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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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問いかけ



 俺は両頬を思いっきり叩いた。乾いた音が響く。


「うっし! 切り替え完了!」


 ヒリヒリと頬は痛いがどうせすぐに治るし。


「一体何だったんだ?」

「まあまあ」


 詳しく聞きたそうなシェーンを宥めてから、ゴドーを見る。


「ゴドー、さっきのご神体だけど、借りても良い?」

「ああ」


 二つ返事でゴドーはご神体を渡してくれた。

 うん。何かの力があるのは分かるけど、見た目ははちゃちい!

 漢字だからこれも神聖文字とか古代文字とかそんな扱いのなるのか。

 日本でもエジプトの文字とか梵字とかをアクセにしたものがあったから同じか。

 しかし、……これに何か手を加えることはやっぱり無理そうだな。


 業務魔法で検索をかけて金で出来た猫のシルエットのチャームを取り出す。

 あ、俺個人で使うだけなら別にわざわざ魔道書を出す必要はない。それこそネット検索と同じように出来る。


 チャームに魔法をかけてご神体の紐に引っかける。


「シェーン、これ、タンガさんに渡してきてくれ。もう起きてるから。で、俺が話ししたいって伝えてくれる?」


 ペンダントを差し出すとシェーンはゴドーを見て、ゴドーも頷いて。

 ……ぉぅ。そういやゴドーには貸してくれとしか言ってなかったな。又貸しはダメですね、はい。すみません。


 シェーンはペンダントを受け取り外に出て行く。それを確認した後、ゴドーが結界を張ってくる。


「何かあったのか?」

「あー……。前世の最後を思い出して、さ。それとまぁ、俺がこっちに転生してきた理由みたいなものも、なんとなく分かって」

「……パラレルの俺、と言っていたな?」

「……うん。そいつが原因っぽい。俺は巻き込まれ事故。……初めはちょっと頭にきたけど、この世界も悪い事ばかりじゃないから、本人にあったら一発殴りたいって思うけど、お礼も言いたいかな」

「そうか」

「ん。他に聞きたい事は?」

「タンガを戦わせるのか?」

「わかんね。本人に聞いてみる。本人が立ち向かいたいっていうのなら、手を貸す。無理っていうのなら仕方がないさ。ただ今の状態だと話も出来ないから、心のよりどころがあれば少しは変わるかなって」

「……そうか」


 ゴドーも神妙な顔していたが、俺が本人の意志に任せると言ったからか、特にそれ以上何かを言う事なく、結界を解いた。

 俺とゴドーは連れ立って馬車を降り、馬車から少し離れた所に四阿を作り、シェーン達を手招きする。


 温かい飲み物でも用意しておくかねぇ。

 コーヒーよりは紅茶か緑茶か。それともジュースか……。

 しばし考えたが俺はほんのりレモンの味がする冷えた水にした。

 きっとこういう水が夏の国の住人にとっては一番のおもてなしなんじゃないかなって思ったからだ。


「お……、お話、という……、こ、こと、ですが……」


 震えて、青ざめて、今にも倒れそうだけど、渡されたペンダントを握りしめて必死に耐えている。


「座ってくれ」


 促すと俺たちの向かいに二人は座る。

 水を差し出すと、シェーンがため息をついた。


「氷水か、贅沢だな。春の国は実に羨ましい……」


 嫌味を言うぐらいなら飲むなよ。と思ったが、一口飲んだ後は、ごくごく飲んでお代わりまで要求してきたので、好きなだけ飲めとピッチャーを置く。


「……タンガさん、こういう言い方が正しいのか俺にはよく分からないので、もし気に障るようでしたら、先に謝ります」

「?」

「……昔の貴方に戻りたいと思いますか?」

「……」

「遅くても一週間後には俺たちは、貴方達をこんな目に遭わせた盗賊を捕まえます。しかるべきに場所につき出して裁いて貰おうと思ってます。今回の事は国際問題ですし」


 ただ、どこに連れ出すかがちょっと問題だけど。

 三人のステータスが隠ぺいされた事を考えると、夏の国に連れて行くと口封じって事になりそうだし。かといって春の国だと、身内だからと甘い判決になりそうで怖いし。シム、良い場所ある?

