表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
29/143

甘いモノ



 これからの活動の事を色々詰めると、夕食に程よい時間となったので飯にする事にした。隣の部屋をノックし、声をかけ、五人で食堂というよりもレストランといった佇まい場所へと移る。

案内されたテーブルにつき、メニューを見て、大人の眉が寄る。

 有り体に言えば高かった。


「あの……」

「一つ、三人にお願いしたい事があるんだけど」


 ネーアの言葉を遮って俺が話しかける。ネーアの話なんて聞かなくても分かる。どう考えたって、借金まみれの彼女達からすれば、この値段は首締めだ。

 単品料理で三万とか。コース食えんじゃんって俺ですら思うのだから。


「俺とゴドーがこの街に来たのは、明日朝市のスペースを取ってたからなんだ」

「朝市があるの? この街」

「あるよ。港街だし、海鮮がメインの所が多いけど」


 へーっと感心している。ブラシュガではなかったっけ? とちょっと思い出してみるが、考えてみたらなかった気もする。


「朝八時から正午までやってるんだけど、俺、馬車の改良したいから、代わりに売り子やってくんね?」

「売り子ってなんの? あ、もしかしてあの大量にあったMPポーションって」

「違う違う。売るのはクッキー」

「クッキー!?」

「そう、せんべいでも良いけど。一枚百ゼニィで売るつもりだ」


 言いつつ売るつもりのクッキーを箱で取り出し、中に清潔な布を敷いた籠を取り出す。


「これをビニールから取り出して並べて売るんだ」

「…………エド、これってさ、セールだと二箱五百円で売ってるヤツだよね?」

「せんべいはちなみにこういうのを想定してるな」

「これも一袋二百円ちょっとじゃん。ぼったくりすぎじゃない!?」

「セリアはこの世界のクッキーって食ったことある?」

「ないわよ」

「昔、妹が実習で作ってきたクッキーと似たような味だった。それが一枚五十ゼニィ。砂糖がたっぷり入った甘ったるいクッキーは一枚百五十ゼニィ。間を取って、百ゼニィ」


 素人が作った物よりは値段を上げて当然。でもさすがにぼったくり過ぎだからとこの値段なのだ。文句は言われたくない。


「……分かった」

「で、パッケージから出して売らなきゃいけないからさ、それが面倒なんだよな」


 これは本当。かなり面倒であんまり進んでない。だから、個別包装じゃないやつを売ろうとしていた。その作業も籠五つ分くらいしか出来てない。


「今後の事も含めてなるべくたくさん、籠に移し替えてくれないか? ここは俺がおごるからさ。で、明日のバイト代は歩合制って事で」


 セリアはネーアと顔を見合わせてから、俺を見た。


「分かった。頑張っていっぱい働く」

「おう。助かる」


 詳しい話は注文を終えてから、とまずは食事を選んで貰う事にする。もちろん、値段ではなく、内容で選べと告げている。

 今日は魔法だっていっぱい使ったはずだ。疲れは本人が思っている以上に蓄積されている可能性はある。

 料理を五種類選び、注文した後、俺とセリアは明日の販売の仕方で話を詰める。


 一つ。試食は用意するのか。

 一つ。買った商品は各種類で紙袋に入れるのか、それとも大ざっぱにクッキーとせんべいで分けるのか、はたまた全部まとめてしまうのか。

 一つ。各種一枚ずつのセット、一種五枚もしくは十枚入りなどのセットを作り、売るのか。

 などなど。これに対する俺の答えは二つ目までは楽だった。

 試食は有り。袋はクッキーとせんべいに分ければよし。三つ目については。


「面倒じゃないか?」

「売り場で一種類ずつって注文受けてやるよりも用意して置いていた方が楽」


 との事なのだが、そもそもこっちの人が食べ比べなんてするのだろうか、という疑問もあったのだが。


「それならそれで、ポップでも作ってそういう考え方もあるって提示すればいいじゃない。それに、注文する人もいちいちどれって言わずに楽っていうのもあるはずよ。クッキーなんて、買うの裕福な人達でしょ?」


