レベルが上がったぜ、やったぁー。…………のはずが。
三日目。
夜が明けてるのかどうかわからん!!
と思いながら扉を開ける。
薄靄がかかっているがもうじき朝が来るようだった。
ま、眠るのが早かったから当然なのかもしれない。なんせ火が落ちてからの活動は明かりが必要不可欠なため、さっさと寝て、早朝活動した方が効率的。だからこんな朝早くに起きるのも納得であるが、ここだけの話、昨夜はすげぇ怖かった。
ロウソクの火を消したら完全に暗闇だぜ?
分かってたからベッドの近くで消したけど、消したけど、完全の闇ってこえぇよ!
今だって家の中はほぼ暗闇で、遠くに、扉の隙間からの仄かな明るさで、扉の位置が分かったくらいだ。
さて、朝起きて、水を一杯飲みつつ今日の予定を組み立てる。
『スキルを育てる』は重要で、あと、重力も育てないといけない。
収納は便利だが、重さは変わらない。切に重力に期待したい。あとは水かなぁ。お風呂作りたい。
『綺麗石』っていうマジックアイテムがあるからか、お風呂文化がない。そのせいでこの家には浴室もない。
夜は日が暮れちゃって体も服も洗えなかったらからまずはそっちかな。バケツに水ためて、タオルで体ふいて……。頭はどうしよう。魔法で水を出しながら洗うか?
そんなことを考えながら家の裏、村からも道からも見えにくい場所で体を洗う事にした。
実家から持ってきたバケツに水をちょびちょび入れていく。
「水・水・水・水」
ばしゃっ。ばしゃっ。ばしゃ。ばしゃ。
と水が落ちていく音が聞こえるが……。もうちょっとどばーって出ないかなぁ。
「水ー!! 放出せー! 放出せー! ありったけ出せやー!!」
いまだに使い方のわからない放出スキル。それに文句を言うように叫びつつ水を魔法を使っていたら、ポンッ。と軽い音をたて、一つの画面が出てきた。
そこには穴あき問題のように。「□を□する」と書かれていた。
「え?」
戸惑っていた俺を無視するように、右側の□が『放出』に切り替わった。
「……『初級生活魔法(水)』を『放出』する」
その言葉をきっかけに両手から蛇口を全開にしたように水が一気に飛び出してくる。
それと同時に『初級生活魔法(水)』がレベルが上がりました。って言葉が聞こえてくる。
え、レベル上がったの!? って驚いている間にさらに上がった。
何それ! って思ってる間にまた上がって。バケツ一杯になって放出を止める。
……え? ちょっと待って。ついていけない……。
『調べる」で見るが、やっぱりスキルのレベルは載ってない。
くぅ! 残念。確か放出の消費MPは100だったよな。
とMPのところを見て驚いた。
100じゃない。明らかに500以上減ってる……。700は減ってるか?
俺はしばし考えて、庭という名の大地に両手を向けた。
調べるで確かめながら。
「……『初級生活魔法(水)』を『放出』する」
と、キーワードを口にすると両手から勢いよく水が出ていき……。
「うわぁぁあ、どんどん減ってくぅぅぅ」
MPの数字がどんどん減っていく。放出を慌てて止めても、まだMPは減り続け、今度は明らかに500オーバー。消費MP2000くらいで止まった。
……調べるで再度『放出』を見る。やっぱり消費MPは100だよな? って事はそれ以外の理由?
そして、庭は大惨事。
大雨でも降ったのかと見間違う状況だ。
うーん。驚きである。さっきはバケツ一杯分をちょっとオーバーくらいだったけど、今はそれ以上だよな?
っていうか、またレベル上がった? MPの減り方に驚きすぎてそっちには意識がいかなかった。
……スキルのレベルが見られないのが辛い。本当に辛いっっ!
……これって収納にも可能なのかな?
俺はお風呂はそっちのけで、ナップザックを持ってきて、中が無いのを確認し、右手をナップザックの中に入れる。
「『収納』を『放出』する」
そう口にした時、俺は青ざめた。
確かに、収納の力を放出できたようだ。しかしMPの減りがさっきの比ではない。
「ひぃぃぃぃいい!!!
叫び慌ててスキルを切ったが、MPはどんどん減っていく。減り方がさっきの比じゃない。さっきは一応1桁、2桁って感じがしたけど、今のは2桁は同時に下がっていったんじゃないかってぐらいだ。
消費MPは3万を超えていた!
良かった! 俺MPが10万以上有って!!