『神山が一番だと思います』

 神が住む山か。神殿の本陣がある所だよな。そこにするか。


「正直治るかは分かりません。でも、原因と立ち向かう事が出来れば、治るかも知れません。スキルも装備もこちらで用意します。出来るだけの手伝いはします。無理強いをする気もありません。貴方の素直な気持ちで決めてください」


「…………なぜ、貴方がそこまでするんですか? 関係、……ないのに」

「討伐に関しては、そのままにしておくと悪影響が大きそうなので。貴方に関しては、貴方が『子供達の夢』だからです」

「……どういう、……意味ですか?」

「俺も子供の頃はヒーローになりたいって思いました。あの頃は悪人を倒したいだったかな? 今は『同じヒーローになりたい』でも、大事な人達を守りたいっていう方が多いですけど。同じ夢を持ち、そして成し得た貴方を尊敬し、応援したいと思います」


 タンガさんの怯えた目をしっかりと見ながら俺はそう告げた。

 本当に凄いと思うんだ。スキルですぐにでも力を得る事が出来るこの世界で名を上げるっていうのは、相当の努力だったと思う。どんなに努力しても、一つ上の高いスキルを買われただけで追い抜かれるのだ。

 腐らず、努力を怠らず、鍛錬の日々だったのだろう。


「……そん……けい?」

「はい。凄いと俺は素直に思います」


 そう素直に告げたら、何故かタンガさんの目からは、涙腺が壊れたように涙がこぼれ落ちてきた。


 え!? え!? 俺のせい!?


 慌てふためく俺に、嗚咽混じりの言葉が聞こえてきた。


「お……、れは、ヒューモ、がき、らい、だっ。な、にもかも、神から、与え……られて! 俺の、努力も、嘲笑うっ! バロン様をっ! ど、奴隷に、し、しし、してお、しておきながらっ! 尊敬……だと!?」


 タンガは拳をテーブルに叩きつけた。『空気イス』はこれぐらいではびくともしない。彼の唇は悔しげに噛まれた。


「……ば、ろんさまを……バロンさまを解放、してください。あの方は……。夏の国に必要な、方なんです。そのためなら、俺は、私は、なんだってしますから。お願いします。お願いします」


 四阿から出て彼は地面に頭をこすりつけた。


「ょ……夜の、相手でも、な、なんでもします。た、叩かれも、殴られても、蹴られても構いませんっ。強制奴隷として扱って、くださって、構いません。ですから……、バロンさまを、解放してくださいっお願いします」


 土下座した状態でさらに頭を下げる。何度も何度も地面に頭を叩きつけている。

 俺はその前にしゃがみこみ、タンガさんの両肩を掴み体をあげさせる。

 額からは血が流れ、顔は涙と血の両方で汚れてしまっている。


「バロンは今は解放できません」

「っ」

「でも、バロンには夏の国を救って貰います」

「バロンさまを傀儡の王にすると?」

「しませんよ、そんな事。バロンの魔力は今、ヒューモ族に匹敵します。王の責務でしたっけ? 国民全てに水を与える事も可能でしょう。でも、それではバロンが死んだ後、また元に戻ってしまう。それじゃ意味がない。バロンにはもっと根本の所をしてもらいたいと思います。砂漠という環境を変える事。それをバロンにしてもらいたいと思います」

「……環境を変える? そんな大魔法……出来るわけが」

「出来ます。バロンはその対価に自分の一生を差し出してきました」

「…………」

「俺が与えた力はそれだけ強力なんです。そういう制約を付けたくなるぐらいには。バロンが戻ってきたら、それを確かめてみてください」


 告げて、立ち上がるよう促す。……が、動かない。もー。なんだよぉ。粘られても答えは返られないって!

