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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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三人目の依り代②




 ファーストキスのお騒がせ神官のミカさんは、それを忘れてしまえば、普通の挨拶が出来る人でした。

 昨日のあれは幻かなんかか? って思うくらい普通に見えるんですけど……。


「そうそう、エドさん食事を終えたら後で契約内容を確認してもよろしいですか?」


 空いている席に座りながらそう切り出してきた。


「あ、ただのエドでいいです。ところで、契約内容って?」

「もちろん護衛契約についてです。あと、私の事もどうぞミカとお呼びください」


 ん? そんなんしてませんけど?


「あー……ミカ、エドは友人という事で一緒に来ているわけで、護衛だが、同行者というのが正しく、そういう契約などはしていない」


 俺の隣に座るゴドーがそう訂正をする。俺もゴドーの言葉に頷く。

 ミカは俺を見て、それからゴドーを見て、バロン達を見て、またゴドーを見る。ただし、ちょっと目が険しくなっている。


「エドを中心としたパーティーに護衛して貰ってるという報告を受けていたが」

「そうだな」

「……で、エドは友人で特に契約をしてないと」

「……そうだな」


 ミカの笑顔が何故か迫力が増してくる。口元は笑ってるけど、目が笑ってない。

 たぶん、俺も気づいたけど、ゴドーも気づいたのだろう。ちょっと返答が遅れてた。


「では、エド以外のパーティーメンバーへの給金はどうなっているんだ?」


 ミカの問いかけにゴドーは答えられなかった。

 うん……。言われてみたらそうだよな。

 成り行きで人が増えたからあまり気にしてなかったけど。


「バロンはともかくタンガには給料払わないと不味いよな」

「いや、俺は別に」

「お兄。アタシ達は?」

「お前、初めはニアの付属だったじゃん」

「付属扱い!? 酷くない!?」


 俺たちは余り真面目にやりとりをせずそんな話をしていたのだが、神官側は違ったようで。


「ゴドー、シェーンならともかく、君は気づかないでどうする」

「すまない」

「待って貰おうか。オレはともかくというのはどういう事だ」

「成り行きで増えていったから、あまりそういう意識がなくて……。護衛というのも後付けだったし」

「では彼らは護衛じゃないのか? ならなんで一緒にいるんだ? 一応仕事中だぞ?」

「う……」

「おい、無視か」


 ゴドーが叱られて小さくなっとる。

 それにしても、ミカはほんと……、まともな人だな、オイ。

 あんだけパニクるって……。どんだけだったんだか……。

 神様、俺に寵愛あげるうんぬんよりも、依り代の大事なもんをもっときちんと考えてやってくれ……。


「友達を護衛にするなとは言わないが、きちんと決めるべきところは決めないと不味いだろ?」

「……すまない」

「あーっと、ちょっと待った。ちょっとこっちの事情も聞いて貰えるかな?」

「事情?」

「そう。元は二人旅だったんだよ。で、俺としては護衛ってのもあったんだけど、ついでに俺も旅に出ようってのが大きかったわけで、どちらかというと俺が勝手にくっついていったっていう感じなんだ。その後ニアとセリアが合流してきて、あ、ネーアもそのちょい後くらいなんだけど、こっちの三人はニアの短命種を治すのがメインで俺たちの旅についてきたわけで、護衛ではなかったんだ」

「短命種を治す? そんな事出来るのですか?」

「可能だ。すでにニアはもう短命種ではない」


 ミカの疑問をゴドーが答える。ミカはニアの額にある神印を見て、アゴに手を置いて色々考えているようだ。


「で、後からシェーンとバロンとタンガが合流したわけで。パーティーといっても護衛をするために作ったパーティーなわけじゃないです」

「……だから、契約をしていないのも当然だと? そういういう事ですか?」

「まあ、そんな感じです」


 頷くとミカは軽く息を吐いた。


「……そうですか、分かりました。ですが、これからは私が指揮を執っていくのでそこはキチっとさせてもらいますし、今までの分は未払いという事で後で払わせて貰います」

「「「え!?」」」


 ミカの言葉に俺、ゴドー、シェーンが思わず聞き返す。


「ちょっと待てミカ。お前が指揮を執るだと?」

「それはそうだろ。ボクは神から直接宣教師になるように言われたんだぞ?」

「それがなんで?」


 なんの理由になるんだ? と首を傾げると、ゴドーが答えてくれた。


「あー……神官の位からするとそうなるんだ。私は王都の神官達から宣教師になるように言われた。でもミカはトキミ様からのご指示だ。宣教師として、神官として、格がミカの方が上になってるわけだ。だから、この三人の中で一番上になるのはミカで、彼が指揮を執るというのは正しい」


