表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
36/143

神と神

前回書き忘れましたが、血ネタ?

一応さらっと流す感じなってますが。



 第二ラウンドは激しい防衛戦で幕を開けた。

 攻防ではない、防御一択だ!


 いくら依り代越しとはいえ、相手は武神だぞ!? 反撃になんて転じられっか!!


 右腕で防げば右腕が吹き飛び、よければ裂傷が出来、満身創痍になるはずが、ならないのは、ただ単に、スキルによる回復率が早いからだ。

 耐性がなきゃ、やってられん!


【おぬし、いったいどれだけの回復術を施しておる】

「教えたら話し合いに応じてくれますか!?」

【応じんよ】


 激しい闘気に防御を強める。

 まるで暴風の中に放り出されたような猛攻。


 スキルが弾け、いくつもの傷が出来ては消えていく。


 上級スキル『耐性(回復)』。ゲームでは特定の攻撃を受けたら回復するのは良くあるが、実際にやると『やるヤツの気が知れん』とぼやきたい。


 因みに痛みは軽減してくれない。

 してくれるのは下位のスキルだ。

 上級があれば他はいらんと売ったりすると文字通り痛い目を見ることになる。

 先ほど常時発動に切り替えた循環とこのスキルが、攻撃されると同時に傷を治すという神業を可能にしていた。




【ぬ……】


 武神が眉を寄せる。

 防衛一辺倒だったのが、徐々に攻撃が混じってきたからだろう。

 炎が蛇のように飛び交い襲いかかる。もっともそれもあっさりと切り捨てられるが。


 武神相手に、武術のみで戦いを挑むとか。無理だから!


 少しずつ、千手に一手くらいの割合で攻撃が混じり、やがて、九百に一手くらいになり、時間が間延びしていくように、感じる。

 スキルの補助を受けて体を動かしていたのが、やがて自分の意志で体を動かしはじめ、細く細く意識を尖らせていく。

 無音の世界。風すらも遅れてくるような---。



 激しい音と衝撃が周囲を破壊する。

 地面が抉れ窪地になる。

 草地だったはずだが、むき出しの土しか周囲にはもう見当たらない。


【むぅ……。お主、成人して何百年じゃ?】

「…………一年経ってないです」


 一瞬嘘をつこうかと思ったけど、余計怒らせるような気がして素直に真実を口にした。


【一年じゃと?】

「はい」

【儂は軽く、五千くらいは加護をぶち壊した気がするんじゃがな】

「はい。万は壊されましたね」

【……なのに、一年と言うのか】

「本当なので」

【ふむぅ…………。どういう事じゃ】

「あはは。そこは、いくら神とはいえ、言えません」

【ほう?】


 武神様はにぃいっと笑った。


【ならば力尽くで聞き出そうかのぉ】

「戦闘、止めましょうよ。いい加減」

【武神にそのような事、言うても無駄と諦めるのじゃな】


 武神様が構えた。さっきのようにただ剣を向けたのではなく、戦うに相応しいというように何かの型である。


 舌が乾く。俺も構える。スキルの補助を受けた、まだ堂に入っているとは言えない構えだ。

 それでもこの戦いで少しだけ慣れてきた。


 朝練の効果もあると良いんだけど。

『皆無ではないとは思いますが、やはり、この一戦には敵いません』

 ですよね。

『それよりもマスター。こちらにゴドー様が向かってきています』

「え!?」


 俺は思わず、その方向を見た。

 見事な隙ではあったが、もともと相手は格上。その隙に攻撃してくるわけでもなく、ただ同じようにその方向に注意を払った。


 不味い! 不味い不味い! ゴドーが狙われるかも!!

『マスター。ゴドー様はあのバースト族と同じ神の依り代。むしろ武神が話を聞いてくれる可能性が高いです』

なるほど!


 シムの言うことも一理ある。と思った時、太陽が空から消えた。


【う……むぅ……】


 武神様から零れた声は、何故か、非常に逃げたそうな声に聞こえた。

 闇に紛れてわかりにくいが黒天馬が空を走っている。

 どうやら馬車から一頭外してそれに乗ってやってきたらしい。選択としてはかなりありがたい。

 