 しばし無言のやりとりが続いたが、俺の方が諦めた。

 立ち上がらせるのを止めて俺も正座して正面に座る。


「やっぱり強いんすね」

「……嫌味、ですよ」


 本気で言ったのにそう返されてしまった。


「俺が言うのも何ですが、ヒューモ族はMPの量にあぐらをかいてるだけですよ」

「ですが、スキルが物を言うこの世界では、それは強者の証です」

「まあそうなんですけど、でも、MPが同じでスキルのレベルが同じであれば、あとは日々の訓練の成果ですよ」

「……バースト族には、土台無理な話です」

「そこはフォローしますよ。どうします? 自分のトラウマに立ち向かってみます?」


 再度問いかけると彼の顔はまた青ざめて、震え始めていた。

 ペンダントを握り、歯を鳴らし、目をむき出しにして、俺を見ている。

 いや、俺は見ていない。きっと彼の目に、俺は映っていない。

 彼は今、過去を見ている。過去から作り出した幻影。


「ぁ……ぅ……。い、……やだ……」


 彼から絞り出された言葉に俺はほんの少し瞼を降ろした。

 ゴドーに言った様に、無理強いするつもりもない。この方法で彼が治るかも分からない。悪化する可能性だってある。

 だから提案は一度だけと決めていた。結果的に二度になっちゃったけど、さっきは答えを貰えなかったし。これが彼の答えだというのなら、俺はそれを尊重するだけだ。


「ぃゃだ……。いやだいやだいやだ!! いやだぁああぁぁぁぁぁ!!」


 天を仰ぎながら泣きながら絶叫する彼に俺は腰を浮かす。

 不味い。悪化させた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ! こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!」


 叫びながら彼は首や体をかきむしっている。

 肌に赤い線が出来、やがて血がにじみ始める。


 眠らせよう。


 そう思った所でタンガの手が俺に伸びてきた。

 俺の胸ぐらを掴み、平常とは言えない顔が俺に寄せられる。


「助、けてっ」


 絞り出された言葉に俺は魔法を発動させる。


「バロンさまに、すて……」


 眠りに落ちながら口にした言葉に、俺はとっさに別の魔法を発動した。

 状態異常回復をかけて俺自身がかけた睡眠を治す。

 タンガは倒れかかった体を自分で支えた。睡眠効果も消えて、どうやら混乱、恐慌? も収まったようだ。


「…………すまない」

「いや、こっちも配慮が足りず、すみません」


 謝ると、困られた表情が返ってきた。


「ヒューモ族も……あんたみたいなのが居るんだな」

「バースト族だっていろんなのいるっしょ? ヒューモもその点は一緒っすよ」


 確かに、という顔を見せたタンガ。そして、ペンダントを強く握りしめた。

 平常心と冷静はずっと働きっぱなしなのだが、やっぱり効果がないのかなぁ。


『効果は出ています。そうでなければ彼はまともにマスターと話しは出来ていません。それと『洗い直し』や『状態異常回復』も効果はあるようです』


 疑問に思った所でシムが即座に否定してきた。

 シムは俺が寝ている間も動いていたので、寝ている間のタンガと今のタンガを見比べてシムはそう判断したらしい。シムがそう言うのならそうなのだろう。


「……バロンを助けてってのは、俺の奴隷だから解放しろって、事?」


 尋ねると彼は首を横に振った。


「それもありますが、そうではなく……。バロンさまにあの様な目を向けられるのが……辛くて……」


 ああ、憐れみとかその系って事か。


「……もう、自分には、価値がないと、言われてるようで……。……いえ……違いますね……。俺はあの時、動けなかった……。主も守れない折れた剣は、確かに無意味で、……邪魔か」


 耳がぺたりと頭にくっついている。

 尻尾は垂れたままピクリとも動かない。


「……バロンさまを助けてくださいまして、ありがとうございます」


 ゆっくりと頭を下げる。

 臣下としてなのか、守れなかった自分への不甲斐なさや、バロンに対しての罪悪感もあるのか、その一言はとても重みがある気がした。


 折れた剣。彼は自分の事をそういった。

 もう戦えないっていう意味なのかもしれない。


 二度問いかけた。だから、俺はこれ以上問いかけるべきではないと判断した。

 首を振り、気にしないでくれと言おうと思った時、地面を振るわせるような轟音と、点を貫く火柱と、逃げ惑う鳥達が、バロン達が居る、森から起こった。


 真っ赤な炎が、天へ昇り続ける。

 森中から鳥という鳥が騒がしく鳴きながら飛び去っていく。


 全員が何事だと火柱を見守る中、俺はぽつりと言葉を零す。


「バロンのやつ……何やってんだ……」




下書きで消したつもりの部分のやつが残っててびっくりした!

改行で、見えてなかったから消した気になってたみたいです。

てなわけで、修正しました。

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