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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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何度も言うが、チートではない。



 ガタゴトガタゴトと馬車は揺れる。

 青い空の下、馬車は行く。牧歌的な雰囲気の中、俺は思う。


 尻が痛い。


「ゴドーさん、馬車を浮かせてもよろしいでしょうか?」

「目立つぞ」

「街に着く時には切るので」


 お願いします。ホント、お願いします! 尻痛いっす! 超痛いっす! 痔になる!

『安心してください。切れてもすぐに回復します』

 そんな問題じゃない!


 なんとか馬車を浮かせる許可を得て、馬車を少し浮かせる。

 そうすると黒天馬の方も低空飛行をし始めて、振動は完全になくなり、空を滑るように移動する。


「……黒天馬の影響で浮いてるって事じゃ駄目かな?」

「駄目だな」

「駄目かぁ……」


 仕方がない。あとで馬車を改造しよう。

 未記入の白板と描くをくっつけて、デザイン画面に切り替える。馬車の設計図もシムに用意して貰ってどう改造するか話し合う。


「エド、そろそろ降りよう」


 最終調整に入った段階でゴドーから声をかけられて、黒天馬達にも一声かけて重力魔法をゆっくりと切る。

 ガタゴトとまた馬車が揺れる。


「……なんで、馬車は改造されないんだろうな」

「改造されてはいると思うぞ」

『オーダーメイド品は業務魔法には出ません。マスターが望むようなタイプの馬車は全てオーダーメイド品になります』


 うぉ、そういう事か……。


「…………うん、改造はされてるみたいだな。オーダーメイド品で業務魔法では出ないだけで」

「ああ、そういう縛りはあるのか。まあ、じゃないといくらなんでも、って思うものな」

「俺からしたらゴドー達神官のスキルのいくつかは、『ずるい』んだけどな」


 そんなやりとりをしたものの、街にはすんなり着いた。

 黒天馬の二頭引きって事で驚かれたけど。


 馬車の関係で泊まれる宿がかなり狭まったので、宿代は俺が持った。

 もともと俺が持つつもりだったのだけど、良い口実が出来た。

 部屋は男女に分かれて、夕食までは自由時間って事にする。ただ念のため、宿からは出ないで貰った。


「あ、HPポーション居る? 尻痛いんだったら渡すけど」

「……デリカシー無いって、前世では言われなかった?」


 HPポーションはしっかりと受け取りながらも、セリアは言ってくる。


「言われなかったぞ」

「へー、そうなんだぁ」


 声色は上げているが、信じてないっていう眼差しを残していって部屋に入っていった。

 反論しきれなかった事が悔しい。いや、この場合は騙しきれなかった……だろうか。

 

部屋は普通だった。でも窓がきちんとガラスだった事は、確かに高級っぽい? って思う位だった。

 片方のベッドに座ると、ゴドーも反対側のベッドに座る。


「ゴドー、目的地って特にないんだよな?」

「ああ、ないぞ」

「……奴隷を買って育てて、夏の国に連れて行こうって思うんだけど、どう思う?」

「どう思う、とは?」

「………………いや、うん。待ってくれ、ちょっとずるかった」


 額を拳で軽く叩いて頭を横に振る。

 判断をゴドーに委ねようとするな、俺。


「ゴドー。奴隷のスキルは持ち主が自由に売買出来るんだよな?」

「奴隷の種類にもよるが、可能だろう」

「うん。だよな。聞いてくれゴドー。俺、奴隷を買って育てようと思ってる。スキルの内容構成を知られたくないから、売買は全部俺が決める」

「……調べるを買わなくても、誰かが悪魔の目を使えばバレるぞ?」

「問題ない。隠ぺいのスキルを埋め込んだアクセサリーを渡す」

「……隠ぺいのスキルはいっぱいあるのか?」

「数えるのがアホらしくなるくらいには」

「…………余り、それは吹聴するなよ? 隠ぺいスキルをたくさん持っているなんて外聞が悪いから」

「おう」

「……それで、何故そんな事を?」

「夏の国の人たちの自立のために、かな? ある程度人間育てて国に返せば、彼らが協力し合って水を生めば良いし、または他の人を連れて別の国で水魔法を買いに来る事も出来る。夏の国での需要が下がれば、夏の国の神殿も水スキルを適正の値段で売るかもしれないし。……神殿、足下見すぎ」