 黒天馬は俺の前に止まり、乗っていた者が俺の前にひらりと降りてきて、抱きしめてくる。


「えっと……」

【ああ、無事で良かったワぁ。エドちゃんったら、こういう時はきちんとゴドーを連れて行きなさいな。危ないでしょう】


 そう、俺を強く抱きしめて、頬ずりする。

 何かの香水を付けているのか、むっちゃ良い匂いがする。

 俺はちらりと顔を上げて抱きしめている人物を見る。

 青銀の髪に濃紺の瞳のとても美しい……お兄さん……。


「えっと……」

【ケガはない!? あらやだ! いくつか血の跡があるワ! ちょっと! 爺さま!? 加護持ちの人間をどれだけ痛めつけたの!?】


 俺をかばうように抱きしめながら、武神様に抗議する神様。


【なんの事じゃ】

【エドちゃんの事よ! いくら依り代が大事だからって、相手は加護持ちよ! 少しくらいは話を聞こうとかないの?】

【加護持ち? なんの事じゃ】

【しらばっくれないで頂戴!】

【そやつが儂の加護持ちじゃとどうして言える】

【あらだって、アタクシの依り代はこの子の大親友ですもの。スキルを全て得ている事くらい教えて貰ってるわ】

【ただのホラかも知れんじゃろ? そやつは成人して一年もたっとらんと言うておったし】

【ただのホラがレベル4で限界を突破出来るかしら?】

【レベル4じゃと!?】

「あ、はい。レベル4です」


 レベルを上げるのが怖くてあれから生き物を殺すような事はしていない。ミノっぽいものも、俺に入るはずの経験値を全部セリアに流した。情報操作万歳。


「まだ神になりたくないので」


 いくらステータスが高くても、神になるには一定のレベルが必要らしい。逆に言えばレベルが低ければ神にはならないという事だ。


【それに、見てたわよ。姉様が】

【……何をじゃ?】

【爺さまが、エドちゃんの加護を破壊してくのを】

【気のせいじゃて】

【ンっま。往生際の悪い】


 美人のお兄さんは笑った。

 しかしその笑みが、心底怖い。

 武神様には感じなかった恐怖を感じる。


 天空から、音も無く、一振りの大鎌が落ちてきて、まるで豆腐かバナナのように地面に深く突き刺さる。

 綺麗なお兄さんの神様はその柄を持って一振りする。すぱっと地面が切れる。

 武神様はさらに注意深く、構えていた。


【そんな物を持ち出すとは何を考えておる】

【あら、おいたをする神には神器(コレ)じゃないと傷つけられないでしょ?】

【本気か】

【もちろん】

【……それで切られると、儂の依り代の魂が修復不可能なくらい傷つくんじゃがな】


 え!?


【それが?】

【……それが答えか? そんなにその童が大事か】

【何を言っているの爺さま? 先においたをしたのは爺さまなのよ? その依り代の願いを聞き入れるために、なんの非も無い加護持ちの加護を破壊したじゃないの。それも沢山!】

【なんの非も無い? そやつらは儂の依り代を奴隷にしたのじゃぞ】

【それはこの子じゃない。爺さまが殺そうとした二人も違う。種族が一緒だからってひとくくりにするなんて爺さまらしくないわ】

【お主らには分からんよ。ずっと現状を変えたいと祈り続けた子に、それは出来ぬと答えてきた儂の気持ちが分かるかの? やっとそれを叶えられる機会を得たのじゃ。叶えて何が悪い】


 武神様は悪びれもなく答えた。

 俺は先ほどから冷や汗が止まらない。

 俺を守るように抱きしめてる、美人でオネェな神様が非常に怖いのだ。

 

 元々怒ってたのに、さらに地雷を踏んだ気がする。

 武神様の怒りも怖かったけど、こっちの神様の方が怖い。


 カチカチと歯が鳴ってしまう。


 ほんの少し目が細まり、右手が動く。

 俺はとっさに右腕に手を伸ばし、握りしめる。


 あの鎌が動いたら終わりだ。

 死ぬ。


 そんな漠然とした恐怖があった。

 怖くて怖くて、耐性仕事しろって怒鳴りたいくらい怖くて。


 でも突如その恐怖が消えた。

 反射的に顔を上げたら、濃紺の目が俺を見ていた。

 夜と同じ色だと思った。


【……殺して欲しくないの?】

「……神官を奴隷にしてたのは事実だから」


 そう告げると美人な神様は軽く息を吐いて、俺の額にコツっと額をくっつけてきた。

 ふわりと鼻孔をくすぐる上品な香り。


【アタクシ達としては、爺さまに罰を与えるという意味もあるのよ?】

「……うん。でも」


 やっぱり殺して欲しくなくて言葉を濁す。

 そっとまた優しく力を込められて抱きしめられた。

 ……なんかさっきからヒロインポジな、俺……。


 上品な匂いはどこか甘くて、気持ちの良い匂いだった。


【エドは優しいね】

「!?」

 

 耳元でささやかれた言葉と共に耳に触れるだけのキスに、一瞬、腰が砕けそうになった。

『魅了に抵抗しました』

 魅了!?