 いや、正しいと言われても。


「ゴドー、己は阿呆か」

「……シェーン……その言い方はないだろ?」

「阿呆は阿呆だろ。ミカにアレの手綱が握れると思っているのか!?」


 アレと指を指されたのは俺だった。

 ひでぇな、おい。


「手綱? 彼は何か問題児なのか?」

「イヤ、超が付くほどの問題児だぞ?」

「オイコラ待て。そこは流さんぞ。そこは否定しろよ!」

「出来るわけがないだろ!」

「なんでだよ!」

「オレが把握してるだけでも十分に異常だからだ」

「……異常だから、問題児ってのはおかしいだろ」

「……じゃあ聞くが、お前が怒った場合、お前を止められる、叱れる、諭すことが出来る人間はどれぐらいいる?」

「……あー……止められる可能性があるのは三人かな? 他二つは、たぶん二人?」

「三人? 一人多いな」

「意外そうに言うなよ。お前の言いたい問題児が何かは分かったけどさ」


 つまり、何かあった時、ゴドーとセリア以外は止められないって言いたいんだろうけどさ。

 

「でも確かに、俺はあくまでゴドーにくっついて行ってるだけなんで、護衛契約で縛られるのは逆に勘弁して貰いたいですね」

「え? 契約で縛るなどという事は特にしませんよ? ただきちんとした手続きを取ろうとしているだけで」


 ミカは不思議そうにしていたが俺は首を横に振った。


「金を払えば俺を護衛に出来ると思われるのは困るからですよ」

「は? え? 何故ですか?」


 さらに混乱するミカ。でも逆にシェーンは納得していた。


「確かに。依り代越しとはいえ、イクサ様とまともに戦える人間を金で雇えるとなると、色々面倒ごとが起きそうではあるな」

「は? イクサ様と戦った? 誰が?」

「いや、あれ、防戦一方だったから。まともに戦えたなんて事ないから」

「死ななかっただけ凄いのだぞ?」

「ちょっと待ってくれ!! なんの話をしてるんだ君たち!?」


 俺とシェーンの会話をミカが必死に遮る。


「だから、そこにいるエドは、イクサ様と戦って、死なずに今ここにこうやって居るって事だ」

「ホント死ななかっただけだけどな、あれ」

「……え? 戦ってって、え? あり得ないだろ? だって彼、人間だろ?」

「人間ですよ」

「オレはそれについては疑ってるけどな」

「…………ゴドー、あいつ酷いんだけど」

「んー…………。シェーンの気持ちもわかるからな」


 ふ、と目線を逸らしてゴドーはぽつりと口にした。


「ちょっ! ゴドー!? そこは否定してくれや!」

「いや、まあ、そうなんだけど、な?」

「『な?』じゃないからな? 俺、まだ人間だからな!?」

「うん。それは、分かってる。大丈夫」


 なんていうけど、俺と目を合わせない。

 ジトーっと見てたら諦めたように顔をこちらに向けて、苦笑を返された。


「分かってるよ。大丈夫」


 そう言っていつもの笑顔をゴドーは見せる。

 ある種のお約束とも言えるやりとりなんだけど、ちょっと違和感がある。なんだろ……。

 いつもなら、もう一回くらい「でもなぁ~」なんて来そうな気もするし、ここで終わるのも正しい気もするし。うーん、人が増えた分、テンポが変わったのだろうか……。


 なんてちょっと違う事を考えてた俺を無視して、シェーン達の話は続いていた。


「それに、トキミ様からしたら、エドの周りに自身の依り代がいるのが重要なんであって、お前に宣教師としての本来の役目を全うせよ。なんて思ってはおらんと思うぞ」

「なんて事を言うんだ! お前は!!」


 本当だよ、ぶっちゃけすぎだろ。俺もそう思うけど。


「……いや、ちょっと待ってくれ。まずなんで君は神と戦う事になってるんだ? その時点でおかしいよな?」


 えー、そこの説明もしなきゃいけないのぉ? もう面倒なんですけど俺~。


「あー……とりあえず、朝食のメニューを決めてからにしないか? いい加減、注文もせずにずっとテーブルを占拠してるわけにも行かないだろ?」



 ゴドーの言葉に、俺たちはまだ注文すらしていない事を思い出した。






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