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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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めんどうごと



 俺のせいで一騒動あったが、ニアが生活魔法(水)と循環のスキルを売り274万の売り上げとなりネーアは算術、生活魔法(水)と循環で298万となった。

 もっとも、三人がスキルを買った金額は2408万になってしまったので、大赤字だ。

 見た目短命種の、長命種であるセリアが借り主でなければ完済不可能と奴隷落ちしそうな金額である。

 もっとも昨日と同様、二人の頑張りを全て徴収する気はなかった。。


「セリア、ネーア」


 呼んで二人の手に一つずつ小さな正方形に近い小袋を置く。


「これは?」

「金。17万5千ずつ入ってる。必要だろ?」

「いいの?」

「全部俺が持ってくと必要な物を買う時にまた借金になるんだろ? なら最初から渡して方が良い」


 宿代に飯代、二人は俺たちが出す度にプレッシャーを感じていたはずだ。


「……それもそうね」

「で、こっちは別件なんだけど、お使い頼まれてくんね?」

「それはいいけど」


 頷くセリアにウエストポーチを渡す。


「しばらくこっちに来られてないって事を先方に伝えて欲しいんだ。あと一日早いけど納品してきてほしい」


 そう言って二つの紙を渡す。店名と地図が書いてある紙だ。


「宝石商と衣服店……宝石商?」


 セリアの眉間にしわが寄る。自分がこの街に向かう事を決めた理由を思い出したのかもしれない。


「ヘイアンとヤヨイの納品だ」

「ねぇエド。普通に考えて、見知らぬ人間が持っていっても信用してくれるとは思わないんだけど? もしかしたら何かしらに巻き込まれて、って勘違いしたらどうするのよ」

「商品を納めるだけ、金は俺が次回に行った時に受け取る。そんな形にしておけば、俺から盗んで売りに来たって思う事はないだろ」

「そう……かなぁ……? っていうかエドが行った方が早いんじゃない?」

「……行くと面倒ごとが起こりそうだから行きたくない」

「面倒ごと?」

「そう。たとえば、出入りの人間を密かに監視してる人間がいる、とかか?」

「ちょっと、それって」

「大丈夫。危険な事なんてさせないって。店に出入りしてる人間をチェックしてるってのが正解だろう。俺の顔も一度はチェックされてるはずだから二度、三度ってなったら怪しいってなるだろ? 一応それなりの恰好はしてたけど、貴族のお坊ちゃまがそうそう歩いて移動するわけないし、怪しい人物候補の高い所にいるんじゃねぇかなぁって思うと、しばらくは近づきたくないわけだ」


 もちろん俺が行く方法がないわけでもないのだが、俺は俺で、今日は別の事がやりたいのだ。


「三人には客として入って貰うから安心しろって!」


 どさり魔道書を三冊置く。

 この世界の衣服に内容をセットした魔道書だ。


「これでそれらしく着飾って、馬車で行けばそれらしくなるだろ!」

「……ねぇ、エド。どうしてウェストポーチにしたの?」

「有った方が便利だろ? なるべく普段からセリアが使いやすいデザインのものを選んだつもりなんだけど」

「ドレスとウエストポーチって絶対に合わないと思うんだけど」


 食い気味に言われて気づいた。


「……ご、護衛って事で」

「もう! いいわよそれで!」


 誤魔化してみた。それがあっさりと通って驚く。

 ああ、これはめんどくさいぞ。女が拗ねるとめんどうなのが更にめんどうになるのだ。


 過去の経験上、これは納得したのではなく拗ねた結果だと瞬時に判断した。

 伊達に妹が居たわけじゃない。


「まあまあ、俺が悪かったって、お前の普段使いを優先してたら、ドレスと合わせる事をすっかり忘れてただけだって。ドレスと一緒に鞄も選んでくれよ、それを加工するから。ただし、服を選ぶのは三十分だからな! 着替えて準備とか色々あるだろうし」


 放っておくと絶対時間がかかるのは分かっているので先に制限時間を決めておく。


「でも、いいの? こんなぽんぽんアタシ達にマジックアイテムを渡して。こっちのお金が入っているのもそうなんでしょ?」

「そっちは俺がどうのじゃない。ボーナスの中に入っていた内袋を折りたたんで適当なサイズの袋に入れただけ。ニアとネーアが頑張ったから出てきたものだから二人が持っててもなんら問題なくね?」

「……それでも異次元収納って効果あるんだ」

「あくまで重要なのは、出入り口だからな」


 そんなやりとりをした後、じゃあよろしくな。と部屋を出た。

 ちなみにゴドーは御者らしいかっこうをすでにしている。

 昨日から随分と積極的だなぁって思ってたのだが、どうやら、ニアのためというかせいというか……。

 神印入りを保護、もしくはサポートするのは神官としては当然なのだそうだ。

 ……どう見てもただいつもと違う事をして楽しんでるだけに見えるけどな。


「じゃあ、俺は先に行くよ、あとはよろしく」

「ああ。分かった。……頑張れ、というのは違うかもしれんが……。無理だと思ったら止めてもいいと思う。その時は別の方法を考えよう」


 心配してくれるゴドーに頷いて、俺は部屋を後にし、奴隷商へと足を向けた。




 目の前に並ぶのは、薄布一枚羽織ることすら許されず、生まれたままの姿をさらす年頃の男女数人。


「どうです? 犯罪奴隷なので、多少の無茶は通りますよ」


 下卑た笑みでも浮かべていれば、お前とは違うと頑なに拒絶もできただろうが、彼は本当にただの物として、自分の店の商品として彼らを紹介していた。

 買いに来た客である俺に。


 彼らの表情は無。羞恥心もなければ、こちらを嫌悪する事も無いし、期待する事もない。

 生きたマネキンのようだった。

 

