神官も十人十色
サブタイトル、何にしようか迷った。
サブタイトルもすぐに決まる時は決まるんですけどねぇ。
この世界では宗教はただ一つである。
驚くことに宗教名すらない。だからもしかしたら正確に言えば宗教ではないのかもしれない。
ただ神を奉る場所が神殿であり、神の手足となって働く者が神官である。
神官は神官特有のスキルを持ち、守る力には特化した存在。
良いやつも悪いやつもいるが、ちょっとしたズルはしても悪には走らない。
それが俺がこの世界の神官に対する認識だった。
いやだって、そうだろ? この世界には実際に神が居るんだ。世界の中央の山に住んでいると言われている。そしてそれはたぶん事実だ。山に、ではなく、山のどこかに神域と繋がってる場所があると思われるけど、でも、近くに行けば分かる。巨大な何かが存在することは。
神官はその力の凄さをこの世界の誰よりも実感してるはずだ。
それなのに。
「盗賊に力を貸してた、ってのは……」
本当なのか? と問おうとしてあまりにもバカらしい質問に口を閉ざした。
本当にそうだからこそ、この二人はここまでの事をしているのだろう。
シェーンは引きずっていた神官を盗賊達の方へと投げた。
どさりと地面に落ちた神官は宙を眺め、何かを口にしている。
体の状態に気づいていないのか、痛みを訴えることもせず、ただ目玉が飛び出しそうな程大きく開けて、何かをずっと言い続けている。
たぶん、違うんですとお許しください、だ。彼の目には断罪を行う神が見えているのかも知れない。
「あの……。助けて頂き、ありがとうございました」
もう一人の神官は深々と俺たちに頭を下げた。
「あ、いえ、俺たちは別に……」
言葉を濁し、首を横に振ったが彼の耳には届いていないようだった。彼はバロンとタンガの前に来ると膝を折り、すみませんと何度も泣きながら謝っていた。
バロンとタンガは気にしないでくれと神官に声をかけている。
どうやら、二人のスキルを取ったのはこの神官らしい。首に引っ掻いたような痕が残っている。彼はたぶん強制奴隷にされていたのだろう。そしてずっと罪の意識にさいなまれていたんだと思う。
「意外か?」
ゴドーが俺の横に立ち尋ねてくる。
視線は悪事をしていた神官の方を向いていた。
「……まあ、意外だったかな。神官ほど、神の存在に敏感なヤツはいないと思ってたし」
「そうだな。でも、そう思うのは私と一緒にいるせいだろうな。皆は私達ほど、敏感ではないんだ」
「そうなんだ……」
二人の神官を見比べた。一人はやせ細っているが、もう一人はそんな事もない。
もちろんゴドー達の事だからそんな見た目で判断したわけではないだろうが。
『マスター。忍達に残党を集めさせますか?』
うん。よろしく。
同意を示したら即座に忍達が現れた。
「ニン!」
「クノ!」
「ニンニン!」
「クノォ!」
「クノクノ」
「ニンニン」
手のひらに乗るようなサイズの忍者とくノ一が盗賊達を運んできては、ポイ捨てするように地面へと捨てている。
「バロン、それとタンガ……と、ネーアも来てくれると助かる」
シェーンが三人に声をかけて岩山を指さし、何かを説明している。
指さしている方向で話しの内容は検討がついた。
捕まっていた人達の事だろう。
「エド様」
「行ってこい。首のそれは隠しておくぞ」
わざわざ事情を説明しようとしてくるバロンにそう返して、奴隷の首輪に隠ぺい魔法をかけて見えなくさせる。
バロンは軽く頭を下げてタンガとネーアを連れてシェーンの案内についていく。
こうして俺たちの盗賊退治はどちらかというとゴドーの無双で終わった。
たぶん、いつでも盗賊達を痺れさせることが出来たのだろう。
神殿の結界でこうなったっていうのなら、シェーンの言葉を信じるのなら、ゴドーは王都すらも覆い尽くす程の結界が張れるはずだ。それを使えばすぐに盗賊達を無力化出来ただろう。でもすぐにそれをしなかったのは、タンガが立ち直れるかどうか様子を見守っていたのだろう。
「……ゴドーってさ、神官らしいっていうか……、ほんと優しいよなぁ」
「そうか?」
「うん」
拝んでも良いくらいだと思う。
特にこの二日間の事を考えると俺は、真面目に拝んでもいいんじゃないだろうかって気がしてきた。
「そんな事はないと思うが、私が優しいと思うのなら、そう思うエドも優しいのだと思うぞ」
「は?」
「こういうのは合わせ鏡だろ? 優しくされたからこちらも優しくしたいと思うわけで」
「絶対違うと思う」
ゴドーの言葉を俺は即座に否定した。
「俺の優しさとやらは、あくまで余剰分なんだよ。気が向いたからやる程度のもの」
「うん? それが何か不味いのか?」
きょとーんとされました。
「気まぐれで野良猫に餌をあげる程度のものよ? 翌日には同じ猫でも上げない可能性はあるくらいのもの」
「その猫にとっては、その一食だけでも生き延びられる確率が増えたわけだし、十分良いことじゃないか?」
「…………いや、ほら、猫の糞問題とか色々あるし、そもそも飼いもしないのに、猫に餌をあげるのもどうだとかあるじゃないか?」
「猫を飼う? ニホンジンは猫を飼う種族だったのか?」
その言葉に俺はなんとなーく、喩えにしたのが不味かったんだなとだけは分かった。
「じゃ、じゃあセリア達に借金を背負わせたのは? 俺が全て金を払っても良かったのに」
「そんな事をすればセリア達のためにならないからだろ?」
俺の言葉をゴドーは食い君で否定した。
「そういえば、エドは優しいと言われるのが苦手だったな」
思い出したかのようにゴドーは手を打ち、そして、俺を見て微笑む。
まるで子供を慈しむかのような顔で!!
