拝啓、前世の母上様。
拝啓、前世の母上様。
お元気でしょうか? 俺たちがこうしているという事は先にあの世へと旅立った貴女もきっと今頃は転生をすまし、新しい生を謳歌していると思います。
私は今、生前、幼き頃、貴女が妹に対してよく怒っていた言葉を思い起こしています。
『面倒だと後回しにしていたら、後々もっと面倒な事になる』と。
俺はその言葉をよく知っていたはずなのに、怠け癖がついたのでしょうか、ついつい……。
『マスター。そろそろ現実逃避はやめてください』
せめて敬具までいかせろよ~。
俺はそうシムに懇願する。
だって現状見てみ?
なんでこんな……、王都の高い宿屋とは言え、こんな所に神様が来てんの?
どう考えても、めんどい空気しか感じないんだけど。
『しかしあまり現実逃避していると、機嫌を損ねる可能性が高いのですが』
確かに!
「えーっと、あの……。時空神トキミ様とお見受けしますが……」
立ち上がり声をかけると、彼女はにっこりと笑った。
よく出来ましたという感じだ。
【前と同じ呼び方でよいぞ。それよりも座れ】
ふりふりの……これ、ゴスロリ? ロリータ? よく分からんが、そんな衣装を身に纏った彼女はこちらへと近づいてきつつ、ジェスチャーも交えて座れと言ってくる。
俺は素直に従って座ると目の高さが近くて、ああなるほど。と思った。
俺が立つと彼女は見上げる事になる。
首が痛いし、神である彼女が人間を見上げるというのもなんとなくいけない気がする。
これなら、神の前で座っているっていう不敬は大問題かも知れないが話しやすいし、いいのかもしれない。
【まったく、多くの未来では来ておったから安心してたのに、まさか本番で未来視を裏切られるとは思わなかったぞ】
なんか、しゃべり方が武神様と近いなぁ。
そんな事を考えながら、すみませんと軽く頭を下げた。
頭を戻すとずぃっと顔を近づけられた。
【よもや、我と会うのが嫌だったから、とは言わぬよな?】
「言いません言いません」
首を高速で横に振る。
会ったこともないですし、そう思う理由がどこにもないし。
【……ふーん。なら許してやる。大方月のが怖くて逃げたのだろうし】
ソレ、正解です。でも口が裂けても言えません。
曖昧に笑うと、時空神様はニッと口角を上げて笑い、体を寄せてくる。
「ちょっ!?」
思わず顔を、体を、反らす。
背もたれの反発にあい、大して距離が開かなかった。
【何故、逃げるのだ?】
子供をからかう大人の表情でそんな事言いますか!
転移して逃げようと思った瞬間、肩を掴まれて、魔法が散らされるのが分かる。
何が起こったか、それは即座に理解出来たが、取れる対処方法がほぼなかった。その時には、時空神様は俺の膝の上に俺と向かい合う形で座っていたのだ。
「……あの、なんで俺、こんな目に遭ってるんですかね?」
【逃げようとするからじゃ】
いや、でも、……喰われそうになったら逃げるのは動物としての本能だと思うんですけどね……。
近づいてくる顔を必死で、相手の肩を押さえて距離を保とうとする。
しかしそれを許さないとばかりに押さえ込んでくる時空神。
って! 変な所触らない!
一瞬気がそれた瞬間に俺の唇はまた奪われた。
なんでみんなして!
半泣きである。
しかも舌を入れてくるし! 必死に抵抗する俺。しかし相手は幼く見えても神である。
全然動かねぇ!!
『ギフト、『時空神の加護:寵愛』を取得しました』
その言葉が脳裏に流れてくると、やっとキスが終わった。
俺はもはやぐったりである。
【うーむ? 月のと違って、我は女だからいけるかと思ったが……】
なんの話ですか……。
【ん? ああ、そうか】
何かに気づいた時空神様。
体を少し離して------。
何故か目の前にたわわに実った果実が二つ出現してた。
【この姿なら問題なかろう?】
幼い子供から成熟した女性へといつの間にか変わってた。
俺は言葉も出ない。
いや、頭の中はヤバイの一言でいっぱいだ。
先ほども言ったが、俺の膝上にまたがって座ってんのよ、この方。
服も変わってて、古代ローマとかあのあたりの服なんじゃないかっていう感じの服になっててきわどすぎる!!
不味い。不味い不味い不味い不味い!!
【これ、暴れるな】
「ちょ、まじで勘弁してください! いったいなんなですか! みんなしてぇぇぇ!!」
健全な男の子をからかうのは止めろぉ~!!
【当然ななりゆきであろう?】
「どの辺がです!?」
初対面の方にいきなり迫られるののどこが当然な成り行きなのか!
