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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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ニアの願い



「死ぬ方がマシだっていう目に遭わせてから殺してやる」


 俺がそう口にしたら、バースト族の二人が、全身の毛という毛を逆立ちにして、硬直していた。

 リアルであんなんなるんだ。ってくらい、下から上にブワァァッて。

 ……うん。別にお前らを怯えさすつもりなんてなかったんだけど。

 殺気を納めると、二人の逆立った毛はゆっくりと戻っていき、ぐったりとテーブルにうつぶした。


「……お前がさっき、威圧を放っていなかった事は……よく……分かった」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 疲れ切った様子のシェーンに、症状が出始めたタンガ。


「えー……と、ごめんネ?」


 謝ったけど無意味でした。

 むしろ、謝るならきちんと謝れ。といった風情で見られたよ。皆から。


「……パラレルのアタシってお兄ちゃんに愛されてたのね」


 驚いた様子を隠すなくセリアは言う。


「血縁ってのはそんなもんだよ。良くも悪くもな。お前の兄貴もなんだかんだ言っても、もしもの時はそれなりに男をみせてくれたと思うぜ」

「そうかな? ……そうだったらいいな」


 照れたように笑うセリアに小さい頃の妹を思い出して、ああ、こういう時もあったなぁ。なんて懐かしい思いが過ぎる。

 なんて懐かしがってる場合じゃない。タンガを元に戻さねば。

 慌てて状態異常回復魔法をかけてタンガを正気に戻すと、咳払いを一つして、話しを進める。


「それで、盗賊退治をするまで、みんなには訓練なり練習なりをしてもらおうと思ってるんだけど、ここでそのままキャンプするか、それとも一応目的地でもあった王都に行こうかどうしようか? って聞こうかと思ってたんだよ」


「オレはゴドーの部下だ。指示に従う」

「自分はバロンさまの意志に従います」

「我が主、エドさまの御心のままに」


 夏の国の人間はあっさりと思考放棄……いや、決断をこちらに任せてきた。


「アタシ達はお兄ちゃんについていくよ?」

「……おにい……」

「あれ? ダメ?」

「いや、いいけど。真面目に妹扱いすっぞ?」

「いいよ。パラレルとは言え、お兄ちゃんだって分かったら、エドって呼ぶより兄ちゃんとかの方が呼んでてしっくりくるもん」

「そうか。じゃあ、その姿過去に引き戻して良い?」

「え!? なんで!?」

(お前)に年下として見られるのはムカつくな、と」

「ならエドが成長すればいいじゃーん!」


 なんて、やりとりをしてたりしたのだが、結局は俺とゴドーの話し合いの結果、このままここでキャンプする事になった。

 水は魔法でどうにでもなるし、食料だって最終的には俺の魔法でどうにかなるのだ。

 馬車の仮眠室を人数分増やして、男女別の浴槽付きの浴室とトイレも増設してしまえば、何日だって入れるのだから、王都の宿屋から訓練が出来る場所に移動する時間がもったいない。という事になった。


 俺は夕飯の時間まで、馬車の改造を、ニアとゴドーは黒天馬の世話を、それ以外のメンバーは訓練をする事になった。

 そして、セリアと俺のお待ちかねのカレーは好評だった。大好評だった。

 結構な量を作ったのだけど、タマネギの欠片すら残らなかった。

 残ったらカレーうどんにしようかなぁ。って思ってた俺のアテは外れた。

 

