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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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誤解である。



 俺とシムだけ一瞬殺伐とした空気になったが、夕食はわりと和やかな空気の中進んでいく。


「異世界でも美味しい料理は美味しいのね」

「そりゃそうだ。郷土料理だって、口に合う合わない。ってのはあるだろうが全部が全部不味いって事はないだろ。素材が旨ければ塩だけでも旨いモノは旨いし。こういう店は料理人スキル持ちが作ってるから普通に美味しいよ」

「……こういう店、よく来るの?」

「店っていうか……料理人スキル持ちが作る料理を食べる機会が何回かあった」

「そうなんだ。エドって凄いのね。同じ転生者でも大違いだわ……」


 落ち込んだというよりも劣等感みたいなものを抱いてしまったのではないかという表情をセリアは浮かべた。

 俺はたまたま運が良かっただけ。俺は何も知らなかったからこそ、気まぐれスキルを引けた。セリアはきっと知ってた。だからしっかりとしたスキル構成になってて、スキルの数が少ない。


「……早いか、遅いかの違いだけだと思うぞ。友情・努力・根性っていうわけじゃないんだし」

 

 この世界でユニークスキルを持ってる可能性があるの、神官だけだし。


「……そう、ね」

「そうそう。日本と違って才能がどうのっていうわけじゃないし」

「…………そうね。……ほんと、そうね」


 セリアは顔を上げて頷いた。

 スキルってのはある種自分の才能みたいなものだ。俺は昔、才能と言えるものはたぶん何も持ってなかった。得意なものって言っても、才能っていう程でも無かった。

 上達してるのか、していないのか、それがレベルという形で分かるのは良いことだと思う。モチベーションの維持に役立つ。

 その才能が金で買えるのだ。言ったように、遅いか早いかの違いで、ヒューモ族は長寿なのだから、遅くても問題はないはずだ。


「それに、エドに信頼してもらえれば、おすすめのスキルを教えて貰えるんだし、腐ってる場合じゃないわね」


 あー……したねぇ、そういう約束。

 でもって、約束したのはスキルの事を色々教えるだった気がするけど……。

 あれ? でもよくよく考えたらスキルの事を色々教えるよりも、おすすめスキルを教えるだけの方が良いのか?

 ぐるぐると考えているとゴドーと目が合った。あまり変な事は言うなよ。と言いたげな目であった。

 大丈夫。任せて! 変な事は言わないって!

