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セルキーの街にやってきた。


 おはようございます。

 本日はセルキー街へとすでに移動中です。

 騎士達の移動ですもん、徒歩のわけなかった! と、俺は隊長さんの背中にへばりつき、馬に乗って移動している。


 男にくっつくなんて嫌だが、たけぇんだよー!! 視界が!!


 馬は俺の見知った村の馬(鳥っぽい)でもなく、早さ特化の『馬』は、前世の馬と、外見はよく似てて、足にある小さな翼で空を飛び、走るのだと言います。むしろ、麒麟のようだ。


「エド君は高いところ怖いのか?」

「高すぎんだよーー!!」


 半泣きで叫ぶ気持ちを誰か分かってください。

 騎士隊のみんな笑うだけで誰も共感してくれねぇーんだ!

 だってこれ、高度何百メートルだ!? 何百で効くのか!? 何千か!?


「みんな通る道さ」

「そうそう、小さい頃馬に乗って飛んでる姿に憧れて、いざ乗ってみると、高くてそれどころじゃない、ってね」


 補給部隊の人達は笑いながらそんな事を言っている。

 その余裕が羨ましくて、憎らしい!


 しかし、おかげでセルキーの街にはあっさりついた。

 が。


「これ、俺一人じゃ結局無理じゃん」

「あっ」


 今更思い出したもう一つの目的を、隊長さんも思い出したらしく、そんな声を上げていた。

 気まず~い空気が流れる。


「また良ければ連れてきてください」

「今度非番の時に連れてきてやろう」


 来るのに半日、帰るのに半日と考えた方がいいらしく泊まりが良いだろうとの事。

 お手数おかけします。

 と頭を下げたらその頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。


 本当はこれ、父親の仕事だと思うけど、父親はアレだからなぁ。


「エド君、まずは騎士団の詰め所に行こう」

「はい」


 騎士団の詰め所に行くと、隊長さんは仕事があるからと、ここからは街の常駐の若い騎士さんと代わってくれるという。何、その至れり尽くせり感。と驚いていたが、世間知らずの短命種を一人で歩かせる方が色々仕事が増えそうで怖い、との事。


