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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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ルベルトとミカ




 いくらこの世界で転生者がそう珍しくないと言われても、だ。

 見ず知らずの人間にいきなり、貴方は転生者ですか? と言われたら普通はノーと答えるだろう。遠回しに探ってきたのが正解だけど。

 で、俺の回答は『はぐらかす』だ。

 一応、相手が鑑定(真偽)の裏の使い方を知っている可能性があるからこそ、嘘は言ってない。


 ……って、シム、そう考えたら友人から貰ったってのはバレてんじゃね?

『黒天馬はどうやら店で売り出される時は国によってきびしく管理されているようです。そこを突かれるよりはマシかと。それに嘘だと看破されても問題はありませんでした。『二匹同時に手に入れるために、店で売ってる通常の値段の倍以上払った』と言えばこの場合『真実』になります』

 ……あえて、嘘をついた後に真実が混じった事を言えば勝手に勘違いしてくれるって事か? でも相手だって10倍のMP払えば手に入るというのは分かってるだろう?

『二匹同時にMPで支払うのは、普通は無理です』

 ……確かに、あん時、久しぶりにがっつりMP減ったなぁ。

 ……今のMPなら、あれでもたいしたことないと思うけど……。


 ……武神様恨むぞ……。




 そんな事をシムと水面下でやりとりしていたのだが、彼は伺うようにこちらを見た後、そうですか、と残念そうに呟いた。

 心の底から残念そうにした。のに、だ。

 納得なんて全然してなかったらしい。

 世界の時間が止まった。

 シムが即座に俺の体を硬直しているように見せかけた。

 時間が止まれば抵抗する意志もなくなる。

 つまり彼は今、悪魔の目で覗き放題と思っているわけだ。

 俺は間違っても身じろぎしないよう、体の権限を一時的にシムに明け渡す。


『これを乗り切れば相手は信じてくれるでしょう』

 こちらとしては『さぁ、好きなだけ調べなさい』と自らまな板に乗ったのだ。

 ---が。


「どういうつもりだい? 少年」


 時空神様の依り代であるミカは普通に動けるようで、彼に制止の声をかけた。

 すんなり終わるはずが、すんなり終わらなさそうな予感がぷんぷんしてきた。


「……この中を動けるという事は、君が『ゴドー』とかいう神官かな?」


 なんですと!? なんでゴドーまで?

『マスターと一緒に居る神官をゴドー様と当たりを付けるのは問題はありません。ですが、彼のように、神の依り代だと認識しているのはいささか疑問があります』


「冗談じゃない。彼と一緒にしないでくれ」


 ……ミカってゴドーの事嫌ってんのかね?

『流石に一緒に居る時間が短いので結論は出せません』


「ふむ? では君は誰だ?」

「そういう君は誰だい?」

「これは失礼、神の寵児殿。吾はルベルト・ホーマン。一応、この国の元王だ」

「……なるほど。あっさりと時間が止められるはずだ。ボクはミカ。それで何用なのさ」

「彼のステータスをみたいだけだ。危害を加える気はない」

「見てどうする気だい?」

「彼がヒューモ族に仇なすような人物かどうかを知りたい。ただそれだけだ。別段こまる内容ではないだろう?」

「まあね。でも、神官としては相手のスキルを盗み見しようとしてますと言われて、ではどうぞ。という分けにはいかないんだけど」


 ……俺としてはそのまま見てない振りがありがたいんですけど、なんとかなりませんかねぇ。

 やっぱ無理かな。依り代の神官だもんな……。


「そこをどうにか出来ないか?」

「……ボクがいない時にしてくれるか?」

「……分かった。ではそうしよう」


 肩を竦めて彼はそう言った。

 ……やっぱ終わらなかったかぁ。


「でも、特に彼は問題ないと思うけど?」

「何故そう思うのか聞いても?」

「神は彼の事を知ってるからだよ。全ての神がね」

「……神の貴石」

「そうだね」


 …………話が変な方に転がらないといいんだけどなぁ。

『彼の性格が分からないのでこちらとしても判断が付きづらいです』

 だよねぇ……。


「危険人物だっていうのなら神が対処してるでしょ」

「それは違う」


 ミカの言葉をルベルトは即座に否定した。


「神が動くには条件がある。それを満たしてからでは遅い事もある」


 そうだねぇ。夏の国は動けなかったみたいだしねぇ……。

 ……暇だなぁ。

『我慢してください。三日まともに動けなかった彼らに比べればはるかにマシです』

 ぐはっ! シムからのまさかの攻撃……。

 …………はい。耐えます。ごめんなさい。数分で暇とか言って申し訳ありませんでした……。


「吾からも質問をしていいか? 神がここしばらく活発に動いている気がする。何かあったのか?」

「……別に君が気にするような事はなにもないよ。強いて言うと新しいオモチャを見つけたってトコだと思うけど」


 ……新しいオモチャって俺の事だよな? ……うん、知ってた……。


「……新しいオモチャ……。………………加護持ちか……?」


 ……この人凄いな。あれだけでそこまで分かるのか。

『前例があるのかも知れません』

 イヤ過ぎる!