「まあ見ての通り、体が綺麗なものはおりませんが」


 確かに店主が言うように彼らの体には大小の傷跡や痣があった。

 それとは別に、彼らにはシムからの「×」印が当てられた。


「……ここに居るので全員?」

「ええ、商品としてご紹介できるのはこちらで全部です」

「…………商品として紹介出来ないのもいるのか?」

「ええ、もちろん。お客様はもしかしてご自分で調教したいという方でしょうか?」

「……売り物になるものから売り物にならないものまで全部、と言ったはずだ」

「そうは仰いましても、こちらとしても不良品を売ったという悪評が立つのは困りますので」

 

 笑みを浮かべてそう俺の希望を退ける。彼には彼のこだわり……。いや、商人としてのプライドがあるのだろう。


「……契約奴隷はいるのか?」

「契約奴隷ですか? 当方は基本的には犯罪奴隷を扱っております。時折契約奴隷も入ることはありますが、今はおりません。契約奴隷であれば、ブラシュガの方が入り易いと思いますよ」

「……そう」

「数はブラシュガには劣りますが、王都の方でも手に入るかと」

「……分かった」


 最後にもう一度並んでいる彼らを見る。

 でも、彼らが重犯罪、人を殺してそこにいるのは確かなのだろう。

 やむを得ない事情があるわけでもなく、誰かを守るためでもなく、自分達の私欲のために。

 だから、俺は席を立ち、店を後にする。

 



「大丈夫か?」


 ゴドー達と合流した後、二人っきりになるとゴドーが尋ねてきた。俺はいつも通りのつもりだったが違ったらしい。


「そんなに分かりやすい?」

「彼女達は気づいていないと思うぞ」

「……そっか、ならいいか」


 手を頭の後ろで組み、馬車にもたれる。


「大丈夫ではあるよ。気持ち悪さはあるけど、そのうち慣れる」


 あの、人のほの暗い欲求を満たそうとする独特の空気。

 気持ち悪いが、二度、三度と行けばきっと慣れるだろう。


 ポンッ。とゴドーの手が頭の上におかれて、撫でくり回される。


「ゴドー?」

「お前は偉いよ。会ったことも無いヤツのために、嫌な思いをしているのだから」

「…………ヒーローになりたいだけだ。たとえば、そう、歴史に名前が残ればいいなーくらいな感じで」

「……わりと壮大だな」

「うん。言いつつ俺も思った」


 ほんの少し肩の力が抜けて、空を見上げる。

 ヒーローか。


「前世の生き方もわりと好きだったんだ。それは本当。死んだ時に未練だとか後悔だとかなかったっていえば嘘になるけど。それだって、もうちょっと生きていたかったなっとかそういう当たり前の事だ。家族や友人が泣いてくれるかなーって思いながら、でもあんまり泣かないで欲しいなぁみたいな。そういう人生だったよ。悔いってほどでもない。幸せだった。だからかな? ……だからなんだろうな。……うん。俺は前世は幸せだった。だからきっと、その幸せをみんなに分け与えたいんだよ。俺はきっとそういうヒーローになりたいんだ。俺の人生は幸せだったって、最後にみんなが思って貰えるような、さ」

「そうか」

「うん。そう。甘ちゃんの俺らしい考え方だろ?」

「そうだな。実にエドらしい。でも、神はそういうお前が好きらしいぞ」

「いやぁ、そう言って貰えると嬉しいねぇ」

「もちろん私もな」

「ははっ。ありがとな」


『マスター!!』


 突如シムの焦った声が脳内に響き俺はびくりと肩を跳ねさせる。


「どうした?」

 どうした?


 ゴドーと俺の質問はまったく同時にそれぞれに発せられる。


『黒のフラグが発生しました!』


 黒のフラグ?

 シムの言葉が何を意味しているのか初めは分からなかった。

 何を言っているのだろう。と問い返す前に思い出す。


「ゴドー! 悪いちょっと出る! そのまま王都に向かっててくれ!」


 俺は叫ぶように声をかけてシムに座標を任せて転移した。




 スキルの極に『旗』というものがある。

 遠視や発見などと同じグループにあったそれを、スキル図鑑で初めて見た時、まさかなって思ったが。そのまさかだった。

 旗はいわゆるフラグだった。

 ピンクの旗は恋愛フラグ。

 緑の旗は仲間フラグ。

 金の旗なら一攫千金フラグ。など。

 恋愛フラグや仲間フラグなどはもちろん、ゲームではないから確実ではない。

 あくまで相性が良い相手自身を表すものか、相手の好感度が高く上がる場所に対して表れる。

 その『あくまで』が強力だからフラグと言っても過言では無いのだろう。

 デートコースはまず外れない。

 だから俺は地図にそれを表示させるのを止めさせた。

 そんな物に従って人間関係を築いていくのが……嫌というよりも怖かったのだ。


 仲間達がゲームの主人公に陶酔するのはゲームだからいいのだ。

 現実ではしたいとは思わない。一度してしまえばきっと次の表示も無視できない。

 俺はゴドーが好きだ。ザッツさん達だって好きだ。村のおばちゃんや鍛冶のおっちゃん達も大好きだ。

 その関係はフラグとは関係のないところで出来た。もしこれがフラグで出来た関係なら、俺はきっと慢心する。ちょっとぐらいわがまま言っててもいいだろう。自分優位でいいだろうって。

 だから表示させなかった。

 ある二つを残して。


 一つは大災害を表す茶色。

 そしてもう一つ。


 大量殺人のフラグ、黒。

 





次回は、バトルの予感!?(本当か!?)

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