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緊急事態

 


 夜も明けきれない真夜中。俺は涙目で神殿に駆け込んだ。


「ゴドー、ゴドー、助けてゴドー!」


 扉を叩き、助けを呼ぶ。

 声を張り上げて、扉を叩き続けると静かだった神殿が俄かに騒がしくなる。


 扉が開かれ、そこにゴドーが立っていた時俺は涙を流した。


「ゴドー助けてくれ! スキルが! スキルが! 暴走して、やばいんだ! 処分しないと俺死んじまう!」

「それは……売るということか?」

「そうしないと死んじゃうんだ!」


 頷くと、誰かが悲鳴を上げた。でも、俺は気にしてられなかった。


「頼むよゴドー! じゃないと、俺死んじまう!」

「分かったから落ち着いてくれ」


 ゴドーの服を握り締めていた手をそっと離された。しかし、その手は離される事無く、握ったまま神殿内へと案内してくれる。


「ゴドー! 分かっているな! 分かっているな!」


 後ろから聞こえる叫び声が聞こえてくるが、俺としては知ったことかと言いたい。

 っていうか死にそうなのに、暗に売るなというかけ声に殺意すら芽生えそうだ。

 ゴドーは俺の手をぎゅっと握り、大丈夫だ。と声をかけてくれた。

 俺は頷いて、ゴドーの後についていく。

 俺の足取りはしっかりしているのかもしれないが、心の中は恐怖と不安で押しつぶされそうだった。 


 連れてこられたのは、どこかの部屋。


「ここは……、ゴドーの部屋か?」

「ああ、スキル関係の様だから、いつもの場所がいいかとも思ったのだが、最悪の場合も想定してな」

「最悪って?」


 すでに俺にとっては緊急事態だ。

 ゴドーは答えず結界を張った。


「それでどうした?」

「気まぐれスキルに『増殖』っていうスキルがあったのは覚えているか?」

「ああ。覚えている」

「あれって、スキルがマックスになった時にそのスキルが1個増えるっていうスキルだったんだ」

「へえ。そんなスキルもあるのか。それで?」

「それで、レベルがマックスになった時、俺、今、上位スキルと、元のスキルがもらえるっていう状態になってるんだけど」

「ああ」

「もともと、マックスのスキルが複数持ってた上に、増殖もダブってて持ってたんだ」

「ああ」

「それで、増殖の一つがレベル2だったのも悪かったのか……、あ、増殖のレベル2はスキルが二つ増えるっていうやつだったんだ。つまり一つマックスになると増殖二つで、元のスキルが三つ増える形になってたんだ、今」

「一個だったものが、三個に増えるというわけか?」

「そう!」

「そうか」

「もともとのスタートが二個だったんだけど、増殖で、六個に増えて……。ここまでは覚えてる。で、その六個を片付けでレベル上げしたんだ。片付けって、レベルが同じじゃないと駄目だから、増えた直後とか購入した直後がしやすいんだ」

「ああ、なるほど。六個もあったらそうしたくなるな」

「うん。で、そこから後がよくわかんなくて、その処理を終わらせたら、レベルUP、レベルMAXの連続で、その上、さらに増殖がレベルアップしちゃったらしくて。よくわかんないうちに、所持スキルが7000超えた」

「はぁ!?」

「処理の途中だけど、生命の危険があるため、一時的に処理を中断しますっていう案内が入って、それで俺、慌ててここに駆け込んだんだ……」

「……それは……」


 あれは恐怖だった。

 レベルアップしました。って声がずっとずっと鳴り響いて、マックスになったってなったら増殖で増えて、さらにレベルアップなりましたって、止まることなく響いて、俺、このまま頭パンクして死ぬんじゃ無いかって本気で思った。

 実際、死にかけたようだし……。


「これって、今持ってるスキルを売れば大丈夫なんだよな?」

「……『私は目であり、耳であり、口である』」


 不安で尋ねると、ゴドーはしばし考えたようだったが、突然、そんな言葉を口にした。何を言っているんだ? と思ったがゴドーの姿が淡い光に包まれて、口を閉ざす。そこにはゴドーではない女性が居た。


