????の視点 -3-
昨日は、また後であげるかもーっと嘘をついてしまい、すみませんでした。
すぐに気づいた誤字は修正しました。(=まだあるかも)
これ以上失点を重ねてはならないとお茶会は最優先事項として扱われた。
スケジュールの調整や振る舞われるお茶やお菓子、茶器に至るまで、国賓用の最上級品が用意された。
国王夫妻、外見年齢の近い王子と王女、王の弟の宰相、その妻、実年齢の近い子息達、それにセルキーの領主と制作者の計十二人という、彼らが主催する茶会としては規模が小さなもので、ほぼ身内だけのものであったが、分別の付く子供達はすでに吐いてしまいそうなくらい青い顔をしていた。
事情を聞いているのであろう。子供でも許されないと周囲の無言の圧力が非常に強力だった。
セルキーの領主に連れられてやってきた制作者はまず国王と王妃に頭を下げた。
「本日はこのようなおめでたい席にお招きいただいたこと、たいへん嬉しく思います」
彼の挨拶に何名かが『ん?』といぶかしむが相手は短命種。きちんと挨拶が出来たことをまずは評価すべきだろう。
しかしそう考えた所で、彼はさらに不可解な行動に出た。
「えっと、グレイス姫は……」
「は、はい!? ワタクシですが!」
名を呼ばれた姫は、怯えにより裏返ってしまった声で答えて、一歩前に出た。
彼はにっこりと笑い、彼女の前に立つと懐からかわいくラッピングされた一つの箱を取り出す。
一瞬、隠し武器かなにかと緊張が走ったが、見た目には可愛らしく、警戒が一瞬薄れた。そのタイミングで彼は予想外な言葉を口にする。
「お誕生日おめでとうございます」
「「「「「「「え?」」」」」」」
「え?」
彼は首を傾げる。何故、みんながそんな顔で見てくるのかも分からず、戸惑うばかりだ。
「えっと……、もしかして……間違えました?」
恐る恐ると目の前に居るグレイスに尋ねる。
「……えっと、ワタクシの誕生日は来月ですが……」
「あれ? じゃあ、別の子ですか?」
少しまずったような顔を見せる。別の子に誕生日プレゼントを用意して渡してしまったと思っているのが見て取れる。
「……あの、エドさまはもしかして、今日は誕生日会と伺っている……のですか?」
彼の挨拶を思い出し、王女は恐る恐る尋ねた。
「え? ええ、グレイス姫のお誕生日会と聞いてたのですが、どうやら教えてくれた人も間違えたみたいで、すみません。本日の主役は誰でしょうか?」
こそこそと、なるべく主役に聴かれないようにという意識が見え隠れする動作で尋ねてくる彼に王女は苦笑した。
「貴方です、エドさま」
「へ?」
「この場は、貴方様の偉業を称える場なのです」
「…………あー、なるほど。一杯食わされた」
ぎくりと王女は肩をすくめる。これでまた迷惑をかけたとなったら今度こそこの国は、少なくとも今の王と貴族達は終わりかもしれない。
「……じゃあ、一ヶ月早いですが、お誕生日おめでとうって事で」
そう言って笑う彼は、不機嫌な様子も、怒っている様子もなく、本当にただの一人の少女の誕生日を祝っているようで、驚いた後、王女の頬も思わず緩み、微笑む。
お互いに微笑み合ったあと、彼は改めて王を見て、頭を下げた。
「すみません、先ほどまで、グレイス姫の誕生日会と思っていましたが、私のための祝賀会だったのですね。このような席を設けて頂き、誠にありがとうございます」
「いや、頭を下げる事などない。むしろこちらの方が礼を言うべきであろう」
王の視線は王女に向く。正確には王女の手にある贈り物だ。視線を追っていた彼も気に入って貰えるといいんですけど。と不安顔だ。聞くと、誕生日プレゼントにと自分の作品を入れたらしい。
「「「「「「「え!?」」」」」」」
先ほどと同じように驚く声が口から飛び出したが、先ほどとは籠もる感情がまったく違っていた。
王女は周りからの無言の圧力に急かされるようにリボンを解く。包装紙を破こうとしてその手が止まる。見たこともない綺麗な紙だったのだ。
「あ、あのエドさま。この、包み紙も貰っても?」