 って目を返したつもりだったけど、可笑しいなぁ、余計うさんくさそうな目で見られた気がする。


そんな感じで夕食は終わり、全員部屋に戻る。

 階段を上りながらニアの熟練度を見てみる。

 どうやらあめ玉の効果はあったようで、かなり頑張ったようである。


『零時にはレベル9になります』

 ……中途半端っていうか、明日一日分がもったいないなぁ……。

『水と循環を交互に八十回させればレベル10になります』

 よし。それで。


「ニア、あめ玉美味しかったか?」

「うん! おいしかった!」

「じゃあ、今日、もうちょっと頑張ったら、もう一つご褒美あげような。お昼に食べたケーキだ」

「けーき?」

「白くてふわふわしてて、真っ赤な果物が乗ってたのがあっただろ?」

「あまあまのおいしーやつ!?」

「そーそー、それそれ」


 たぶん、それ。


「ニアがんばる!」

「よし、偉いぞ~、ニア」


 ニアの頭を撫でて、セリアとネーアを見る。


「水と循環を交互に八十回させてくれるか? 終わったら声かけてくれ」

「……八十回ね、分かった」


 じゃあと別れて部屋に戻る。

 忘れる前にゴドーに夕食代を渡す。そのお金を渡すという行為で思い出したというか思いついた事があった。


「あ、ゴドー、ちょっと試したい事があるんだけど。スキル売って見てもいい? マックススキル」

「……エドが売るのか?」

「うん。どんな風に行われるのか確認しておきたい」


『初級から極まで全て確認するのでしょうか?』

 いや、下級まででいいかな、とりあえず。

『では設定と放出をお使いください』

 はい。ありがとう。


「分かった。じゃあ、座ってくれ」


 ベッドに座り、自分の横をぽんぽんと叩くゴドー。

 俺はそれに従い座ると左手を取られる。

 なんだか手相占いの用だ。


「何のスキルを売るんだ?」

「初級、設定を一つ」

星ランク1(・・・・)の設定だな?」


 少し叱るようにゴドーが告げてきて、俺は自分のミスに気づく。

 そうでした。初級だなんだというのはスキル名についてるもの以外ほとんどの人は知らないんだった。

 すみませんって軽く頭を下げる。

 ゴドーは何も言わなかったけど、気をつけろよ? って言いたげな空気だけは感じ取った。


 左の手のひらに熱が集まり、その熱が固まり、手のひらから出ていくのを感じる。

 イボの様に手のひらが膨らんだかと思ったら、そこからするりと真っ白な、それこそ真珠のような物が出てきた。

 あれほど集まっていた熱も嘘のようになくなっている。


 魔道具としてスキルを貼り付けるのと感触が違うな。

 あれは繋がってる感覚があるが、これはもう完全に切れてる。


「……こういう色をしているのだな」

「え?」

「普通、スキル玉は茶色なんだ」


 少し大きいが、形も見た目も真珠のそれをつまみ、ゴドーはしげしげと見た後、また俺の手のひらに戻した。


「『貴方の努力を今ここに』」


 真珠が光を放ち、弾けた。それは白い封筒だった。『ボーナス』の文字と蝶結びの水引の封筒。それが俺の手のひらに落ちてくる。


「重!」


 ネタかい! ってつっこみを入れる前に、その重さに俺の手首が驚いて放り捨てたワ!

 ベッドの上にどすんと落ちるそれ。

 中身を拡張したけど、重さを消すの忘れましたね!

 言いたい。つっこみたい! でも相手は神様! 我慢する!!


「えーっと……中身は、24万か……」


 高いか安いのか、微妙。

『設定のレベル5であれば神殿の買い取り額は5000ゼニィです』

 ……そこから考えれば高いのか?


「水も同じ値段だと思う?」

「さあ」

「……水で、もう一回頼む」

 

 結果。同じ値段でした。ついでに、今の二つは神殿では星1ランクなので、同じ初級でちょっとお高い星5ランクの毒耐性(弱)も変えて貰いました。

 結果。同じ値段でした。でも、二回目からは重さが軽くなってた。やっぱりあれはド忘れしてたと思われます。


「神殿での販売額には関係なく等級で換算しているようだな」

「みたいだね。じゃあ、次、放出と循環」


 こちらは下級なので値段も違うはず、とやってみたら、両方とも250万でした。

 いっきに値段が跳ね上がったな。


『ニアが今日と同じ頑張りであれば三十三日ほどで全ての借金を返し終わります。その時にはニアの魔力は360を超えています。長命種としては十分です。またネーアがどの程度頑張るかにもよりますが、彼女の頑張り次第ではもう少し早く借金は完済されるかと』

 そうだな。半分の日数だとしても、魔力が150をオーバーしてたら問題ないだろうし。


「シムの計算によればニアの頑張りが今日と同じだったら一月半で借金返済、脱短命種だってさ」

「そうか。良かったな」

「そうだな」

「それでその場合はどうするんだ?」

「どうも。どうもしないよ。本人達がどうするかなんじゃない? ブラシュガに戻るっていうのならブラシュガに送っても良いし、夏の国に行くっていうのなら夏の国に送るだけ」

「君は相変わらず人がいいな」


 他の転生者の事もよろしくしてやってって言われてるしなぁ。

 ……別れる前に生活魔法(料理)くらいは育てとけって言っておかないとなぁ。

 自力で日本の味を食べようってなると上位スキルの「料理研究家」がないとまず無理だし。料理人のみじゃ味に飽きるだろうし。


 あー……生活魔法(料理)と料理人だとどんな効果が起きるかなぁ……。

『本来であれば、結ぶがないと難しいと思いますが日本人なので、結ぶがなくてもオリジナルレシピにたどり着くかも知れません』

 そうだなぁ。そうかもしれないなぁ。


「人が良いわけじゃないと思うよ」

「そうか? まぁ、本人からしたらそうなるのかもしれないな」

「いやぁ、本当に人が良いのなら、相手の事を考えて行動するだろうし」

「エドもそうだろ?」

「俺は違うよ。俺は思いっきり自己満足で行動してるよ。今だってセリア達がもしこのまま一緒に行動するって言うのなら、俺が出来なかったスキルのあれこれの実験をさせようって思ってたりもするからな?」