【ん? 誰からも言われておらんのか?】
「何がですか!?」
【加護の事じゃよ】
「……さっき貰った加護の事ですか? あれは誰も……、何も聞いてません」
【それではない。スキルの方じゃ】
「スキル?」
【そう。我らが人に貸し与えし力じゃ】
「えっと、何も聞いてないです」
スキルが一体何にどう関係してるというのか。
【ふむ。では、幼子に木刀……いや、竹刀じゃな。それをくれてやったとする】
「はぁ……」
うぅ、目の前に果実が、果実が。なんっっって、目の毒!!
必死に見ないようにしてるのに、視界にはどうしてもチラッと入ってきてしまう。
……嘘ですすみません。視線をそらしてもつい戻ってきてしまいます。
ああっ! 気づけばセリアの眼差しが痛い!
兄ちゃんだって色々堪えてんだよ!
【その幼子が竹刀を一生懸命振り、練習している姿を想像してみるとよい。可愛らしいと思わぬか?】
「はぁ……。まあ可愛いというかほほえましいというか」
【頑張っていると褒めたくなるであろう?】
「なりますね」
【そうであろうそうであろう】
……あれ? ちょっと待ってくれ。
【そういう幼子を撫でたりしたくなるであろう?】
「………………」
俺は自分の予想が怖くなって答える事が出来なくなっていた。
【なんじゃ、黙りとは。つまらぬのう。でもエドの想像通りじゃよ。竹刀は加護じゃ。頑張っている幼子はエドじゃな】
「…………えっと、つまり、頑張ってスキルを育てている俺が、可愛かったと?」
【最初はそうじゃの】
「最初?」
【今はどちらかというと、その一つ一つが我らの好意になっている、といったところか】
「……好意?」
【そうじゃ】
「…………」
【武神のは、脳筋だしの。素で『拳で語り合うのが一番良いんじゃ』とか抜かすから、ああいう事が起こるだけで、普通はああはならんぞい】
聞きつつ俺は一つの結論に達していた。
つまり、俺は『詰んだ』のだと。
【もちろん、加護を破棄すれば我らの感情は落ち着くと思うぞ】
「……しませんよ」
それ、やったら、絶対マイナスになりますよね?
もし今の状況が魅了のたぐいだったら神は自分でその効果を無効化するだろう。
していないということは、その類いではなく、神が望んでいる内容とも言えるわけだ。
そんなの一方的に消してみろ、好意はあっさりと嫌悪になる。
「あ……でも、最初、俺、トキミさ……ちゃんの加護、思いっきり消しまくっちゃいましたが」
【あれは仕方があるまい。しなければエドが壊れていただろうし。我らはそのような事望まぬよ。必要であれば消すべきであろう】
必要が無ければ消すなって事だよな、これ。でも、少しほっとした。
そんな俺の顔を掴み、真っ正面へとむき直させる。
金の髪に、薄い、氷のような瞳、整った鼻筋。金髪でもまつげは黒いのか、なんて明後日な事を考える。
【本当はエドに褒美をくれてやるつもりだったのに! なのに来んとは、我は怒っている!】
「す、すみません」
【だが、あの石はなかなかに良かったの。その褒美を与えよう】
そう告げて、また唇を重ねてきた。
またかよ! って思ったが。
---聞こえておるな?
(って、トキミさま!?)
---トキミちゃんであろう? まあ良い。無事に聞こえているようだからの。
直接頭に響く声。伝話ともまた違うのは分かる。なんだろ。無線と有線の違いみたいな気がする。
---エド、ルベルト・ホーマンが今、この王都に居るぞ。
(ルベ? 誰です?)
『春の国の初代国王です。神前試合のリーダーです』
俺の疑問に即座にシムが答えてくれた。トキミさまは少し呆れたような感じがした。
---そうであった。エドは短命種であったから学校には行ってないので居った。申請のあった学校に通う話は許可がおりるであろう。我らが反対する理由はなにもないしのぉ。
ちゅく。と、わざと音を鳴らしてくる。
うぅ、下手な事を言うと煽ってくるという意味でしょうか?
くそぉ。なんでこんな目に。
落ち着け~、俺。落ち着け~、俺。……いや、ほんと。今回に限らずいい加減、落ち着いてくんねぇかなぁ。俺の体。
---話は戻すが、ルベルトがここに来たのは、アレが勘違いしたからだ。エドが止めた約三日間の時間を、我が止めたと思っておる。
「ふぐっ!?」
出てきた内容に思わず声が出て、体もびくんと跳ねた。
---神の貴石といい、長時間の時間停止といい、神が活発に動いている。何かあったのではないか、とな。折しも今の王が魔道具を壊した事もあり、警戒しておるのだよ。
あれ? なんか気のせいか全て俺が関係してね? ただの偶然だと思いたい……。
---『プラネタリウム』も実物を見ておるからの。おぬしが『ただの短命種』ではないと気づきおったぞ。
(……バレると不味いですか?)
