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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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戦闘




 転移した先はどこかの道沿いだった。

 そこに、馬車が一台止めてあって、そこから離れたところに、剣を振り上げて、地面に横たわる少年を殺そうとしている。


「待ってくれ!!」


 俺は必死に叫ぶ。呪怨効果も含まれた制止の言葉に剣を振り下ろす手が止まる。


「殺すのはやめてくれ」


 言い聞かせるように、懇願するようお願いする。

 彼は構えを解いたが、首を横に振った。


「ダメだ。こいつは殺さなくちゃならない」


 その言葉に、馬車地点にある黒のフラグが強さを増した気がする。


 でも。


 ここにも黒のフラグがある。

 線で結ばれたフラグが。

 番号は1。馬車が2。

 つまり、これがスタート地点、きっかけなのだ。


「なんで?」

「坊主、耐性スキルは持っているか?」

「え? ああうん。持ってるけど」

「そうか。ならいいが。こいつはな、病気なんだ」


 男性は言って、地面に横たわる少年を見下ろす。

 ツヤの無くなった白髪。岩のような肌。ふくらみいびつな形をした顔。


「信じられるか? こいつアルフ族なんだぜ?」


 そう言われても信じられない外見。でも確かに彼はアルフ族だ。

 バッドステータスには『病魔』という見たことの無いものが記されていた。

『病魔は正しくは病気ではありませんが、発症するという意味では病気と言えるかもしれません。紫霧に触れると体内に残っていた毒がこのような症状を引き起こします』

 ……毒って、スキル?

『上級薬作成のレベル7から作れる薬物です。治療には同等級のレベル7以上が必要となります』

「三日前から症状が出始めて、徐々にこういう風に悪化している」

「俺は上級魔法(治癒)を持ってる。レベル5だ。それでも治せなかった。分かるか?」


 二人は俺に言い聞かせるように言う。


「でもだからって」

「これが伝染病だったらどうするつもりだ? 最初に耐性を持ってるかって聞いたな? 耐性があればかからないかもしれないから聞いた。でも耐性があってもかかってしまうかもしれない。そういう未知の病気なんだよ。ましてや、それすら持ってないやつらはどうなる? ガキは? 抵抗できずにかかって死ぬかも知れない」

「だからここで殺して、焼いて埋めるんだよ」


 お、思ったよりもまともな理由で俺は一瞬反論すべき言葉を失う。その間に男の一人が剣を振り上げた。


「ま、待ってくれ! 俺は治せる!」

「妙な正義心なら止めときなっ」


 振り下ろされる剣。俺は男と少年の間に結界を張り---。

『マスター!!』


 シムが叫び自己防衛を発動させる。


 真っ白な光が視界を覆った。全てを覆い尽くし、影すら消すような白だ。

 そしてガラスを砕くような破裂音が響く。


『結界スキルが破壊されました。二重結界スキルが破壊されました。多重結界・異次元結界の起動を開始します。上級結界スキルが破壊されました。多重結界スキルが破壊されました。多重結界スキルが起動しました。異次元結界スキルが起動しました。待機中の結界グループを千ずつ起動します』


