幸運
話全然すすんでません。すみません。
本当はさ。折れた剣でも炉に入れてもう一回作り直したらいいっすよ。って言おうと思ったんだ。
でも念のためにシムに調べてもらったんだ。名剣とかが壊れた時の修理は、どうするって。
調べてもらって正解だった。炉に入れたらなまくらになる確率が高いから、本当に名剣だったら場合、残った部分を使って別の短剣にした方が価値があるらしい。
危ない危ない。思いつきを口にしなくて良かったよ。ホント。
「じゃあ、戻りますか」
「あ……はい」
名残惜しそうにしていたが、タンガはバロンに向けて軽く頭を下げて、キャンプ地へと向かう。
俺もセリア達に軽く手を上げて合図を送ると戻っていく。
彼らには頑張って獲物を捕ってきて貰わねば。見つけたヤツは炭になってたし。
今度は無事にゲットできるかねぇ。
馬車に戻ったら、シェーンにスキルを入れて貰う事にする。
いつもだったらゴドーに入れて貰うんだけど、タンガに関してはシェーンがいいだろう。
スキルを書いた紙を渡したら思い切り不思議そうにされた。
「……空気イスなど何に使うんだ?」
「何言ってんの!? あれほど素晴らしいスキルはないよ!?」
「本気で言ってるのか?」
何故か、冗談だと思われたぞ。
こういうやりとりがゴドーの場合有ってもすぐに済んじゃうけど、シェーンの場合はそうもいかないんだろうなぁ。
「分かってないなぁ。じゃあ、シェーン、ちょっとこっちに来てみろ。教えてやるから」
「……言い方が気に入らんが、よかろう」
シェーンは不愉快そうに顔を歪めたが体をこちらに向けて歩いて数歩目で、何かに突っかかり、バランスを崩し、前のめりに倒れている。
受け身を取り、地面を転がる事でケガを防いだが、先ほどまで歩いていた所を見て、いぶかしんでいる。
「着色」
俺がソレに色を付ける。
ソレとはもちろん空気イスの事だ。
「見えない障害物ってのは、下手な武器よりも危険だと思うぜ?」
ニヤニヤ笑って言うとシェーンの顔が歪む。
バランスを崩した時、とっさに足を前に出して、倒れないようにしたが、その足だって空気イスに邪魔されて前に出せなかったのだから、倒れるしかなかったわけだ。
「それにそんだけ派手にすっころんでくれると、隙もデカイし、止めも刺しやすい。まあ、そうすると逃げようとするだろうけど、シェーンはもう立ち上がれないだろ?」
「何を言って?」
立ち上がろうとするが、その動きが止まる。左右を見て、俺を見た。
「……なるほど、こう使うのか?」
「そ」
もう一度着色を使うとシェーンの体は空気イスに囲まれていた。
腹から膝の上に空気イス。左右に空気イス、背中にも空気イス。
空いてる隙間から剣でさせば一発だろう。
「……しかし、卑怯であるな。これ、お前は壊せるのか?」
「もちろん」
手刀を一振りすれば、すぱっと切れて空気イスは、風船が割れたような音を出して、破裂したように消える。
「……イスにしかならんと思っていた」
「スキル名だけ見てるとそうだろうな。実際、俺もそれの使い方もよくするぞ?」
透明で出していた空気イスを全部破棄し、俺はシェーンの横に中腰で座る。
「まあ、信用ならないヒューモ族だけどさ、基本スキルは持ってて危険なヤツなんてないんだし、疑問に思わず入れてくれるとありがたいかな? スキルの情報は秘匿すべき大事な物だろ?」
「……そうであったな」
神官としては、そう言われては強くも出られないだろう。
卑怯な一言だとは思うけど、俺としても言える事もあれば言えない事もあるのだ。
シェーンはもう一度紙を見て、また眉を寄せた。
紙にはスキルがびっしりと書かれていたからだろう。
空気イス・平常心・冷静・武術の心得・武人の心得・初級~上級までの武術系全てと、
魔法操作補助・気配察知・待機・耐性(中)・耐性(強)・雄叫び・咆哮・呪い耐性(強)・循環・生活魔法(水)・初級魔法(全)・下級魔法(全)・チャージ・観察眼(熱)・二重呪文・処理速度向上・縁の下の力持ち。
他にも色々欲しいっちゃ、欲しいのだが、これだけ詰め込んどけばそうそう負ける事はないだろう。
「……おい、これらをタンガに入れるのは構わないが、多くは発動できんぞ?」
「今すぐ出来る様になれとは言わんよ」
二人は何か言いたげな顔をしたが、言葉を飲み込んでシェーンとタンガは向かい合いながら一つずつどんなスキルかシェーンが説明しながら入れていっている。
なんせ俺、調べるは入れなかったからな。
でも、わざわざ説明するってシェーンは良い神官だなぁ。春の国じゃスキルの説明なんて受けた覚えないぞ?
