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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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三人目の依り代①

またまた短いです。すみません。



誤字を見つけてはちょくちょく修正中。



「ボクの……ボクの大事なファーストキスが……」


 そう言って泣き崩れるお兄さん。

 推定年齢百歳以上。

 ……百年も大事にしてたのに、あんな形で同性相手に失われるというのは……、確かに泣きたくなる……か?

 いや、でも、俺、悪くないよな?


「ふぁーすときすとはなんだ?」

「確か……昔、ミカが真実の愛の儀式だとか言ってなかったか?」


 同僚の二人が腕を組み首を傾げ囁き合っている。

 そこはもっと堂々と彼に聞いてくれません? こちらとしても、ガチ泣きしてる大の男をどうしたらいいのか分からないんですが……。


「そう! 純愛の儀式だ!!」


 あ、ばっちり聞こえていたらしい。

 お兄さんは二人に向かって怒鳴っていた。


「真実の愛の誓いとして、神の前でする口付けの事だ! 遠い異国の地で古くから伝わる儀式だ! 人生の最初の口付けでなくては意味がない、そんな大事な大事な唇がぁぁぁぁ」


 あ、結局また泣き崩れた。

 ダンゴムシのように丸まっちまったよ。


「することしてるクセに?」


 シェーンは空気が読めないのだろうか……。


「だからだよっ! ボクだって我慢できるのなら我慢してる! お前だって一度ヒューモ族になって言え! ボクだってこんな淫乱な種族じゃなくて、エジュラ族とかに生まれたかったよ!」


 かんしゃくを起こしたように床を叩き喚く。

 防音結界って、振動とかは大丈夫なのかなぁ。駄目だったら、下の人すみません。

 

「今まで心の伴わない関係しかない、心から愛してるのは君だけだ、なんて言っても信じてもらえないだろう!? ボクはそんなの嫌だ! 神の依り代だって、誰かを愛して、そして同じように愛して貰ってもいいはずだろ!?」

「それは……」


 ゴドーが何かをいいかけて止めて、シェーンも難しい顔をした。


「それなのに、それなのに! こんなヤツにっ!」


 ギッと睨まれて俺は肩をすくめる。


「いや、俺のせいじゃないし」

「黙れ! 言い逃れするな!」

「言い逃れ!? そっちこそ逆恨みは止めてくれるか!? あれは神がやった事だろ!?」

「君が素直に来ていたらこんな事にはならなかったんだろ!? いきなり宣教師になって旅に出ろとか言われる事もなかった!」

「それは……。でもそれとこれとは別問題じゃないか!?」

「いいやそんな事ない! 君が全ての原点だ! 君がいたからボクはこんな目にあってるんだ!」

「んな無茶苦茶なっ!」

「こうなったら責任取って貰うぞ!」

「責任?」

「そうだ。ボクと結婚しろ」

「……は?」

「ボクと結婚しろと言ったのだ」


 彼は立ち上がり、俺を睨み付けてくる。


「ボクの誓いの唇を奪ったのは君なんだ。だから君はボクと愛し合って貰う」

「……手段が目的になってんぞ、オイ」


 あったまいてぇ。みんなポカンとしてんじゃねぇか。どんだけ見当違いな事抜かしてんだ、この人……。


「別にいいだろ! ボクにとってはそれだけ大事だったんだ!」

「良いわけ有るかっ!」

「何故だ!? どうせ君だってやれたらどうだって良いタイプだろ!?」


 その言葉に、俺の何かがチリッと焼けた気がした。


「安心しろ。第三夫人までは認めてやる。子孫はその二人に生ませればいい。でも間違えるなよ、君の一番はボクじゃないと駄目だからな。ボク以上の愛情を……いや、ボク以外に愛情を注ぐのは許さない。あくまで彼女達は君の子孫を残すための存在だ」

「……」

 

ツラツラと好き勝手言っているそいつに俺は何も答えない。ただ、見つめるのみ。


「……お、お兄ちゃん……?」


 セリアが呼びかけるので、そちらに目を向けると、びくりと体を跳ねさせていた。


「なんだ?」

「…………いや、うん……。なんでも、ない、ヨ?」

「……」

 