 スキルで発動させる結界魔法ではなく、結界スキルそのものが破壊される程の攻撃だったらしい。

 極のみが持ちこたえるって事は向こうの力も極と同等レベルって事か。


 光が収まると、馬車の幌は全て吹き飛ばされ、一人のバースト族が光りを放ちながら立っていた。

 彼の周りに居る他の奴隷達は無傷で、驚いた様にそのバースト族を見上げている。


「【慈悲じゃ。逃げるがよい】」


 若い声と老人のような声がバースト族の少年から零れる。


 圧倒的な存在感。そんな彼に逃げろと言われた奴隷達の多くは、彼からも逃げるように馬車から飛び降りて走って行く。


「なんで……魔法が使えるんだ?」


 男性達は戸惑いながらも剣を構えた。バースト族の彼と戦うつもりらしい。


「お兄さん達、逃げた方がいい」


 一番良い薬を取り出して、少年の抱えて口に入れて飲ませる。


「彼、神官っぽいよ。っていうか、よくそんな人を奴隷にしたね」


 俺は呆れながらバースト族の職業を口にする。

 男性達は目を大きく開けて、俺を振り返り見て、そしてまた勢いよく前を見て、バースト族の彼を見た。


「神官!? 冗談だろ!?」

「そんなのっ。扱うわけがねぇ!」


 まぁ、実際、職業隠ぺいされてたしね。


 薬を一本飲み終わらせると俺は、抱きかかえていた少年を地面に下ろし、ぐっと地面、正確には彼の体で出来た影に押しつける。

 どぷんっと粘りのある水の中に落ちたかのような音がして、少年はこの場から消える。


「お兄さん達、逃げてくんない? 正直、守りながら戦うって無理だし」

「【何を言うておる。お主らは逃がさぬよ】」


 一瞬にして、バースト族の彼は距離を詰め、鉄すらもあっさりと引き裂きそうな爪を俺たちに向けた。

 ギギィーとガラスを引っ掻いたような音が耳に障る。


『魔法、異次元結界が破壊されました。スキルの破壊までは至りませんでしたが、時間の問題かと思われます』

 だな。

『二人を守りながら戦うというのはあまりにも不利で、無謀です』

 確かに無謀だわ。どうみたって、格上だもんよ。

 あんまりやりたくないけど。仕方が無い。

 多重分身発動。二人を連れて離脱後、状況によっては記憶改ざん。

『スキルを一部多重分身二体に移動します。移動が完了しました。多重分身発動します』


 俺と同じステータスを持った二体の分身が現れて男達を一人ずつ捕まえて一瞬にして転移する。

 あとはこのバースト族が追いかけないように俺の方で足止めしないと……。


「【ほう。異次元結界スキルだけではなく、分身……いや、あれは多重分身か? そこまで持っているとは。ゆかいゆかい愉快じゃて】」


 カカカカカと笑った後、彼は動く。

 右、左、フェイント、右、払い。

 なんとか、目で、追えてる……。


「けどっ!」


 後ろに飛び退いて、荒くなりそうな息を整える。

 俺は彼から目を離さない。必要な事は全部シムがしてくれる。


早朝から太陽の女神(グループ31)の加護を起動します。平常心から武神の加護(グループ41)を起動します』

 

「【なるほどの。人間にしてはやるようじゃが】」


 バースト族の姿が少年から老人の姿へと完全に変わっていく。


【あいにくじゃが、お主らを許す気は毛頭無いんじゃよ】


 大地を踏み込んだ。刹那、目の前に老人は居て手刀が俺の心臓へと向かう。

 その手刀を右手で払い---落としきれずに俺は体をひねり、カウンターに右足で蹴ろうとして、感じた悪寒にとっさに右斜め後ろに転移する。


【む? よく止めたの。蹴ってくるようなら、その足を掴んで粉々にしてしまおうかと思うたんじゃがの。カッカッカッカ】


 握り潰す動作をしながら爺さんは笑う。

 

初級拳術から神の拳術(グループ46)を起動します。初級蹴術から神の蹴術(グループ47)を』


【ふむ。しかし、そういう事か】


 爺さんは何かに気づいたように、俺を見て、手を軽く上げた。

 ビリィと音が脳裏に響いた。


『スキル武神の加護が一つ破壊されました。相手の正体が分かりました』

 流石に俺も分かったよ。


「武神様とお見受けしますが、少しは落ち着いてもらえないでしょうか?」

【主らと話す事などない】


 先ほどと同じく、人を殺すつもりで、攻撃してくる武神を必死になって流し、防ぎ、かわす。

 それでもいくつかは余波をくらい、異次元結界スキルをすり抜けて俺の体に細かい傷ができはじめる。

 いや、違う、か。相手の威力が高すぎるから、威力の弱いのはわざと通して、破壊力のある物を優先的に防いでいるが正解か。


【む? まだあったのか?】

『武神の加護が十二個破壊されました。次は五十セットします』


 一気に破壊されるのを恐れてなのか、シムが小出しにしてる。

 高位の心技体まではかなりの量が働いているようだけど。


『マスター。加護持ちの言葉は神には、普通の人間の声と違って聞こえるといいます。余裕があるのならば話しかける事を提案します』

余裕なんてないよ!!