怖いよこの放出!! 危険だよこれ! でも、レベル上げにはいいな……。
収納もレベルが上がったみたいだし。
……俺の聞き間違いじゃなければ……。
で、収納と水の消費MPの差は何だったのだろうか。
って考えると、もともとの消費MPの差だろうか、と考えた。
水の消費MPは1だけど、収納は10もする。
……それにしても、差はありすぎだけどさ。
さて。いくら俺のMPが毎分10ずつ回復するといってもだ、さすがに3万はすぐに回復しません!
ああ、でも、こんなことなら重力を使っておけば良かったかな……。
今日は地道に頑張ろう。普通の重ね掛けは出来るわけだし。
でも、それはひとまず置いて。風呂に入ることにしようか!
服を脱いで濡れない場所に置く。
頭は直接、生活(水)を使いつつ洗うか。
と、思ったのが間違いだった。
いつもの感覚で、心の中で唱えると、両手から出た水で頭が激しく左右に揺らされ、水の勢いを制御出来ずに、もっともそれが幸いして、両手が水圧で外へと開いていき、俺の頭は解放された。
水はなんとか止めたが、グラングランと揺れる視界。いや、頭?
俺は汚れるのもかまわず地面に座り込み、しばらく時を過ごすのだった。
「母さん、母さん」
家の裏口からこっそりと母さんを呼ぶ。
「あら、エーちゃん。どうしたの? ごはん食べてないとかかしら?」
「や、ご飯は食べたよ。あと、授業料代わりに魚置いていくからさ、あとでスキルのこと教えてくれる? 使い方」
「ええ、わかったわ。本当に朝ご飯はいらないの?」
「大丈夫、しっかり食べたから。あと、家の場所わかるんだっけ?」
「ええ、聞いているわ」
「じゃあ、大丈夫だね。じゃあ、またあとでね」
魚を四匹渡し、俺は父親に見つかる前に家から離れる。
現状は「レベルが上がったやったー!」ではなく、「レベルが上がったやっべー!」になっている。
威力が上がりすぎて、逆に制御が利かなくなった。
もともと水は最初の頃から制御が利かないとこがあったけど、あんなアホな量は出なかった。
明らかに異常。
俺が話を聞ける人は母さんぐらいしかいないから母さんに授業料として、昨日の罠にかかっていた魚を人数分渡した。
残りは昨日と同じく店で売ることに。
「今日も釣ったのかい? ずいぶんと良いスキルのようだね」
「スキルじゃないよ、魚と人間の知恵比べの結果さ」
昨日の罠にそこそこかかってたのだ。
もう二、三個罠を設置したいくらいだ。
「そうかい。この魚とこの魚は一匹100ゼニィで引き取ろう。こっちの魚三匹は一匹80ゼニィだね」
「うん。わかった」
「で? いくらだい?」
「へ?」
「計算できるかい?」
「え? 440ゼニィでしょ?」
「……本当に計算できるんだね。スキルじゃないのかい?」
「スキルじゃないよ」
疑ってるのか。面倒だなぁ。んー? もしかして手伝いも辞めた方がいいのかなぁ。
疑われるのは嫌だな。ってか、なんで疑われてるんだ?
「ふうーん。どこで勉強したんだい?」
「おばちゃん。それよりも買取するなら早くしてくれよ。鮮度落ちちゃうし、俺、これから家に帰って畑を作りたいんだ。って、事で素人でも育てやすい種ってどれ?」
こちらの用件で話を逸らす。向こうとしても物が売れるしいいんじゃない?
「それならこの辺かね」
「んじゃ、それを一袋。いくら?」
「380ゼニィだね」
「たっっか! 今日の利益ほぼパーじゃん。仕方ないか」
言いつつ手を差し出すと50ゼニィだけが置かれる。
そのまま待つとさらに10ゼニィが置かれて手を閉じる。
「んじゃ、またよろしくね!」
声だけはかけて店の外に飛び出して家へと走る。
畑を作ろうってのは本当。水浸しにしてしまった庭で家庭菜園を作ろうかと。まずはあの雑草だらけで、見た目にも肥えているとは思えない土を手入れしなくては。
作業に入る前にもう一度生活魔法水を使う。辺り一面を水が覆う。
覚悟して使ったので吹き飛ばされる事は無かったが。やっぱおかしいって。っていう気になった。
これで消費MP7である。二倍分の水の量といっても、明らかにおかしい。ぶっちゃけるぞ。ここが村はずれで良かったよ! 本当に!!
これでも怖くて途中で止めてるからな!
