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だから、チートじゃ無いってば!  作者: 瀬田 冬夏
第2章 ヒューモ族
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初めての出会い



 少し開けた場所に、頭が二つあるミノタウロスみたいなモンスターと、女性二人が対峙していた。いや、一人は怯えているだけだ。一人だけが剣を構えている。

 レベルはそこそこあるが、誰かを庇って戦えるほどの実力の差は無いと見た。

 と言っても、俺も人のこと言えるほどのレベルは無いんだけど。

 しかも、今、シムさんお休み中なんだよね。

 いや、さすがにチート過ぎて……。というか、あの子ったら俺の事、すぐ最強にしようとしちゃうんだもん! もうちょっとゆっくり行こうぜ相棒! って事で、二ヶ月ほど前からお休み中です。


 実の所、旅をするにあたってどうしよっかなぁとは思ったんだけど、モンスターが近づいてるとかどうとかは、シムがいなくても俺が設定でどうにでもなるし、と。

 ……おろ? でも、そうすっとこのミノっぽいのマップの索敵範囲外からいっきに近づいてきたのかね?


「助太刀するぞ、っと!」


 そんな事を考えつつ声をかけつつ、ミノっぽいものに大量の水をぶっかける。

 わはははは! 鉄砲水はどうじゃー!


 今現在俺は能力に一部制限をかけてある。

 ぱっと見、俺の所持スキルは初級ばっかりだ。

 この世界には『悪魔の目』という相手の所持スキルを見るスキルもある。

 そのスキルに俺の所持スキルを見せるわけにはいかない。

 なので、『隠ぺい』などのスキルを使い俺のスキルは初級スキルばっかり表示されるようにしている。

 もちろん『悪魔の目』のレベルが高いとか、『見破る』などのスキルと結び付けされてると偽造情報はバレちゃうのだが……。そこはこだわり症のシムである。何段階かにわけて、表示させるスキルを作ってある。

 ここまで見る事が出来たら、どのスキルをどこまで持っているかというのが分かっちゃうくらいには。


 すっごく嬉しそうにいうシムには言えなかったけど。俺だって悪魔の目持ってるから、そんな事しなくても分かるんじゃ無い? って。


 そんなわけで、俺の攻撃方法は初級のものばっかりだが、そこはレベルが高いからね、スキルは! ただの水の塊でも凶悪なんですよ! なんせ人一人一年分ですから!

 ……あ、生活魔法は攻撃魔法じゃ無かったねぇ。使いやすいからついつい使っちゃうけど。

 正真正銘の攻撃用の初級魔法(水)も自由自在に水を操るんだけどな。

 それこそ相手の魔法にすら干渉しちゃうし、水圧すら自由自在なんだけど、それが初級ってどうなんだろ? って思ってた頃もありましたが、あれだ。何事も基本が大事だってことなんだろう。

 

「な、何!?」

「こっちはいいから、倒せるだけの技はあるのか?」


 驚いて視線をミノっぽいものから外した女性にそう声をかける。

 顔ごと向けちゃ行けませんぜ。


「短命種だからってバカにしないでよ!! それぐらい有るわ!」


 あ、ほんとだ。短命種でやんの。

 外見年齢的に、二十代だから百歳は超えてるかと思ったら、十二歳と、四歳だ。

 四歳か。それは、怯えるだけしか出来んな。

 しかし、それぐらいで火がつくって事は散々バカにされて来たんだな。


 ミノっぽいものは敵が二人になったわけだが、結局ミノっぽいものは女性、いや、少女に狙いをさだめた。

 十二歳だものな、まだまだ少女と呼ぼう。いくら見た目が二十代でも。


 さて、無視されて悲しい俺はというと、もう一つ罠をしかけて、少女に声を張り上げる。


「後ろに飛べ!」


 その声に反応して、ミノっぽいものから距離を取った。その好機を逃さず、俺は熱湯をぶっけかける。

 その量、バスタブいっぱい分!