 確かに、俺、ここでの常識知らんしなぁ。と反対意見は口を閉ざす。

 なんせ、超常識辞典の98%に入らなかった男。

 …………あ、なんだか、目から水が……。


「それで君はどこに行きたいんだい?」

「あ、出来れば宝石とかを取り扱ってる装飾品屋さんに行きたいです」

「え? 買うの?」

「いえ、自分で宝石の代わりになりそうなのを作ったので売りにです」


 俺の言葉に騎士隊の人たちがなんだか、生暖かい目を見せ始めた。


「じゃあ、まずはそのその作品を見せて貰ってもいいかな? それにより連れて行く店を決めさせるので」


 この街の年配騎士さんが言うので、俺はいくつか昨日作ったやつを出した。

 昨日、ゴドーと白熱してさぁ。朝から晩までずっとどんなのがいいかって話してたんだよねぇ。


「……これ、本当に君が作ったのか?」


 俺が出した物を見て、騎士の人たちが戸惑っていたように見える。


「合作ですけどね」

「合作?」

「ええ」


 デザインとかゴドーもちらほらと口を出してきたので。

 それ以外にもアドバイスは色々頂きました。ありがとうゴドー。


「あと、一般の人が行くような装飾品店にも行きたいです。これとは別の素材を作ったので」


 そっちも見せようかと思ったが、年配の騎士の人が手で止めた。


「一つ、確認するが。合作との事だが金の分配などの問題は」

「無いです。同等の物を向こうも持ってるので」


 むしろここにあるよりも上等なやつとも言えるかな。

 騎士さん達は真剣に話し合い、街の案内人ではなく、護衛が一人増えました。何故に。


 彼らに案内されてやってきたのはいかにも高そうなお店だ。

 店員は俺を見て、騎士を見て不思議そうにしていたが、きちんと対応してくれた。


「どうもこんにちは。私はエドと言います。商品の持ち込みに来ました」

「商品の持ち込みですか?」

「はい! 騎士さん達に商品を見て貰い、その上でこの店を紹介して貰いました」


 こう言えば、見もせずに帰れとは言えないだろう。

 実際その男性はどうぞ、と奥へと案内してくれました。

 その間騎士隊の二人は周辺の店と顔合わせだそうだ。

 色々困ってないかとかそういう話を聞くんだって。まじめだ。


 商談をするための応接室だと思われる場所。

 そこに男性と対面する形で座り、俺はさっそくと背中のナップザックから布で一個ずつくるんだそれらを出す。


「ヤヨイシリーズと付けました」


 テーブルに一つ広げた時、男性の目が大きく見開かれ、目の色が変わったのが分かる。


 さて、皆さん。

 透明色という言葉はご存じでしょうか? 文字通り透明にする、パソコンのイラスト関係ではよくあるやつだ。

 俺にとってはそれも『色』という認識だった。

 でもゴドーにとっては全然そうじゃなくて、『なんで着色してるのに色が消えるんだ!?』と非常に驚かれた。

 で。こういう透明な石というか光を通すやつは魔法の触媒としては非常に良いんだって。 宝石として扱えないのなら、魔法石として売れば良いってアドバイスも頂いた。

 まぁ、目の前の男性の様子からするとそうする必要もなさそうだけど。

 俺からしたら、水晶ですらない、むしろ、アクリルの塊みたいな感じなのだが、この世界の人たちからしたら随分と貴重らしい。

 ゴドーも驚いてたけど、騎士団の人たちもすっっっごく驚いてて、護衛が一人増えたんだよな。


「触っても?」

「どうぞ」


 手袋を取り出し、男性はなんの飾り気も無い、ただの透明な石を貴重品を扱うように手に取っている。

 俺はその横で残りの商品を取り出し、広げていく。

 ただの透明な石ならいくらでも作れるし、と、光を通した方がいいのなら、と、色付きガラスのようなやつも用意した。

 男性はそれにも驚いていたようだが、もう一つ包みを開けた時、絶句して、それからまじまじと覗き込んできた。


「こ、これは……。どうやって中に花を閉じ込めているのですか……」

「ああ、それは……」

「あ、いや、すみません。秘技ですよね。すみません」


 ええ、まぁ秘技といえば、秘技なんだろうけど……。

 今置かれた石は、くすみも曇りもない透明な石の中心に桜の花びらが数枚描かれているものだ。

 アクリル板の真ん中に絵が入ってる。っていうのがイメージとしてはしやすいかな?

 作り方は、基本の金太郎飴と同じだ。始点から終点まで同じのを描いていって、残したい部分以外は透明に色を塗っていく。ただそれだけ。つなぎ目もないから本当に石の中央に花が閉じ込められているように見えるんだろうなぁ。横から見ると花ビラが舞い落ちてるように見えるはずだ。

 持ってきたのは、桜の花びらと、四つ葉のクローバーと、ハートと三日月と太陽。あと菱形タイプの小さい星がいくつもあるのと、紺色のガラスに丸い雪が散っているようなやつ。

 三日月と太陽と星は蓄光塗料のつもりで着色したので、暗くなると光ります!

