転生したらしい
新シリーズを始めてしまった……。
ある程度までは書き終わってます。
こちらもよろしくお願いします。
それは、一つの質問から始まった。
「ねーねー、かーさん、えーちゃん、まほーつかいたいです。まほーおしえてくだちゃい」
母親のスカートを引っ張りその幼い子供、こと、俺は、可愛らしくおねだりした。
あ、ども。エドです。ただのエドです。
えーちゃんはあだ名です。本名より長くなってますがな!
えー、もしかしたらお気づきかも知れませんが、『転生者』ってやつです。
ちょっと前まで、俺としての意識はあんまり無かったんだけど、ある日ふと俺は『あれ? これ、夢じゃなくね?』と気づき、さてどうしたもんか、と、思ったが、今は幼児。
文字はまだだが、言葉はなんとなく、覚えつつある。ので、文字通りの二度目の人生、後悔無きよう生きていこうと思った所存である。
具体的に言うと、ヒーローになりたいね!
英雄願望ってやつだ!
平々凡々に生きた前世、あれはあれで良かったが、今世ではヒーローを目指したい。
何故って? 魔法があるからだ!
良いよな! 魔法! 素敵じゃないか魔法!
ここじゃ、『うなれ俺の右腕!』とか言っても、チュウニと呼ばれる方々ではなく普通な一般人扱いだぜ。
「うーん、ごめんね、えーちゃん。えーちゃんがもうちょっと大きくならないと魔法は使えないんだ」
「もーちょっとって、どれくらい? にーにーちゃくらい? いちにーちゃくらい?」
二番目ならあと、2、3年かな? 一番上なら5年以上か。
「んー、お兄ちゃん達よりももうちょっと上かなー。大丈夫、よく寝て元気よく遊べば直ぐだよ」
「ぐたいてきには、なんねん?」
誤魔化そうとする母親を許さず俺は問い詰める。
「んー、八十年くらいかなー」
「…………は?」
「八十年って言っても分からないよねー? だからいーっぱい寝たらだよ」
「俺、今、四つだよね?」
子供らしく言うのも忘れて尋ねた。
ちょっと前に俺の俺の誕生日を迎えた。その時、俺は四つだと言われたはずだ。
「そうだよー。えーちゃんは四歳、ルス君が三十七歳、マーサ君が七十歳だよー」
な、ん、だ……と……。
「……全然成長してない……」
それを子供である俺が言うのは明らかなミスだったのだが、母さんは気にならなかったようだ。
「えーちゃんやお母さん達は長命種って言ってねー、子供から、おじいちゃんやおばあちゃんになるのには、とっても時間がかかるんだよー」
「……今すぐ、魔法使うって出来ないの?」
「んー、神様がね、お決めになったことで、最低でも雑貨屋さんの、マンマル君くらい大きくならなきゃ駄目なんだ」
雑貨屋のマンマルだと? ……外見年齢十四か五くらいか?
「でもね、大きくなるのが早いのはね、それだけ、寿命が短いって事なのよ」
「そうなの?」
「そう。魔力の量が少ないと寿命も短いの。そう言う子達はグングン大きくなっていくのよ」
「何年くらい生きるのその人達」
「百年くらいかな」
十分じゃん!!
俺、それでいいよ! それでいいから、魔法を使わせてくれぇー!!
遊園地に行ってもジェットコースターに乗れないのと一緒じゃん!
うっうっうっ。と、俺はその日の夜、本気で枕を涙で濡らした。
しかし、天は、いや、神は俺を見放さなかった!
