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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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アルフ族の特長



 ネーアのスキルは、割と酷いことになってた。

 酷いという事はおかしいか。

 入れるつもりの無かった物が五個以上増えてしまった。

 うーん。熟練度補助スキル×5の効果がよくわかる……。


「ネーアは将来どうしたいとかってある?」

「将来、ですか?」

「そう。『風化』と『吸収』は悪いけど取る。でも残りは、ネーアがどうしたいかにもよるかなって」


 『算術』から『処理速度向上』までいっちゃってるから、『風化』はともかく『吸収』は残しても平気な気はするけど、防御のための『吸収』って考えるとステータス的に競り負ける可能性の方が高いし、回復のためってんなら『循環』の方がマシだし。

 『洗い直し』は高位魔法だけど、治癒系だし。無理して取る必要もない。医者になりたいとかだったらあった方がいいだろうし。

 むしろスキル内容が今、思いっきり医者よりだよな……。『診察』もあるし『悪魔の目』もある。『薬作成』は上位の『上級薬作成』にまでなっちゃってるわけだし。


「エドさまは私を薬師にしたいのですよね?」

「んー? そういうわけではないかな? 欲しいステータスとアルフ族の特長を考えて、『薬作成』スキルにしただけで、MPも700超えたし、魔道具作成とか料理人とか針子になりないのなら、そっちに合わせてスキルを調整しようって思ったんだけど、希望ってある?」


 顔を上げれば戸惑いが返ってきた。


「アルフ族の特長というのは、見目が良いと言う事ですか? 自分で言うのもなんですが……」

「え? いや、どちらかというと、器用の方だけど? 細かい作業って種族的に得意でしょ?」

「待ってください! どういう事ですか!?」


 軽く投げたら全力投球が返ってきたというくらいにネーアが身を乗り出してきて、俺の手を両手で捕まえた。


「え? だから……アルフ族は、種族的に器用な種族で、…………ダワーフ族は鍛冶や造船、建築など、大物や力が要る物が得意でアルフ族は製薬や魔道具に料理、いや、お菓子かな? そういう細かい作業が得意なんだよ」


 途中で、ネーアが何に驚いたか気づき、そう伝えると、ネーアの頬からぽたりぽたりと涙が落ちてくる。


「私、達は……、お荷物な種族……じゃないんですか? ……好事家に……売られるだけしか、価値の無い……」

「まさか。それは誤解だ、みんながみんな勘違いしてるだけだ」

「はいっ。はい……」


 否定すると泣き止むどころかさらに泣き出してしまい、俺は彼女が落ち着くのをただ黙って待つことにした。

 しかし、これセリアに見られたら怒られねぇかなぁ。

 なんせ、ネーアさんは俺の胸の中で泣いているのである。

 ギルティ判決が出そうだ……。

 そう思うものの、美人が泣いてたら胸の一つや二つ貸したくなるのは男の性である。


「……すみません」


 ちょっと鼻声になりながら、ネーアは離れた。

 俺がハンカチを差し出すとネーアはそれを受け取り涙を拭いていた。


「落ち着いた?」

「はい。落ち着きました。失礼しました」

「いや、気にするなって。周りからそんな風に言われ続けてたらそうなる気持ちも分かるし」


 まぁ、実際のとこ、たぶんその結果が、今の夏の国の現状なのだろう。

 ネーアが落ち着くまでシムと色々やりとりしたが、本来だったらアルフ族が魔道具なりなんなり作って生活をしやすくしなきゃならないのに、アルフ族はその見た目しか価値が無いと思われていて、特に売りに出される人物は子供の頃から体に傷を付けないよう真綿にくるむように大事に育てられているらしい。仕事もほとんどさせないとの事だ。

 肌荒れやタコなどはもってのほかだと言って。彼彼女達はただひたすら、売られる日のためだけに糧を口にする。

 どんな心境なのか、流石に想像も出来なかった。

 よくすれなかったなって思う。


「ありがとうございます、エド様」

「ソレ、なんでまた様付けに戻ってんの?」


 さっきも気になったんだけど、注意するタイミングが無かったのだ。


「あ、それはバロン様がエド様のことを様付けしているのに、私が呼び捨てにするわけにはいきませんし」

「……バロンのせいか……」


 呟いた俺の言葉はどこか疲れ切っているように聞こえた。ネーアはそれに対して楽しげだ。


「ふふ。エドさま、私、魔道具を作れるようになりたいです。水の魔道具を作って村々に配って、その浮いた金でアルフ族に、アルフ族にあったスキルを覚えて育てて貰いたいです」


 すっきりとした笑顔で語るネーアはとても可愛らしかった。


「うん。いいんじゃないかな?」


 じゃあ、処理速度向上は残しておいて、風化と吸収は取るか。

 洗い直しはどうしようかと思ったが、ここまで育ってるのなら、もういいかとそのまま極まで育てて貰う事にした。


 確か吸収は前回800万で買い取ったよな。今回もそれでいいかな?

 風化は上級だからもうちょっと高くした方がいいか?