「ええ、もちろん。リボンも全部グレイス姫のものですよ」
その言葉に王女はリボンにも目を向ける。これもまた綺麗なリボンだった。
「素敵……」
リボンを手にし、周りの目を一瞬忘れた。その細かなレースが施されたリボンをどうやって飾ろうかしらと思い、考えを散らした所で、ごほん。と誰かが咳き込み、慌てて王女は先ほどまでしていた事と周りの目に気づいた。慌てて再開する。
紙を折りたたんだだけで箱を綺麗に包んである手法に感心しながら最後に出てきた箱を開ける。
そこにあるのは、真っ黒な石。
光すら吸い込みそうな真っ黒な石ではあるが、想像していたものと違い、落胆とそして安堵も覚えた。
王位継承権の低い王女に貴重な神の貴石など与えてくれるわけがないか。と王女が自虐したタイミングで、黒い石の中で一筋の光が右上から左下に流れていく。
しかしそれはほんの一瞬で、改めて見直しても、黒い石はやはり何の光もなく黒いままだった。
気のせいか。
王女がそう思って内心ほっとした所で、今度は夜空で星が瞬くように小さな光の粒が輝いていた。
気のせいじゃない。
理解したらどっと汗が溢れ出てきた。
勘違いしたとは言え、この国の一番上に立つ父よりも、その下に並ぶ母よりも、まず先に私がコレを貰って良いのか。と王女の心臓は早鐘を打ち出した。
「あ、あのエドさま、これは……、神の貴石……なのでしょうか?」
「いえ、違いますよ。まぁ……その女の子だったらどんなのが喜ぶだろうか、と色々やってて出来たもので……気に入って貰えると嬉しいのですが」
へらり、と気の弱そうな顔で彼は笑った。
「あと、神の貴石なら、侯爵様から依頼を受けて、国王様と王妃様に持ってきてますが」
「「え!?」」
「あ、そうです。陛下、王妃様」
話が振られた三人は内心小さく驚き、慌てて侯爵は傍に立っている者に合図を送り、王への献上品を運ばせる。
本来なら最初に行われるであろう流れだったのだが、それを彼に言っても仕方が無いと侯爵は挨拶を改めて始めて、神の貴石を二人の前に広げる。
それは美しく透き通った石の中に国旗が描かれた石だった。
国旗の縁取りには蛍光塗料が使われているため、もちろん暗がりの中で光る。しかも制作者本人しか分からないが、目に見えない程小さな魔法陣がその中に組み込まれていて、解毒魔法を自動で行ってくれるというものだった。
価値で言えば、確かに国王夫妻の方があるのだろう。しかし制作者本人からすると王女に渡した物の方が何倍も手が込んでいた。
光が現れたり消えたりする。それをいくつか時間設定を変えた物を何パターンか作り組み込んだ。
見ていて飽きないようにという思いから拘ったのだが、拘りすぎて、もう作りたくないと思う位には拘った。
もっとも一度作ってしまえば彼の中にいる相棒がすぐにでも類似品を作れるのだろうが、彼も、彼の中に居る相棒も必要性をまったく感じていなかった。
そういった理由で、「プラネタリウム」と名付けられた石を持つのはこの世に王女と彼の相談役の二名だけで、今後しばらくは増える事もないだろう。
最初こそまごついた様子もあったが、周りにいるのは全員プロである。茶会は混乱など起きることもなくつつがなく進んでいく。
「エド殿は、もし自分以外に神の貴石を作る物がいたらどう思う?」
「いいと思いますよ。俺は弟子を取ろうとは思いませんが、独占しようとも思ってないですし。何かのきっかけで作れる人が他にも出てきてくれるといいな、とは思います」
「それでよろしいのですか?」
「もう十分儲けましたし。これ以上は別に必要ないですし。頑張って作って貰いたいなっって思います」
その笑顔は、自分のスキルが今ここで見られている事を分かっているかのようで、問いかけた方はひやりとした。
貴族の様に笑顔で全てを覆い隠しているわけでもない。喜怒哀楽がそれなりに出るが、だいたいは笑みを浮かべている。
短命種。実年齢はたったの六歳。
本当に? 学校も行っていないのに? これが、無学の子供か?
