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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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ルベルトとエド



 シムからルベルトの話を聞いた時、俺は冷酷な人なのではないか、と少し思った。

 敵だろうと味方だろうと徹底して利用してやろうっていう人なのじゃないかと思ってたのだけど。

 彼は今、静かにミカが落ち着くのを待っている。

 ミカに突き放す言い方をしたのに、今はその容姿に似合わず、慈愛を持ってミカを見ているようにも見える。

 ……そういや、ミカがタメ口をきいても怒るどころか、眉一つ動かさなかった。

 まるでそれが当然というかのように。……まぁ彼の口調も尊大なものになったけど……って、彼の場合は普通に許されるのか。だって元って事は今も普通に王族なわけなんだろうし……。

 

『マスター。我らはマスターの願いを叶えるために存在し、全力を尽くします。どうぞ、マスターが思うように動いてください』


 俺がツラツラと言い分けするように考えているとシムからあっさりとそんなお許しが出てきた。

 うん。ありがとう、シム。でも、今は大人しくしとくよ。


 ルベルトはミカが落ち着くと、回復魔法を使って、赤く腫れた目を治す。


「吾にはお前がそうやって泣く理由は分からぬが、そうやって泣くぐらいならあがいたらどうだ?」


 どんな秘密があるか分からないからなんとも言えないけど、でも根本的には俺も彼に同意見だ。

 ……神様に禁止でもされてるのかねぇ。秘密っていう言い方からして違う気はするけど……。


「では、時間を戻すぞ」


 彼はミカにそう声をかけた。俺も慌ててそのタイミングを待つ。


 静かだった世界が急に色んな音とニオイに溢れた。


「お邪魔しました、失礼します」


 彼は再度頭を下げて立ち去っていく。


「なんだったんだろうね、あの子」


 俺の隣でやりとりを見ていたセリアが首を傾げた。


「なんだったんだろうなぁ」


 俺はそう返す事しか出来なかった。




 一度は中断したが、話し合いの結果、神官組は神殿に行って学校の手続きを、俺以外のメンバーは日常生活品を買いに行くことに。俺は店を作るにはどうしらいいのか、知り合いの商人に聞いてくるという事で一人別行動である。


「こんにちは、今いいですか?」


 にっこりと笑顔をみせて先方に声をかける。


「…………一応、ここには特定の場所以外転移が出来ないように結界が張られているのだがなぁ……」

「あれ? そうなんですか?」

「そうだ。もっとも、残念ながら、高位以上のスキルには対応出来ないけどな」


 彼は移動しながら俺に話しかける。そして、イスを引いた。


「どうぞ、座ってくれ」

「では、遠慮無く」


 彼は反対のイスに座り、俺と向かい合う。

 彼の表情には先ほどの笑顔などは特になく、無表情に近い、で、今度は逆に俺の方が笑顔を貼り付けてる。


「それで、はぐらかしたくせに、わざわざここに来た理由はなんだ?」


 顔に不釣り合いな程冷たい眼差しを向けられる。俺はそれも笑顔で受けた。


「お互いに一問一答形式で情報を出し合いません? 先ほど、ミカっていう神官としたように」

「…………もしかしたら、と思ったが……」

「ええ、ばっちり聞いてました。だから気が変わりました。俺の質問に、貴方なら答えられそうだなって思ったので」

「なるほど。良いだろう」


 彼、ルベルトはしっかりと頷いた。


「あ、本当ですか! やったね! たぶん大丈夫だと思うんですけど答えにくい質問だったら答えなくて良いので」

「それを認めたら都合の悪い事は全て答えないとなるぞ?」

「構いませんよ。別に。それで」

「…………その分、自分も答えない、と?」

「一応、答えるつもりではありますよ?」

「……一応、ね。それで? 聞きたい事とはなんだ?」

「まずはそちらからどうぞ」

「……いいのかね?」

「ええ、信用して貰いたいってのもあるので」

「……では、言葉に甘えよう。まずは一つ目だ。君は、ヒューモ族など滅べば良いと思っているか?」

「いえ、全然思ってないですけど……」


 予想外の質問が来て、ちょっと戸惑う。なんでそんな質問に?

