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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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審議と…………左遷ン?


「やだやだ! おねーちゃんなんかだいっきらい! もうおうちかえる!!」


 ニアのために、ニアの命を守りたいがために、モンスターを倒す事を強要するセリアを、ニアが拒絶した。その言葉が神に認められてしまった。

 

 世界が一変した。俺たちは街道沿いから、どこかの神殿の様な厳かな場所に移動させられ立っていた。


「な……に?」


 セリアは知らなかったのだろう、突然の事に周りを見渡した後、俺を見た。

 俺は首を横に振る。分からないからではなく、俺では無いという意味で。


 『神が用意した異界』


 ニアの情報を見た時に書いてあった場所。それがここなのだろう。


「セリア」


 女性がもう一人現れてセリアを呼んだ。

 たぶん彼女がブラシュガの神殿長なのだろう。


「神殿長様!? じゃあ、ここはブラシュガなのですか!?」

「いいえ、ここは」

「『神への誓いの間』だな」


 ゴドーが少し不機嫌そうに口にしていた。

 俺はさっきニアの説明で見たから分かってたけど、ゴドーなんてさっぱり分からない状況で連れてこられてるんだもんなぁ。不機嫌になってもおかしくないのかも。


「おお、ニアではないか」


 俺のでもゴドーでもない男性の声がしてそっちを見ると三名の男性が居た。

 ニアはそれを見て顔を輝かせる。


「ニア、久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「お菓子もあるよ、食べるか?」

「たべる~」

「駄目よ!」


 現れた男達にニアは喜んで駆けていこうとして、セリアが引き止める。


 なんというか、頭の痛い光景だな。

 ニアは精神年齢は年齢まんまだが、見た目は山谷山というか、現実にこういう体型のやついるのかっていうような体型をしている。

 だからまぁ、おっさん達の気持ちも分かるのだが。

 でもなぁ、どーみても子供だろ……。

 今のやりとり、じいさんと孫のようにしか見えなかったぞ、おい。

 外見年齢は同世代だけどさぁ……。


「もー、おねーちゃんはなしてぇ。ニア、おかしもらってくる」

「駄目よ! ニア!」


 泣きそうな顔でセリアは引き止める。

 男達の所に行ったらそのまま帰ってこないと思っているのかも知れない。

 セリアからしたら何が起こってこんな異空間にいるかも分からないから、何がきっかけで元の場所に戻るかも分からない。その時、ニアと離ればなれになってしまう事も心配しているのだろう。

 ニアにはもちろんそんな事、分かんないから不満たらたらだけどな。そしてむっとしてるのはニアだけではなかった。


「何をしているのです? 短命種の貴女ではニアの保護者にはならないからとこの場が開かれたのですよ? 貴女にはニアを拘束する権利はないのですよ?」

「そうだぞ」

「そんなっ、ばかなことっ!」


 セリアは否定しようとしたが、神殿長の辛そうな顔を見て、その男の言葉がある程度真実であると知ったのだろう。思わず力が緩んでしまったようだった。ニアはそのタイミングでセリアの手から抜け出して走り出す。


「ニア」


 そこで俺は声をかけた。ニアは振り返り俺を見て、首を傾げる。


「ここは神様の前だ。本当に良い子だというのなら、大人しくここにいなさい」

「え? でも……」


 悲しげな瞳で男達を見る。そして俺を見た。それから『良い子』である事を選んだのだろう。大人しく足を止めて立っている。


「勝手に神の名前を出すなど」

「なんたる無礼」

「勝手にじゃない。ここが『神への誓いの間』ってんなら、神様が聞いてるはずだろ」


 俺はそう答えて、ブラシュガの神殿長を見た。進行は彼女がすると思ったのだ。しかし彼女は戸惑ったように俺やゴドーを見ている。


「そもそも君は誰だね?」


 男達もそれに気づいたらしく聞いてくる。


「私はゴドー。宣教師をしている。こちらは私の護衛でもあるエド。もっとも今回は当事者の一人……なのだな?」

「セリアが助けを求めたのは俺だからな。そうだと言えるんじゃ無いか?」


 肩をすくめて答える。

 ここには当事者が集められると書いてあったのだ。ここに居るって事なら、俺も十分にそうなのだろう。そしてこの中で唯一、ニアに確実な手立てを講じる事が出来る。

 


「失礼します」

 ブラシュガの神殿長がゴドーの前に立った。


「私はブラシュガの神殿長をしております。モネと申します。セリアから事情を聞いておりますでしょうか?」

「このような場が開かれるような事情までは聞いてはいない」

「では、簡単にご説明します」


 ……あれ? なんかこの二人のやりとりって、ゴドーの方が偉そうじゃね?

 宣教師って左遷じゃないの? 不遇職なんじゃないの?

 予想してなかった展開に俺はちょっと戸惑ったようだが、周りのメンバーもなんでわざわざゴドーに説明しているのだろうという感じだった。


「……宣教師って偉いの?」

「いや、俺も、左遷だと思ってたクチだから」


 セリアが戸惑っていたが、俺としても、戸惑っている。

 ちらりとゴドーが視線を向けてきた。もしや『左遷』って言葉が聞こえたのか!? 