 美人なオネェな神様はにっこりと笑って、武神様を見る。


【ちょっとぉ! 爺さまのせいで、エドちゃんに魅了が効かないんですけどォ! ただでさえ効きにくい程ステータス上がってたのにィ!】

【なんでそれが儂のせいになるんじゃ!】

【どう考えても爺さまのせいでしょぉー!!】


 ……俺、魅了されてたらどうなってたんだろ。

 っていうか魅了するつもりだったって考えてたら、今の体勢がすっごく怖いんですが。

 思わず体が離れた。ら、倍ぐらいの力で抱きしめられた。


【ウフフフ】

「あ、あはははは……」


 逃げちゃ駄目なんですね。駄目なのか。駄目ならなおのこと逃げたい。


【どうしたのエドちゃん】

「いえ、なんでも」


 視線を逸らすと両手を使って抱きしめられた。


【神様にお願いをするのならぁ、それ相応の対価が必要だと思うの】

「た、たいかですか?」

【そうよぉ。そうねぇ…………。……ふふ、良いこと思いついちゃった】


 俺は嫌な予感しかしません!!


【可愛らしく、『ツキヨちゃんお願いです。あの神官さんを助けてください』って言ったら助けてアゲル。ぶりっこ? ポーズで、上目遣いで、愛らしく言って】


 な・ん・だ・と!?


【あとあと、叶えたら、ツキヨちゃん大好きって言ってくれる? ……あ、ヒノワちゃんも大好きって言ってって姉様が。え? トキミちゃんも? トキミちゃんも大好きって言ってって】

【トキミじゃと!? あの娘もその小僧に加護を与えておるのか!?】

【爺さま? さっき言ったでしょ? エドちゃんは全部のスキルを得てるって。そもそもエドちゃんが最初に得た加護ってトキミちゃんの加護なんだから!】


 時空神さまはトキミっていうんだ。ってことはヒノワってのは太陽の女神かな?


「あの、時空神さまは女神ってつかないんですか?」


 娘っていってたし、女神なんだよな? 太陽の方は女神ってつくのに。


【ああ、あの子、スキル作って貰った時は、男の子だったのよ】

「へ?」

【でも、男の子してるのも飽きたからって女の子になったの】

「…………」


 飽きたからってなれるのか。凄いな神様。

『スキルでも可能ですが』

 まじで!?

『高位スキル『情報操作』はスキルを対価とすれば、男を女にする事も、アルフ族をヒューモ族にする事も可能です。スキルに表示された情報を、書き換えた内容が真実となるように操作するというのが、マスターがよく言う『裏性能』となっております』

 情報操作の意味が違いすぎる!!

『もちろん、夏の国を草原地帯に変える事も可能ですが、マスターの所有の地となりかねないので止めた方がいいかと』

 それについては俺がする気はないけど。


 ちらりと上を見ると、期待に満ちた目があった。


 このまま現実逃避していたいが、したからって何か状況がかわるわけでもないし。

 むしろ、悪化しないのは目に見えてるし。


「…………ツキヨちゃん」


 両手を胸元で組んで上目遣いで、月の神を見上げる。

 ぐっ。た、たえろ、俺!! 人命がかかってるんだ!!


「ォ願いです。あの神官さんを助けてください」


 一瞬言葉が詰まったが、なんとか言い遂げて、だめ押しとばかりに首をちょこんと傾げた。

 

 ぶりっこポーズを終えて、一拍おくと俺の中に激しい羞恥心がわき起こる。

 顔どころか耳も手も熱い! もしかしたら首も赤くなってるかも知れない!

 それでも俺はその体勢を維持し続ける。


【良いわ。アタクシ達がエドちゃんのお願いを叶えてあげる】


 グッと親指まで立てて、月の神は非常に良い笑顔を見せた。


 チクショーーー!!


「ツキヨちゃんも、ヒノワちゃんも、トキミちゃんも大好き」


 ハートでも最後に付きそうな言い方までして、俺はやり遂げた。

 やり遂げた。そう、俺はやり遂げた。

 だからこそ。


 旅に出たい。


 遠い目をして遠くを眺めた後、燃えるように熱い耳を押さる形で頭を抱えて嘆くのであった。


 

 


この話の設定を色々考えてた初期の頃、タイトルは『情報操作って意味が違くない!?』ってなってました。

色々考えているうちに、情報操作だけが壊れスキルじゃなくなってきたので、今のタイトルになりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