疑問はつきないが子供達と遊んでいる姿を見ると、お兄さんぶる子供にも見える。
「紙飛行機を魔法で飛ばすのは厳禁ですよ、王子。小さい子が不利じゃないですか」
「す、すまない。つい……」
「どうせなら全員の飛ばしてくださいよ。そしたら小さい子達も喜びますし。ほら、お兄ちゃんが高く飛ばしてくれるらしいぞぉー。構えて~。投げてー」
「「「えーい!」」」
「エドさま~、エドさまぁ。つるはここからどうなるんですかー?」
「えーっとね、あー。最初は四角じゃなくて三角だよ」
幼い子供達の楽しげな声が響く。
今までの茶会とは様子が全然違う。子供は子供らしく顔を輝かせて、新しい遊びに夢中になっている。
大人は彼にこれ以上迷惑をかけないようにとその一挙一動に気を張っているというのに。
子供は随分と自由だと思ったら、気を張っているのもなんだか馬鹿らしくなって、王妃は年下の子供に話しかけるようにエドに話しかける。
「エド様、ケーキはお口に合いました?」
「はい。お茶と一緒に頂くとより美味しいです」
「そう。それは大変良かったわ。料理人も喜ぶでしょう」
「……やっぱり、これは料理人スキルを持った人達が?」
「ええ、貴方に喜んで貰おうと思って」
「へー……。ありがとうございます」
なんの惜しみも無い笑顔を見せる彼に王妃も笑った。
神官と直接会っていない者達は緊張がほぐれてきたのか、様々な話で盛り上がり、そうなってくるとついて行けないのは、男達だ。
女達の話に内心辟易としながらも、彼に嫌がるそぶりがないのでそのまま聞き手に回る。
そういえば、彼の味方は母親のみだったな。
調べさせた彼の家族関係を思い出し、女達に当たりが良い理由に納得がいった。
結局の所、茶会はつつがなく終了した。
彼の人となりを見るという目的は果たした。
短命種という事で、それなりに冷遇を受けていたようだが、それと同時に色んな人に助けられて生きてきた彼は、悪い人間ではないだろう。
そう結論づける事が出来た。
ただ、『危なっかしい』という思いも十分に抱いたが。
王女の胸元を彩る黒い石。あの日誕生日に貰ったそれ。
それは時折、色彩鮮やかな夜空の姿を見せる。
王女はそれを両手で包み眺める。肌身離さず、愛おしそうに見つめている。
あの黒い石には今のところ芸術的価値以外何も無い。しかし、彼らは思う。
今回の騒ぎがなければ、あれもまた神の貴石として扱われたのではないのか、と。
そして、それを誕生日プレゼントとしてあっさりと渡していいのだろうか。と。
確かに相手は王女だが、王位継承権も低いし、取り入るにはうま味が低い。むしろ、王妃に献上した方がよっぽど価値がある。
しかし彼はそんな事をしなかった。遠回しに欲しいという声が上がると、これまた、見事に明後日の方向で返答する形で逸らした。
幼子が直球で欲しいというと、「うーん、あれ、作るのが思ったよりも面倒だったんだよねぇ。別のものじゃ駄目?」と言う始末。
つまりそれは、神の貴石の方が作るのが楽という事なのだろうか。
そんな疑問が浮かんだ瞬間でもあった。
一連のやりとりを思い出すと、護衛は必要だろうと思うのだが、それは神により禁じられている。
だから、国が彼のために今できる事と言えば、盗み見たスキルで、一刻も早く彼以外の者が神の貴石を作れるようになる事だという、盗人の開き直った考え方しかなかった。
あの茶会から数ヶ月経っているが、今のところ成功したという報告は上がってこない。
作り方を教えて貰いたい所だが、弟子を取るつもりはないと言っている以上、下手をするとまた神の怒りに触れる。
ため息しか出てこない。
やはり、スキルが違うのではないだろうか。
回想を終えた兄はそんな事を思う。
神の貴石を作るには他にも何か別のスキルが必要で、それを隠ぺいで隠しているのではないか。
そう思ってしまうのだが、その度に茶会での言葉が脳裏を過ぎる。
「……どうやったら、短命種という不利を背負った身で、あそこまで堂々としていられるのだろうな」
「神に認められた功績が一つでもあれば、それは堂々とするだろう」
「………………それもそうか」
弟の言葉に兄も至極当然だと納得が出来た。
「それよりも兄者。そろそろ始めよう」
「ん? ああ、そうだな」
弟の言葉に、今日の目的を思い出す。
弟は魔法袋から一つの魔道具を取り出した。風の妖精が彫られた魔道具だ。
兄は二つの水晶が繋がった魔道具。
