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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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なんかイラッときた




「じゃあ、なんだって、ゴドー。あの日死んだ魚のような目してたんだ?」


 展開に頭が付いていかなかったが、それでもゴドーを目で問い詰める。


「あの日?」

「……初日俺に報告してきた時、むちゃくちゃ嫌そうにしてなかった?」

「それは嫌だろ? あの時点では一応一人旅の予定ではあったし、歩きにしろ馬にしろ、旅は旅なのだ。野宿とかもあるんだぞ? 飯とか寝床とか嫌にならないか? それに、シェーンも言っていたが、渡されたのがコレではな。明らかに厄介払いだろ……。普通ならそれでも喜んでいたかもしれないが、私はそうじゃなかったからな……。エドが一緒に来てくれなかったら俺は間違いなく、ずっと愚痴を言いながら歩いていたと確信が持てる」

「持つな持つなそんな確信持つな」

「エドが一緒に来てくれたおかげで、今の私にとっては一番良い結果とも言えるな」

「そう言って貰えるならなによりだ」

「で、エド、シェーンは私預かりでいいんだな?」

「いいよ。俺にはどうしようもないし」

「シェーンはそれでいいか?」

「異存などない」

「そうか。なら、私の副官に任命する。停職職分ももちろん無効だ」


 シェーンのバッドステータスであった停職中って文字が消える。


「着替えを渡すから着替えてこい」

「了解した」


 渡された着替えにその場で着替えようとするので、馬車に押し込めて、俺は未だ壮絶な攻防を繰り返してるセリア達を見た。


「ナンデミャー? ヒューモ族は女同士でちちくちあうって聞いたミャー」

「そんな事無いわよ! 健全な人だって居るわよ!」

「なら、セリヤはフケンゼンになればいいミャー!」

「絶対にイヤ! って、エド! それかして!!」


 コレ? と右手に持ったハリセンを示し、どうやらこれであるようなので投げ渡す。

 セリアはそれを受け取り、まるで野球のバッドのように構えて、ヌコの顔面へとフルスイング!


「うぉぉ……逝ったぁ……」

 

 見てるこっちが痛いほど、見事に振り切った。良い音が鳴り響き、ヌコは顔を押さえて転がり回る。


 セリアはやっぱり仁王像のような顔で、ヌコを指さした。


「どうにかしなさいよ!」

「はいはい……」


 ここでなんで俺が。とか言ってはいけない。俺が連れてきたのが原因です。と粛々と引き受けるのが、女ばっかりの家で暮らすコツだ。


 なんて前世を思い出したりもした。


 さて。

「さて。ヌコや」


 話しかけても、顔面の痛みでうめいているだけで聞いているとは思えない。

 俺は魔法をかけて痛みを取ってやる。

 うめき声はなくなり、ヌコは俺を見て、警戒を露わにした。


「さて、ヌコいいか?」

「ヌコに話を聞いて欲しければオンニャになるミャー」

「……………そしたらお前絶対話し聞かないだろ」


 数分だが、お前を見てて俺はそれについては確信してるぞ?


「ヌコは雄の言うことなんか聞く気はないミャ」


 言って彼女は俺に向かって唾を吐いた。それは俺に当たることなく、弾かれて地面に落ちる。

 反抗的な目が目の前にあって、何名かが息を呑んだ。

俺は何の反応を見せずにヌコを見続ける。


「お、お許しください! 我が主エド様!」


 バロンがヌコの横に並び、すぐさま土下座を始めた。

 そんなバロンを見て、ヌコは嫌悪か軽蔑を向けた。

 自分のために頭を下げているのに、男ってだけでそんなに嫌か。


「何のつもりミャー」


 ヌコはその眼差しをバロンに向けたまま声をかける。

 バロンは俺に対して頭を下げたままだ。


「自国民も騎士も守れない王子様がいったいなんの真似ミャー」

「…………」


 バロンは何も答えない。

 俺も何も言えなくなった。止めさせるべきだったのに、詰まった。


「ヌコのために頭を下げて満足ミャ? 他にもいっぱい売られてるミャ? ネーアも家族のためにこんなとこまで来たミャ? ヌコだって、そうミャ。可愛く生まれたせいで家族から捨てられたミャ。好きな人だっていたミャ。でも、でも叶わないミャ。全部全部水のためミャ。王様が王様の責務を果たさないからミャ」


 王様の責務?