うがぁぁぁぁぁぁぁ!! 違うんだぁぁぁと叫びたい!!
止めてくれ! そんな温かい目でみないでくれ~。
親戚のおっちゃんおばちゃん達を思い出すぅ~!!
「……お兄、なにのたうち回ってんの?」
「盆正月に! 親戚一同に子供の頃のこっぱずかしいネタを披露された時の気持ちと言えば分かるか!?」
「あ、オケ。ノータッチでいくわ」
こちらの様子に気づいて声をかけてきたセリアだったが、即座に我関せずを貫いた。
それに愕然とする。
…………そうか、パラレルでもやっぱ色々あったのか……。
……どれだろう。あれか? ……いや、それともあっちか? いや、もしかしたら……。
それとももしや……………。
思い起こされる過去に、暗い海の底にでも沈んでいきそうな気分になる。
「えっと、エド? 大丈夫か?」
「あー、うん。大丈夫。ちょっとばっかし、思い出したくもない過去を思い出したなぁーって思っただけだよ? 大丈夫。大丈夫。大丈夫だから今はそっとしておいてくれ……」
膝を抱えてしょんぼりし始めた俺をゴドーは宥めようと必死に謝ってる。
……ホント、いいやつだよなぁ……。
おろおろとしているゴドーに、しみじみとそんな事を思った。
うん。やっぱ俺性格悪いな。そんなゴドーを見て楽しむ俺自身にそう思った。
全員揃うと、俺とセリア以外は神がいる「山」へ行くことになった。
盗賊の余罪、あと背後関係というか協力関係とかそういうのを吐いて貰わんといけんし。捕まってた人達は一度、病気か何かを煩ってないかってのをチェックして貰うらしい。
バロンがかかってた病魔だが、それがどこで貰った毒なのか判断がつかないという事でそっちのチェックもしたいそうだ。
俺とセリアはニアの所に戻って王都に目指すことになった。
ニアだって心配してるだろうし、ヒューモ族のせいで酷い目にあってんだし、俺らは居ない方がいいだろうって事を建前にして、逃げました。
おう、正直に言うぞ。逃げた。逃げました。逃げるに決まってるじゃないか!
神が御座す山だぞ!?
つまり、依り代越しじゃない、綺麗なオネェさまがいらっしゃる場所だぞ!?
誰が行くか! 君子危うきに近寄らずだ!!
ゴドー達には帰りように転移門を一時的に作る魔道札を渡した。
それと、四つの小箱を渡す。
「これは?」
「神様方に。プラネタリウム、本当は催促されてたんじゃね? と思ったから」
「いいのか?」
「まあ、お世話にはなってるし。そのお礼というかなんというか」
むしろ、賄賂? いっそ山吹色の菓子でございますといって差し出した方がそれっぽいのだろうか。
なんてくだらない事を考えているうちにゴドーはしっかりと箱を受け取っていた。
箱には小さなメッセージカードがついているから間違った相手にいく事はないだろう。
ああ、一応ね、神様に渡すって事で、中身は変えたんだよ、ゴドーのとは。
青空・月夜・水・炎となっている。前二つはどうにでもなったけど、時空とか武神とかってなんだ? ってテーマを決めるのにちょっと時間がかかったし、飽きが来ないようにって変えるのが大変だった。
やっぱこれ、作るのめんどくせぇよ。って再確認した。
よっぽどの事が無い限りもう作りたくない……。少なくとも半年はいやだ。
ゴドー達を『山』まで転移させ、俺たちもニアが待つ場所へと帰ることにした。
「それにしてもお兄、ニアをダシにしたでしょ?」
「そういうお前もな」
誰も居なくなってセリアがぽつりと呟いた。
俺も表情を変えることなくそう返す。
俺たち兄妹は互いに含み笑いをし、ニアの元へと転移をする。
こうして、事後処理なんて一番めんどくさそうなものから兄妹揃って逃げたのであった。
もっともそのせいで、やっかいごとが一つ増えたんだけどな。
しまった!
魔道具は魔法の道具で魔道具であってるけど、
魔道札は正しくは魔導札じゃね!?
って今更ながらに気づいた。
別口で書いた魔導の極は「導く」になってたから、魔道具作成をコピペして魔道札作成にした時のミスだなぁって思ったけど、これ今更変えるとエクセルあちこちなおさなきゃならないから、魔道札のまんまでいきます!