 これにはゴドー、頭を抱えてました。

 光を貯めるのと一緒に、どうも魔力を蓄積してるようです。

 魔法陣を組み込めば魔術貴石になるんだって。

 魔法石と何が違うのかって聞いたら、魔法石は魔力があり、動力となるものだけど、魔術貴石は魔法がすでに込められていて、これ単体で魔法を発動させる事も出来るらしい。

 なので、魔術的に意味のある、星や丸、上下左右対称な絵柄は入れるなと言われました。ハートとかわざと斜めに歪めた形にしてるし、菱形もあえて歪めてる。

 売らない方がいい? って尋ねたら、売っても良いけど、安値では売るなと言われた。

 あと、ゴドーさんは、アドバイス料代わりに蓄光タイプの石をお持ち帰りしました。

 いいのか!? 本当にいいのか!? って何度も確認してたよ。簡単に作るの見てただろうに、とちょっと呆れた。


「す、すごい…………こ、こんなに」

「あ、あと、この三つは、光を溜める性質があるので、ある程度光の下に置いたあと、暗いところにいくとうっすらと光ります」

「…………は?」

「だから、暗いところに行くと光るんです」

「…………」


 男性俺を見つめるのみ。えーっと……。


「箱か何かあります? それに入れてちょっと暗くすればたぶん、見られると思うんですけど」

「!! ちょっと待っててください!!」


 男性は慌てて外に出て行く。

 うーん。感触的にはいいのかなぁ。あー、あと、ヘイアンシリーズも出しとくか。


 ヤヨイシリーズは透明。もしくは中心にイラストがあるやつで、ヘイアンシリーズは金太郎飴配色である。シリーズ名は、俺の名前がエドだったので。何となくで選んだ。

 もし、他に転生者がいたら気づいてくれるかも知れないし。

 絵柄は四つ葉とか花とか。音符系とか。丸くしたら可愛いサイズを選んだつもりだ。ピアス? イヤリング? とか。髪飾りとかかな? こちらは軽めのものを選んでる。



 しばらくするとノック音がし、男性と女性が一人ずつ増えていた。


「……えっと」

「初めまして、私はこの商会の会長をしているイゴルと申します。こちらは副会長のリエです」

「よろしくお願いします」

「あ、エドです。こちらこそよろしくお願いします」


 なんか偉い人出てきたよ。


「あなた様の作品を拝見してもよろしいでしょうか」

「どうぞ」


 先ほどの男性は二人の後ろに控え、二人はソファーに座り、一個一個見ている。


「これは……水晶ですか?」

「水晶ではありません。宝石ではないです」

「宝石では無い……」


 俺の言葉にリエさんが戸惑っている様子だった。


「加工方法は言えませんが、元は普通の石です」

「……エドさま、宝石も元は普通の石。それを磨く者がいて初めて宝石になるのですよ。これは私共の感覚では『宝石』です」

「……その判断は任せます」


 結局俺はそう言うのに留めた。


「この作品は、作るのに時間がかかりますか?」


 かかりません。一日でいっぱい作れます。とリエさんに返したい所だけど。

 

「すぐに多くの数を流通させるのは難しいと思います」


 そう口にする。こちらはゴドーの指示。

 いっぱい出して値崩れするよりも、小出しにして、価値の維持に努めろとの事です。

 社交界で話題になったら、その分価値も上がるし、売値も上がるだろう、と。

 おかしいよね、ゴドー、神官のはずなのに、言ってくる事が商人っぽいんだけど。


「ただ、ヘイアンシリーズは、材質はまったく違いますが、格安の物を出すつもりではあります」

「材料が違うというのは?」


 イゴルさんが真剣に尋ねてくる。

 ナップザックからもう一つの包みを取り出す。こっちはまとめて包みに入ってる。


「お待ちください、このマークは? 他のにもありましたが」


 包みにあった『江戸』『平安S』マークを示していう。


「私が作ったというロゴマークです。サインですね。『江戸』(こちら)が私の名前を『平安S』(こちら)がシリーズの名前です。こちらには『弥生S』とついてますよね。……宣伝みたいなものです」


 本当は、ゴドーから偽物が出た時に時のための対策として使えって言われたんだよね。

 これらの布はゴドーさんからいただきました。そして、お前色に染めて包めだって。どんな口説き文句? って思ったけど、突っ込まなかったよ? だってゴドー真剣だったもん。

 でもさ。やっぱりもう一回言って良い?

 ゴドー、神官だよな? 商人じゃ無いよな?


「……この布もまた素晴らしい……」

「シルクには敵いませんが」


 イゴルさんが感心してたけど、手触りは普通の布だからね。あくまでパールホワイト(ラメ入り)に染めただけだから。

 

