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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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誇りと牙と爪



 翌朝。俺はせっせと朝食の準備中である。

 腹が減っては戦は出来ぬというし。かといって満腹すぎてもいかんだろう、という事でおにぎりを作成中である。

 ツナマヨ、鮭、タラコと大葉の混ぜご飯、わかめの混ぜご飯、鳥そぼろの混ぜご飯などを海苔で包んで出来上がりである。

 ニアでも握ったり海苔でつつんだりと出来るので、俺の傍ではニアが上機嫌でお手伝いしてくれている。

 ニアの保護者二人は……セリアだけが気まずそうでネーアは通常営業だった。

 昨日の朝だけではなく、夜もお世話になったからだろう。

 俺もそうだがセリアも体をもてあましているのだ。

 俺? 俺は耐えようとしたよ。ツキヨ様の言うとおりにしたら、結局代替じゃん? っと。

 そしたら、余計なストレスためんなとばかりにゴドーに襲われました。喰われました。

 おかげですこぶる好調です。自分の体が憎い……。




 朝食を食べて腹がこなれてきたら、そろそろ行くかという事になった。


「ニア、良い子だからこいつらと大人しく留守番しててくれよ?」

「うん。くーちゃんとろーちゃんとみんなが帰ってくるのまってる」

「くーちゃんとろーちゃん?」


 知らぬ間に黒天馬に名前が付いていたようだ。

 クロからくーちゃんとろーちゃんか。ニアにはネーミングセンスがないのかもしれないなぁ。小さいから仕方がないのかもしれないけど。


「セリアおねーちゃんがね、コクテンバってくろいおソラのウマってかくんだってって教えてくれたの! だからこの子がくーちゃんで、こっちがろーちゃんなんだって!」


 名付けはあいつか! センスねーわけだ!


『オヤブン、くーちゃん! カッコイイ?』

『長。長以外に名前つけられた。いい?』


 二匹の顔を撫で、良い名前貰ったな。と心苦しく思いながらも口にし、そして二匹に命令する。


「俺たちが居ない間、ニアを守れ」


 二匹は嘶き、そしてやる気でか、鼻息を荒くしていた。


『オヤブン! マカセル!』

『長。守る。命かけても!』


 黒天馬は本当に賢いな。実力隠すって事も出来たのか。

 二頭からはいつものただの馬っていう気配はなく、強者のようなプレッシャーが発せられていた。

 二頭を再度撫でて、ニアに馬車から離れるなよ? と声をかけてから俺はみんなの所に戻る。


 今から盗賊退治ではあるが、みんなの恰好にそれらしさは何も無い。業務魔法で鎧を出す事も出来るが、重いだけだし止めさせた。代わりに結界を付与したアクセサリーを渡してある。