 てっきり転生者からくると思ったのに。


「そうか。ではそちらの質問をどうぞ」


 ……あ。失敗したな。てっきり転生者の話が出ると思ってたのに、そんな事ないんだもんなぁ。

 上手くいかないものだ。


「……心と体のバランスっていうのを話してましたけど、それは転生者にも起こると思いますか?」


 一瞬別の質問しようかと思ったけど、向こうの質問がいつ無くなるか分からないから重要な事を優先したいと思った。これがあったから俺は彼と話しがしたかったのだ。


「……前世の種族によるだろうな。ダビル族であればそう酷い事にはならないと思うが、エジュラ族ならば起こりえるだろう。だが、彼にも言ったが、君が自分の心に嘘をついていないのであれば、起こらないはずだ」

「……自分の心に嘘?」

「そうだ。彼がそうであったように、な」

「ふーむ?」


 俺は腕を組んで、首を傾げた。


「っと、あ、そっちの質問をどうぞ」

「……君は転生者のようだが、種族名は?」

「日本人です」

「…………それは、どこかの村名か何かか? と、いや今のは良い」

「異世界人ですよ。正確に言うと」

「異世界人?」

「そうです。あるでしょ? スキルにも」

「……君は……いや、まずは君の質問に答えよう」

「さっきの話にも近いですが、こういう場合、心と体のバランスってどうなるのかな、って。流石にヒューモ族ほど、明け透けじゃないですけど、ミカが望むほどの厳格さは無かったんですけどね。でも、どうにも体が暴走している気がするんですよ。知り合いは成人したて、というか、そういう事をした直後は割とこうなりやすいって言ってたんですけど」

「それは正しい。三年から五年は落ち着かない場合もある」

「げ! 長!」

「……長いかね?」

「いや、長いでしょ!」


 早くて三年とか!


「数日に納める方法ってないですかね?」


 問いかけると彼は答えてくれなかった。

 首を傾げかけて、俺が二問目になっている事に気づいた。


「あ、今度はそっちの場合ですね、どうぞ」

「いや、先に答えよう。数日に収まる方法があるとしたら、優先順位の高い欲望を叶える事だ」

「……それが思い浮かばないんですよねぇ……」

「欲しいものと言われて想像するのはなんだ?」

「うーん、スキルですかね」

「ではそれを得ればいい」

「いや、それが一日一回って限定されてて」


 はっ! 確かに我慢させられてる!!


 って、俺! 『はっ!』じゃねぇよ! この程度の我慢で心と体にバランス崩すとか! それはそれでありえねーから!


「……どうやら君は、前世は短命種に属す人種のようだな」

「え?」

「我々長命種にとって五年なんてたいした事は無い。でも短命種に取っては長い。数日でという辺りも短命種が口にしやすい言葉だ。もう一度最初の質問を繰り返したい。君は、短命種という事でそれなりの扱いを受けたと報告があったが、それでもヒューモ族に対し、仇なすような事をしたいとは思わないのか?」

「思ってませんよ。俺の大事な人もヒューモ族ですもん。そりゃ父親は俺の事嫌ってましたけど、でも母さんは俺の味方だったし、ヒューモ族の友達も居ますし、村で親切にしてくれた人達もいます。全てが悪い人じゃない」

「…………そうか」


 彼はそう一言呟いて、息を吐いた。

 冷たい目はなくなって、『これが俺の平常』という様子に切り替わった気がする。

 不安ごとが消えたのだろうか? それならありがたいのだが。


「他に聞きたい事は?」

「えーっと……、なんで俺が前世持ちだと思ったんです?」

「プラネタリウムを見たからだ。成人したてが作れるようなものではない。作り方は分からなかったが、少なくとも11種類のスキルが使用されていた事は確認出来た。その内容が設定や放出、さらには結びや処理速度向上など、使い方が分からない者が多いスキルが多数使用されていた。あれを見て、本物の新成人などと思う者はいない。吾ははじめ、エジュラ族の生まれ変わりだと思ったくらいだ」

「エジュラ族……なんでです?」

「彼らは昔、スキルの研究をしていたからだ」

「あ、やっぱ居たんだ。スキルを研究してた人達」


 正直居ない方がおかしいしな。


「ああ、居た。種族全体で大がかりにやっていたらしい。そして、その中の一人が巨大な力を得て、復讐を始めた。エジュラ族を冬の大地に押し込めた吾らに」

「……復讐ですか……。同盟の話が出てた時点で、わりと、一種族で対抗するのは難しいと思うんですけど、アルフ族やバースト族と同盟を組むってのはなかったんですかね?」

「ないであろう。彼らは誇り高い。自らの種族が一番神に愛されている種族だと思っている」

「へぇ」

「だから吾は声をかけた。断れるのはわかりきっていた。そしてそれを他者に伝えないことも。同盟を成した後、結果が出た後で、新しい世界で彼らに恨まれる事を危惧していたからだ。他の種族と条件は同じ、そして自らの判断により、同盟を断ったのだから、恨まれる覚えもない……と、いきたかったが、結果的には恨まれたな。ダワーフ族も、ダビル族も、ヒューモ族も、彼のせいで人口が三分の一以下になった」


