさまが望むのなら、私、いくらでも相手しますよ」


 優しくて、可愛らしい笑顔を彼女は俺に向けて、そう言ってくれた。

 その言葉が凄く嬉しくて。その言葉に甘えたくて。だからこそ、辛くて、痛い。


 いいじゃないか。と囁く俺もいる。俺はヒューモ族なんだし、相手が良いって言ってるのなら、してしまえばいいのだ、と。


 でも、俺は……。俺は、それが嫌だった。

 害悪とすら言われた日本の常識に、日本での記憶に、思いに縛られているからこそ俺は俺なのだ、と。そう思う俺もいるのだ。


 せめて……もうちょっと違う年齢で「焼き付け」が起こってたら、変わってたのかもしれないけど……。


「……ネーア、ありがとう、とても嬉しいよ。でも、もうちょっと頑張ってみる。ごめんな」

「別に本当に謝らなくて大丈夫ですから」

「うん……。でも、俺が謝りたいんだ。ごめん、ただの自己満足で謝ってて」

「……分かりました。その謝罪受け取ります」


 笑顔で頷いてくれた彼女に俺も返すように笑って、そこで別れる。

 俺は部屋に戻り、扉を体で閉める。

 背中を扉につけたまま座り込んでしまいそうだった。


 叫びたい。声をあげたい。怒鳴りたい。


 それはどちらの思いなのか。まるで心と体とで意識が二つあるような感覚に、俺は唇を噛みしめた。


「スキル『異世界転移』発動」


 そうして俺は、逃げるように日本へと転移した。






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