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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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シリーズ名



 街道に出ると先ほどと同じ場所でゴドーが机にうつ伏してうたた寝してた。

 なんつー危機意識の薄い奴。と、思ったが、しっかり結界は張ってあった。

 結界をノックし合図すると、ゴドーは目を覚ます。そして連れを見て不思議そうにしていた


「そちらは?」

「モンスターと交戦してた旅人。お昼準備中に教われたって事らしいので、こっちで一緒に食べないかって誘ったんだ」


 結界が解かれ、四阿に座る。二人も席に着くように促す。


「なぁなぁ。ゴドー、俺、短命種だよな!」

「なんだ、突然……ああ、そういう事か。神印入りとは珍しい」

「「珍しい?」」


 俺と姉との方の言葉が重なる。

 姉の方はあって当然という顔をしていたぞ。と、いうよりも。


「見なくてもわかるんだな」

「神官だからな」


 そうか神官なら隠してても分かるのか。

 感心しているとゴドーはため息をついていた。


「良いことばかりじゃない。神印は短命種であると周りに知らしめてしまう。彼女達が隠しているのもそのせいだろう? だから、多くの神殿は短命種にそれをする事を止めた。神印はあくまで手助けするためにするものであって、迫害のための印ではない、と」

「……じゃあ、アタシ達は迫害の的として、マークされたってんですか?」

「そういうわけではない。生まれた場所が大きな街とかであれば、まだしている可能性はある。印をつけなくては分からないだろうから。それに、大きな街はわりと短命種にはおおらかだからな」

「うそ!」

「うそではない。少なくともそこで生まれ育った者達はそんな偏見は少ない。生まれた時から多種多様な種族をみているだろうし」

「アタシ達はブラシュガの街の生まれよ! それでも散々馬鹿にされたわ」


 憎しみすら宿ってそうな目でゴドーを睨み付ける。

 こういうのを見ると、俺は本当に恵まれていたのだな、と思う。

 父親や兄達には疎まれてたけど、母親は味方でいてくれたし、ゴドーっていう友達も出来た。


「……そうか、すまない」


 ゴドーは謝った。たぶん俺でも謝る。

 空気はどこか気まずく重苦しい。そんな空気を変えるため、俺は竹で作ったコップを取り出し、中にアイスティーを入れ二人に差し出す。


「でもさ、必ずその御印を額に刻んでなきゃいけないってわけでもないんだ。ゴドーに消してもらえばいいじゃん」

「ん? いや、無理だ」

「無理なのか?」

「こっちの彼女のは消せるが、こっちの彼女は無理だ」


 姉は可能で妹は不可か。

 MPの影響か?


「余程幼いのではないか? 一人では生きていけないと判断されて、神印の加護が外せない」


 あー……。と、俺と姉から、声が零れる。

 確かにさっき会ったばっかりだけど、見ている限り、生きていけるとは思えない。


「じゃあ、まずは知識をつけることなのかね。そっち、目的地は?」

「……セルキーだけど」

「やっぱりか。俺たちもセルキーに向けて歩いてる所だったんだ。なんだったらしばらく滞在するにしても、すぐに旅立つにしても、しばらく一緒に旅して、その間にいろんな事を教えあうってのはどうだ?」


 提案の一つとして、そう悪くない事を言ったつもりだったのに、姉の目つきが厳しくなり、むしろ殺気まで放ち始めた。


「ずいぶんと親身になってくれるのね。目的は何?」

「え? 目的と言われても」

「貴男も、本物の神官のようだけど、神官だからといって、信用できるとは限らないわよね? なんせ、左遷だし」

「……」


 姉の言葉にゴドーの恨みがましい瞳が向けられた。

 なんで俺が睨まれるんだよ!?


「ちょっと待った! 移動のきっかけは俺かも知れないけど! 左遷にしたのは、王都の神官だろ!?」

「そっちではなく。彼女が知ってるって事はお前がしゃべったんだろ?」


 おぉっとぉー!