 常人には目にも止まらぬ早さで攻撃をしてくる格上を必死に受け止めてるっていうのにっ。


 キラリと銀光が目に入り,俺はとっさに頭を傾げる。その横を短剣が通り過ぎる。

 躱しきれず左耳が吹き飛び俺はその衝撃で地面へと転がる。


『セットしていた武神の加護が全て破壊されました。さらに百セットします。循環を常時発動に切り替えます。マスター。向こうはマスターを殺すつもりです』

 うん。


 耳を押さえていた手を離す。血がべっとりとついていた。

 耳は循環の効果で治っている。

 でも、痛みはまだ残像のように残っている。


『本気で、殺すつもりで戦うか、話し合いを持つように説得してください』

 ……うん。


「武神様。私の話も聞いてください! 彼らは確かに貴方の依り代を奴隷にしてましたが、彼らはそのつもりはありませんでした。彼の身分は隠ぺいにより、隠されてました」

【しゃべるな! 童!!】

『セットしていた武神の加護が全て破壊されました。武神の加護を二百セットします』


 淡々とシムは言う。


「加護を消しても無意味ですよ」

【じゃから黙れと! ……むっ!? まだあるのか!? ぬしはいったいいくつ持っておるのじゃ!?】


 また破砕音が響いたが、シムが今度は四百をセットしたらしい。倍々でいってんなぁ。と密かに苦笑する。


「一時間でも二時間でもお相手しますよ。話を聞いてくれるまで」


 シムは増殖を完全な形で使ってる。

 スキルが一つマックスになれば、同スキルが十個もらえるだけじゃなく、全ての下位スキルも十個貰えるのだ。

 それが一つではなく、百になれば? 千になれば?

 対戦中に熟練度が入ってくるこの状態で、そもそもスキルがマックスになるのに必要な熟練度の数を超えているのだ。1でも入ってくればマックスになる。それを、46万236個の増殖がさらに増やす。それによって増殖自身も増える。


 ああ……。ホント。

 俺、やり過ぎたなぁ……。


 気は緩めないものの、そんな事が脳裏を過ぎる。


「俺はね、まだ神になんて至りたくないんですよ。今はまだ勝てなくても時間が経てばどうなるか分かりませんよ? ステータスだってアホなように上がるし、強者との戦いにだってなれてくる」


 俺の武術の経験の多くは騎士隊の訓練。

 模擬戦が全然無かったとは言わないが、それでも、一度の実戦には敵わないのだろう。


「見ての通り、まだまだ若造なんで、飲み込みだけは早いつもりです。まずは、落ち着いて、ゆっくり話し合いませんか?」


 なるべく加護を意識しながら話しかける。

 俺としては、穏便に終わらせたい。

 そりゃ確かに奴隷なんて嫌だけど、でもだからって。


「確かに隠ぺいされてたとはいえ、神官を奴隷にしていたというのは大問題です。でもだからといって」

【童。この体の持ち主はな。ただの神官ではないんじゃよ。儂の依り代じゃ。儂の目となり耳となり口となり、儂の手足となる存在じゃ。つまり儂の一部と言っても良い! そんな存在を命すら縛り付ける強制奴隷なんぞにしたのじゃぞ? 許されると思うておるのか? 思うておるのならその胸を切り開き、自ら心臓を取り出した方がまだ楽な死に方であると教えておこうぞ】

「…………」

【ヒューモ族は殺す。全てと言いたい所じゃが、一割ぐらいは残しておいてやろう。お主の大事な者も、その中に入るとよいな】


 短剣を一振りし、構える。


 俺も精霊の衣を纏い、防御力と攻撃力を高める。


 シム。とりあえず、勝たないと話も聞いて貰えないようだ。本気で行こうか。

『かしこまりました。生産系スキルを除き、全てのスキルを起動します』


「じゃあ、第二ラウンドといきましょうか」


 


っっっっっ!!

ふと、思ったのですが、私、途中からヒューモ族をヒューム族って書いてませんでしたっけ!?

やっば! 後で直します~。



あと、男性達がなんで病気が発病して数日たってから治療してんだっていうのになると、治療を持ってる男性の方が連絡を貰って王都からブラシュガへと馬車を目指して街道を走っていたためです。

伝染病だったら困るので、早馬でかけてきました。的な。

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