「……たとえば?」

「たとえば生活魔法(料理)と料理人スキルの両方を持ってるとどんな効果が出るかなっとか」

「その二つを持たせる意味はなんだ?」

「料理人スキルって作れる料理が決まってるんだ。調味料や分量とかそういうの完全に固定化されてて、応用効かなくてさ、応用を効かせるためには『料理研究家』っていうスキルが必要なんだけど、もしかしたら生活魔法(料理)があれば、それが無くても可能なんじゃないかなって」


 加工と一緒で、勝手に体が動くような感覚に近いんだよな。だからこっちの人達だと、この料理はこの味が正解。っていうイメージなんだと思う。

 どこで食べても同じ料理だったら同じ味がする。チェーン店もびっくりの再現率である。


「なるほど。それから?」

「え?」

「それからどんな実験をさせたいんだ?」

「……すぐには思い浮かばないけど」

「そういうのは実験とは言わないと思うのだが」

「そうか~?」

「私からすると、今の話を聞いても、というか、より、本当にただのいい人だぞ?」

「……なんかやだなぁ、それ」

「そうなのか? 私は嫌味とかではなく、本気で褒めているのだが」

「いや、そうなんだろうけど。俺だって嫌がらせとかするじゃん。神殿長とか神殿長とか神殿長とか! あと雑貨屋!!」

「神殿長は違うだろ」

「いや、思いっきりゴドーの前で嫌味言ったよね!? 俺!! ゴドーも悪意のある言葉とかいってたじゃん!」

「君はあの時、私の事で怒っていただろ」

「……」

「好きも嫌いも無かったけど、部下に嫌な事を押しつけるのが嫌だみたいな事をいってなかったか?」

「いや、それは結局、自分の感情じゃん」

「雑貨屋にしても、君はきちんと棲み分けをしていた。直接の売買のやりとりは無かったとしても、影響が少ないようにしていた。やろうと思えば君は雑貨屋を潰せただろ?」

「結果論だよ。もし、俺以外の店があの村に出来たら俺はその店を支援した。それこそ、雑貨屋を潰す勢いで」

「……そうなのか?」

「そうだよ」

「意外だな」

「意外でもなんでもないって。ゴドーの中で俺が過大評価されてるだけだって」

「まぁ、相手が潰しに来てるのだから、そう思っても仕方がないか」

「そうそう」

「普通であれば、あの規模の村で悪評を流されたら終わりだものな」

「そうそ……悪評?」

「そう、例の………………いや、なんでもない」

「待って、待って、ゴドー。今何か飲み込んだな!? さぁ、吐け!」

「なんの事だ? 私は知らないぞ」

「いいや、なんか知ってた! なんか飲み込んだ! さぁ! 吐け!!」

「断る!」

「ゴドー!!」


 なんか絶対隠してるぅうう!!!


 ゴドーを捕まえる俺。俺から逃げようとするゴドー。すったもんだしてると扉が開いた。


「エド、80回おわ……」


 顔を向けるとセリアとニアが居た。

 あ、八十回終わったのか。って思ったところで、セリアが次の行動に移った。


「お邪魔しました!」


 バタンと閉じられる扉。意味が分からないと顔を戻す。


 ベッドにゴドーを押し倒している俺の図。


 が、そこにあった。


「ちがーーーーーう!!」


 叫び、女子の部屋へと押しかける。


「違う! 誤解!!」

「大丈夫! 大丈夫! そういう愛もあるよね!」

「違うっつってんだろぉーーー!!」


 俺の叫び声は、宿中に響き渡る。---程の音量だったが、ゴドーがとっさに防音結界を張っていてくれたらしい。宿の人の介入など、第三者が増える事なく、俺はセリアの誤解を解くために、こんこんと説明をするのであった。



ヒューム→ヒューモに修正しました

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