まず二人は風の妖精が彫られて魔道具に触れる。
「情報の操作は例年通りで良いよな?」
「いや、今年は神の貴石の事もある」
「む。それもそうか」
兄の言葉に納得した弟は魔道具に向かって呪文を唱え、起動させるとスキルに関しての情報を意図的に隠ぺいし、もしくは間違った内容を正しいと信じ込むよう世界中の人を対象に魔道具を使っていく。
兄はその様子を眺め、『似ている』と思ってしまった。
神の貴石の制作者に流れる噂の流れ方が、魔道具を使った噂の流れ方に、どうしても似ていると思ってしまうのだ。だから確信してもいいだろう、と考えた。
これ以上彼を煩わせないために、あの神官がやっているのだろう、と。
「よし。では兄者」
「うむ。『全てを見通す目』よ、『囁く声』の目になりて、我らに全てをさらけ出せ」
水晶がまずは光り、それから共鳴するように二つの魔道具が明滅を繰り返す。
準備が出来ると兄は弟に目を配り、弟は成れた手つきで『囁く声』の履歴をチェックしていく。
「父上達は、対象外……、と。うむ、三名とも対象外設定にしたぞ、兄者」
「では、『レベル6以上のスキルを持つ者を、対象外に設定した者以外、全て読み上げよ』」
兄の命令に二つの魔道具の光は強くなる。
それは毎年この時期に行う高レベルスキル保持者の調査だった。
持っているスキルによっては監視をしなくてはならない。
『生活魔法レベル-----』
囁く声から音声が出始める。
二人は同時にメモを取り始めた。しかし、何故かそこで音声が止まり、二人は顔を上げ、『囁く声』を見る。
今まで、『以上』と口にするまで音声が途切れる事はなかった。
眉を寄せた瞬間、二つの魔道具に同時に亀裂が入り、砕け散る。
「「……は?」」
兄と弟は粉々に砕け散った魔道具を見つめる。
「……どういう、ことだ?」
「待て兄者! 俺はきちんと父上達は対象外にした!」
視線を受けて弟は自分では無いと否定する。
二人にはこんな壊れ方をする理由が思い当たるからだ。
「しかし今の壊れ方は、どう見ても『偽りの真』と相克した結果だろ!?」
「そ、それはそうだが、だが、俺はきちんとやったぞ!」
弟は強く否定し、押し黙る。兄もまた歯を食いしばり、荒げそうな声を必死に飲み込んだ。
弟は嘘をついていない。長い間ずっと一緒にいたのだ、それぐらいは分かる。
分かるからこそ、恐ろしい。
「……この一年で、居るというのか? 『偽りの真』をレベル10まで上げた者が?」
「……そうとしか考えられんぞ、兄者」
「……去年まで、『鑑定(真偽)』のレベル6保持者は居なかった。それでも、か?」
「う、うむ」
もしその対象者が居た場合、最善の注意を払ったはずだ。
「……一年で、レベル5から、上位スキルに上げるだけでなく、それを10にまでした者がいると?」
「……そうとしか考えられんよ、兄者」
沈黙が落ちる。
先ほどまであった、年始の忙しさからの開放感はなくなり、今は重苦しい空気が漂っている。
「……どんな化け物だ、それは」
「正直、俺には皆目見当がつかん」
はぁ。とため息をお互いにつき、兄はイスに深く座る。
「ひとまず分かった事といえば、生活魔法の何かがレベル6以上の人間が偽りの真を持っているという事か」
「また不可思議な物を極めようと思った者がいたものだ。とりあえず、父上当たりにお願いせねば……」
「大爺さまの方がいいと思うぞ。父上だと余計な面倒ごとが起きそうだ」
「……それもそうか」
弟は頷き、粉々に壊れた魔道具をそれぞれにわけて欠片を集めると布に包み、部屋を出て行く。
それを見送ったあと、ふと兄は一人の新成人が脳裏に浮かんだ。
生活魔法レベル5を購入していた新成人。
そんなはずはない。
たった数ヶ月で購入したスキルがレベル6になるはずが無い。
そう思うのに、喉の奥に骨がひっかかるように、何かが腑に落ちない。
それでも、兄は否定した。
どうにも彼に対して過敏になりすぎていると。
彼の何倍も生きているからこそ、そうたやすくたどり着く道ではないと知っていた。
だから自分の勘を否定した。
ありえない、と。
明日からはまたエドの視点に戻ります。
かなりどうでもいい蛇足。
(美味しいかって言われたら、美味しいっていうよりも甘ったるいけど、嘘だとバレるかも知れないし)「はい。お茶と一緒に頂くとより美味しいです」という心境でした。
すぐに気づいた誤字は修正しました。(=まだあるかも)