 それになにより、重装備だといかにも退治しにきました。と言っている感じだが、軽装だと、相手も油断するだろうという面もある。

 シェーンのような事でもないかぎり俺の結界を壊すことは無理だろうし。


「さて、みんな準備はいいかな? 盗賊退治ではあるが、殺しは厳禁だ。色々余罪もありそうだし、ぜひとも神の前で色々語って貰おう」


 唇が弧を描く。たぶん俺は今悪い顔をしてるだろうけど、正義なんてもんを振りかざすつもりはない。

 これは、八つ当たりだ。それでいい。


「ゴドーとシェーンは先に捕まってるお仲間の所に送る。俺たちの方はタンガの結果を見てから暴れる事とする。タンガ、無理そうだったら退け」

「はい。分かってます」


 力強く頷いたので、俺も頷き返す。


「じゃあ、行こう」


 そう声をかけて俺たちは夏の国へと転移した。




 盗賊達の住処は岩山をくりぬいたかのような場所だった。

 紫霧の近くにある、人が住もうとは思わない場所。彼らはそこを寝床としていた。


 俺たちが到着した事で砂嵐は収まったものの空気はどこか埃っぽい。

 俺は岩山を見上げる。

 岩肌には木で作った窓がはめこまれていた。人が出入り出来そうな物が大小含めて沢山ある。

 俺のマップでも何かの巣のように複数の通路と出入り口が表示されている。


「黒一番から十番、赤一番から十番、来い」

『ニン!』

『クノ!』


 俺の言葉に二種類の声が答える。

 そしてマップに二十のマーカーが現れる。


「うわっ!? なにこれ!? ちっさ! でもかわいい!」


 俺たちの周りに現れた忍者集団にセリアが思わず声をあげる。

 他のメンバーは……。あ、声も出ないですかそうですか。

 俺たちの前に現れたのは手乗りサイズ、二頭身キャラの忍者とくノ一だ。


「なにこれ、忍者の恰好をした……妖精?」

「正真正銘忍者だ。噛みつかれても知らないぞ」


 そう冗談でいうとセリアにほっぺをぷにぷにとつつかれていた黒の三番、三狼は空中にでかでかと「そんな事しません!」と書いた。


「分かってるよ。ごめんって。お前達は散らばって、盗賊が逃げないようにしてくれ。分かってると思うけど生け捕りだ」


『ニン!』

『クノ!』


 命令を出すと彼らはそれこそアニメの様に消えた。


「はぁー……。お兄ちゃん、あれ、何?」

「忍っていうスキルで出した忍者とくノ一だ。ああ見えて上級武術も上級魔法も自由自在だからな?」


 スキル『忍』で出てきた彼らの特性は、レベルが低い頃は本人が所持してる初級魔法だけとか下級までとか制限があったりするが、レベル5には、本人がスキル保持してるしてないはお構いなしに、忍は全ての初級が使えるようになったりして、レベル8になると上級はお手の物。レベルが10になるとステータスまでカンストするくらい強くなる。

 一部高位や極を持っているがまだ使いこなせないバロンよりも、上級までをきっちり使いこなす忍の彼らの方が圧倒的に使いと俺は思う。

 1スキルに付き1体だが、俺は見ての通りだ。


 こんなのが軍隊規模で二十も三十も呼べるのだ。国を盗ろうと思ったらいつでも出来る。新しく興す事だって可能だろう。面倒だからやってないだけで。


 俺はみんなに合図をし、岩山へと近づいていく。

 砂嵐が止んだからか、見張りだと思われる人間が中から二人出てきた。


「ん?」

「あれ? この前散々みんなでかわいがってやったやつじゃね?」 


 俺たちに気づき、そしてタンガにも気づいたようだ。口元にバカにした笑みが浮かんでいた。


「んー? 売ったヤツがもう一人紛れてるな。あと新顔が三つ」

「女のアルフ族は高く売れるな。ヒューモは面倒だな。囲うか」


 彼らはそんな話をし、何かしらの合図を送ったのか、それとも、元々出てくるつもりだったのかぞろぞろと中に居た男達が出てきた。

 そしてみんなして俺たちを見て嗤うのだ。

 値踏みして、味見をする事を想像しているのか、ねちっこい視線を感じる。

 セリアはそれにぴりぴりとした空気を出して、ネーアは最初に会った時の様な無表情になっていた。

 バロンはタンガを気遣い、タンガは呼吸が荒くなっていたが、それでも震えだす事は無かった。

 俺は、そんなみんなとは違い、一人歓喜していた。

 何にって? こいつらの目線が気持ち悪いって思う事にだよ!

 この二日で俺は自分の体が信用出来なくなったので、ヤれたらなんでもいいんじゃね? って思ってたりしないか不安だったんだ!

 良かった! 本当に良かった! ほんっっっっっっっとーぉぉぉおおおおおに良かった!!