「それは彼でいいのか?」

「知らないよ。彼が神の新しいオモチャである事は認めるけど。加護持ちかどうかまでは聞いてない」

「……ふむ」


 ミカ(この人)、俺の事も嫌いなのかねぇ……。

 言い方にちょっとトゲがある気がするのだけど……。

『食事前に行われた『最初の挨拶』の時は友好的でしたが、今はマスターの言うとおり、そういう風に受け取れます』

 ああ……そういえば、嬉しそうに笑ってたよな。

 知り合いで良かったみたいな感じで……。


「ボクからも聞いて良い? なんでハーレム制度なんてもの作ったんだよ」


 ……根深いな、この人。


「何故? ヒューモの体質から考えるとそれが一番無難だったからだ」

「……無難……ね。君はイヤにならないのかい? ヒューモ族である事が」

「それを吾に聞くのか?」

「そうだよ」

「実にくだらない質問だな。お前達が神のために存在しているのなら、吾はヒューモ族のために存在する。ヒューモ族であった事が嫌だという事は一度もない」


 きっぱりと言い切ったその姿はちょっとカッコイイなぁって思うくらい真剣だった。


「……そう。ボクには全然分からないよ。ヒューモ族で良かったなんて思った事一度も無いし、やめられるものならやめたいぐらいだよ」

「……そうか。ならばそれを神に祈ってみたらどうだ? 神官であるのならば神は聞いてくれるのではないか?」

「そんなわけないだろ。分かってるよ。そんな事、不可能だって事くらいボクにだって。…………ねぇ、君は長く生きてるんだよね?」

「……それなりに」


 一瞬なんと答えようかと悩む姿が見えたなぁ。

 この世界が出来る前から存在する人に、聞く質問としてはダメ出ししたいくらいの愚問ってやつだろ。

 もしや彼はバカなのだろうか……。


「性的欲求を抑える方法って知らない?」


 それは俺も是非知りたい!!


「欲求?」

「そうだよ。ボクは本当は愛する人とだけしたいんだ。なのにこの体はそれすらも許されない」

「ならばその人とだけすればいい」

「だから!」

「心と体がバラバラなのは、心が満たされていないからだ。心が満たされないから体だけでも満たそうとする。愛する人とだけ、といったな、お前はそれを本当に望んでいるのか?」

「望んでいるよ! ずっと昔からそれだけを望んでいるんだ!」

「ずっと昔から、ね。ならばそれが我慢出来ないはずはない。その時間を最高の時間にするために体だって喜んでその者にだけ身を委ねるだろうよ」

「嘘だ!」

「嘘ではない」

「だったらボクは」

「お前は諦めているのだろう?」

「なっ!?」

「本当は心のどこかで諦めているのだろう? それを見ない振りしているだけだ。愛したいけど愛せない。愛されたいけど愛されない。お前の心のどこかで、奥深くにそれがある」


 脳裏に昨日のゴドーが蘇る。

 依り代の秘密。求めるだけ辛いだろうと呟いていた。どんな気持ちでずっとそう願い続けていたのだろうかと、ゴドーも苦しそうな顔で。


 なるほど……。彼にとっては本当に心のより所だったのだろう。手段が目的になったんじゃない。その手段が彼にとっては重要であり、希望だったのだろう。

 いつかそういう未来が来るのだと夢を持ち続ける事が出来るためのもの。

 それが失われてしまえば、相思相愛が無理だと心のどこかで思っていたら、そりゃパニックにもなるかもね。明日から何を希望に生きていけばいいのか分からないんだから。

 そりゃ、目的を是が非でも達成しようとするわけだ。

 うん。全部トキミさまが悪いな。

 

 

「……違う……、ボクは本当に……」

「本当にそれを第一に願っているのなら我慢が出来るはずだ。ヒューモ族にとって、第一の欲求はなによりも大事なもの。欲求と体が直結している体がそれを無視するはずがない。お前はそれを第一に置いていない。置いている振りをしているだけだ」

「…………」

「心の歪みが体の歪みを生み、心と体がなおさらバラバラになる。体の制御が効かなくなって一番楽な方法で欲を満たそうとする。心は体に影響し、体は心に影響する。お前は大事だと言いながら諦めている。だから体は暴走する。本当にそれが大事だというのなら、本気で人を愛せる努力をするがいい」

「…………む……りだよ……、出来るわけがない……」


 自身の望みを叶えられずはずがないと、彼の言葉を肯定し、ミカは涙を流した。それはやがて慟哭となる。


 認めたくなかった事を認めるその悲しみの声は、聞いているだけの俺も辛く悲しい気持ちになった。


 

 

 



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