そんな事を考えながら俺はゴドーの前に座り、真剣な顔を作る。
ゴドーも釣られて真剣な顔になっていた。
「ゴドーさん、お願いがあります」
「……なんだ?」
「俺が寝てた分、今日、二個スキル引いちゃ駄目ですか?」
「……………………」
呆れた表情をした後、ゴドーはスキル用の箱を出した。
「一日一回。そう言っただろ」
「ぐっ……。分かりました」
仕方がない。引けなかった俺が悪い。諦めよう。
「それに、今は内容が変わっているぞ」
「へ?」
「エドが引く物に限り、スキル箱の中身が全てのスキルになっている」
「へぇ? それは凄い」
俺様、好待遇~。ありがたい事です。
と軽~い気持ちで喜んでいたら。
「それとエドが持っていないスキルも一つ入っているそうだ」
「え!?」
「このスキル箱は本当にお前専用だし、本当の意味で神の気まぐれで中身が入っている」
衝撃が走った。俺の目はスキル箱に釘付けだ。
一個だけ。一個だけ。この箱の中に一つだけ。
『スキル幸運と幸運値を使用しますか?』
シムの問いかけは、俺の気のせいかもしれないが、ウキウキしているように聞こえた。
欲しい! 今すぐ欲しいけど!! ゴドーと神様的にはきっと俺に楽しんで貰いたいのだろう。
だから幸運を使って当てに行くというのはきっと喜ばない。
…………喜ばない……のは、分かってるんだけど……。
『スキル『幸運』と運『10000』を使用しますか?』
やめい! それ絶対当てる気だろ!
シムの本音がっつりな言葉に俺は思わず反論する。
いや、分かってる。シムの本音は俺の本音だ。
スキル『幸運』は幸運がちょっぴり上がるという効果のスキルだ。1%とか2%とか上がると良いな。くらいなものだが、もちろんこれだって壊れた性能がある。
ステータスの運を消費する事により、確率を変動させることが出来る。
いや、確率を変動というか、確定化させるというか……。
たとえば、コインの裏表って二分の一の確率だけど、二回投げたら必ず表が出るっていうわけじゃない。あくまで確率で、百、千ってやったらだいたい半分くらいの結果だったっていう感じだけど。
レベル10の幸運は、ステータスの運を1消費する事により、コインが表表になって絶対に表が出る。という感じになる。
三枚のカードで当たりが一枚であれば、1ポイント消費すれば、一枚の当たりが二枚になるし、2ポイント運を消費すれば当たりカードが三枚になって必ず当たる。という事になる。
そんな効果のスキルで一万も使ったら、絶対に当たりしか出ないだろ。
いや、分かるよ。シムの気持ちはよく分かるんだ。実際俺だってそうしたい。
でも……。そんな事したら絶対神さまもゴドーもがっかりするのが目に見えている。
せめて相手がゴドーじゃなかったらやるんだけど……。
…………。
『…………』
…………。
『…………』
…………シム。運、10ポイント消費で。
『かしこまりました』
これぐらいは許してくれ! と心の中で謝り、俺はいざ、ドキドキとしながらスキルを引いた。
出た数字は『151』!
数字が歪み『昼の加護』という文字になった……。
は、外れた…………。
いや、当たるのは難しいとは思ってたけど……。
でも、よりにもよって昼の加護か……。いや、夜じゃなかった分ましか?
でもなんだろう……。他のスキルならともかく、このスキルだと俺をおちょくって楽しんでいるんじゃ無いだろうかっていう気がしてきてしまう……。
いや、待て俺。美人なオネエさんの方はともかく、美人なお姉さんの方はまともな方……。
そういや、無理矢理というか、一方的にキスされたこともありましたっけぇ~……。
脳裏に浮かんだ記憶に俺は一瞬遠い目をした。
いや……うん。深く考えないで置こう。
考えたらきっと負けだ。
あの方も実は弟と同じノリとかだったら俺の中の女神像が壊れそうだし……。
明日はちょっとは話が進む……かな?