『夏の国では王は水源の一つのようです。しかしオアシスに入れられる水が年々少なくなってきていたようです。それにともない水産省と言う部署が出来、魔力の高い他国の者が水を生んでいたようです。その影響で、神殿と同じく、悪影響が出て来始めています』


「なんでここに居るミャ。なんでこんなとこに居るミャ」


 ヌコの問いかけにバロンは頭を下げたままだ。

 何も言わない、何の反応もしめさないそんなバロンにヌコの怒りが、感情が溢れてくる。


「なんでここに居るミャ! なんであのタンガがあんな事になってるミャ!? 何でミャ!? なんでミャ!? このままじゃ、カネルが王様ミャ! 神殿だけじゃないミャ! 国そのものがめちゃくちゃにされるミャ! なんで、なんで、なんで……ヌコが売られなきゃならなかったのミャ!? ヌコはそんなにみんなに嫌われてたミャ? それともヌコがただ可愛かっただけミャ!? かーニャンは他のみんにゃが大事だったミャ!? ヌコはどうでも良かったのミャ!? 全部全部水ミャ! 水があったらヌコは売られなかったミャ! 水があったらあの人も売られなかったミャ! 返してミャ! 全部全部返してミャ~!!」


 泣き叫びながらヌコはバロンを拳で叩き出した。

 バロンはただ頭を下げ続けて、その拳を背中で受け続けている。


「……バロン。お前に一つ聞く」

「はっ」


 頭を下げたままバロンは答えて、ヌコは涙で濡れた顔を俺に向けた。

 期待と怯えも見える。


「お前は、自国民のために、その生涯を俺に捧げる気はあるか?」

「もちろんです。我が主エド様。あの世界であの言葉を聞いた時から私の心は決まっています。私の命、私の体、私の意識、全て、我が主エド様の意のままにお使いください」


 顔を上げてバロンは力強く言ってきた。

 先ほどの犬っぽさはなく、強い意志を湛えた、武人のようだ。


「もしかしたら本当に生涯を俺に握られる事になるかもしれないぞ? 第三王子?」

「だからこそ、です。我が主エド様。私の血は自国の民を助けるために存在します。私達の一族は、それだけの暮らしをさせてもらいました」


 ……我が主、ね。

 何の迷いのない表情。これ以上問いかける必要もないと感じ、きょとんとしているヌコを見る。


「バロンを許してやってくれ。そして償いの機会を与えてやってくれ」

「つぐないミャ?」

「そう。お前達、夏の国の人間に、永久に続く水をバロンが用意してくれる」

「無理ミャ」

「無理じゃない」

「無理ミャ。絶対無理ミャ。お前は馬鹿ミャ」

「…………馬鹿でいいよ」


 言っただけで信じられるはずがないのは当然だ。


「乗りかかった船だ。ヌコにも水のスキルを用意するから」

「嫌ミャ!」

「嫌なのかよ!?」


 まさか拒否されるとは思わなかったんですけど!?


「あの人以外の雄に抱かれるなんてまっぴらごめんミャ!」


 怒鳴ってヌコはセリアを見た。


「セリアもなんでヌコを殺してくれないミャ!? ヌコはセリアの恋人に手を出そうとしてる害獣ミャ! 早くさくっと一刀両断するミャ! なんであんな痛いだけのもので叩くミャ!! ヒューモ族らしく外道ッぷりをさっさと見せるミャ!」

「何言ってんのよアンタ!?」

「ちょっと待とうか」


 言ってる内容に驚くセリアと、呆れる俺。


「バロン。バースト族ってのは、あれか? 自殺願望っていうか殺されたい欲望でもあんのか?」


 バロンに立つよう手を貸しながら問いかける。


「どうでしょう? 誇りのために命をかける種族ではあるので、その誇りを汚されるくらいなら、殺された方がマシというのはあると思います。とくに……タンガがああなってしまったので……」


 言葉を濁し、バロンは視線を下げた。

 なんというかもう、どうすっかなぁ。


「ヌコ。エドさんをその他のヒューモ族と一緒にしないで」


 ネーアがヌコとセリアの間に入って、厳しい眼差しをヌコに向けた。


「セリアの事もそう。二人とも、私の娘のために力を貸してくれた。短命種のヒューモ族として生まれたあの子はいつ寿命で死んでしまうか分からなかった。でも、エドさまがそれを変えてくれた。エドさまの事が信じられないのならどこにでも行けばいいじゃない。もっとも運良く村に帰られたとしても、なんの力も持たない貴方に居場所なんてないわ」

「煩いミャッ!」


 ヌコにとって一番キツイ一言だったのだろう。叫び、ネーアを捕まえようと飛びついた。

 でもネーアは先ほどまでと違いさっと避けた。

 へー。基礎ステータスが上がってるのもあるけど、午前の加護でさらにステータスを一時的に上昇させたのか。

 思った事に、ん? と首を傾げる。


 ……あれ? シム。俺が寝てる間、三人のスキルはどうなった?