「そこについては何の否定も出来ないし、詫びる立場である事は認めよう」


 うちは関係ないと言わない当たりがゴドーだなぁ。


「スキルに頼らない砂漠の緑化方法を教える事も考えている」

「可能なのか?」

「手間暇はかかるけど、可能」


 小さな驚きと共に聞き返されて、頷いてやると驚きから小さな笑みに変わっていた。


「そうか」


 ゴドーも人が良いよな。ホント。


「でも、出来れば、本当に信用出来るやつがいたら、一人で良いから徹底的に育てたい」

「セリアでは駄目なのか? 同じニホンジンって事で、随分と仲が良さそうだったが」

「ヒューモ族では駄目だ。アルフ族かバースト族じゃないといけないんだ。多種族の国を侵略してはならない。それが神と各種族の王族との約束らしい。俺たちが知らないだけで、それは種族全体に及ぶらしい。だからもちろん俺がするわけにはいかない」


 俺が出来たら一番手っ取り早いのだけど、どんなペナルティが科されるか分からないから危険は冒せない。


「……エドは常識を知らないクセして、そういう事は知ってるんだよな」

「いやぁ、全部シムさんのおかげですよぉ。俺はあくまで知ったかぶってるだけで」

 

 侵略ってのがどの程度の土地所有から当たるのかは分からないけど、俺がやりたい事は間違いなく、当たる。


「ゴドーはさ……。生活魔法(熱)の上位スキルがなんだか知ってるか?」

「熱? さあ、正直分からんが……、観察眼(熱)とかが?」

「うんにゃ、天気予報なんだ」

「天気予報?」

「そう」

「……あのスキルも春の国じゃあまり売れないな。収穫と種まきの時期に使うくらいだって聞くが」


 まあ、春の国じゃ、ほとんど晴れだからな。無くても困らないくらいだし。


「さらに、その上位魔法が天候魔法っていってさ、雨・晴れ・曇りって変えられるわけだ。時間とか範囲とかはレベルとステータスによって変わるけど」

「なるほど、それを覚えて貰えば夏の国でも毎日雨を降らせられるというわけか」


 納得という表情を見せるゴドーに、俺は続ける。


「生活魔法(熱)の最上位、極魔法は『環境魔法』って言うんだ。環境そのものを変える魔法。砂漠を海にするのも森にするのも、草原地帯にするのも、マグマ地帯にするのも一瞬。それが永久に続く、そんな大魔法。そんな大魔法が、消費MPたったの300! ヒューモ族なら98%の人が使用出来る魔法だ。ヒューモ族嫌いのヒューモ族がいたら今頃、この国はぺんぺん草の一つも生えない荒れ地だったかもねぇ~」

「いや待てエド」

「うん。待つよ。ゴドーさんの頭に染みこむまで全然待つよ」


 右手で額を抑えて、左手の平をこちらへと向けてるゴドーにそう返す。どうって事無いですよ。っていう体で告げたが、やっぱりそうなるよな。


「……つまり?」

「つまり、本来ならとっくの昔に解消されているはずだったであろう問題が、未だに解消されずに残り、国民の生活に負担となってのしかかっているわけだ」

「いや違うだろ。そんな話……かもしれないが、今は私が聞きたい事はそれではないぞ?」

「うん。まあそうだね。---つまり、MPを300を超えればいいって事だから、アルフ族でもバースト族でも十分に使える可能性がある魔法なんだ。これは夏の国だけじゃなく、氷の大地、冬の国にも言える事なんだけどな?」


 特に冬の国に住むエジュラ族はヒューモ族と同じで魔法特化型だから、スキルを覚えればMPが足りないという事はないはずだ。


「……エドのやりたい事は分かった。確かに、喩えアルフ族でもバースト族でもMP300程度なら、エドならすぐにでも増やすことが可能だろう。でも、それは確かに……。スキルを使う人間を選ぶな……」

「うん。なんだって出来るしね」

「そうだな」

「悪人が持ったら大変だしね」

「恐ろしい話だな。その場合手も足も出ないんじゃないか?」


 そう普通に考えればそうなんだよ。軍隊を差し向けても、軍隊の周りだけ環境を変えればいいだけだし。でも。


「ゴドー、俺が魔法石をきちんと宝石にして貰った時の事、覚えてる?」

「ん? ああ、もちろん、それは覚えている」

「その時に貰ったスキルの事は?」

「それは…………………ああ、そうか、あの時のスキルを使えば倒せるのか」

「まあね、消費MPに関して言えば一桁違うんだけどね~」


 環境魔法の方が絶対影響でかいはずなのに、なんで殲滅魔法の方が高いのか。

 今考えると理不尽だ。


「……なんだろう。エドだけ違う次元で生きている気がする」

「やだなぁ、ゴドー。安心しろ。誰だってなろうと思えばなれる道だ」

「…………」

「…………」

「…………恐ろし過ぎる……」

「まったくだ」


 しばしの沈黙の後、ゴドーは疲れ切ったようにそう零し、俺も大仰に頷いた。



 チート能力であった方がまだ安心できるって。実際……。



 



ヒューム→ヒューモに修正しました。

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