別に有名になりたいわけではない。
「最強へと至る道? これが?」
「そう。使い方はまた後で教えるから全部レベル5入れて貰え」
「うん。分かった」
素直にゴドーの元へと向かうセリア。
『良かったのですか?』
俺が傍に居るならいいけど、居ない時だってあるだろ。それにたぶん、俺だったら妹と母親には『システム』は持ってて貰いたいって思うよ。本当の緊急事態に助けられるのは俺じゃなく、シム達だと思うから。
武神からの攻撃に最初に反応したのはシムだった。
システムは設定や結ぶなどスキルを上手く使うために特化しているスキルグループの高位スキルだ。
極じゃないのが逆に不思議なくらい、スキルを使うのが上手い。
『『システム』が極ではないのはあえてだと思います。『スキル図鑑』や『断捨離』による獲得を警戒したのでしょう』
なるほど。
極スキルは上級などにある、下位のスキルを売ったせいで悪影響が出るって事がなくなるからな。
極スキルだけは全て持とうっていうやつがいたとしてもおかしくないし、それに対しての対策もしているか。
俺の性格を考えてもそうだろうという気がしてきた。
そんな事を考えながら、焼き上がったハンバーグは順に俺のアイテムボックスにしまい、出来たての状態で時間を止める。
ご飯も出来上がったらアイテムボックスへと移動だな。
カレーは他の二つとは違い、温めたり冷ましたりを繰り返たり、時間の経過を早めたりとして、具材同士の味をなじませる。
『二日目のカレー』になった所でアイテムボックスへとしまった。
俺は四阿を大きくしてみんなに座って貰う。
「今後の話をしておきたい」
俺がそう話を振るとみんなは真剣な顔つきになった。
あ、ニアだけは例外だが。
「ニアの魔力は順調に増えていってるからそう経たないうちに短命種を脱するだろう。その後、どうするかは三人の自由だ」
突き放した言い方になったのか、三人の表情は戸惑っていて、セリアやネーアは何かを言いかけて口を閉ざした。
「ただ、バロンを中心に、夏の国の住人の買い戻しとスキルの調達、育成を行いたいから、そっちを手伝ってくれると助かる」
「うん! やるわ!」
「任せてください!!」
セリアとネーアは顔を輝かせたらが、逆にバロンの顔が驚きに変わった。
「え!? 私が中心になるんですか!? エド様が中心じゃないんですか!?」
「あのな、俺が中心だと夏の国の奴らが警戒するだろ? 先に言っとくけど、奴隷の首輪は隠ぺいするからな」
「はい! 分かりました!」
途中、『奴隷の首輪は』のあたりでしゅーんとし始めたバロンだったが、『隠ぺい』って言葉で笑顔になった。
こいつ頭おかしいだろ。俺の奴隷であるのがそんなに嬉しいのか?
『マスターですからね。嬉しいと思います』
……いや、意味わかんねぇって。
理解するのは無理だろうと話を進める。深く考えると危険だ。絶対。
「で、その資金繰りはなんかの店でも開こうかと思ってる。夏の国の住人は一度そっちの従業員として働いてもらい、スキルを得て貰おうとも思ってる。魔道具店ならアルフ族には魔道具を作成してもらい、バースト族にはその素材集めとかな。物によってはモンスターの素材が必要だからさ」
「アルフ族に魔道具作成ですか?」
「……アルフ族の特性は器用だからな? お前が器用だけカンストしてないのは、他の種族に比べて器用だからだよ」
「そうだったのですね」
「……そうだったのです。っていうか……なんで王族ですら知らねぇんだよ……」
頭を抱えたい。
頭を抱えて「うがぁぁぁぁぁっ」と叫びたい。
「エド、買い戻すのは構わないが、売られないようにするのも重要じゃないか? 放っておくとまた水を買うために誰かが犠牲になるぞ?」
ゴドーの言葉に俺ははたっとする。確かにそれもそうだ。
「確かにそれも重要だな。でもだからといってさ、俺が村を回って水を配ってくってのも変かなぁ。って」
「変なのか?」
「こっそりやるのはいいんだけど、わざわざ皆の前でやることじゃないと思ってる」
「何故? 尊敬されるぞ?」
「いや、わざとらしいじゃん。まるで尊敬しろよ。感謝しろよって言ってるっぽくって嫌じゃね?」
シェーンにそう返す。同意を示すのはセリアだけ。
「こいつは、何を言ってるんだ?」
何故かシェーンはゴドーにそう尋ねる。ホント何故だ。
「……エドは英雄になりたいんじゃなかったか?」
「英雄とこれは関係ないだろ?」
「いえ、夏の国の住人にとっては救世主とも言えますが」
ゴドーに返した言葉を聞いてバロンが待ってくださいと発言してくる。
「あー……。あくどい事をやってる人間の前で、俺はこんな事が出来るんだぜ、どうだ! ってドヤ顔をするのは楽しいと思うけど、普通の一般市民の前で、力を示してドヤ顔をするのは俺の趣味じゃない」
「……ドヤカオというのは?」
「はい! この話は終わり! 夜中にこっそりとどうにかしてくるから」
ドヤ顔の説明しろって言われても困るので俺は即座に話を切った。
不服そうだったが、そこは許して。勘弁して。恥ずかしい。
「……有名になりたいとか、名誉を得たいとかないのか?」
「有名ねぇ。特にはないかなぁ。女の子にはもてたいとかそういう俗な願いは確かにありますが、目立てば目立つだけ、面倒ごとっていうのは起こるからなぁ」