 一理あるので細かい所は任せる事にした。

 セット売りは少なくとも分かりやすいように袋を別にした方が良いとか色々あったからだ。

 セリアが必要だと思うものをトートバックみたいな魔法鞄に直接出現させて入れていく。

 この街で売っている『異次元収納』スキルによって作られた魔法鞄だ。

 他の人が作るのがどんなものか見てみたかったから買ったやつで、俺が『異次元収納』スキルのみで作った物となんら変わらなかった。

 やはり同じスキルがあれば、同じ物が作れるのは間違いない。


 ちなみにこのスキルのみで作った魔法鞄は重さとか大きさとかは無視できるが、時間は経過する。

 なので、クッキーを入れて並べた籠の方は別の袋にさらに入れてもらう事にする。

 

 あと、ちょっと悩んだが業務魔法と結び付けた魔道書も入れた。

 詰め替え作業の時に何か必要になるかもしれないし、また明日、何かが必要になるかもしれないし。

 出現先はこのトートバックの中に指定しておけばきっとたぶん大丈夫だろう。

 後は許可証と釣り銭だな。それらも入れてセリアに渡す。

 セリアは布製のそのトートバックを折りたたんで懐に大事そうにしまっていた。


 それらが終わってゴドーは明日どうする? という会話そしていると、料理を持った一行がこちらへとやってくる。 

 

「料理をお持ちしました」


 男性が俺たちに一声かけてテーブルに料理を置いていく。

 一つ、二つと入れ替わり立ち替わりで料理が運ばれてくる。


「うわぁ、美味しそう!」


 目を輝かせるセリア。ネーアもニアも目をキラキラと輝かせている。

 テーブルに全ての料理が並び終わると一人の男性がゴドーに会計用紙を渡してくる。

 あー……。ゴドーがこの中じゃ一番金持ってるって思われたんだなぁ。外見的に見ても一番、年齢上だし仕方が無いとは言え。

 ゴドーは間違いを指摘する事無くそのまま人数分払う。


「後で渡す」

「馬車代と考えれば安いから構わない」

「仕事の報酬代にしてるからそれはそれで俺が困るんだ」

「ああ……そうか。分かった」


 そんなやりとりを終えてこちらの様子を伺っている三人に食べてもいいと合図を送り、こちらも食べ始める。

 俺とセリアはもちろん「いただきます」と合掌してから食べ始めていた。


「おいし~。今日一日で今までの不運を全部使い切った気がするわ」

「不運を使い切ったのかよ」

「そうよ。これから幸運しかないの」


 突っ込みを入れたら、そのまま綺麗に返された。さすが女子。

 俺たちのやりとりにゴドーは小さく笑って、会話に入ってくる。


「なかなか面白い発想するな。ニホンジンというのはみんなそんな感じなのか?」

「面白いかどうかはともかく、こっちの人達からしたら一癖も二癖もある考え方するやつはいるんじゃないか?」

「エドの周りがのんびりやさんばっかりだっただけでしょ? こっちの世界の方が世知辛いわ」


 恨みと共に吐き捨てるようにセリアが言う。やさぐれてんなぁ。って思うが、確かにあんな小さな村でもそれなりに色々あったのだから、ブラシュガなんて大きな街ではもっといっぱいあったのかもなぁ。

『それは誤解もあります。セリアが色々嫌がらせを受けたのは、客からニアを奪ったのが直接の原因です』

 ……そうでした。

『あと、少し調べたい事があるのですが、情報操作スキルおよび森羅万象スキルの使用許可を求めます』

 調べ物? 珍しい。いいよ。

『ありがとうございます。検索結果が出ました』

 早い、即座過ぎる。コンマ何秒の世界で一体何が起こってるのやら……。

『マスター達が倒した『ミノッポイモノ』ですが、本来あの周辺には生息しないモンスターです』

 え!?