やれやれとため息を一つついて、俺は泥の中でへたっている雑草を引っこ抜いていく作業を延々と続けた。
どれくらいした頃だろうか。
「エーちゃん!」
泣き叫ぶと言ったような声が聞こえて慌てて顔を上げる。
すると涙目な母さんがそこにいた。
「ど、どうしたの!?」
「どうしたのじゃないわ! なんなのこの家!」
「え?」
「エーちゃん、昨日からここに住んでるの!?」
「う、うん」
戸惑いながらも頷くと、母さんはとても驚いていた。
「そんな……あの人が任せておけっていうから………………エーちゃんは、昨日お父さんに何か買って貰った?」
「え? 家じゃないの、これ」
「……」
さらに戸惑いながら答えると母さんの顔が一瞬、無表情になり、それから優しく尋ねてくる。
……ちょっと怖いです。お母様……。
「昨日、お父さんと武器とか日常生活に必要になりそうな道具とか買いに行かなかったの?」
「行ってないけど……」
俺と買い物なんて父さんが嫌がりそうだ。
「お金を貰ったりは?」
首を横に振った。この時点で俺にも分かった。
本来なら、父親と一緒に新しい生活に必要な物を買いに行くんだろう。でも父さんはそれをしなかった。しかも、俺に使われる予定だったお金も持ったままっぽい。
「エーちゃん。一緒に来て」
「はい」
母さんの静かな怒りを見て、俺は自分の相談事は少なくとも今日は無理だなと思った。
そして予想通り、夫婦げんかが勃発した。
どうやら父さんは出来損ないの俺よりも上の二人に金を多く使いたかったらしい。
母さんは、同じ二人の子供なのに、どうしてそこまで嫌いになるの! とご立腹でした。そんな母さんを見て、父さんが思わず、まあ、本心なのだろうが、さらに失言をした。
「どうせそんなやつに金を使ったところですぐに死ぬんだ! 無意味じゃ無いか!」
父よ。それは地雷原の上を走り回るような、大失言だと思うぞ。
事実母さんの怒りは今まで見たことのないもので、俺がなだめないと離婚までカウントダウンだったと思われる。
「分かったわ、エーちゃんがそこまで言うのなら」
と、なんとか事無きことをえそうだったって言うのに。
テーブルに金を置いて、これでいいだろうって顔をした父さんに母さんが、違うでしょ。もっとすべきことがあるでしょ。と謝罪を促したのだが。
「なんだ、倍、金を用意しろってのか? こんなやつのために?」
と、また火に油を注ぐようなことを口にしてしまった。
母さんの怒声が響き渡り、父さんは慌てていた。あーあ、と呆れる俺。兄二人は複雑そうに時折を俺を盗み見ながら両親を見ていた。
結局、成人の独り立ちは「きちんとした家」が建つまでは延期となり、父さんの小遣いから建築費が出されることになるらしい。
その間、俺は準備期間という事になり、本来みんながそうであるように、独り立ちするに当たってどう生活するか考える時間となった。
道具にと当てられる金は本来だったら10万ゼニィなんだけど、結局俺の手元にはさらに10万ゼニィ、合計20万ゼニィが残った。
結局父さんは、「そんなにお金を払いたいなら払いなさいよ!」と、20万払わされた上に、俺に謝った。心の底から謝っていたと母さんには伝えたよ、うん。深くは聞くな。
俺はその金で早速剣を一振り、斧を一本買った。
あと、今回明かりが無いと辛いという事は実感したので、スキルで明かりを買うことにした。
ってなわけでやってきました。神殿!
で、えっと明かりは……。15000ゼニィだと……。おみくじ三回取れるじゃないか!