『ゴドーさまが取り外し出来るものに関しては、前回同様取り外し、金に換えてそれで同じスキルを購入しております。それ以外の物は手が出せないので、そのままでした。ニアもネーアも一部のスキルが高位にまでなってます』

 うわっ! やべぇじゃん!

『落ち着いたらスキルの処理をお願いします』

 だな。

 

 女性二人の攻防を眺めているとネーアの右手から、水が放出された。

 それを全身にかぶったヌコは呆然とネーアを見ていた。


「少しは目が覚めた? 死にたいのなら勝手に死になさい。貴方のちっぽけな誇りのためにセリアやエドさまを巻き込まないで。セリアは昔、魚一匹殺すのも躊躇うぐらい優しい子だったのだから!」


 ちらりとセリアを見るとセリアは仕方ないでしょ!? とか、魚の目って怖いじゃ無い! とか俺に対して言い分けを並べてる。

 いや、気持ちは分かるし。そんな必死になって言い分けしなくてもいいのだが……。


「水……水ミャ」

「ええ、そうよ。エドさまが与えてくださったわ。村に帰っても水に困らないようにって」

「っ!」


 ヌコは振り返って俺を見て、顔を戻すと頭を横に振った。


「ヌコの清い体は、あんなヤツにあげないミャ!」

「いや、いらねぇし」


 思わずつっこむとヌコが睨み付けてきた。


「なんミャ!? ヌコの体のどこが不満だっていうミャ!?」

「体の前に性格的に無理」

「っ! そ、それはヌコの体に対して不満はないってことだミャ!」

「駄目出ししてもいいけど、それはそれでお前ら女子はうっせぇだろ?」

「いいから言うミャ!」

「じゃあ言うけど、まず胸の形が悪い。小ぶりなら小ぶりで可愛らしい形ってのがあるが、それもないし、足が筋肉質すぎるのもちょっと。あと、かわいいかわいいって自分でいってるけど、俺からみたら別に普通だし。動きの一つ一つが、なんか男っぽくって萎える」

「エド、あんた……」

「ほれみろ、そんな目を向けてくるだろ?」


 セリアが若干冷たい眼差しを向けてくるので、俺は切り返す。

 そりゃ普段だったらここまでいわねぇよ?

 でもさぁ。


「誰も彼もが自分に対して欲情するなんて自意識過剰じゃね? そもそもそんな貧相な体つきで、よく欲情してもらえるなんて思ったな?」


 唾を吐きかけようとするし、人をヤリマンみたいに思ってるし。

 それになによりも自暴自棄なのか知らんが、周りに迷惑かけすぎだろ。

 殺しをしたくも無いヤツだっていっぱいいるのだ。

 それにニアへの教育上よろしくない。


「う……、あ、あんたの趣味が悪いだけミャ!」

「悪食で有名なヒューモ族に相手されてないってよっぽどだと思うけどな」


 ぽつりと何気ない風を装って言うと、ヌコの目には涙が溜まり始めて、ついに決壊した。


「みゃあぁぁぁぁん! お前なんか大っ嫌いミャー!」


 よし! 勝った!


「……子供を泣かせて何をやってるんだお前は」


 やってきたゴドーが呆れながら突っ込んでくるが俺の耳は右から左だ。


「嫌いで結構だよ。だがな、ヌコ。お前は俺の奴隷じゃない。お前はみんなの善意でご飯を食べて、安全な結界の中で寝ることが出来た。自暴自棄になってたとしても、恩を仇で返すのはかっこ悪い事だと思うぞ」