「ぐあおおぉおおお!」

「わ!? 何!? 硫酸!?」


 少女は慌ててさらに距離を取った。

 湯気がたち、周りの気温が上がる。


 ミノっぽいものの目が初めて、憎しみを持ってこちらへと向けられた。


『オオォオォオォオオォ!!』


 ミノっぽいもの二つの顔から出た雄叫びは、スキルの『咆哮』だったらしく、俺の体が恐怖で竦む。


 やべ!


 焦る俺。でも体は動かない。

 ミノっぽいものは俺へと駆け出してきて、そして……、派手な音をたてて、俺が作った落とし穴に落ちていった。

 その様子に恐怖が解け、ホッと息を吐く。


「ばか! まだ油断しないで!」

「ウォオオオオオォオオオン!」


 少女の怒声と獣の怒声が重なる。

 落とし穴からミノっぽいものが飛び上がってきた。太陽を背にこちらへと落ちてくる。

 太い二本の腕が、俺を叩き潰そうと組まれているが、無理だよ。残念ながら。


 チャンスはさっきの一回のみ。


 俺はミノっぽいものの落下進路に座標を固定した空気イスを設置した。

 先ほどの休憩する時とは違い無色。

 見えない壁に防御すらすることもなく、落下スピードのままミノっぽいのはぶつかる。

 それは相当な衝撃だっただろう。鈍くて派手な音とでもいうか、重たい音とでもいうか、体を一瞬硬直させてしまうような音が響き渡り、ミノっぽいものは、地面へと落ちた。

 その体を、座標固定した空気椅子にて、固定する。


「それで? なんでこのモンスターに襲われてたんだ?」


 ミノっぽいのが動けないのを確認した後、俺は二人に尋ねる。もしこれが、ミノっぽいものの子供に近づいて傷つけたとかだったら、逃がしてやろうとか思っていたからだ。


「知らないわよ。お昼の準備してたら襲ってきたんだもん」


 『鑑定(真偽)』発動。


『真』


 スキルで確認を取る。どうやら本当らしい。

「……そっか。なら、あいつにとってお前らがお昼ご飯って訳だったのかもな」

「止めてくれる? そういう言い方するの。ところで、この固定っていつまで保つの?」

「……後、30分は保つよ」


 大嘘である。あと一時間でも二時間でも保つ。


「そう。なら、ニア。貴女が止めをさしなさい」


 剣の柄を見た目年上の四歳児に向けた。


「やだ!」

「ニア! 貴女のためなのよ!」

「やだやだやだ!!」

「ニア!!」


 貴女のため、ね。

 妹らしき人物はMPも魔力も驚くほど少ない。短命種といえど、ヒューモ族なら、もうちょっとあるのが普通じゃないかって思うくらいには低い。低すぎた。

 姉の考えとしては、レベルを上げて、ステータスを上げたいって事なのだろう。ただステータスの何が増えるかは、ランダムだから確実とは言えない。


 このやりとりは何度かあった事なのだろう。妹も頑なな様子で首を横に振り続けて両手を握りしめて体で抱え込んでいる。


 姉妹のやりとりの間、ミノっぽいものは必死に逃げようとしていた。

 でも動かない。当然だ。空気イスはその名前と違って結界の一種だ。

 結界の基本術もしくは初級。それがスキル『空気イス』。

 もともと、壊れにくく、力には強いんだ。そんなスキルのレベルはマックス。まず力任せに壊せるものではない。何時間でも拘束できる。

 でも、だからと言って……、ずっと拘束していたわけじゃない。


「おい、さっさと決めろ。嬲り殺しは好きじゃない。これ以上長引かせるのなら俺がやるけど」


 逃げられないと悟ったのか先ほどからミノっぽいものの声には、怯えが混じっているのだ。

 助けてくれとか、止めてくれとか。とにかく聞いていて気持ちの良いものではない。


 俺の言葉に姉妹は再度顔を見合わせ、妹の方は頭を横に振り、姉は仕方なさそうにため息をついて剣を持ち直す。