「確かに、シルクほどの手触りはありませんが……。この布もいただけるので?」

「……私の作品という意味で包んでますから、別々にしないのであれば」

「分かりました」


 イゴルさんは神妙に頷いた。そして、安い方のヘイアンシリーズを見る。


「これは木材ですか?」

「ええ。アクセサリーに合わせて加工しやすいようにと木材にしました」


 木材と分かるように年輪の中央部分にしか、着色を施していない。


「……この長い棒をアクセサリーにですか?」


 リエさんの言葉に勘違いに気づいた。というよりも説明しないと分からないという事を思い出した。


「これは、裏表だけがこの図柄なのではなく、一本丸ごとこの図柄なんです。だからどこを切っても断面がこの図柄になるんです」

「「え!?」」

「ヘイアンシリーズはそういうシリーズなんです。だからその石も、そうなんですよ」


 ぽかんとしている二人。あ、後ろの男性もだからか、三人か。

 そんな珍しいかねぇ。アメならよくあるんだけど。


「なんでしたら、どこか切ってみますか?」


 一番細い枝を差し出す。


「あ、いえ、大丈夫です」


 リエさんは頭を横に振って遠慮する。別に切っても良かったんだけどね。


「これを薄く切って貰い、穴を開けて紐を通せばすぐにペンダントになります。等間隔に切って形を整えた後髪飾りの一部にしてもいいですし。そういう風に使って貰えれば」


 イゴルさんは木のヘイアンシリーズをマジマジと見つめて、それからとんでもないことを口にしてきた。


「これも我々が貴方の言い値で買いましょう。ですからこれらを持ち込むのを我が店だけにしてもらえませんか?」


 独占ですか。そうですか。


「それは出来ません」

「……言い値の倍でも構いません」

「五倍出されても無理です。でも、無闇矢鱈に売り捌く気はないです。でもそうですね、貴方方が買い取ってくれるのなら、この街では他の店には売らない。くらいなら約束できますよ」


 そう言うと二人はかなりほっとしたようだった。


「それで、ヤヨイシリーズの光を確かめなくていいんですか?」


 最初の担当の人、蓄光を確かめるために部屋を出て行ったんですけど、まだ確かめて無いっすよね?

 あっ。と二人は声を出して、用意していた箱で光を遮り、蓄光の様子を確かめている。

 感動している声が聞こえてくるのに、俺も苦笑する。

 喜んで貰えて良かったよ。


「だいたい四時間~八時間くらいは光ってます」

「ずっと光るわけではないのですか?」

「あくまで集めた光で光っているので。それにいくら魔力を一緒に溜め込むと言っても、微々たるものですし」


 弱ったように俺は返した。リエさんも始めは「なるほど」と納得してたようだったが後半に続いた言葉に、俺を見返してくる。


「魔力を溜め込む……」

「……魔法石……」


 トエルさんとイゴルさんが呆然と口にしてる。

 俺、その『呆然』とする理由がよくわからんので、勝手にしてくれ。


「私は商人というわけではありません。正直、これがどれくらいの値になるか、分かりません。貴方達がこれに価値があるというのなら、その価値を正しく、私に教えてくれませんか?」


 もしこれで、価値も分からない子供だと言って安くで設定してくるのなら、別の店に持っていこう。最低ラインもゴドーから聞いたし。ヤヨイシリーズは特に、これ以下だったら絶対に売るなと口うるさく言われたし。


「はい。その前にこれは以前、他の所で売ったりは?」

「今のところありません。ただ同等の物を持っている者は居ますが彼は、自分用に持っているので、売ることはないでしょう」


 二人は頷いて、しばしお待ちくださいと言って三人とも部屋を出て行ってしまった。

 ぽつーんっと一人で待っているとノック音がして、綺麗な女性が飲み物を持ってきてくれた。

 置かれた飲み物は、アルコールの匂いがする。

 う、うーん……。上客と認めてくれたのだろうけど、俺、まだ六歳なんだよなぁ。

 体成人してるっていっても、十四くらいだと、まだ成長期だよなぁ。ちびになっても嫌だし、我慢すべきだよなぁ。

 あと、お姉さんがテーブルに並べられてるもの見て、ぎょっとしてたから、包んで避けておこう。

 それからさらにしばらく待っているとイゴルさんが戻ってきた。


「エドさま、この街にお住まいですか?」

「いえ、違います」

「いつまでご滞在でしょうか?」

「今日の夕刻には帰ります。騎士隊の人に連れてきて貰ったので、そちらの都合に合わせるので、詳しい時間は分かりません」

「騎士隊?」

「私は短命種で、先日成人したばかりです。親切な騎士のみなさんが、何も分からない私を心配し、セルキーの街まで連れてきてくれました。この街を案内してくれてる騎士達もそうです。私はそんな方々に支えられて助けて貰いながらこの場に居ます」

「……そうですか。良い方々ばっかりですね」

「はい」


 力強く頷くとイゴルさんは微笑んでくれて、それから顔を引き締めた。


「それで、ですね、エドさま。誠に勝手ながら、現金を集めるのに時間がかかってしまっており、夕刻までに全額集めますので、もうしばらくお待ちいただけませんか?」


 えー? 夕方までぇ? んな無茶な。観光したいのに!