 神だ。


 まず、そう浮かんだ。

 神殿にある像に似てるとかそんな事じゃない。

 彼女の雰囲気が、そう自然と思わせるのだ。


「……『あなたは私の口であり、目であり、耳である。よって私はあなたに現れる』」


 女性はそう口にして、ゆっくりと目を開けた。


「……初めまして、エド」

「あ……初めまして」


 まさか名前を呼ばれると思わなくて、一瞬躊躇ったというか硬直した。


「事情は分かりました。私が今あなたに提示できるのはただ一つ。現在、あなたが持っているレベルマックスのスキルを私にすべて献上してください。その対価に私は貴方に一つのスキルを差し上げ、そしてもう一つ、別のスキルの使い方を教えましょう」

「献上します」

「……即答ですか」

「いや、即答するしかないですよね?」


 命かかってるし、他に方法がないのならそれをするだけだ。


「レベルマックスになったものを全部渡すのですよ?」

「すぐにまたレベルマックスにさせますよ。命の方が大事です」

「ふ、ふふふ。さすがですね。いいでしょう。まずは『設定』により、『増殖』の効果をレベル1に固定してください」


 なんと! 設定にそんな使い方が。

 言われたように設定する。


「あと増殖には、マックスになった時、残った熟練度を、新しく増えるスキルに付与して増えます。それだけであれば問題なかったのですが、エドは重複してますからね……。本来であれば、3ポイントしかなかった。熟練度が、増殖によって三つに増えた場合、9ポイントになります」

「げ……」

「つまりあなたのように、元スキルの数が何十となってしまった場合、増殖によって増えた熟練度だけで、一気にレベルマックスになり」

「また増えると……」

「そうです。『思考加速』と『処理速度向上』が頑張ったようですが、それだけではどうしようもなかったですね。良かったですね。『冷静』と『耐性』があって。たぶんその二つがなかったら貴方は今頃発狂してたかもしれません」


 マジか……。


「ですが、もうそんなことも起きないでしょう」

「どうしてですか?」

「貴方の魔力制御が今どれぐらいあるかわかりますか?」

「え? えーっと……、調べるって使っても大丈夫ですか?」

「……いえ、やめておきましょう。下手にスキルを発動させると中断している処理が再開するかもしれませんし」


 止めてくれ。怖すぎる。


「あなたの魔力制御は1500になっています。1000を超えたあたりから、ほぼ全ての魔法が自由自在になります。スキルはMPを消費します。基本は魔力制御が必要なのです。例外は武術系ですね。確かにセーフティはあります。ですが、処理が途中で止まったのはそれが発動する前に、貴方が無意識で止めたのですよ」

「死にたくないので、無意識に止めた気持ちはわかります」

「ええ。そうですね。設定で増殖の熟練度も調整が利きますから、あとでやってみるといいですよ。今は増殖1つに対し1つだけなので、そのままでも問題ないでしょう」

「ありがとうございます」

「では、貴方のスキルを取った時に新しいスキルを入れましょう」


 彼女の手が俺の頭に添えられる。

 頭に一瞬痛みが走ったが、それだけで、そのあとは彼女の掌の温かさを感じた。


「これでいいでしょう。それにしても、1547個ですか。この短期間によくぞこれほどまで鍛えましたね」

「……1547?」


 たったの?

え? 俺、さっきゴドーにも言ったけど、7000以上持ってるよ? スキル。


「後は、処理が再開したらまたスキルがマックスになるでしょうが、私が上げた『断捨離』により、マックスになったスキルを削除するかわりに、貴方のステータスのボーナスになります。上がりやすいスキルはそっちで処分してください」

「は、はい」


 そんなスキルがあるのか。便利だ。……ていうか、もともと、スキルは大量に持てるっていうのが想定されてるってことだよな?


「あっ、あと、思った以上にあったので、おまけです。あなた、『待機』のスキル持ってますよね?」

「えっと、あったと思います」

「待機スキルは基本、魔法を待機させるものですが、貴方は普通に無詠唱でやっているので、タイムラグがあまりないので、ほぼ待機のうまみがありません。しいて言うのなら、未記入の白板と結び付けて使用しているスキルの消費MPを0にすべきなのでしょうが」


 そんな能力が!?