「……ねぇ、なんでそんな楽しそうに笑ってんのよ」


 セリアが俺を見て不可解そうに尋ねてきた。

 むしろ空気を読めてるか? と言いたげだ。


「いやだってなぁ? こいつらを全員殴って良いってなると八つ当たりのしがいもあるというか」

「……ああ、確かに、クズだもんね。どうみても」

「オイオイ、酷いことを言う女だなぁ」


 男が一人、セリアに近づこうとするがタンガが前に出て、その進路を塞ぐ。


「まずは俺の相手をしろ」

「あ? なんだ? 俺たちの事が忘れられなくなっちゃいましたってか? あんだけかわいがってやったんだからそれも当然か?」


 男の言葉に周りのやつらも笑う。

 バロンは拳を握りしめ、その哄笑を耐えている。しかしタンガは眉一つ動かさなかった。


「誇りを取り戻せ。牙を、爪を、取り戻せ」

 

 小さく呪文のようにそう何度も口にしていた。

 そして一歩前に出る。


「俺と戦え! 盗賊共! あの日のように、俺に絶望を見せてみろ!」


 吠える様にタンガは挑発する。

 盗賊達は顔を見合わせ、その中の一人が出てきた。武器は持たず、拳を鳴らして笑っている。


 そして盗賊達はゆっくりと俺たちを囲むように移動してくる。ニヤニヤと笑いながら少しずつ。

 セリアやネーアもそれに気づいているのだろう、顔を歪めさせていた。


「大丈夫だ」


 俺がそう一声かけると二人は小さく頷いて前を、タンガの戦いを見守る事にしたらしい。

 随分と信用されたものだと内心笑ってしまった。


「バロン。あいつらが余計な事をするようだったら、吹き飛ばしていいぞ」

「はいエド様」


 そんなやりとりをした後、俺たちもタンガの戦いを見守る事にした。


「うおぉおおおおお!!」

「よっしゃこいやぁぁ!」


 気合いを入れて駆け出すタンガ。余裕綽々で待ち構えている盗賊A。

 右ストレートを繰り出す。それを盗賊は片腕で防ぐ。悪手だと知らずに。

 タンガの右拳は盗賊の腕の骨を砕き、そのまま盗賊を吹き飛ばす。

 後ろにいた盗賊を巻き込んで盗賊Aは倒れた。そしてのたうち回っている。


「いてぇいてぇいてぇ! 回復くれ、いてぇぇぇぇ!!」


 盗賊達は盗賊Aとタンガを見比べそして、気を引き締めたようだ。


「大丈夫か?」


 俺はタンガに尋ねる。


「………………ええ、震えが止まりました」


 右手を何度か緩めたり拳を握ったりしてそう答えた。そして顔を上げる。


「モヤが晴れた気分です。まだやれますよ、全員、一発ずつ殴りたい気分です」


 時折、猫背になっていた彼の背がピンッと伸びる。

 大きい体を小さくしようとしていた。隠れるように。それがなくなっている。

 なら、もう大丈夫だろう。


「全員かぁ。俺とセリアにもこいつらに八つ当たりしたいからなぁ。全員は勘弁して」

「仕方、ありませんね。なら半分貰っていきます」


 少しだけこちらに向けた顔には笑顔があった。悪い笑顔とか気持ち悪い笑顔とかじゃなくて、どこかすっきりした笑顔だと思う。けど、殴る+笑顔ってのは凶悪コンボだと思うけどな。止めないけどさ。

 俺は例のハリセンを取り出した。


「バロンはタンガのフォローな。ネーアはセリアのフォロー。まぁ、こんな雑魚相手にいらんとは思うが、タンガとバロンはともかくセリアは集団戦には慣れてないし」

「それはそうだけど、お兄はソレでやるの?」

「そうだよ。よっぽどの事が無い限り殺さなくて済むし」


 ハリセンで肩を叩くとセリアが呆れた顔をしたが、それ以上突っ込む事はせず剣を抜いた。

 背を守るようにネーアも構える。

 バロンも剣を抜き、タンガはあくまで己の肉体のみで相手をするようだ。


「……舐めてんのか?」

「いやいや、舐めてなんてないですよ?」


 険しい顔をして、ドスの利いた声をかけてくる盗賊Bに俺はそう応えて、前へと進む。

 一瞬で間合いをつめた俺に、盗賊Bは声もなく瞠目していた。

 ハリセンを一振りする。

 空を切る音と、ハリセンの独特の打撃音と共に盗賊Bが吹っ飛ぶ。

 二メートルは吹き飛び、ごろごろと地面を転がり、そしてピクリとも動かなかった。


「な? 十分な威力だろ?」


 打撃なんで、きちんとしっかりと、スキルの影響受けるんですよ? こんな武器でも。


「剣を持って欲しいなら持ってやっても良いけど、死ぬよ? お前らマジで」

「ちっ! ヒューモ族とバースト族は殺せ!」

「「「「「おう」」」」」


 そんな命令を下せるって事はリーダーかねぇ?