そちらについては言い分けがたたない。慌てて顔ごと話を逸らす。


「まぁ、会ってすぐに信用しろとは言わんし、女の二人旅ならそれぐらい警戒してもいいとは思うが。一応、こちらはそちらの命を救ったつもりだ。君は確かに強いかもしれないが、彼女を守りきれたかというと謎だし、こちらも、それなりに危険を省みたわけだし、少しは信用して欲しいなって、口にしたらかえって怪しいなと、思い至ったワ」

「お前な、何がやりたいのだ?」


 冷たい眼差しがゴドーから向けられる。


「いや、せっかく他の短命種に会えたのになって。なんか問答無用で嫌われてるっぽくってちょっと悲しいなと思ったから説得してみようかと思ったんだが、かえって怪しくない? って自分自身で思ったからさ」

「なら美味しいものの一つや二つ出してみたらどうだ? お前の場合はそれが一番だ」

「なんかそれはそれで複雑なんだが、そのために来たことを思い出したよ」


 そうそう元々お昼を一緒にどうだって誘ったんだった。


「結構よ。ニア、行きましょう」

「えー? おなかすいたよー!」

「セルキーの街についたら食べさせてあげるから」

「えー? やだぁ!」


 しくしくと泣き出す妹。

 美人の涙は凶器だねぇ。

 すぐさま食べるものを差し出したくなるよ。


「なぁ。姉の方」

「セリアよ!」

「俺はエド。何焦ってんのか知らないけど、もう少し、気持ちに余裕をもったらどうだ? 妹の分も頑張らないといけないとしても、ちょっと焦りすぎだぞ。気持ちに余裕がないと視野が狭くなるからな」

「何よ! 年下のくせに生意気言わないで!」

「まぁ、実年齢は年下だけどな……」


 苦笑混じりにそう言ったら、食ってかかりそうな勢いで立ち上がり、「私なんて!」と言ったところでフリーズした。


「どうした?」


 声をかけるとハッとしたように、姉は動き出した。怒気は消えていたが戸惑いの方が強くなっていた。いや、ほんとどうした?


「エドって言った?」

「言ったけど?」

「……セルキーの街にはよく行くの?」

「月二くらいのペースでは寄ってるかな?」

「……数ヶ月前に有った神託どう思った?」

「神託?」

「ヤヨイシリーズとヘイアンシリーズの事だろう」


 首を傾げると隣のゴドーが補足してくる。


「ああ、希石の事か」

「ええ、神が認めた、稀少な宝石。魔法石よ」

「うん、それで?」

「……アタシはなんで、『ヘイアン』なんだろうって、思ったわ」


 え? ヘイアンって名前、そんなに駄目か?


「アスカとかエドとか、まだ可愛いのがあるのに! って」

「あー、ヤヨイの次に浮かんだのが、安土桃山だったからなー。それに比べたら全然ましだろ?」


 そのやりとりは、ある者達にしか通じない。

 セリアと俺は顔を見合わせて、そして笑い出した。


「あはは、あー、もしかしたらと思ってあの二つをシリーズ名に使ったが、こうやって、それを頼りに会いに来てくれると嬉しいもんだな」


 もしかしたら、という願いを込めて自分の名前に関連づけた。どこかでその商品名を耳にして、作っている者が「そうなんじゃないか」って思って貰えるのでは、と。

 だから嬉しくて、笑いが止まらない。


 はははと笑って、前を見ると、笑ってたはずのセリアの顔が何故か泣き顔に変化していた。

 ちょっと待って何その変化。ついていけませんけど!?


「先ほどまでの失礼な態度は謝ります。だからどうかお願いです。この子を救ってください」


 激変に戸惑いながらも俺は話を進める。


「救っててのは?」

「お金を貸してください! 必ず返します! 何年かけても必ず返しますから!」


 まさかの金貸せ宣言!