 うわっ。マジか。


「それがたった一日で行われた」

「一日!?」

「そう。最初の大量殺人の一時間後には各国の王に通達が出て、即座に討伐部隊が作られた。それが何の効果もないどころか、自ら無抵抗に殺されにいくようなものだと知らずに」


 何も抵抗できない。その言葉に、俺はなんとなく使われたスキルが分かった。殲滅魔法だ。あれに対抗出来るのは、即死無効化も付属している殲滅魔法自身しかないと言えるほどほぼ、対抗手段がない。


「最終的に神官が、自らの死を引き替えに神を呼び、事を納めた。神の怒りに触れたエジュラ族は種族全体が集めていたスキルの研究経過が全て消された。記憶も資料も何もかも、だ。だが、その時すでに死んでいて、転生……『輪廻』のスキルを使って、新しく生まれた者がいたらそれは例外になるのでは、と吾は思ったわけだ」

「だから二回も確認を取ったわけだ。もしかしてその事件からです? スキルについて情報操作をし始めたのは」

「正確に言えば違う。スキルの危険性に気づいて何かしらの条件を付けた方がいいのでは、とすでに協議を始めていたからな。遅すぎたわけだが」

「アルフ族については? 彼らの現状ってこっちで何か操作してたりしてます?」

「していない。あれはバースト族のアホ共のせいだ」


 あ、一瞬、すっごい嫌そうな顔になった。


「……神前試合の事は聞いているのか?」

「ある程度の内容は」

「では、言い分けにしかならないが、言わせて貰おう。あそこまでするつもりはなかった」

「ほんと言い分けですね。やられた方はたまったもんじゃないですけど」

「それについては否定しない。だから……復讐されるのも仕方がないという意識はあった。だがその意識はけして、エジュラ族に対して向けるものではない。あれは逆恨みだ」


 表情は変わらないけど、声だけは忌々しそうだ。


「だからアルフ族に対しては支援をしたいと思っていた。始めは、技術提供だった。彼らは手先が器用だったからな、春の国に招いて装飾や魔道具等を作って貰っていた。ダワーフ族に睨まれる覚悟でそれはした。ハビット族も同様だ。アルフ族が作った物を優先して買っていた。そうやって金を得た者が自国に居る家族を呼び、生活基盤を春の国におき出した。……確かに見目は美しいから、もてたし、後妻や妾にと人気があったのも事実だ。だが、吾々は性欲を解消するためにアルフ族を奴隷として呼んでいない。それが行われたのは、バースト族のアホ共のせいだ。彼らからすればアルフ族は弱くて戦う事も出来ない足手まといの種族でしかない。そんな種族が春の国に多く呼ばれる理由が分からなかった。もしかしたら認めたくなかったのかもしれないが、彼らはそれを分かりやすい外見で判断をつけた。そしてそれように売り出したら高く売れた。それからだ。今の風潮が出来たのは」

「…………」

「そもそもあれらはバカでな、負けたのは族長のせいだと、族長を弑逆して、ただ強いだけの男を王にと祭り上げた。あれは本当にバカだったな……。吾もそうだが、始まりの王は、種族全体の繁栄を求める。繁栄でなくてもいい、ただ、子らが笑って生きていける国であればいい。そういう思いが第一にあるが、アレは自己顕示欲が強いだけで、子らの事なども未来の事も考えていなかった。ただ己がどれだけ強いか、どれだけ凄いか、それを周りに知らしめる事を好んだ。神罰があるのが分かっているのに他国の領地を奪おうと戦の準備すら始めたバカだ」

「え!? なんで!?」

「神罰などたいした事がないと思ったのか、それともただ単にバカだから神罰(それ)すら忘れたのかは知らぬが、少人数であればともかく、国として行軍すれば流石に神としても見逃すわけにはいかないから止めてくれとお願いすらされた」

「…………そりゃまた……。神様はお優しいと感動すればいいですかね?」

「……そうだな、そうすれば神も喜ぶのでは無いか?」


 俺はちょっと呆れて、ルベルトさんはどうでもよさそうに答えた。

 なんつーか……。よくバースト族生き残ってたな今日まで……とすら思ってしまったほどだった。

 どうやら、そうとう周りの王様が頑張ったっぽい。


 気づけば一問一答どころか普通にお茶を飲みながらの会話になっていた。

 いやぁ、流石生き字引。詳しいし、面白い話がいっぱい聞けた。



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