 慌てて話を逸らすためにニアを見た。


「ニア、生き物を傷つけない方法だったら頑張れるか?」

「いたいことしない?」


 首をこてんと傾げて聞き返してきたので俺は頷いた。


「しない。叩いたり殴ったりしない」

「じゃあできる~」

「そうか分かった」


 元気いっぱいな返事をしたニア。なら俺もやれるべき事はやろうかね。

 同郷の者が泣きながら助けを求めてきたんだし。


「ニアは俺が保護する」


 一歩前に出て、一同にそう宣言する。もちろんすんなり通るわけが無かったが。


「勝手に出てきていったい何を!?」

「部外者は黙ってて貰おう!」

「部外者じゃねぇよ、セリアは俺に助けを求めてきた。なら俺はそれに応える」


 自分の胸を叩いて宣言すると鼻で笑われた。


「助ける? いったい何が出来るというのだ? 有るかどうかも分からない延命方法を試すとでも? そのためにニアに嫌な思いを強いるとでも? それは君たちの自己満足であって、ニアのためではないだろう」

「そうだそうだ!」

「これ以上ニアの時間を奪うな!」

「有るかどうか分からない延命方法じゃない。確実な方法であり、ニアが嫌がるモンスターを倒してのレベルアップなんかでもない。自己満足がどうのとくだらない事をいうくらいなら黙ってろスケベジジイども」

「な、なんだと!?」


 顔を真っ赤にさせて怒る男もいたが、だいたいは軽く流していた。成人したての俺に大人の余裕ってやつを見せたのだろう。


「しかし、その延命方法とやらは間に合うのかね? ニアに残された時間はとても短いのだよ?」

「全然問題ない。一年以上もあるんだ。ヨユー」


 へっ。と笑ってみせる。

 その気になれば今日一日で終わるのだ。ただそれをするにはニアがあまりにも幼いと思うだけで。

 秘密にしてくれといっても守れるとは思えないからなぁ……。


「それは神に」

「神に誓える。実際神様も俺がそれを可能だって知ってるさ」


 食い気味に答えると男達は言い詰まったようだ。

 俺の言葉を聞いていたのだろう。天上から笛の音が聞こえる。草笛のようにもフルートのような楽器の音色にも聞こえる。

 俺たちにはただの笛の音に聞こえたが、神官達には違ったようだ。神官二人の顔がこちらに向けられた。


「エド、神は君に保護役を移すそうだ」

「「「そんな!? 馬鹿な!?」」」


 男達が異口同音を発している。セリアも驚いているようだ。

 そりゃそうだろうな。ブラシュガの神殿長だって、確実の方法を知らなかったみたいだし。転生者でまだ六歳の俺が知っているっていうのも不思議なんだろう。


「一つ、神に願いたい」


 ブラシュガの神殿長じゃなく、ゴドーが俺にそう告げてきたって事は、やっぱこの場で一番偉い神官ってゴドーなのか? なんて考えながら提案をする。


「本人の『お家に帰りたい』などという泣き言で保護者失格なんてされても困る。この場が開かれる条件を変えてくれ」


 一拍置いて、先ほどと同じように澄んだ音が天上から届いた。


「……受理された。第三者から見て、行き過ぎである。命および人格破壊の危険性があるなどの場合に限り、この場を開かれる事となった」

「そう。良かった。じゃあ、俺のサポートはセリアに頼む」

「え!? ええ!」


 淡々といや、むしろサクサクと俺たちは話を進めていき、男達は慌てたようだ。


「ちょっと待ってくれ! そんな勝手な!」

「そ、そうだ! どうみても新成人の彼にニアを養う事など無理だろう!? 影で隠れてニアに仕事をさせるかもしれない!」

「神が決めたことに異論があるのか?」

「そ、それは……」

「そんなつもりは……」

「もちろん……ないですが……」

「そうか。そうだろうな。今のは聞き流して置くし、神もそうしてくださるだろう」


 ゴドーの言葉に三人はほっと安堵の表情を浮かべた。


「誤解の元になったかもしれんから訂正しておこう。彼は私の護衛なんて仕事を受けているが、受けなくても、一生遊んで暮らせるくらいの資産はある。彼のみではなく、彼の周りの人間含めて、な。君たちがどれほどの資産家かは知らないが、彼には負けるとだけ言っておくよ」


 ゴドーが告げた事がに、信じられないという目が向けられるが、俺は微笑みで受け止めた。

 証明してみせろって言われても、ここで山のように金を出せば良いってもんじゃないしなぁ。

 やれっていうのならやるけど、悪趣味以外の何者でもないよなぁ。


「上位貴族向けの商品を取り扱ってますっていえば少しは伝わるかな?」


 とりあえずはそんな言葉で濁してみた。実際、俺の作った物は上流階級向けらしく、毎回凄い金額になる。おかげでもっと一杯作れるのに、価値を下げないために『作らない・売らない』状況だったりする。

 それ以外にも金になるものはいっぱいあるし、それこそ、『金塊』そのものを作るスキルもあるのだ。


 男達は何かを言いたそうにしていたが、否定するだけの情報も、またニアを引き取るための良い案もなかったのだろう。ここじゃなかったら嘘だって否定する事も出来たのかも知れないが、ここは特殊な空間な上に、神が一度決めてしまっている。下手な言葉ではいけない。

 ゴドーは周りを見て、たった一言口にした。


「以上で閉廷とする」


 その言葉に俺たちは先ほどまで居た街道沿いに作った四阿にいた。

 いやはや、展開が早いねぇ。早すぎやしないだろうか。きっと色んな人間がついていけてないぞ?

 俺的には妙な面倒ごとが起きなくていい分、ありがたいけど。



誤字脱字修正

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