四歳になると体の成長はとてもゆっくりになるらしいのに、俺はどんどん伸びていった。ニョキニョキ、と伸びて、六歳になると、雑貨屋のマンマルよりも大きくなっていた。
母さんはそんな俺を心配そうに見ていたが、俺は魔法を使えるとウキウキだった。
父さんから神殿に行ってスキルを買ってこいと金、いや、お布施か? それを渡され、俺は神殿へと向かう。
神殿は神殿なんて名前が付いているように、神殿だった。
ギリシャの神殿っぽい。
ほえー。と、思いながら周りを見渡す。神殿って、外からは見たことあったけど、中に入った事はなかったんだよなぁ。
幾つかフロアはあったけど、立ち入りが許されている所は少なく、スキルを授けてくれるところは直ぐに見つかった。
カウンターがあって、その後ろには小さな引き出しが沢山ある棚があった。
カウンターの向こう、神殿で働く人達がカウンターに座っている客だと思われる人達の話を聞いて、その棚から、何かを取り出して戻ってくる。
前世で見た、漢方系の薬局みたいだった。
カウンターはほとんど埋まっていて、空いているのは一つしかなかった。
俺はそこに座る。
「気まぐれスキルをお求めで?」
座っていた神官さんがどこか不思議そうに聞いてくる。
「気まぐれスキル?」
何、その、シェフの気まぐれとか言って出されそうな名称は。
日替わりでスキルが変わるのかい? シェフの気まぐれとかって、基本はオススメメニューだよな?
「……君は、神殿を利用するのは初めてか?」
「うん! ずっと魔法使えるようになりたかったから凄くワクワクしてるんだ!」
「……君が初めてスキルを得るのならここよりも向こうのカウンターをオススメするよ」
「え? なんで?」
「この気まぐれスキルは、どんなスキルが手にはいるか分からない。君が、初めてだと言うのなら、向こうのカウンターで、どんなスキルが欲しいと、相談し、きちんとしたものを買うと良い……」
神官さんはどこか疲れたように言った。
あれ、俺、そんなに疲れさせた? てか、酷くね?
「……もし、本当に外れてもいいと思うのなら、また来てくれると嬉しいよ」
そう言った顔は少し悲しげだった。
なんとなく、分かってしまった。
さっきの表情は俺に向けたものではないのだ。
他のカウンターは人が居るのに、ここには居ない。
きっと、この光景は、たまたまではなく、いつもなのだ。
何せ、俺は空気の読める日本人ですから!
対面する椅子に座りお兄さんを見る。
「スキルって、上限幾つって決まってるの?」
「決まってない。持てるだけ持ってくれていい」
「……向こうとこっちはどっちが安いの?」
「安いのはこっちだ。一律五千ゼニィ。あそこは安くて一万だ」
「へー。魔法はあるの?」
「もちろんあるが、それが貰えるかは分からない。それに、初級の物が多く出る傾向にある」
「んじゃ、二十個程お願いします」
カウンターにお金を置く。
「私の話を聞いていたかね?」
「聞いてたよ。でも最初っから強い魔法をゲットしても使えこなせるとは思わないし、初級で全然問題ないよ」
「……しかし」
「それに、俺、色んなスキルが欲しいし」
「下らないと言われているスキルでもか?」
「ネタスキルはネタスキルでオイシイじゃん」
笑って言うと神官さんは俺を見上げて軽く息を吐いた。
「まずは五つ買ってみなさい」
「はーい」
心配してくている神官さんに素直に従う。
神官さんが取り出したのは一つの箱。
「ここに、お金を入れて、それからこの穴に手を入れてごらん。そして、中にあるものを握りしめて手を取り出すといい」
……その箱は俺には、神社のおみくじ箱にも見えた。
……ここ、神殿だよな。と思わず周りをもう一度見渡した後、お賽銭箱に見える場所にお金を入れて、穴に手を入れる。
中はほんのりと温かかった。そしてその中で何かが風に揺られて動いている。
俺はそれをむんずと捕まえて穴から手を出す。
手元には折りたたんだ紙が五つあった。
どうやらぴったりの数を取ったらしい。それともぴったりしか取れないのか。
「中を開けてごらん」
言われるまま開けたけど、やっぱりこれ、おみくじだろ!!