「好きでここに来たわけじゃないミャ。お前が連れてきたミャ!」

「じゃあ、あの場に置いてきた方が良かったのか? その方が良かったていうのなら今からでもお前を送るけど?」

「…………気まぐれで助けたり捨てたり、最低ミャ」

「何を言ってるんだ? お前が望んだ結果だろ?」

「さっさと殺せば良いミャ!」

「なんでお前の希望を叶えなきゃならねーんだ? 恩を仇で返すやつの望みを叶えてやる義理はねぇよ」


 冷たく突き放すように言うとヌコは息を呑んで、それからネーアを見た。


「見たミャ! こいつはこんなに酷いミャ! どこが良いやつミャ!?」

「あら? お人好しと定評のあるエドさまをそれだけ貴女が怒らせただけの話だと思いますけど?」


 ネーアはさらりと流して、顔を背ける。

 ヌコはバロンを見た。


「さっき散々文句を言って殴ってたやつに助けを求めるのか?」


 ヌコが何かを言う前に俺が先を制す。

 ヌコは言葉に詰まり、視線を泳がせたあと、喚きながら襲いかかってきた。

 爪を出して、俺の命を奪うという気迫と共に。

 俺はそれを避けるでもなくその頬を叩く。


「自分で死ぬのが怖いから、人に殺して貰おうなんて、お前の誇りは随分と軽いな」

「何にも知らないのに勝手な事いうミャ!」


 頬を抑えて、叫ぶ。


「ああ、知らないね。なんの覚悟もなく、誇りだなんだといって、他者を踏みつけようなんてやつは」

「うぅぅぅぅぅぅ」


 歯を食いしばり、唸る。

 目には涙を溜めながらも、それでもこれ以上は泣かないと頑張っているようだ。


 誰も何も言わない。周りの空気はヌコにとって敵意ばかりだろう。周りは俺が何をするつもりなのか見守っていて、俺の横に立って俺を止めようとしたのは、だた一人。


「おにーちゃん、もーやめて」


 ニアがまっすぐに俺を見てお願いをしてきた。そして、ヌコを見る。


「ヌコちゃんもあやまって」

「嫌ミャ! ヌコは悪い事してないミャ」

「ニアはよく分かんないけど、ヌコちゃんがワルいことしたのはニアにも分かるよ? だっておーちゃんもおねーちゃんもやさしいもん」

「そんな事ないミャ!」

「じゃあ、ヌコちゃんはヌコちゃんがしたことをヌコちゃんにされてもいいの?」

「……どういう意味ミャ?」

「よくセリアねーちゃんはいうの。ひとがイヤがることはしちゃいけません! ニアがされてイヤなこともしちゃいけません! って。セリアおねーちゃんやネーアおねーちゃんがイヤがることをヌコちゃんはいっぱいしてたよ? それでもわるくないの? ヌコちゃんのなかではそれはイヤなことじゃなくて、イイことなの? ニアにはよくわかんないの。だからおしえて? りゆーがね、わかればおにーちゃんはあっさりとゆるしてくれるよ? せりあおねーちゃんもよくおこるけど、でも、だいたいはニアのためだったよ。だからよくけんかしたけど、でも、あやまったらゆるしてくれたし、ニアをたすけるために、ほかのホーホーがあるってわかったらニアのイヤがることしなくていいっていってくれたよ。ヌコちゃんはどんなりゆーでいやなの? みんなにおしえて?」


 ニアが一生懸命語る。ヌコはそんなニアを見つめていた。

 そんなヌコを見て、もういいかとため息をついた。


「四歳児に諭されてるんじゃねーぞ」

 

 それがとどめだったのか、ヌコは地面に蹲って泣き出した。

 そんな背中をニアがさすっている。


 そんな二人から離れてみんなの所に戻るとゴドーが不可解そうに尋ねてくる。


「何がそんなに頭にきたんだ?」

「んー……色々? みんなに迷惑をかけてたってのもあるけど……。他人に殺して貰おうって思ってる所とか? それでいて、苦しめずに一瞬で終わらせろなんていう自己満足も含めて? なんだろう、なんか、妙にイラって来た」

「……そうか、もし彼女が謝るようだったら」

「ああ、それは大丈夫。みんなにきちんと謝ってくれるのなら俺はそれでいいよ」

「エドらしい」


 ゴドーはそう言って笑った。俺らしいかねぇ?


「ネーア、悪いけど先に、スキルを調整したいんだが、いいか?」


 そう言って馬車を指さす。


「あと、バロン。悪いけど、タガン? さんの事をよろしく頼むよ」

「はい。我が主エドさま。それと、タンガです」

「おっと。それは失礼。目が覚めたら教えてくれ」

「かしこまりました」


 後はバロン達に任せて俺とネーアは馬車に入り、向かい合う。


「さて、ネーア、お願いがあるのだけど」

「スキルの事ですか?」


 即座に彼女は話しの内容を当ててきた。

 俺は頷く。


「一部は危険な魔法が多いからさ、内緒にして欲しいんだ」

「はい。分かってます。死んでもその事は話しません」

「助かるよ」

「ふふ。私は恩を仇で返すような事はしません」


 言い切ってから彼女は頭を下げた。


「夏の国の住民が大変失礼をいたしました」

「ネーアが謝る事じゃないだろ?」


 顔を上げて貰いお互いに笑いあった後にスキルの取捨選択を始めた。


 ヌコは捨てられたって言って自暴自棄になってたけど、それでもバロンやネーアのように頭を下げてくれる存在が居るっていうことをもっと大事に思って欲しい。










切りがいい(のかは分かんないけど)のでこの辺で。


あと、来週からは土日の更新はストップとさせていただきます。

ストックがなくて毎日更新はさすがに辛くなったので、土日の間で少しずつ書きためたいなっと思ってます。

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