 っていうか、それだとこの店がアウトだった時、他に持って行けない。


「とりあえず、値段設定を教えて貰えますか?」

「おぉ! そうですね。失礼いたしました」


 イゴルさんは謝った後、ソファーに座り、値段設定を説明してくれた。


「まず、木材で作った、ヘイアンシリーズ、あれを2万ゼニィと設定しました」


 ふむふむ。全部で8本。2万って事は、一本2千5百か。まぁ、いいか。


「次に、宝石の方のヘイアンシリーズを5万円と設定しました」


 ん? 石の方のヘイアンは小さいけど全部で28個あるぞ? 一個あたりの値段が木材より低くなるが……、そんなもんなのかな? 大きさ的に木材の方が色々作れるかも知れないし。


「次に、ヤヨイシリーズの透明な物ですが、色付きと色がないのとで値段を分けようかどうしようかと話が出たのですが、今回は全て同じ物と扱い、9万と設定しました」


 9万か。ゴドーからこっちは5万以下では売るなって言われてるんだよなぁ。

 一個当たりならともかく、全部でって考えると足下見られてるって事かな?


「次にこちらのヤヨイシリーズは80万と設定しました」


 あ、イラスト付きは一つ20万と設定したのか。こっちはゴドーに10万で設定されてるから、色付きだけの無地は目新しさがないって事なのかな?


「そして、この光る方のヤヨイシリーズは600万と設定しました」


 ぶっ!? 一個200万だと!? ゴドーもこっちは魔法石と取るか、宝石と取るかで値段が変わるってぼやいてて、50万? としどろもどろだったのに……。どっちでとったか知らんが、そんな高値で設定してたら、確かに現金がすぐにはそろわないってなるわな。


「いかがでしょうか?」


 不安と期待が混じった目でイゴルさんが見つめてくる。

 無地は確かに安かったけど、それ以外は問題なかったから、本物の宝石職人と、神官の違いって事なのかね。


「今、用意出来る金はどれくらいなのですか?」

「全体の三分の一くらいです」

「では、残りの三分の二は来週、新しいのが出来た時に持ってきますので、その時でいいです。きちんと念書かいてくださいね」

「おお! もちろんです! ありがとうございます。今用意させます!」

「あ、あと。こういう図案がいいというのがあれば承りますけど」

「え?」

「今回の図案は私が決めたので。希望があれば。絶対に出来るとは言えませんが」

「おぉ! 本当ですか!?」

「はい。それも来週にでも用意して貰えれば」

「分かりました! ありがとうございます!」


 イゴルさんは頭を下げて、それから部下の人に指示を出して、改めて俺と対面した。


「しかし今回は中々に難しい案件でした」

「そうなんですか?」

「ええ、ヘイアンシリーズは割とすぐに値段が決められたのですが、ヤヨイシリーズが……。特に光る物は、魔法石であり、宝石でもある。そう考えると、いくらでも高くなります。しかも光も魔力の蓄積も半永久的に続くとなると……」

「え?」

「『え?』」

「あ、いえ、光が続くのは分かるのですが、魔力に関しては私には分からなくて、それもあって、そっちは売りにしてなかったんですが……」

「ああ! エドさまは鑑定をお持ちではないのですね?」

「ええ、持ってません」

「鑑定は結構くせ者でしてね。あの石が水晶で無い事は知ってました」

「……はぁ」

「ですが、光を蓄積し、発光するなどという事も分かりませんでしたし、ましてや魔力を蓄積するだけの力がある事も知りませんでした。それが分かるようになったのは貴方が言ってくれたからです」

「えっと……」

「最初、鑑定した時、私の目にはヤヨイシリーズは、『ヤヨイシリーズ(本物)製作者エド。スキルを利用し製作した貴石。水晶ではない』と見えました。私がまずは水晶だろうかと思ったせいでそうなったのでしょう。リエのあの言葉は、貴方がどうでるかの確認であったと思います。水晶と偽るのか、そうではないのか、と。失礼な対応だとは思いますが、それもまた我々にとっては大事な事なのです」

「はい。なんとなく分かります」


 俺が信用出来る人間か確かめたのだろう。


「光る石、それに出てきた情報はただ、水晶では無いという事のみ。ですが、貴方が光る事に時間があることと共に魔力を蓄積すると言った時、『蓄積した光により、発光時間は変動。魔力を常に吸収。蓄積した魔力は一定量溜めた後は使用者が使用するまで保存。魔力源として使用可能。両効果とも、半永久的に続く』と出ました。びっくりしましたよ」

