折れた剣
いつもありがとうございます!
短いです!
ごめんなさい!!
直径10メートルはあろうかという火柱が天へと昇っている。
それを見て、俺は思わずバロンの名前を口にしてしまった。
「バロンさま? バロンさまがあそこにいるのか!?」
「うん」
いるねぇ。と地図を見ながら答えると、タンガは突然森へと駆けだした。
「え!? ちょっ!?」
彼はいまなんのスキルも持っていないのだ。ご神体を持ってるとは言え、あれを神官で無い彼に使いこなせるとは思えない。
慌てて俺も立ち上がる。
「エド、何があったんだ!?」
「えーっと、分かんない! ちょっと様子を見てくる」
ゴドーにそれだけを答えて俺は慌ててタンガの後を追った。
流石、獣人、バースト族、スキル無しでもはえぇ!!
「バロンさま!!」
火柱の元にたどり着いたタンガはその後ろ姿を見て、悲鳴のような声でバロンを呼んだ。
「た、タンガ? な、なんでここに、ってエド様!?」
タンガの後ろに居た俺にも気づき、バロンは驚いた声を上げる。
バロンは汗をかいているがケガはなし、セリア達は結界が発動しているので、こっちも大丈夫そうだ。むしろというか、やっぱりというか、一番危ないのはタンガだ。
「バロンさま、無事ですか!?」
「え!? えーっと……」
「バーローンー。どんなモンスターが出たからお前、上級火炎魔法なんて使ってんだ?」
「うぇ!? あ、あの……」
ダラダラとバロンの汗が多く出てくる。
うん。バロンの汗って全部冷や汗だよな。知ってた。
だってバロンはこれを放った術者だ。
魔力制御のステータスが低かったりしたら、制御も出来ずに自身を焼くかもしれないが、それらを補助する『並行思考』や『処理速度向上』もきちんと持たせている。
バロンの周りには術者を守る魔法もきちんと展開されている。
「そ、その…………五分は燃え続ける魔法でして……」
上級スキルだけならな。でもその辺は初級レベル10スキルで自由自在になるんだよ。
「あー、大丈夫。少しずつ炎が小さくなるイメージで消していけ」
「は、はい」
言われた事を実行するために、バロンは炎の柱に向き直る。
揺らぐことなく空へと伸びていた火柱がゆらりと揺れて、不安定になりつつも少しずつ小さくなっているようだった。
「……バロンさまが、本当に……?」
「そうっすよ」
愕然としているタンガに同意を示すと、ゆっくりと俺を見る。そしてまた前を向いた。
炎の柱は徐々に細くなり、十五センチになった頃には一瞬にして消えた。
バロン達の前には黒く燃えた丸い地面があった。
「バロン、折角だからその焼けた大地を森林にしてみろ。練習としては丁度いいだろ」
「は、はい」
深呼吸を一つして、バロンは黒く焼け燃えてしまった地面に両手を突き出した。
タンガが半信半疑で見守る中、バロンは魔力を高めていく。
「火よ、水よ、大地よ、風よ」
バロンが何かを口にし始める。
なんぞ、あれ?
『見ての通り呪文です』
なんか冷たい突っ込みが来た!
『マスターやセリアは無詠唱がさも当然と言うように使ってますが、この世界では当然ではありません』
いや、待った。呪文つったって、環境魔法にあんなんなかっただろ!?
『指定されたキーワードがない場合、スキルが自動的に術者が集中しやすい言葉を呪文にします』
なんてこった! そこも個人に合わせてくれるんですか! 高性能! しかし逆に無意味! どうせなら無詠唱を推奨してくれ!
『あえての作りであると思います』
……俺もそう思う。
ところでシム、一つ調べて貰いたい事があるのだが。
バロンの粛々とした呪文が響くなか俺とシムのやりとりは続く。
焼け焦げて、空白となった部分に色んな光がキラキラと輝き、まるでピンぼけした写真から徐々にクリアな写真へと変わるように、空白地帯が変わっていく。
一分も経つと先ほど焼けた地面はどこにもなく、どこか妙に綺麗に並んだ木があった。
この辺も術者の影響を受けてんのかねぇ。と思ったが特に問題はないだろう。
「……あれが、バロンが自分の自由を俺に差し出してまで得た力ですよ」
「……」
タンガは何も答えない。
「ちなみに、バロンはあれを連続して40回以上は出来ますよ」
「40回以上……」
「MP回復率も上がっているので、20分もあればもう一回使えますね」
「……」
またタンガは言葉を無くしたようだ。
バロンは振り返り、そして歓喜した。
「エド様出来ました!」
「おう」
「タンガ! これで夏の国が救えるぞ!!」
自分の命も、人生も全て俺に握られているというのに、陰り一つ見つからない。
国民が救えるとただそれだけがバロンの心を占めているようだ。
「……俺も……変われますか? 本当に、戻れますか?」
ぽつりと、聞き取れなかったらどうするのだと心配になるくらい小さくタンガは口にした。
「確約は出来ません。でも、やれるだけの事はしますよ。それに、治るかどうかは約束できませんが、でも、貴方達ももう二度とあんな目に遭わせないという事に関しては約束できます」
「……そう……ですね、正直……、彼らも怖いが、俺には貴方も、もっとずっと……恐ろしい存在だって感じますから」
……えー……。隠ぺいで隠してるはずなんだけどなぁ……。
「はは……、恐ろしいっすか、うーん……。まぁ、褒め言葉として受け取っておきます」
「……はい」
「……折れた剣では主を守れないって事でしたが、俺の知ってる国では、折れた剣を二つの武器にするっていう方法で使う事もあるそうですよ」
「…………そう、ですか、そうなれると良いですが」
バロンを眩しそうに見つめ、タンガは心を決めたようだった。
二時半です! やばい! お休みなさい!