『マスター。ゴドーさまと金額を合わせるのでしょうか?』

 ん? 一応はそのつもりだけど。

 マックスにはなってないけど売ってないし。

『では、中級は、1400万、上級は6900万になります』

 うぉー……。

 そうか寝てる間に中級と上級のやつがマックスになって売値が分かったのか。

 ……前回安く買いすぎたなぁ……。

『差額分はセリアへと譲渡代と考えれば問題ないかと』

 そうかぁ?

『あとそれにより、ゴドー様がお預かりしているお金を足せば、三人の借金は完済となります』

 はやっ!

『スキルの値段が思ってた以上に高かったです』

 そうだな。


「じゃあ、ネーア、前回と同じように、ここに『風化』ってのを二枚と『吸収』を書いてくれ」


 そこから先は前回と同じで、何事もなく終わった。

 取り出したスキルを俺に入れる。金を渡したら完済なので、どうせならみんなが揃ってた方が良いだろうと、ネーアにセリア達三人を呼んできてもらう。


俺はその間にネーアに入れて貰うスキルを何にするかシムと相談する。

 まあ相談っていってもあっさりと終わったけど。魔道具作成ってなると必要なのは、下位から含めて全部だろ。って事になった。

 後は金を分けて……と。


 ぼーとしばらく待ってると四人が馬車の中に入ってくる。


「スキルの譲渡は終わったのか?」


 言いつつゴドーは一つの袋を俺に渡してくる。


「お前が寝ている間、預かってた金だ」


 あ、俺が言う前に言ってきた。俺はそこから、ネーアに入れて貰うつもりの金額を抜き取り、ゴドーにスキルを書いたメモと共に渡して、後でネーアに入れてくれと頼む。


「さて、本題に入りますが」


 一度言葉を挟んで三人を見る。

 二人は緊張した様子だ。ニアは相変わらずよく分からないのかニコニコしてる。


「こちらの二つが今回ネーアのスキルを換金したお金です」


 俺が待ってる間に用意していた金。そのうちの一つをネーア達の前に置き、一つはそのまま俺の手元にある。


「パンパカパーン。これにて、三人の借金は返済されました」

「「「……」」」


 エアクラッカーまでしてお祝いムードを出したのに大人達は無言である。

 なんてこった恥ずかしい。


「「え!?」」


 俺が一人羞恥心を抱えたところでセリアとネーアが驚いた顔をして聞き返してくる。


「だから、ゴドーから渡されたこの金と、今日のネーアの分のスキルの一部で借金は返済。完済。そっちの金は晴れて三人の物。まぁ、本当はネーアの財産だけど、今はまだ三人の共有財産って事でいいだろ」