 盗賊達は一斉に獲物を取り、俺たちに襲いかかってきた。

 俺はそれをハリセンで張り倒し、調子を取り戻したタンガとバロンは何の危なげも無く、盗賊を無力化し、セリアは「あんた達のせいでー!!」と喚きながら蹴り倒していた。

 ……あいつ、何のために剣抜いたんだ?


「くそ、風よ我が声に応え---」


 呪文を唱えだした男の前に俺はやってきて、フルスイングでその顔面を叩く。

男は鼻血を出して倒れてく。


 俺がこの一週間みんなに徹底的にさせたのは無詠唱である。

 呪文を唱えてからだなんて時間の掛かることはナンセンスだ。

 何より自分が何の魔法を使うかモロバレである。

 どうしてもというのなら、頭の中で唱えろと教えた。


 セリアはすぐに順応した。

 呪文が説明文に入っているせいで唱えていただけで唱えなくて良いのならその方がいいと言っていたほどである。

 そしてこれは魔法攻撃だけではなく、物理攻撃にも有効なのだ。

 盗賊Aはタンガの右ストレートをただの拳だと思って受け止めようとした。

 でも実際は中級スキルが使用されている。

 そんなもの結界も無しに受ければ腕の骨が折れて当たり前である。


 乱戦となったように見える盗賊との戦闘だが、俺は全体の様子を俯瞰した視界も交えて、戦況を確認し、コントロールしながら、盗賊を倒していく。

 セリアとネーアのペアはどうしても経験不足だからなぁ……。

 遠くから二人を攻撃しようとするやつの所に一瞬で飛んでハリセンを叩き込む。

 それとは別の方向ではバロンが氷の矢を放ち、魔法の発動を阻止していた。


「な、なんだこいつら!? なんで、アルフ族がこんなにポンポン魔法を使うんだ!?」

「…………」

「やべぇぜ!」

「に、にげろ」

 

 形勢不利と理解した何名かがそう口々にし、逃走を図ろうとする。中には無言で戦線離脱しようとしてるやつも居た。


 やれやれ。逃すわけがないだろうに。


「大人しく神の裁きを受けると良い」


 俺が何かをするよりも早く、その声は彼らの耳に届いただろう。

 一瞬にして空気が変わる。神聖で清廉な空気。だからこそある重圧。

 こんな場所には似つかわしくない空気。

 盗賊も俺たちの動きも止まった。

 それを待っていたかのように、カメラのフラッシュのような光が天空で光った。そして雷が落ちてくる。


「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」


 盗賊達は雷にうたれて、悲鳴を上げ、地面に倒れて痙攣している。


「これで彼らは動けないぞ」


 仲間を助けたのだろうゴドーはそう俺たちに声をかけて洞窟の中から出てくる。


「今のは神官特有スキル?」

「どちらかというと神殿特有だな」


 なるほど。村や街に張られている魔物と獣防止のやつか。

 俺は納得しながら改めてゴドー達を見て、戸惑った。

 盗賊に捕まっていた神官は二人。

 ゴドーの横には憔悴した神官が一人。

 その後ろをシェーンが遅れて歩いてくる。

 手足が歪な形で曲がった神官を引きずって。

 俺の視線に気づいたのだろう。ゴドーは少し辛そうで悲しそうな表情を浮かべた。


「……彼は、自らの意志で盗賊に力を貸していたんだ」



 

 


 


感想ブクマ評価色々ありがとうございます。

これからも頑張っていきたいと思います。

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