『王都近くにある紫霧の森に生息します』

 真反対じゃん!

『はい。あの一匹だけがはぐれでここまで移動してきたというよりも、連れてこられた可能性があります』

 ……セリアとニアを殺すためにか? それとも、別の理由でか?

『セリアのみ、殺すつもりだったと思います。でなければ、二人はマスターがたどり着いた時には死んでいたと思います。ニアとセリアの距離が近かったために、ミノッポイモノが慎重になっていたかと』

 つまり、『手なずける』スキルの後半レベル以上を持ってるやつがいるって事か?

『突如現れた事を考えると『召喚』スキルの可能性もあります』

 うげ! 高位スキルじゃん!

『召喚ではなく、マスターの言うように『手なずける』のレベル6以上であっても、あの出現方法にするためには、転移系スキルが必要になるかと』

 ……転移門はないと思う。『指定転移』か『引っ越し』のレベルMAXか、か。

『あの場にニアとセリア以外の人間の反応はありませんでした。『転移門』がないのであれば、『指定転移』の可能性の方が高いです』

 ……つまり、指定転移のレベル7以上の人間がいるって事か。

『はい。ニアの保護者を名乗っていた者達の誰かである可能性が高いです』

 セリアを殺してニアをさらってくつもりたったのか? それならニアをそのまま転移させた方が早かっただろうに。

『ニアは神印入りです。保護者でもない者からの転移は加護により弾かれていると思われます』

 なるほど。きちんと効果はあったのか。

 これからも手出ししてくると思うか?

『しばらくは様子見でしょう。マスターはニアを助けられると言いました。それを神も認めています。なら』

 短命種でなくなってから、って事か。一年でニアの精神がすぐに大人になる事もないだろうし、俺たちを殺して浚ったとしても丸め込めると思っているのか。

『もしくは自作自演で、ヒーローを演じるかもしれません』

 なるほど?


「どうかしたのか?」


 横からゴドーに声をかけられて俺は首を傾げる。


「妙な笑い方をしていた」

「ああ、うん、ちょっとな」


 俺はさらに笑みを強める。


「俺、昔英雄になりたいなぁって思った事があったなって思ってさ」

「……ニアを助ける事が出来たら、彼女達にとっては十分に英雄だと思う」

「はは、サンキュー」


 脈絡もない話だっただろうに、ゴドーは違和感を感じつつも詮索する事はなかった。

 お礼を言って、俺はニアを見て、セリアを見て、ゴドーを見る。

 もし、そいつが仕掛けてくるとしたら、セリアとゴドーと俺は殺す対象だろう。


 自作自演のヒーローとは。

 そんな使い古された恋愛マンガのような展開は許さんよ。


 セリアとゴドーを危険な目に遭わせるっていうのなら、全てを失う覚悟をしてもらおうか。


 シム。

『はい。容疑者の監視体制に入ります』


 俺の短い呼びかけにシムが応えて………………って。

 待機スキルまで起動させ始めちゃったんですけど、この人……。


『お任せくださいマスター。もしこちらに手を出すことがあれば、生き地獄を味わせてみせます』

 シムさん俺が悪かったからちょっと落ち着こうか。


 本人だけではなく、周りにも影響が出そうなことを考えている気がするぞ。

『周りも多少は影響を受けると思います。資産、地位、名誉、家族、友人、それらも含めて、命以外は全て失ってもらうつもりですので』

 シムさん! 俺が悪かったからやっぱりちょっと落ち着こうか!!


 俺は慌ててシムにもうちょっと穏便な計画をお願いした。

 シムにはお人好しとか甘いとか優しすぎますとか言われたけど、これって、俺が可笑しいの?



甘いモノはクッキーとエドって事で。


お気に入りや評価、感想ありがとうございます。

励みになります。


誤字脱字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