「えーと、金を貸せば救えるの?」


 ボロボロ泣いてる姉に対し、ハンカチを差し出してやる。


「この子はアタシと違い、本物の短命種なんです。アタシはアタシの精神に合わせて成長しちゃっただけで……」

「転生者ならそれも普通だろうな、俺だってそうだし」


 実はそうなのだ。悪魔の目を持って村のみんなの魔力とか色々見てみたんだけど、最初の頃の俺よりも高いのって母さんくらいしかいなかった。

 じゃあなんで俺短命種として育ってるんだ? って思ったんだけどシムがその答えをくれた。

 魔法を使いたい、早く成長をしたいっていう気持ちが、元々魔力で成長する速度が変わるヒューモ族故に、影響したのだろうと。


「でもこの子はあと、二年で、寿命を迎えてしまうかもしれなくて」

「え!?」


 俺は慌ててニアの情報を細かく確認する。


『ニア ヒューモ族・短命種 四歳二ヶ月


 ナズセ所有の契約奴隷ネーアと客のポルテンの間に出来た子供。三歳十ヶ月で成人を迎えた。

 法律上、父親はナズセとなり、ナズセの家族として迎え入れられる。母親の影響を受け、ヒューモ族でありながら、身体はアルフ族に近い。

 成人を迎え、父親の指示のもと母と同じ娼館で働いていた。本人はその事について善し悪しは分かってはおらず、母親の願いの元、母親の友達であったセリアがニアを連れて神殿へと駆け込んだ。

 神殿はニアを「責任能力が無し」と判断、『神印』を授ける事により、ニアが仕事に就けない状況に置いた。それによりニアの客であった者達が反発、セリアへの風当たりが強くなる。

 父親には保護者資格無しと、判断され、ブラシュガ神殿の神殿長の配慮により、ニアの保護者はセリアとなった。

 これは短命種同士であった事、ニアがセリアを慕っていた事、母親からの信頼が厚い事、セリアが前世持ちで年の割にしっかりしていたために行われた事である。


 しかし一部の客はニアを諦めておらず、妻として娶る事で保護を申し出る。セリアが保護者としての資格無しとなった場合、神が用意した異界にて当事者が集められて審議が開かれる事となる。その場合、セリアが再度保護者となる確率はきわめて低い。


 ニア本人は短命種である事の意味をよく分かっておらず、レベル上げをさせようとするセリアに不満を募らせ始めている。

 また、生き物を傷つけてはならないと、大人から言われ続けた彼女は、セリアの言うことは納得が出来ず、二人の間には温度差がある。


 残り寿命は約388日である』


 388日って……。っていうか、内容が……。あー、セリアが警戒するわけだ。っていうかー……。『シム』の補助がないと余計な情報まで入り過ぎるなぁ……。そこまで求めなかったよ。俺は……。最後の一文だけが欲しかったのに。


「二年もない。388日だってさ」


 一年は12月まであるが、日付は30日までの360日。一年とちょっとしかない。


「そんな!?」


 青ざめるのはセリアだけで、ニアの方は自分の事なのにどうでも良さそうだ。

 死に対する恐怖感がないというか。『死』の意味が分かっていないのか。


「それで、金を借りてどうするつもりなんだ?」

「『循環』というスキルのレベル5を買えばもしかしたら、急激な成長速度が止まり、レベルを上げる時間が稼げるんじゃないかって」

「え? 無理だろ。あれはただMPとHPの回復が早くなるだけだぞ」

「そんな! じゃ、じゃあ、『一時ステータスUP』や『HP&MP一時UP』は!?」

「一時って付いてる時点で無理って分かるだろうに」


 藁にもすがりたい気持ちは分かるけど、と苦笑すると、セリアは放心したようにうなだれてしまった。

 ちらりと向けられるゴドーの目が批難しているようで痛い。

 へーへ-、分かってますよ。


「ただ助ける方法はある」

「ほんと!?」

「ああ。でも、それには本人の頑張りが必要なんだよな」

「ヤダ!」


 顔を向けるとニアはすぐに拒絶した。


「ニアしんでもいいもん! ころすのやだ!」

「ニア! お願いだから!」

「やだやだやだ!」

「ニア! お願いだから! ニアのためなんだから!」

「やだやだ! おねーちゃんなんかだいっきらい! もうおうちかえる!!」


 その最後の言葉がきっかけだったのだろうか。

 世界が一変した。

 街道沿いの景色から、どこか神殿の様な厳かな場所へと。




ヒューム族→ヒューモ族に修正

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