中は「大吉」って有りそうな場所に「生活魔法(水)」とあった。
そしてその文字は光り輝いて俺の中に入っていき、「生活魔法(水)」という文字は灰色になった。そのままおみくじを読み進める。
レベル 1
消費MP 1
効果 コップ一杯分の水が出せる
と描かれていた。思わず待ち人来たらずとか、失せ物出るとかないかチェックしたよ。
っていうか消費MP1って安いな。
で、他のスキルはこんな感じだった。
生活魔法(裁縫)レベル:1 消費MP:1 効果:裁縫が少し上手になる
かく レベル:1 消費MP:3 効果:ペンが無くても紙に色々かける
初級弓術 レベル:1 消費MP:8 効果:弓術がほんの少し上手くなる
初級剣術 レベル:1 消費MP:8 効果:剣術がほんの少し上手くなる
だった。
……あれ? 思ったよりもネタスキルがない。というか、当たりを引いたんじゃね? って一瞬思った。っていうかこの「かく」スキル、地味に便利だな。
「どうだい?」
「うん。残り十五回、お願いします」
「え?」
「え?」
なんでそんな驚いた顔してんの?
「……いいのかい?」
「うん。色々役立つし、問題ないよ」
「……そうか、後悔しないね?」
「しないしない」
神官さんに心の底からそう答えた。残り十五回も引いた。
最終的な結果はこうなった。
生活魔法(水)
生活魔法(水)-ダブり
生活魔法(裁縫)
初級魔法(重力)消費:MP10 効果:気持ちほんの少し軽くなる
初級魔法(闇)消費:MP10 効果:目くらましする。
初級魔法(氷)消費:MP10 効果:冷え効果
初級剣術
初級剣術-ダブり
初級弓術 消費:8 効果:弓術がほんのちょっと上手くなる
初級打術 消費:8 効果:打術がほんのちょっと上手くなる
品定め 消費:MP10 効果:品定めの力がほんの少し上がる……かも?
夕方の加護 消費:MP3 効果:夕方の時間ほんのちょっとだけ強くなる
録音 消費:MP3 効果:音を10秒録音する。再生には対応スキル等が必要
着色 消費:MP6 効果:糸などを着色する
収納 消費:10 効果:気持ちほんの少し収納しやすくなる
収納-ダブり
家庭の医学 消費:MP10 効果:小さな火傷に効く薬草が分かる
かく
かく-ダブり
放出 消費:100 効果:放出が出来る。対応スキルが必要
結構ダブった。思ったよりもダブった。でも、ダブり的には悪くないと思う。
というか、むしろダブれる事に驚いた。
神官さんは、ダブりに関しては『スキル玉』っていうのにスキルを移して買い取りするけど? と言ってくれたが、俺はそのまま持つ事にした。
だって、ダブれるって事はそれなりのうま味があるのかも知れないし。
……電子マネーの様に、タッチしたら両方からお金が引かれた。なんて事はならないと願いたい。
あと、わざとだろうと思うが、分からんのもあった。
『放出』というスキルである。しかも他が消費MPが10以下なのにもかかわらず、これだけは100! これ、初級じゃないよね! でも、なんだか分からない!
くっ。鑑定が欲しい!!
と、俺的には割とほくほくだったんだ。
弓も使えるようだし、剣も使える。最悪、逃げるためのスキルとして闇魔法もあるし、収納だって、きっと育てれば「ムフフ」な結果になるって思ってたんだ。
帰って母さんに報告するまでは。
俺は母さんから事情を聞いた時、なんであんなに神官さんが心配してくれてたのか理由が分かった。
俺たち、長命種と呼ばれる人間(ヒューモ族と呼ばれてる)には、ある一つの風習があるらしい。
成人したらスキルを持たせ、独り立ちさせる。である。
長い人生、ずっと生まれ育った所にいるのではなく、見聞を広めろ、と。
必ず旅立てというわけではないが、実家からは出て生計を立てなければいけないらしい。
つまり、俺は今日、成人したらしい。つまり、実家から追い出されるらしい。
気まぐれスキルの中身は、ランダムで抽出しています。
各村や街で気まぐれスキルの中身は違います。
誤字修正しました。