「それは……私もびっくりしましたけど……。良いんですか? そんなべらべらと話ししてしまっても、スキルの事はなるべく口にしないのが常識だと……」

「ええ、ですが、このような大きな店を持つ者が鑑定を持ってない方が珍しいかと」

「……まぁ、そうですね」


 言われてみたらそうだ。


「それに、スキルの秘匿は利益を守るため。鑑定スキルは太陽シリーズです。レベル1でも300万はします。それだけの金が集められるのなら、すでにもう十分利益を出す事の出来るスキルを得ているでしょう」

「……300万……。凄いですね」

「はっはっは。エドさまももう購入できますよ?」

「それは……、確かに買えるでしょうけど。合計、いくらでしたっけ?」


 ヤヨイシリーズの夜光のおかげで買えはするけどさぁ。

 スキル一つに半分近く飛んでいくのはなぁ。


「合計は、2384万ですな」

「…………は?」

「2384万ゼニィです」


 思わず聞き返したが返ってきたのは変わらなかった。


「え? ……だって、どう計算したってさっきのじゃ……え!? あれ、全体のじゃなくて一個の値段だったんですか!?」

「ええ、もちろんそうですよ。一個、と申しませんでしたか?」

「言ってないです!」

「それは失礼いたしました。しかし、ヤヨイシリーズの値段を考えたら一個の値段と分かりそうですが……」

「……相談した人には、無地のやつでも、5万以下では売るな、と」

「それでも随分と良心的ですよ。捨て値に近いですね。これだけ何の曇りも汚れもないのですから。9万は正直な所、最低ラインです」

「そうなんだ……」

「はい。今回エドさまが、基準値を探しているのであろうという事と、こちらを諦めてでも、他のヤヨイシリーズを購入したかったのです。来週まで待って貰えるのであれば、12万まで上げますが」

「イマノママデ、ケッコウデス」


 あかん。頭が回らんわ。でも、確かに。……そんだけあったら鑑定買ってもいいなって思うな、確かに……。


 それからしばらくして、お金の用意が出来たということで、切りのいい800万を受け取り、残りの1584万は来週となった。


 あれ……。俺、もう村で働く必要なくね?

 って、遠い目しちゃったよ。

 何はともあれ、金が重い。背負うのも怖いから前に持ってきて抱きかかえて持つ。

 騎士達が来るまでずっと重力の重ねかけをし、騎士達が戻ってきたらひとまず神殿へと向かった。

 金! 持ってるの怖いんで鑑定買います!



気まぐれスキルは、ランダムでゲットしてます。

エドの住む村クパンの神殿の気まぐれには『これらが入っている』っていう形の中でのランダムなので、種類も少ないのでダブるのは当然なのですが、それにしても偏りがあるな……。と思ってしまいました。

あと、このスキルだったらこんな事して金を稼いで、こんなスキルだったらこんな事をして移動手段増やして~。とか最初に考えたスキルはものの見事に外してくれて、金策どうしよう!? って焦ったりもしました。着色して売りに出すというのは最初、想定してませんでした。

呪怨もそういう意味では、戦闘ではなく、魚取りに使われる予定にはなかったです……。


エドの店で、何人客が来て、どれだけ買うかっていうのも実はランダムでした。

0~最大いくつ。というのをやったのに、まさか一人目で400以上の数字が出るとは……。

頭を抱えたのはむしろ私でしたよ。

まだ25人来るんですけど!? 客! 一人は母親だとしても~。と頭を抱えました。

補充しても、出てくる数が毎回高くて、主人公とほぼ同じように必死に考えましたよ。

結果。お色直しの案が出てきたわけです。あれも一家族最大5人。だいたい一人、5着ぐらいで一人の最大25くらいかな? と決めてランダム。

何故かみなさん、魚は買わずにお色直しする。魚はわりと最後の最後まで残ってた気がします。


セルキーの街も農村、漁村、山間の村とか6種類くらい決めてたんです。

その中での大当たりをゲットした主人公。


宝石の値段も最低値から最高値を決めて、ランダムしたら、割と高い数字ばかり出す。


私が最初に想定していたよりも、ずっと早く、より順調に、金を稼ぐ主人公になってしまいました。


あれ? おかしい。予定では、鑑定スキルなんて馬鹿高い物神殿で買う予定なかったのに……。とぽかーんとしてしまいました。


後々はチートになるだろうとか、金を稼ぐのも楽勝だぜ。ってなるだろうとか思ってましたけど。

まさかほぼ二週間でこんな事になるとは思ってもみませんでした。


どうやら主人公は自前で主人公に相応しい何かを持っているようです。



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