「共有財産って……アタシ何もしてないんだけど」

「何言ってんだよ、お前が居たからこそ、俺はお前達に手を貸してるからな?」


 一瞬暗い顔を見せたセリアにそう言ってやると、セリアは小さく驚いた後、はにかむ表情を見せた。


「……エド……。ふふ……そうやって、笑うとこ……お兄ちゃんにそっくり……ありがとう……」


 浮かんだ涙をぬぐいつつセリアは言って、ソファーに深く座り直す。


「まさか、こんなすぐに返せるとは思わなかったわ」

「普通は無理だからな。俺とゴドーだから出来る荒技だ。分かってると思うけど」

「誰にも何も言わないわ」

「私もです」

「よし、ニアも秘密だぞ」

「うん!」


 絶対に分かってないと思うけど、下手に秘密だってやると、子供って秘密がある事を口にしてしまうからなぁ。これぐらいがちょうどいいのだろう。……たぶん。


「さて、ネーアにはこれからどうするかっていうのは聞いたが、セリアはどうしたい? おすすめスキルを教えてくれって事だったけど、お前はどんな事がしたいんだ?」

「突然言われても……」

「あと、二、三日したらニアは短命種から長命種になるぞ」

「え!? もう!?」

「そう。もう。だから言っただろ? 短命種を長命種にするなんて俺には簡単なんだって」

「……分かった。もうちょっと時間頂戴」


 開放感に溢れた顔から一変、真面目に顔を引き締めてセリアは告げてくる。


「ニアはおいしいごはんがたべたい!」

「ニアは料理人希望か? でも、ニア、料理人だったら魚とかは捌けないと---あー、お魚さんを殺さないと駄目だぞ?」

「えー? やだぁ」

「でも、ニアが普段食べてるご飯も、同じだよ?」


 って、言っても子供にはすんなり受け取れるものじゃないので、後でバロンにでも狩りに行って貰って、一から全部見せた方がいいかもな。


「……ねぇ、エド。料理人スキルを手に入れたら、料理が苦手な人でも上手になるの?」


 セリアがどこか躊躇いながら聞いてくる。

 俺はそれに含み笑顔を向けた。


「な、何よ、その顔」

「いいやぁ。そういや、セリアに一つ実験してもらいたかったんだよなぁってのを思い出した」

「実験!?」

「そう。料理人スキルと生活魔法(料理)を持った場合、どうなるかっていう実験だ」

「……はぁ?」

「セリアだけだと実験の意味がないからバロンにも同じように入れてみるか」


 今日の飯から考えるにここにいるメンバーはまともに飯が作れないとみた。

 特にバロンは王子だからないだろうし、俺の奴隷のままなので、そういう実験には使いやすい。


「えっと、なんの意味があってそんな事するの?」

「んー……。秘密かな? 言ったら面白くないし、無理矢理結果変えてくるかも知れないし」

「……はあ?」


 よく分からないと言った感じだが、言っちゃったら意味がないと思うんだよなぁ。俺。


「料理人と生活魔法(料理)代は俺が出すから、今日からバロンと一緒に頑張ってくれ」

「う……ん。自信無いけど分かった。あと、お金は後で返す」

「そうか?」

「あ、これ使って。降って沸いたような金だし、セリアのためになる方が私も嬉しいわ」

「……いいの?」

「うん。今までニアの事助けて貰ったし、そのお礼にもならないけど」

「そんな事無いよ」


 女のウツクシー友情のやりとりを見守ることしばし。

 セリアが中身を確認する事なく、金が入った袋を差し出してくる。


「これで足りる? たしか料理人スキルって高かったと思うんだけど」

「あー。足りる足りる」


 俺は受け取った袋をそのままゴドーに渡す。一億円以上入ってるんだから、足りない訳が無い。

 ゴドーは袋を受け取り、中身を見て眉をしかめたが、小さく何かを唱えたら、その袋をセリア達に返し、スキルを入れていく。

 ……今のはなんのスキルだろう。金勘定系のスキルだよな。

 なんだ!? うぉー、気になる。絶対神官特有のスキルだよな、アレ!

『可能性は高いです』

 シムも同意見って事はその可能性がより高くなった。あとで聞いてみよう。




 セリアのスキル入れが終わった後はニアのスキルチェックをし、不要と判断した上位スキルは取っていく。

 吸収×2、結界、風化、鑑定、鑑定(備考)、待機、思考加速、動体視力上昇である。

 いくつか神殿でも売っているし、レベルもマックスにはなってないが、ニアには少々重いというか、何をしでかすか、というか何かをポロッと言ってしまうか分からないので取っておきたい。

 ただ、本来入れてなかった『育成』はそのままにした。今、うちには黒天馬がいるから情操教育とかにもいいかもしれないからだ。

 『言語』も含めて、世話をしたり話かけたりして、熟練度が稼げるはずだ。

 書くのが大変なので、神官が取り出せるものは取り出して貰い、取り出せないものはスキル札を使用した。


「よし、いいぞ」

「ありがとー」


 お礼を言われるようなことじゃないんだけどな。むしろこっちが言わなきゃならん気もするのだが……。

 吸収と風化の金は保護者二人に渡すとして……。本人に何か頑張った証は渡さないとなぁ……。


 俺は少し考えて設定をいじった魔道書をニアに手渡す。


「ニアが頑張ったから、この中から六個、好きなの選んでいいぞ」

「いいの!?」

「おう。可愛い洋服とかもあるし、ニアが好きなあまあまもあるぞ」

「うわぁぁぁ!」


 目を輝かせニアは魔道書を受け取り、掲げてくるくると回る。

 それをセリアが羨ましそうに見ていた。そしてこちらへと顔を向ける。


「いくらか払ったらアレ、使わせてくれる?」

「そこはスキルで頑張ろうぜ」

「……神官としては、スキルをそういう交渉に使って欲しくないんだが」


 三者三様の言葉が出た所で、俺の負けが決まった。

 流石にゴドーに止めろ言われたら止めますよ。ゴドーに見捨てられると色々困るの最終的には絶対に俺だものよ。


「ふーむ、じゃあ分かった、何か条件付け考えとく」

「1MP1ゼニィじゃ駄目なの?」

「そうすると条件が簡単過ぎるだろ? 君ら今、一日でいくら稼いでると思ってるんだか。指輪の効果なしっていうのならそれでもいいけどな」

「うぅ……、無理だよ、そんなの……」


 即座にセリアは頭を横に振った。今、こんなに順調に金が稼げているのがなんのおかげかしっかり分かっているのだろう。


 ふーむ。指輪に頼らない金稼ぎも考えなきゃいけないが……。

 それをわざわざ、俺が考えてやるのもなぁ。過保護すぎるというかなんというか。


 でも、本来だったらシステムの事を言うべきじゃないかっていう気はするんだよな。

 そしたら俺に頼らずとも業務魔法とかで…………。でもなぁ……。


「悪かったわよ、無茶を言って」

「え? ああ、違う。それじゃない。そうじゃなくて…………」


 否定した時、閃いた。

 もしかしたら、セリアになら簡単に出来るであろう、金稼ぎ。

 ついでに、色々やっかいごとから解放されるかもしれん。


「なぁ、セリア。お前、『着色』覚えてみないか?」

 





 



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