前世は母子家庭だったこともあり、悪い方にも良い方にも目立つわけにはいかなかった。
悪い方に目立つとそれ以降何をしてなくても、地域の目は冷たくなるし、良い方に目立つと、今度は同級生から妬みだなんだで、痛くない腹を探られる事になるからだ。
「あのな、シェーン。俺は転生者だ。お前がヒューモにどんな感情を持ってるかは詳しくは知らん。知りたいともあまり思わない。でもな、たぶんお前のその『ヒューモ族とはこんな物』ってのには俺は当てはまらない。今後当てはまりたいとも思わない。俺の人格の主軸は前世のものだ。これから生きていく上で多少は変わっていくのかも知れないけど、変わらないかもしれない。急激に俺の性格が変わるであろう事案は俺が起こさせない」
それは俺が大事にしている人達の不幸だろうから、そんな事、俺もシムもさせない。
「だから、いい加減お前の知ってるヒューモ族の人物像に俺を当てはめようとするのは止めろ」
「……分かった。止める。だから、威圧するな」
「威圧? してねぇだろ?」
「してた」
「してねぇって」
そもそもスキルに『覇気』はあっても『威圧』はない。
「していた! 恐ろしかった!」
「はぁ……。まあ、不機嫌になっただろうから、それを敏感に感じたのかもな。シェーンはバースト族だし、そういうのって敏感なんじゃねーの?」
どうでも良いとばかりに答えるとシェーンは複雑そうだったが、それ以上言ってこなかった。
「で、話を戻すけど、奴隷を買う。店で雇う。は、一応決定事項だ。どんな店にしたいとかあったら意見を出してくれ。アルフ族は器用、バースト族は武闘派って事を頭に入れておけばいいと思う。で、それとは別に、夏の国に居るヒューモ族の盗賊を退治しようと思ってる。バロンは参加、タンガもだ。シェーンとゴドーも参加してくれ。盗賊団の中に神官が居る。彼らは任せたい」
「神官!? どういう事だ!?」
「奴隷達のスキルを取るために居るんだ」
ゴドーの質問に答えたのはシェーンだった。
「彼らも強制奴隷だ。謹慎処分があけて一部のスキルが使えるようになったために、スキルの出し入れをさせられているらしい」
シェーン達三人が暗い顔をした。って事は、捕まってる間、持ってたスキルを取られたのかな。
「何故、言わなかった」
「言ったところでどうなる。お前一人で行くのか? それとも神に願うのか? 神はたぶん動かんぞ」
「……」
ゴドーはぐっと黙った。
たぶん何かしらの条件があるのだろう。
「神は呼べなくても私自身は行ける」
「宣教師がほいほい盗賊団に近づくというのか? あいつらからすればお前は宝の山だぞ? お前が強制奴隷にでもなったらどうする」
「彼らは私に触れることはできない。神殿の結界は彼らをはねのける」
「強制奴隷にされている者達はそうじゃない! 彼らはお前に近づける! そいつらがお前を取り押さえて首輪をはめたらどうなると思ってる!!」
イラだってテーブルを叩く。
とても怒りと苛立ちが伝わってくる。しかしどうやらシェーンの腕には別の振動も伝わってるのだろう。苛立ちと怒りが急速に弱まり、なんとか表情は怒りのままにして、体面を保っているが、あれは、腕が痺れてるとみた!
俺の空気イスを舐めんな! だ。
「大丈夫だよ。ゴドーには状態異常は効かないようにしてる。俺の結界は相手が神官であろうと、盗賊だろうと、強制奴隷だろうとゴドーを守る」
そもそもゴドーはシムの保護下だ。そんなやつがいたら、シムは自動で撃退をしてくれるだろう。
俺の大事な人達を守るため、という条件は付くが、シムには俺のスキルを全種類好きに使って良いと伝えてある。
「で、ニアはお留守番だけど、セリアとネーアはどうする? 殺すつもりはないけど、対人戦という意味では良い経験を得られるけど?」
女性陣にこんな提案するのもどうだろうとは思うけど、経験値を得るというのにはとってもいと思うんだ。俺の分の経験値もみんなにわりふるつもりだし。
ネズミの一匹たりとも逃す気は無いから、そこそこ稼げるはずだし。
「……アタシは参加するわ。でもネーアは念のため、留守番にして」
「セリア! 何を言ってるの!」
「だって、もし捕まったら、ネーアは美人だもん危険だわ」
「そんなのセリアだって同じでしょ!」
「二人ともストップ。捕まるとかそういうのはないから。もし、そこまで戦況が不味くなりそうだったら生け捕りとかしない。俺が全員殺すから」
最悪な事態を考えている二人に俺は告げる。
「モンスターと対人戦とは勝手が違うから経験をして欲しいって思ってるだけだ。訓練と本番の死にものぐるいの気迫もまた違うだろうし、そういう気迫を経験したら、転移で帰って貰っても構わない。転移用のアイテムも渡す」
「……経験……。……ねぇ、エド、本当に危険な事はない?」
「パラレルとは言え、妹をそんな目に遭わせるつもりはない。もしそんな事をするやつがいたら」
俺はうっすらと笑う。
しかしその目はきっと冷めていただろう。
「死ぬ方がマシだっていう目に遭わせてから殺してやる」
正真正銘、本気の殺気を持って、そう口にした。
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