「今は処理待ち状態の熟練度が高く残っているものを二つ待機させてた方がいいでしょうね」

「なぜですか?」

「その分、処理が少し、本当に少しだけですが、軽くなります」

「ぜひそれでお願いします」

「自分でやりなさい。それぐらい今のあなたならできるはずですよ」


 えー……。熟練度の高いやつ二つ待機で。


『『鈍足』レベル1熟練度『3354521800』を二つ待機させます』


 強く念じていたらそんな言葉が返ってきて、鍵がしまったような音がした。……気がした。


「できたようですね」

「はい。ただ……、熟練度がありえないほど、高い気がするのですが……」


 いくらなんでも、こんなに貯まってたらその前にレベルが上がりそうなのだが。


「それについては、運が良いと言えばいいのか、悪いといえばいいのか……。『増殖』の量が増えた時、貴方、片付けを優先的に使ってレベル上げをし、スキルの量を減らしましたよね?」

「……あ、はい、減らしました」


 言われて見たらスキルの量が増えてきたから少しでも減らしたくて片付けを使った覚えがある。


「あれね、熟練度が低い時はいいのですが、今回の時のように熟練度が高い時に使うと、片付けに使用されたスキルの熟練度を全て足すの。その状態でレベル10までいくと、とんでもない熟練度になっているのよ」

「……え?」

「そのせいもあって、今回の事になっているのだけどね」

「……うわ……」


 頭を抱えた。それってつまり、あんな大量な熟練度を持っているスキルが一つや二つではないという事なのでは?


「ある程度スキルを獲得したら、途中で破棄してもいいと思いますよ。スキルの数普通にしてたら十万を軽く超えると思うので」

「……あ、はい……そうします」

「今日は泊っていくといいですよ。また処理落ちしたら怖いでしょう?」

「はい! ありがとうございます!!」


 頭を深々と下げたら、撫でられた。顔を上げるととても嬉しそうに笑っていた。


「ふふふ。あなたの活躍楽しみにしていますよ」


 女神はそんな言葉を残して去っていった。場の雰囲気が変わったと思ったらゴドーになっていた。


「……私が、神をおろしたことは秘密にしてくれ」


 そう言うってことは神官なら誰でも使えるってわけじゃないのか。

 ゴドーが「最悪は」って言ってこの部屋に案内したのは、それを知られたくなかったからか。


「うん。わかった。えっと、泊まってってもいい?」

「ああ、今、寝具を持ってこよう」

「あ、大丈夫だよ」

「いいからお前は神に言われたことをやってろ」

「はい。お世話になります」


 すべてお任せすることにし、俺はスキルの処理を再開した。

 しばらくしてゴドーが戻ってくる。


「スキル処理は終わったのか?」

「んー……無理矢理終わらせた」

「……無理矢理なのか?」

「うん。最初は時間かかってもいいからって思ったんだけど、スキルの量が増えると頭が重くなるような感覚してさ。止めたんだよね。そこまで頑張る必要もないかなって」

「なるほど」

「それに、レベルマックスが17000超えたらもういいかなって」

「そうだな……」

「で、今から断捨離を行おうかと」

「……そうだな。早めに減らさないと、スキル使えないしな」

「ホントだよー!!」


 レベルマックスが10個よりも多いものは問答無用で断捨離することにし俺は空がどころなく明るくなり始めたころに倒れるように眠りについた。





想定外でした。

スキルの出目が偏りすぎてて、片付けがレベルアップにしか使えなかった事から起こった事故。

本来は「かく」と「処理速度向上」のように別スキルにする予定だったのに……。


ちなみに今回暴走を起こしたのは『時間』です。設定のおかげで常時発動の上、実は、朝や夕方などの加護を使用しているとこちらの熟練度も入ってきます。こっちの熟練度の方が実は量が多いので、時間がレベルアップしやすかったのはそのせいです。

そのせいで深夜の加護の時間に大暴走しました。

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