 翌日は前日と同じように訓練が必要な者は訓練を。俺やゴドーはニアに勉強を教えてたりした。

 そうそう、タンガには熟練度補助はつけてない。

 彼にあんな方法を使うのは、今までの彼に対する冒とくかなと思ってしまったからだ。

 代わりにMP回復を早めるのと最大HP&MPを上げる装備を渡した。あとは大量にあるMPポーションのがぶ飲みで頑張って貰う。


 ご飯は三食ともにセリアとバロンに用意してもらった。

 ニアはやっぱり狩りには難色を示したようだが、セリアとネーアがそこは頑張っていた。

 空腹って何よりも分かりやすいよな。ってぼやいたのが効いたようだ。

 ただ、ニア自身にも何かしらの変化もあった気がする。

 周りに居る大人は今までと違うからそのせいもあんのかねぇ。

 なんて思ってたのですが。理由はもっと違う場所にあったのだと知った。それはさらに翌日。ニアの保護者になって七日目に分かった。

 ニアは短命種から長命種へと切り替わった。そのため、ニアが持っているスキルを全て取り、そして、ニアにさせていた指輪も取り、別の指輪へと変える。


「ニアは将来、どんな風になりたい?」

「……ニアはもう、死なないの?」

「うん。死なないよ。ニアが頑張ったからな」


 ニアには未来がある。もう残り寿命は表示されていない。

 だから今までのスキルは必要ない。ニアがなりたい将来のためのスキル構成を考えたい。


「……おにーちゃんは神様なの?」

「ハイ? なんでそんなことになったんだ?」

「だって、ニアは神様じゃないとなおせないっていってたよ」

「そんな事無いよ。セリアが最初にやろうとしてた事だってニアを治す方法の一つだよ」


 間に合ったかどうかで言えば難しいところだが、徹底的にニアに経験値をつぎ込んでいくようにしていけば間に合ったかもしれない。少なくとも死へとカウントダウンを遅らせることが出来ただろう。


「……ニアは、うそをおしえられてたの?」

「ん? 嘘って?」

「いきものをきずつけることはやっちゃダメって言われてたよ」

「無闇に……、無闇って言っても分かんないか。えーっとな、本当の部分もあるし、間違ってる部分もある、かな? 狩りは見たんだよな?」

「うん。イヤだった」

「でも、食べないとみんなが死んじゃう。ニアは他の者を傷つけるよりは死んだ方がいいっぽい事を言ってたけど、ニアが死んだらネーアはとっても悲しむ。いっぱい泣くよ」

「…………うん」


 ニアは俯いて、小さく同意を示した。


「おにーちゃん」

「ん?」

「ニア、タンメイシュじゃなくなったんだよね?」

「ああ、そうだよ」


 何度聞かれても、答えてあげよう。ニアはもう短命種じゃないと。


「……ニア、じゃあ、ガッコウに行ける?」

「学校?」


 予想していなかった言葉に俺は思わず聞き返してニアを見る。

 ニアは少しだけ顔を上げて、上目遣いで見てきた。

 誰だぁ! こんな仕草を教えたのは! 美少女だから破壊力がパネェんだけど!?

 いかん。悪い大人に浚われてしまう……。


「ニア、ガッコウいきたい。ニア、バカだから、もっとベンキョーしたい……ダメ?」


 ダメですなんて言えるわけがない。

 それは俺の心境なのですが、でも、現実問題がある。


「学校かぁ……。手続きってどんなのがあるんだ? でも、うん。分かった。ニアが学校に行けるようにするから」


 ニアの頭を撫でた。この辺の事は保護者達と話をする事にするか。


「じゃあ、学校に行くためのスキルと、美味しい料理を作るスキルを入れて貰うか」


 生活魔法の(水・熱・清潔・料理)と初級魔法(全)・調べる・書く・描く・かく・言語・空気イス・平常心・初級剣術・初級拳術・初級蹴術・初級投術・初級打術・耐性(弱)・算術・循環・鑑定・育成・料理人


 と言った所か。紙に書いて渡すとニアはそれを見て、こてんと首を傾げた。


「……おにーちゃん。これって、たたかうためのスキルじゃないの?」

「そうだよ。でも初級だから戦うというよりも、運動が出来るようになるって感じに思えばいいよ」

「ふーん? よくわかんないけどわかったぁ」


 うん。それは分かったっていわないけど、いいよ、それで。


「なぁ、ニア、今日はニアが頑張ったお祝いをしようと思うけど、何か食べたいのってあるか?」

「たべたいの? ニア、おにーちゃんがまほうで出したものがたべたい。おいしかった」


 頭を撫でるとニアは嬉しそうに笑って、もっと撫でてとばかりに頭をこちらへと近づける。

 俺は希望通り撫でてやる。


 しかし、学校に行きたいと言い出すとは思えなかった。……知性のせいか?

『可能性は高いと思います』


 そう、昨日からニアの様子がちょっと変わってきたなって思ったんだけど、きっとたぶんそれは知性のせいだったのだろう。

 会った当初は『5』だったのが今じゃ『94』もあるもんな……。

 ニアが少しでも賢くなるようにって入れてたスキルだが、熟練度補助があったとしても補助する熟練度が微々たるものではあまり意味がないので、中々伸ばしにくいスキルが多かったから、たぶん無理だろうなって思ってたんだけど、黒天馬の世話をしてる時に『言語』とか『育成』がうまく働いたのだろう。こんな結果になるとは棚ぼただなぁ。

 ニアを撫でながら俺はしみじみとそう思った。

 