---さて。ルベルトは常識的であるからの。前王などは、戦闘狂ゆえ、お前の存在を知ったら間違いなく戦いを挑んでくるであろうが、ルベルトはどうであろうな。
(戦闘狂……。居たんだ。)
---居るよ。月のが警戒して居った快楽殺人もな。
俺は何も言えなくなった。
初めての時の事はある意味よく覚えている。
あの高揚感。沸き立つ喜び、興奮。正気に返って、自分自身が怖いと思ったのに、……俺はたぶん、あの時の興奮をまた求める気がする……。
たとえそれが悪いことだとしても。人を傷つける行為であったとしても。
やってしまえるだろうと思うぐらいには、強烈だった。
---お前がバレたくないと思うのであれば、ルベルトが近くに居る時に時間を止めるのは止めよ。
(はい。分かりました)
---長引きそうであれば、異空間に転移し、戻ってくる時に時間を飛ぶ方がバレぬであろうな。
(…………あの……やっぱり、その……バレてるんですか?)
---バレてないと思う方がおかしいのではないか?
嫌な予感に怖々と質問したら、何馬鹿なことを言っているんだ? という感じで返ってきた。
確かに月の神様からの言い方からしてなんとなく分かってたけど、でもあれは、ゴドーだったからで。きっと仕方が無いことなんだろうと俺はなんとか必死に思う事も出来たのに。
なんでまってくもって関係の無い時空神様が知ってるんですかね!?
(なんで知ってるんですか!?)
恥ずかしさのあまりそう聞いてしまったのが不味かった。あっさりと彼女は答えた。
加護持ちを見守るのは当然であろう? と。
その言葉はまさに言葉通りで……。そこから先は、俺にとっては悲鳴を上げる事態だった。
トキミ様が話す内容は、ライフがガツガツ削られる内容で、俺はもうそれ以上聞きたくなくて、先ほどよりも必死に暴れたのだが、無意味。
どんな内容の話であったかと言えば。
「プライバシーって言葉知ってます!?」
羞恥やらなんやらで、恥ずかしさのあまりに死ぬんじゃ無いかって思うくらい恥ずかしい思いをしながら叫ぶように言えば。
【神にそのような言葉まったくもって無意味じゃの!】
返ってきた。これである程度理解してくれると嬉しい!
シム! 神に覗かれない方法ってなんかないか!?
『…………神に対抗出来るのは神のみ。神に昇華すれば可能かもしれませんが、現状では該当する回答は見つかりませんでした』
終わった……。俺、もうトイレにも行けない。
『体に悪いので行ってください』
……いっそ、全部のスキルを……。
『これが理由で加護スキルを破棄した場合、嫌がらせで同じ事をされる可能性はありますが……』
その言葉に絶望を味わうのであった。
【さて、良い具合にお仕置きもできたし。我はそろそろ帰るかの】
俺の膝から降りる時空神様。
お仕置き……。半端ない。駄目だ俺の心はもう折れた。死にたい……。
『マスター、しっかりしてください』
無理!
ふて寝をしたいくらいなのだ。放っておいてくれ。
【ああ、そうじゃ、エド。我が依り代も宣教師にしたゆえ、共に連れて行ってやってくれ】
その言葉と共に女性の姿は消えて、男性の姿になる。
あれ? この人、セルキーの気まぐれスキル担当のお兄さんじゃね?
見覚えのある顔に俺はシムに思わず確認を取る。
ゴドーといい、シェーンといい、依り代は、気まぐれスキル担当なのかね?
お兄さんは崩れ落ちるように床に両手を突き、驚いた事に泣いていた。
「う……うぅ……」
えっと、なんで泣いてるんだろう。
分からず視線がゴドーやシェーンに向かうが二人も戸惑っているようだった。
他のメンバー見ててもやはりみんな戸惑っていた。
俺の目がもう一度お兄さんに戻る。
お兄さんはやっぱり泣いていて、そして一言呟いた。
「ボクの……ボクの大事なファーストキスが……」
はい? なんだって?
俺は思わず自分の耳を疑った。
三人目の依り代さん登場。
そろそろ第一次エロネタは終わるかな?
あと、忍達が出てきたので、補足。
前にエドが忍と縁切りの使用許可をシムに出しました。
忍は上級スキルまでしか使えないので縁切りは使用出来ません。
シムは高位スキルですが、あえて高位にしているだけで、使い方一つで極スキルと同等となります。
エドはその許可を出したので、極スキルでも使用が可能となっています。
縁切りの発動条件が「切り傷を作る事」なので、シムの統治下にある忍達に切り傷を作って貰うために、エドはあの二つをシムに許可しました。
加筆。
上記でそろそろ第一次エロネタは終わるかな?って書いたけど全然終わらなかった。
むしろそれで苦しむエドが中心になっちゃいました。