「……」
カウンターをざっと見渡す。前回と同じだったので俺は気まぐれスキルの場所に並んだ。
「やっほー、お兄さん」
「……君は、前に成人した子か」
「あれ? 覚えててくれたんだ?」
「それは。成人の祝いに気まぐれスキルを買う人間なんて初めて見たからな」
「あははは」
「それで、大丈夫か?」
「うん。ただちょっと延期になっちゃってさ。しばらくは準備期間に当てられる事になって」
「そうか」
「あ。でも困ってることはあるんだ。上手く力が制御できないんだけど、どうしたらいい?」
「力が制御出来ない?」
「うん。コップいっぱい分だけの水を出したいのにバケツをひっくり返したかのようにあふれるんだよね」
実は母さんにも相談したんだけど、理由が分からないって言われたんだよね。
母さんはいままでそんな事無かったらしいから。
俺が短命種って事で起きてる状況なのかもしれない。
「ふむ?」
神官のお兄さんは一瞬首を傾げたが、手を振り払う動作をすると空気が変わった。
「結界を張った。故にどんな大声を出しても聞こえない」
そう言って神官のお兄さんは「わー!!」と大声を出したが、誰一人振り向く事は無い。
「君はどうにも世間に疎いようだから言うが、スキルはあまりべらべらと話すものではない。もちろん私達神官はスキルの相談を受けているが、防音結界を張る前に口にするのはいただけない。誰かの耳に入ってしまうかもしれない」
「あー……。まぁそうですけど、でもそこまで気を遣う話ですかね?」
「君がそう思わないだけで、別の発想をするものにとっては、実りのある話かも知れない。この世界はスキルで発展したようなものだ。個人の努力などではない。昔有る者がとあるスキルでとても有益な物が作れると知った。彼はそれを売り金を得た。羽振りの良くなった彼に周りの者がその理由を聞いた。スキルで得た物はスキルで得られる。話を聞いた周りの者はそのスキルを得て彼と同じようにそれを売り捌いた。流通量が増え、それの値は下がり彼は金を稼ぐ方法にまた苦しんだ」
「……言いたいことは分かります」
「ちなみにソレは当時1個5000ゼニィで売れていたそうだ」
「へぇ」
気まぐれスキルが買える値段か。いいな。俺もソレをゲット出来たら気まぐれスキルいっぱい買えるかなぁ。
「ソレというのは、綺麗石だよ」
「…………え? あれ、今、特価だと1個100ゼニィくらいで売ってますよね?」
「そうだね。少しは緊張感を持って貰えたかな?」
「ま、まぁ、5000円がぽろっと話しただけて最終的には100円ってのはびびるというかなんというか」
「エン?」
「あ、ごめんなさい。何でも無いです。言い間違いです」
やべぇ驚きすぎて昔の感覚の方が強くなったわ。
「そうか。なら続けるが、神官も人間。本人がそのスキルを得なくても周りの人間に教えてその利益を奪うかも知れない。だから君も話す時は、たとえ相手が神官であろうともきちんと見極めなきゃいけない。分かったな?」
「はい」
「それで、魔力制御が上手くいかないとの事だったが、考えられるとしたら、レベルが上がった事で効果が強まったのを君が知らずに昔の感覚で使用している場合が一番濃厚だが……。君は『調べる』のスキルは持っているかい?」
「はい持ってます」
「ではそのスキル、レベルが上がって威力が上がっているのを無視して使ってないか再度チェックしてみたらいいと思うよ」
「でも、俺、ずっと調べるのスキルで確認してますが、内容レベル1の物と何一つ変わらないんですけど」
「ん? そんなはずは……、あ……。そういえば君、あれからスキルを売ったりして、減らしているか?」
「え? 減らしてませんけど、減らさないと暴走するんですか!?」
「いや、そうではなく。多すぎて、スキルが自動で項目を圧縮というか減らしているのではないのか、と思ったんだ。みんなレベルが5になると上位スキルを購入し、下位スキルは売るんだ。上位スキルを先に覚えたら下位スキルを売っても、上位スキルで使えるからな。だから残しておくよりも売って次のスキルの資金にする。だからだいたいみんな所持スキルは二十以下だよ」
「へー。じゃあ、俺、調べるを買った時点で、オーバーしちゃってますね」
「そうなる」
「今ちょっと試して見てもいいですか?」
「どうぞ」
えーっと調べるで、生活魔法(水)はやっぱりコップいっぱい分の水だけど……。それをじーっと見ていると、まるでパソコンでリストが開くかのように、下にずらりと並んだ。
「あ! 出た!」
「そうか。なら良かった。君の今のレベルでの効果をレベル1のつもりで使ってたりしないかい? その差が激しいと魔力が制御出来ないという感覚になると思うのだけど」
く、こんな初歩的なミスをするとは……。いや、一つ目だけが載っている事自体がミスリードなのかもしれん。と言い訳をしながら読んでいく。
えーっと……。二つ目がティーポット分、三つ目が深鍋分か、これだけでも全然コップ一杯分とは言いがたいな。てか、説明が何リッターとかじゃなく生活用品ってあたりが、生活魔法らしいというか……。
「…………してました」
苦笑を一つ返して先を見ていく。っていうか、これ、まんまレベルを表してるって事か? なるほど、これでレベルを知るのか!
四つ目が洗濯タライ。五つ目が浴槽分って、昔は使ってたのかな……。
そんな気持ちで苦笑してたが、次のを見てその笑みも消えた。
六つ目。人一人が一月で使う平均的な水の量が自由自在に使える。
七つ目。人一人が一年で使う平均的な水の量が自由自在に使える。
……はい?
え? 待ってくれ。レベル5と6からの差が激しすぎる。
1万文字を超えると読みにくいというのを見て、一応それ以下で納めようとしてます。