「学校!? ニアが!?」

「そう自分で学校に行きたいって言い出した」

 

 ニアの保護者二人とゴドーと俺の四人でニアの進路について話し合う。


「はぁ~……。偉いね。アタシ、学校って嫌いだったわ」

「ある意味ニアは歪んだ大人社会からやって来たからな、今の環境と前の環境との違いが何か、知りたかったとか色々あったんじゃないか?」

「でも……学校っていけるのでしょうか?」

「そこは神殿側で働きかける事は可能だ」


 ネーアの不安をゴドーが即座に否定した。

 ニアにはまだ神印がついたままだ。消せるのかどうか聞いたら、消せない事は無いが、セリアの様にすぐに消せるというわけでもないようだ。条件の一つがネーアの保護下に入ることらしい。短命種として扱うのではなく成人していない子供として扱う事、らしい。


「神印は消すよりもそのまま残して、短命種が自らの意志で学校に行きたいと言い出したという方が話は通しやすい」

「……短命種詐称にならないか? 大丈夫か?」

「短命種だった事は事実だし、駄目だというのなら神印は消えるだろう」

「……一応、確認取って欲しいんだけど」


 しばし考えてそうゴドーにお願いする。ゴドーは頷いて、祈りをし、きちんと許可を取った。これで何か言われてる事はないだろう。

 ふー。やれやれと一息ついた時にゴドーが俺とセリアに尋ねてくる。


「二人はどうするんだ?」

「は?」

「へ?」

「二人も学校に行きたいのなら手間は同じだから手続きするぞ?」

「「学校かぁ……」」


 俺とセリアの声が重なる。

 セリアも俺も、面倒だけど行った方がいいという二択で揺れているのだろう。


「……盗賊退治が終わってから考える」


 セリアがあっさりと結論を先延ばしにした。俺は……。


「ん? でも俺が学校行ったらゴドーは宣教師の仕事はどうするんだよ?」

「あ……」


 ゴドーはそれに思い当たったのだろう、一音漏らしたが、それでも微笑んだ。


「私の事は気にするな。今はシェーンもいるし、どうにでもなる。エドが学校に行きたいと思うのなら行くべきだ」


 俺のためを思ってそう言ってくれた。なのに、…………なんだろう。今の言葉、凄くもやっとする。

 

「……そうだな。じゃあ俺も行こうかな」


 もやっとしたままだったが、そう答えた。超常識だけに頼るのではなく、きちんと勉強した方がいいだろうとは思うからだ。

 ゴドーは頷いて、書類を取り出して記入していく。

 これで俺とニアは学校に行くことが決まりそうである。

 セリアは……たぶん、いかねぇだろなぁ……。




 夕飯はニアのリクエスト通り、地球産の料理三昧だった。

 二度目の方々も初めての方々も大喜びだった。

 今回ニアのリクエストでという事を初めに言っていたので、セリアはニアにめっちゃお礼を言っていた。

いろんな種類の料理を出してちょっとずつ味見をして食べあったり、肉のみをガッツリ食べたり。わりとみんなの好みというか、男と女の違いを見ながらその日の夕食はお祝いムードというか、宴会ムードで始まり終わった。


 翌日も訓練とお勉強とある代わり映えのしない日が続いた。それでもニアは学校に行けることを喜んでいるのは丸わかりだし、タンガの動きが、少しずつ変わってきて、気迫のようなものが出始めたり、セリアとネーアとバロンの三人は自分のスキルを使いこなせてきているようで充足感のようなものを感じているようだった。

 盗賊退治という大仕事が差し迫っているが、わりと皆気負わずにすんでいるようでほっとしていた。

 

 そんなある日の夜。

 正確に言えば、盗賊退治二日前。


 何故か俺は----。


 ゴドーに押し倒されていた……。



  


 


 





ランダム様の言うとおり~という事で、エドとセリアはエドだけが学校に行くことに。

学校編なんて考えてなかったんだけど……。

ニアが学校に行くというのは予定通り。

しかしそこにゴドーが二人に行かないのか? というのは予定外。というか想定外。

でも、確かに考えてみたらゴドーは確実に聞く。

って、事は二人が行くかどうか、だが……。普通に考えるとエドは行くだろうなぁ……。でも、旅が……。よし、ランダムに任せよう。って思ったけど、結局エドはいくことに。

エドが出すであろう店は王都だろうかって思ってたけど、これで完全に王都に決まったなぁ。って思いました。



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