 ぎこちない動きで首を横に振るセリアに俺は視線を戻す。


「戯れ言は、それで全部か?」

「な、戯れ言!? なんだ、その言い方は! 少しは悪いとか思わないのか!?」


 静かに問いかけた俺に対し、向こうはかんしゃくを起こしたように喚いてくる。

 いや、もうずっと喚いているか。

 そんなあいつの肩にシェーンが手を置いた。


「もう黙れ、いいから」


 何故か毛を逆立てているシェーンが、言い聞かせるようにそいつに言っている。


「何がだ!? だってあいつ酷いだろ!?」

「いいからもう黙れ。これ以上刺激するな。おいゴドー、こっちはオレがどうにかするからエドのほ……ゴドー?」


 シェーンがゴドーに再度呼びかけた。俺もそれを聞いてゴドーの方に目を向けると、ゴドーはどこか放心したように俺を見ていた。

 軽く首を傾げるがゴドーは反応を示さない。


「おい、ゴドー。ゴドー!!」


 シェーンが強く呼ぶと、ゴドーは再起動したように、慌ててシェーンを見た。


「なんだ!?」

「ぼけっとするな。こいつはオレの方で黙らせるから、お前はエドを……」

「なんだよ、邪魔するなよ! お前はバースト族だからボクの必死さが分からないだけだろ!?」

「もうお前黙ってろ」


 シェーンはさらに喚こうとした彼に当て身をし、意識を奪っていた。

 普段だったら、ひでぇと思うかも知れないけど、俺は何も感じなかった。

 

「こいつはオレが言い聞かせるから、お前はエドの方を頼む」


 シェーンは彼を担いで部屋から出て行った。

 彼が居なくなると部屋は静かになる。


「……悪かったな」

「ゴドーが悪いわけじゃないのに、なんで謝るんだよ」

「一応、同じ依り代だからな」


 苦笑を一つ。それからゴドーは首を横に振った。


「普段の彼はああじゃないんだ。今回の事は彼にとって、取り乱すだけの事態だったというか……。正気じゃないとでもいうか……。嫌わないでやって欲しい」

「……」

「もちろん後で本人にも謝らせる」

「…………」

「…………もう、絶対に許せないか?」


 伺ってくるゴドーに俺は首を横に振る。

 分からない。

 チリチリと気に障る部分が謝られて許せる気になるか分からない。


「腹、減っただろ? みんな飯食ってこいよ。俺はもう疲れたから寝る」


 大人であるのなら、どうってことのないように振る舞わなくてはならないのに、そんな気にもならなくて俺は全員にそう声をかけて、セリアに金を渡す。


 出て行け。とも取れる態度にみんなは俺を気遣いながらも部屋から出て行った。

 俺は肺から息を吐き出し、ベッドへと飛び込む。


「何やってんだろ……」


 あんな言葉に感情をかき乱されるとは……。

 情けない。

 でも……。


 誰でも良いと思ってんならこんなに苦しんでねぇっての!!


「うがぁぁぁぁ!! シム! どこでもいい! どこか派手に魔法をぶっ放せる所に転移!」

『かしこまりました』


 その言葉と共に俺は紫色の霧が漂う森の中に居た。

 そしてマップにはモンスターを示す黒色がびっしりとついていた。

 人間は俺のみ。

 ……なるほど。確かに派手にぶっ放せそうだな。ただ、ちょっと敵地のど真ん中過ぎやしませんかね?

 しかも人間が来たって分かるのか、マップに点在してた黒が徐々にこっちに移動してきてるような……。

 

「……まあ、問題ないけどさ……」


 言いつつ俺は右手を上げ、握る。

 カマキリのようなモンスターの刃が俺の手に収まる。

 流石に虫の顔色までは分からんが、ソレは驚いたのかもしれない。もう一度押して俺の脳天をかち割ろうとするが、俺が捕まえている刃はピクリとも動かない。

 カチカチカチとアゴなのか歯なのかはわからんが鳴らすソレ。

 俺はそいつに向けて左手をかざす。


『マスター。そういえば経験値を流す存在がいないので、マスターに経験値が入って来ますが、よろしいでしょうか?』


 魔法を放とうとした手が完全に止まる。


 いや、シムさん、それはよろしくないです。


 俺は慌ててカマキリを反対側に投げ飛ばす。

 そこから飛び出してこようとしていた猿っぽいモンスターが顔面からぶつかり、地面に落ちてのたうち回る。

 俺は空へと飛び上がり、モンスターに襲われないように距離を取る。

 マップは面白い程黒が集まってきている。


「魔法ぶっ放せねぇじゃん……」

『マスターが望んだ場所ではありますが』

 うん。それは否定しない。俺は八つ当たりもかねてぶっ放したかったから、モンスターがいる所であってる。

 ……モンスターって倒すとレベル上がるよな?

『はい。確実にあがります。絶対に経験値を得ないようにするというのであれば、異空間を作りそこで魔法を使うのが一番だと思います』


 シムが提案をしてきた。

 俺はさらに上空に転移する。

 俺が先ほどまでいた場所に空飛ぶワニ達が襲いかかってくる。

 ワニ達は俺が居なくなった事に気づいていないのか気づいていても腹が減っているからなのか、同士討ちをはじめていた。

 ワニ同士のうなりながら、しっぽのぶつかり合いや噛み合いやらの戦いをぼんやりと眺めてたら、なんだか急に「何やってんだろ」って気分になった。


「…………帰って寝る」


 シムにそう告げて俺は宿に転移して、本気でふて寝をする事にした。





もしかしたら明日は朝8時には更新できないかもしれません。

その場合は午後にでも…………。

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