 姉の方もいたぶることはせず、一撃で終わらせた。断末魔もなかった。

 ミノっぽいものは灰となり、核と角だけが残った。

 知識としては知っていたが、本当にこんな風に消えるんだな、モンスターって。


「好きなのを選んで。それで貸し借り無しよ」


 お礼が欲しくてやったわけではないが、しかし、その態度はどうにかならんものか。


「じゃあ角」


 しかし、ここは大人の余裕を見せるとしよう。

 不機嫌さを見せることなく、俺はそう答えた。

 魔力がこもるという核は特に必要性に感じないので、何かに使えそうな角を選ぶ。

 角か。印鑑でも作ってみるかな。


「ありがとーねー、おにーちゃん」

「どーいたしまして。妹は素直だなぁ」


 見た目は年上だし、背が高いからやらないが、思わず頭を撫でたくなったよ。


「素直じゃなくて悪かったわね」


 ふんっと、腕を組んで姉の方はそっぽを向いた。

 まあ、短命種で十二年も育てばそうなるのかもな。


 俺だって周りが親父の様なやつらばっかりだったら、ただの子供であったのならこんな感じになっていたのかもしれない。


「昼飯、パーになったんだろ? 俺たちは今から昼だから、一緒に食うか?」

「何が目的?」


 周りに飛び散っている食材を見てそう声をかけたら、途端に警戒された。


「目的って程の目的はないけど、強いて言うなら初めて俺以外の短命種に会ったからか? 仲間意識とでも言うか、そんな感じだな」

「短命種? 嘘つきなさいよ」

「ウソじゃねぇよ。俺はまだ六歳だ」

「だってあんた『神印』がないじゃない」

「『御印』? なんだそれ」

「これよ」


 初めて聞いた言葉に聞き返すと、少女は額飾りを外す。そこには何かのマークがあった。

 俺はそれを見て首を傾げた。全然知らないのなら、あっさり知らないと言えたが、困った事にどこかで見覚えがあったのだ。


「ん~~? あ! 神殿のマークか!」


 ポンと手を打つ。


「あれ? 神殿でそんなんしてたっけ? 俺、一応神殿のサポートは受けてたけど、そんなん押されてないぞ? それ、どんな意味があるんだ?」

「…………貴男出身はどこなの?」


 しばし悩んだ後確認を取ってくる。


「クパンだ。こっから三時間くらいで着く村だ」

「……村人はほぼ顔見知り?」

「そうだな。俺が生まれる前に村を出た人は流石にわかんねーけど」

「……本当に短命種なの?」

「短命種だぞ、一応は。そっちみたいに、御印なんて貰ってねぇけど。あ! 街道沿いに、俺の仲間が休憩してんだ。そいつ神官だから、きっと証明してくれる」

「神官?」

「そ。スキルいっぱい売ったって事で栄転して王都に移ったんだ」

「栄転なんてあるの?」


 栄転自体はあるだろうが、それがスキルの販売数に関わってくるとは思わなかったのだろう。


「あるらしいぞ。そこでついた役職が、宣教師で、今日から世界中旅することになったんだ」

「え? なにそれ、やっかい払い?」

「そー思っちゃうよなー、やっぱり。俺も左遷か? って聞き返したよ」


 うんうんと何度も頷くと、彼女の目は呆れた目をしていた。


「……いいわ、信じて上げる。その代わり、変な事しようとしたら、即、叩っ斬るから!」

「それ、信用してるって言えるのか?」

「警戒するのは当たり前じゃない! ヒューモ族の男なんてケダモノなんだから!!」

「はいはい。分かりました分かりました」


 いささか呆れたがそう言いたくなるような気持ちも分かるので俺はそう軽く答えるに留めた。




初めてのモンスターとお仲間の出会いでした。

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